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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1015号 判決 1996年6月14日

甲事件原告

中原照一

被告

平野宏一

乙事件原告

三井海上火災保険株式会社

被告

中原仁

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金七四万五〇八九円及びこれに対する平成六年一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金二二万〇五〇七円及びこれに対する平成七年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件原告及び甲事件被告に生じた分を通じてこれを二分し、その一を甲事件原告の負担とし、その余を甲事件被告の負担とし、乙事件原告及び乙事件被告に生じた分を通じてこれを二分し、その一を乙事件原告の負担とし、その余を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一六一万三四五二円及びこれに対する平成六年一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成七年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、次の金員の支払が求められた事案である。

1  甲事件

本件事故により物損を被つた甲事件原告が、甲事件被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める。なお、付帯請求は、本件事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

2  乙事件

本件事故により物損を被つた甲事件被告と車両保険契約を締結していた乙事件原告が、右保険契約に基づき甲事件被告に保険金を支払つたことにより、甲事件被告の乙事件被告に対する民法七〇九条による損害賠償請求権を保険代位(商法六六二条)により取得したとして、乙事件被告に対し、求償を求める。なお、付帯請求は、訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。また、乙事件原告の請求は、一部金請求である。

二  争いのない事実

次の交通事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

1  発生日時

平成六年一月五日午後一時四七分ころ

2  発生場所

神戸市兵庫区菊水町一〇丁目三九番地の一一先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

3  争いのない範囲の事故態様

乙事件被告は、普通乗用自動車(神戸七七そ五一一八。以下「甲事件原告車両」という。)を運転し、本件交差点を、西から東へ直進しようとしていた。

他方、甲事件被告は、普通乗用自動車(神戸七七ろ七四四六。以下「甲事件被告車両」という。)を運転し、本件交差点を、東から北へ右折しようとしていた。

そして、本件交差点内で、甲事件原告車両の左前部と、甲事件被告車両の左前部とが衝突した。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び甲事件被告、乙事件被告の過失、過失相殺

2  甲事件原告、甲事件被告の損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  甲事件被告、乙事件原告

甲事件被告は、本件交差点を右折するに際し、対向直進してくる甲事件原告車両を認めたが、その距離から自車が先に右折することができるものと判断して、右折を開始した。ところが、甲事件原告車両の速度が思つたよりも速かつたため、本件事故が発生したものである。

そして、乙事件被告としても、本件交差点を直進するに際し、前方の安全を確認して進行する注意義務があるにもかかわらず、漫然と直進した過失がある。

したがつて、相応の過失相殺がされるべきである。

2  甲事件原告、乙事件被告

本件事故は、もつぱら甲事件被告の過失により発生したもので、乙事件被告には過失はない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  乙第一号証、甲事件被告及び乙事件被告の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西を走る道路と本件交差点から北へ向かう道路とからなる、変形の三叉路である。

そして、東行き車線は一車線であるが、西行き車線は本件交差点の東側では合計三車線あり、右側の二車線が右折(北行き)専用車線、左側の一車線が直進(西行き)専用車線である。また、本件交差点の西側では西行き車線は一車線である。

(二) 甲事件被告車両は、本件交差点を右折すべく、右折専用車線のうち右側の車線を通つて、対面の青色信号にしたがつて、本件交差点に入つた。なお、同車線には、右折しようとする先行車両が一台あり、甲事件被告車両は先行車両に続いて交差点内で停止した。また、右折専用車線のうち左側の車線にも、右折しようとする車両が何台か停止していた。

そして、甲事件被告は、先行車両が発進右折したことから、自車も右折できるものと判断して、先行車両に追従して自車を発進右折させた。

(三) 他方、甲事件原告車両は、本件交差点を直進すべく、対面の青色信号にしたがつて、本件交差点に入つた。

なお、乙事件被告本人尋問の結果の中には、同被告は、本件交差点内で前方に甲事件被告車両を発見した旨の部分、この時の自車の速度は時速一〇ないし二〇キロメートルであつた旨の部分がある。しかし、乙第一号証によると、平成六年一月八日にされた実況見分においては、これらの指示説明がないことが認められるから、この点に関する乙事件被告本人尋問の結果を直ちに信用することはできず、本件事故直前まで、乙事件被告は甲事件被告車両の存在に気づいていなかつたとするのが相当である。

2(一)  右認定事実によると、甲事件被告に、右折の際の前方注視義務違反の過失があることは明らかである。

なお、甲事件被告は、本人尋問では、右折のために二台目として停止中に対向直進してくる甲事件原告車両を認めていた旨供述するのに対し、乙第一号証によると、平成六年一月八日にされた実況見分においては、そこからさらに進行し、交差点内部に引かれている右折車両のための停止線(道路の中心線)付近まで進行した時に、対向直進してくる甲事件原告車両を認めた旨指示説明していることが認められる。

ところで、右折のために停止している車両の先頭車両以外の車両は、先行車両が発進した際には、これに追従して発進すべきではなく、先頭車両として交差点内部に引かれている右折車両のための停止線付近まで徐行して進み、対向直進車両等の動静を把握して充分に安全を確認した後に右折発進すべきであるから、自車が二台目として停止中に対向直進してくる甲事件原告車両を認めていたにもかかわらず発進した旨の甲事件被告の本人尋問の結果の方が、相対的に過失の程度が大きいものというべきである。ただ、本件では、本件事故に近接し日時にされていることから、乙第一号証の実況見分における指示説明の方が信用性が高いものと考えられるので、これによつて、過失相殺の程度を考える。

(二)  他方、乙事件被告は、青色信号にしたがつていたとはいえ、本件交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務(道路交通法三六条四項)を負つており、乙事件被告に、右注意義務に違反した過失があることは明らかである。

3  そして、右認定の甲事件被告と乙事件被告の両過失の内容を対比すると、本件事故に対する過失の割合を、甲事件被告が七五パーセント、乙事件被告が二五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(損害額)

1  甲事件原告

争点2のうち甲事件原告の損害に関し、同原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同原告の損害として認める。

(一) 損害

(1) 修理費

修理費が金六八万八四五二円であつたことは当事者間に争いがない。

なお、甲事件被告は、甲事件原告車両が甲事件原告の所有するものであることを争うが、甲第四号証、甲事件原告本人尋問の結果によると、自動車登録フアイル上、株式会社アプラスが所有者として登録されているのは、所有権留保のためであること、同フアイル上には甲事件原告が使用者として登録されていることが認められ、同車両に生じた損害は、甲事件原告の損害として評価するのが相当である。

(2) 格落ち損

交通事故により車両に損傷を被つた場合、修理してもなお価格の減少があるときには、これは格落ち損として、当該交通事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。

しかし、右格落ち損は、単に当該車両に事故歴があるというだけでは足らず、修理技術上の限界から、当該車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことが立証されてはじめて、これを認めるのが相当であると解される。

本件においては、甲第三号証、第一一号証、証人吉田稔の証言、甲事件原告本人尋問の結果によると、本件事故前である平成五年一二月二四日、甲事件原告と中古車業者である吉田稔との間で甲事件原告車両を金一四〇万円で下取りする約束が成立していたこと、本件事故後、修理された甲事件原告車両は、実際には金七〇万円で下取りされたことが認められる。

しかし、右認定の修理費の金額をも併せ考えると、右に判示した、修理技術上の限界から、当該車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことが立証されたとまでは未だ認めることができない。

そして、弁論の全趣旨によると、本件事故と相当因果関係のある格落ち損を、修理費の約三割に相当する金二〇万円と認めるのが相当である。

(3) 代車料

甲第一〇号証、甲事件原告本人尋問の結果によると、甲事件原告は、本件事故により、甲事件原告車両を使用することができなくなつたこと、このため、同原告は、三〇日間、他から代車を借り入れたこと、右期間の代車料は金一〇万五〇〇〇円であつたことが認められる。

そして、本件事故による同車両の損傷の程度に鑑みると、右期間における代車料は、本件事故と相当因果関係のある損害であるというべきである。

(4) 諸雑費

甲事件原告は、諸雑費は、レツカー代、交通費、写真代、電話代等である旨主張するにとどまり、その内訳を主張しない。

また、甲事件原告本人尋問の結果によると、同原告の主張する諸雑費は、レツカー代及び平成六年二月一五日から同年九月三〇日までの自動車税及び保管料であることが認められる。

ところで、レツカー代については、甲事件被告は、修理費に含まれるものとして認めているところ、本件においては修理費の立証はないから、結局、これに含まれているものと認めざるをえない。

また、右自動車税及び保管料が本件事故と相当因果関係のある損害とはいえないことは明らかである。

したがつて、甲事件原告の主張する諸雑費を認めることはできない。

(5) 小計

(1)ないし(4)の合計は、金九九万三四五二円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する過失の割合を、乙事件被告が二五パーセントとするのが相当である。

そして、乙事件被告は、甲事件原告の子であり、同原告の承諾のもとに甲事件原告車両を運転していたのであるから、乙事件被告の過失は被害者側の過失として評価し、右割合を甲事件原告の損害から控除するのが相当である。

したがつて、右控除後の金額は、次の計算式により、金七四万五〇八九円である。

計算式 993,452×(1-0.25)=745,089

2  乙事件原告

(一) 乙第二ないし第四号証、甲事件被告の本人尋問の結果によると、甲事件被告と乙事件原告とは、甲事件被告車両に関し、保険契約を締結していたこと、本件事故により、甲事件被告車両には、金八八万二〇三〇円の修理を要する損害が生じたこと、乙事件原告は、甲事件被告に対し、右保険契約に基づき、右金額を保険金として支払つたことが認められる。

したがつて、商法六六二条により、乙事件原告は、甲事件被告の乙事件被告に対する損害賠償請求権を取得する。

(二) ところで、争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する過失の割合を、甲事件被告が七五パーセントとするのが相当である。

したがつて、甲事件被告の乙事件被告に対する損害賠償請求権の金額は、次の計算式により、金二二万〇五〇七円(円未満切捨て。)となり、乙事件原告の取得した損害賠償請求権も右と同額となる。

計算式 882,030×(1-0.75)=220,507

第四結論

よつて、甲事件原告の請求は主文第一項記載の限度で、乙事件原告の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからこれらの範囲で認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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