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神戸地方裁判所 平成7年(シ)14号 決定 1996年2月05日

申立人

藤岡勇

藤岡美智子

右両名代理人弁護士

持田穰

相手方

柳田豊和

右代理人弁護士

永原憲章

藤原正廣

主文

一  申立人らが別紙物件目録一記載の各土地(本件各土地)について、建物所有を目的とし、期間を平成七年七月一九日から平成一七年七月一八日までとする賃借権(本件賃借権)を有することを確認する。

二  本件賃借権設定にあたって申立人らから相手方に対して交付されるべき一時金(権利金)の額を金四一〇万円と定める。

三  本件賃借権の賃料を一か月あたり金一万五二六〇円、毎月末日にその月の分を支払うものと定める。

事実及び理由

第一  申立ての趣旨

申立人らが本件各土地につき賃借権を有することを確認し、かつ、右賃借権について相当の借地条件を決定する。

第二  事案の概要

本件は、申立人らが相手方に対し、罹災都市借地借家臨時処理法(罹災法)二条の規定する賃借権を取得したとして、賃借権を有することの確認を求めるとともに、右借地条件を定めることを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  相手方は、本件各土地を所有し、また、本件各土地上に別紙物件目録二記載の建物(本件建物)を所有していた(争いがない)。

2  申立人らは、昭和五九年八月六日に本件建物の賃借権を相続によって取得し、相手方から、本件建物を賃借していた(申立人藤岡勇[申立人勇]が右のとおり賃借していたことについては、争いがないが、申立人藤岡美智子[申立人美智子]が賃借人であったことについては、争いがある[後記二の1]。

3  本件建物は、阪神・淡路大震災(本件震災)により滅失した(争いがない)。

4  申立人らは、相手方に対し、平成七年六月二七日の審問期日において、罹災法二条一項の規定に基づき、本件各土地について賃借の申出をした(本件申出)。

しかし、相手方は、右審問期日において、本件申出を拒絶する旨の意思表示をした。

(顕著な事実)

5  申立人らは、本件賃借権を有することが確認された場合には、本件各土地上に、次のような建物(本件建築予定建物)の建築を予定してる(甲六の一及び二、甲七)。

種類 店舗兼居宅

構造 木造カラーベストコロニアル葺二階建

床面積 一階 30.35平方メートル

二階 30.35平方メートル

6  本件各土地は土地区画整理事業の対象地域となっており、申立人らが本件申出をするには、都市計画法五三条一項の規定する許可を必要とするが(罹災法二条一項ただし書)、申立人らは、本件建築予定建物の築造につき、平成七年五月一六日付で神戸市長から右都市計画法上の許可を得た(甲七)。

二  争点

1  申立人美智子も本件建物の賃借人であったか否か

2  本件申出に対する相手方の拒絶に正当な事由があるか

3  本件賃借権の相当な借地条件

第三  争点に対する判断

一  争点1(申立人美智子も本件建物の賃借人であったか否か)について

1  本件建物の賃貸借契約書(昭和五九年九月三〇日付。甲三)には、賃借人として申立人勇の氏名が記載されており、申立人美智子の氏名は記載されていない。

2  しかし、他方で、甲八、九、一三から一五によれば、次のような事実が認められる。

(一) 申立人美智子と申立人勇とは姉弟である。

(二) 申立人らの父藤岡忠夫は、相手方の父から、戦後まもなく本件建物を賃借した。申立人美智子は、生後まもなく両親と共に、本件建物に引っ越してきたが、昭和三七年一二月に小林義成と婚姻した後も、忠夫と共に本件建物に居住していた。

他方、申立人勇は、昭和五〇年六月に結婚して、本件建物を出て、別に居を構えていた。

(三) 申立人美智子は、小林の借金問題等が原因で、昭和五九年六月六日に同人と協議離婚したが、その後も子と共に本件建物に居住していた。

もっとも、戸籍の附票(甲一四)ないし住民票(甲九)では、申立人美智子は昭和五九年六月六日に神戸市須磨区の申立人勇の住所(同人の肩書住所地)に転出し、昭和六一年八月二六日に本件建物の住所に転入したこととなっているが、これは、離婚後も小林が本件建物の住所からの転居ないし転出の届出をしてくれないので、小林の債権者らから偽装離婚と疑われることをおそれ、申立人美智子において昭和五九年六月六日付で神戸市須磨区の前記住所に名目だけ、住所を移したことによるものであり、申立人美智子は前記のとおり実際には離婚後も本件建物に居住していた。その後、小林が昭和六一年七月二一日付で本件建物の住所からの転居届出をしたので(甲一五)、申立人美智子は子と共に同年八月二六日付で本件建物の住所に転入手続をとったものである。

(四) 申立人美智子が離婚して間もない昭和五九年八月六日に、忠夫が死亡したので、申立人ら両名が本件建物の賃借権を相続した。

しかし、申立人美智子には前記(三)のとおりの事情があったので、とりあえず本件建物の賃貸借契約書上の賃借人名義だけは、長男である申立人勇に切り替えることとなり、これにより前記1の契約書(甲三)が作成されたのである。

そして、前記(三)のとおり、右契約書作成後も本件建物には申立人美智子が子と共に居住していたのであり、他方で申立人勇はここには居住していなかった。そして、本件震災に至ったものである。

(五) 相手方も右のような事情を承知しており、本件震災に至るまでの間、毎月の賃料は、相手方が本件建物を訪問して、直接申立人美智子から集金していた。

3  右2の事実に照らすと、前記1の事実にもかかわらず、申立人両名が本件建物の賃借権を相続によって共同して取得したものであり、申立人美智子は申立人勇と共に本件建物を賃借していたものと認めることができる。

三  争点2(本件申出に対する相手方の拒絶に正当な事由があるか)について

前記一のとおり、申立人美智子は長年にわたって本件建物に居住していたところ、本件震災で住居を失ってしまったのであるから、居住等を目的とする建物を建てるために本件各土地を使用する必要性が認められ、実際にも、申立人らは本件各土地上に前記第二、一の5のとおりの本件建築予定建物の築造を計画している。

他方、相手方は本件申出を拒絶するが、その理由は、本件建物は木造平家建であったにもかかわらず、本件建築予定建物は二階建でかつ一階部分が店舗となっているから、到底認めることはできないというにすぎない。しかし、これのみでは、右の申立人らの本件各土地を使用する必要性と対比すると、本件申出を拒絶する正当な事由とはなりえないというべきである。

よって、本件申出の日から三週間を経過した平成七年七月一九日に、申立人らは共同で本件賃借権を取得したことになる。

四  争点3(本件賃借権の相当な借地条件)について

1  鑑定委員会は、本件各土地の更地価格を一〇五八万円、本件各土地の借地権価格を六三五万円(更地価格の六割)、本件建物が存続しているとした場合の本件建物の借家権相当額を二五四万円(借地権価格の四割)と評価したうえで、本件賃借権設定にあたって申立人らから相手方に対して交付されるべき一時金(権利金)の額は、本件各土地の借地権価格から本件建物の借家権相当額の二分の一(折半法により、本件建物の借家権価格のうち五〇パーセント相当額を罹災借家人に帰属すべき経済的利益とみる。)を控除した五〇八万円とし、また、本件賃借権の賃料を一か月あたり一万六二五〇円とするのが相当であるとしている(以下、「鑑定委員会意見」という。)。

2(一)  しかし、まず、鑑定委員会意見では、本件各土地(60.30平方メートル)のうち有効宅地部分を約53.48平方メートル、共用私道部分を約6.82メートル(共用私道部分の幅は1.5メートル)として本件各土地の更地価格を算出しているが、建築基準法四二条二項の規定との関係で、本件各土地のうちの共用私道部分の面積は約9.08平方メートル(共用私道部分の幅は二メートル。甲六の二)となり、したがって、有効宅地部分の面積は約51.22平方メートルとなる。鑑定委員会意見の更地価格を求める算式に右の数値をあてはめると、本件各土地の更地価格は一〇二四万円(一万円未満は四捨五入)となる。

(二)  次に、鑑定委員会意見は、路線価図の借地権割合(六〇パーセント)、本件賃借権の存続期間等を総合考慮して、本件各土地の借地権価格を更地価格の六割と評価している。右の意見を合理的でないとまではいえないものの、路線価図の借地権割合は市場よりも高めに設定される傾向があることや、本件賃借権の存続期間が一〇年であることなどの事情に照らすと、本件各土地の借地権価格は更地価格の五割とみるのが相当である。

したがって、本件各土地の借地権価格は、五一二万円となり、また、本件建物の借家権相当額は、二〇四万八〇〇〇円(借地権価格の四割)となる。

(三)  そして、本件賃借権設定にあたって申立人らから相手方に対して交付されるべき一時金(権利金)の額は、鑑定委員会意見のとおり、本件各土地の借地権価格から本件建物の借家権相当額の二分の一を控除した額とするのが相当と考える。

すなわち、一方で、借地権価格からなんらの控除もせず、これをそのまま右の一時金(権利金)の額とすることは、従前は借家権の負担を負っていた地主が震災を奇貨として右負担のない借地権価格を取得し得ることとなり、また、罹災法二条の申出権者がいわゆる罹災借家人に限られ、このような者を保護しようとする法の趣旨に反することとなりかねない(同法一五条も、従前の賃貸借の条件を含めた一切の事情を斟酌して借地条件を定めることができると規定している。)。しかし、他方で、従前の建物の借家権相当額を全額控除することは、建物が滅失して借家権が既に消滅してしまっている事実を無視することとなり、地主に過分の負担を強いることになる。してみると、従前の建物の借家権相当額の二分の一の額を罹災借家人に帰属すべき経済的利益とみて、これを借地権価格から控除した額をもって、罹災法二条の規定する賃借権設定の対価(一時金ないし権利金)とする鑑定委員会意見には合理性があるものといえる。

すると、本件における一時金(権利金)の額は、次のとおり四一〇万円(一万円未満は四捨五入)となる。

5,120,000−(2,048,000×0.5)=4,096,000

(四)  次に、本件賃借権の賃料であるが、鑑定委員会意見は、純賃料を算出するにあたり、本件各土地の更地価格から借地権利金を控除した底地価格に期待利回り(三パーセント)を乗じている。

しかし、純賃料算出の前提となる基礎価格について、更地価格から借地権利金のみを控除した底地価格として、前記(三)の罹災借家人に帰属すべき経済的利益を控除しないことは、せっかく借地権価格より低額の一時金(権利金)を設定したにもかかわらず、そのためにかえって賃料が高額となるという結果を招くこととなってしまい、罹災借家人の保護を図ろうとする罹災法の趣旨にそぐわないきらいがある。したがって、前記の基礎価格は更地価格から借地権利金を控除し、更に前記(三)の罹災借家人に帰属すべき経済的利益(従前の建物の借家権相当額の二分の一の額)をも控除した額として、純賃料を算出するのが相当である。

すると、本件では、純賃料は、次のとおり一五万三四八〇円となる。

(10,240,000−4,100,000−2,048,000×0.5)×3%=153,480

そして、鑑定委員会意見の賃料を求める算式に右の純賃料の数値をあてはめると、本件賃借権の賃料は、次のとおり一か月あたり一万五二六〇円(一〇円未満は四捨五入)となる。

153,480(純賃料)+24,200(公租公課)+5,495(管理費)=183,175

183,175÷12(月)≒15,260

(五)  以上のとおりであるから、本件賃借権設定にあたって申立人らから相手方に対して交付されるべき一時金(権利金)を四一〇万円、本件賃借権の賃料を一か月あたり一万五二六〇円と定める

なお、本件賃借権の期間は一〇年間であり(罹災法五条一項)、また、賃料は毎月末日にその月の分を支払うものとする(民法六一四条参照)。

(裁判官石井浩)

別紙物件目録<省略>

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