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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)165号 判決 1998年1月26日

兵庫県三木市大村五六一番地

原告

株式会社岡田金属工業所

右代表者代表取締役

岡田保

右訴訟代理人弁護士

酒井信次

田中稔子

右輔佐人弁理士

大西健

新潟県南蒲原郡下田村大字上大浦四七四番地

被告

バクマ工業株式会社

右代表者代表取締役

馬場幸一

右訴訟代理人弁護士

坂井煕一

同斉木悦夫

右輔佐人弁理士

近藤彰

主文

一  被告は、別紙被告替え刃目録記載の各鋸替え刃を製造、販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金二二六万三一九五円を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の、その余を被告の各負担とする。五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  鋸柄に係る請求

被告は、別紙イ号図面記載の鋸柄を製造販売してはならない。

2  替え刃に係る請求

(一) 主位的

主文第一項と同じ

(二) 予備的

被告は、別紙被告替え刃目録記載一の鋸替え刃について別紙被告標章目録記載の標章を付して製造販売してはならない。

3  損害賠償請求

被告は、原告に対し、金一二〇九万四九八七円及び平成九年六月一日から平成九年一〇月八日まで一か月金二五万一九六七円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告及び被告は、いずれも工具等の製造、販売を業とするものである。

<鋸柄に係る請求-実用新案権に基づく請求>

2  原告は、別紙実用新案権目録記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有しているところ、本件考案の構成要件は、

(一) 柄2の先端部に背金3を取り付け、替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせる構成の替え刃式鋸において、

(二) 背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、

(三) 支持部5が位置する下方の間隙部Bを、替え刃4の基部を容易に差入れ得る巾に設定して解放し、

(四) 該巾広状の間隙部Bを、支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、

(五) 背金3への替え刃4の掛け止め操作時にあっては、替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは、挟持状態となることなく自由に回動させるようにする一方、

(六) 替え刃4の完全装着時にあっては、専ら該恒久的な狭まり部Cによつて挟持され、背金3における他の内壁面部分は替え刃4の側面部に対して圧接状態とならないように形成した、との特徴を具備した背金の構造であると分説することができる(以下、各構成要件を「構成要件(一)」などという。)。

3  本件考案は、背金に替え刃を差し入れる「間隙部」と替え刃を挟持する「狭まり部」とを区別して形成し、替え刃の完全装着時においては、専ら「狭まり部」により替え刃を挟持させる構成とすることによつて、同一の鋸柄に対して種々厚みの異なつた替え刃の装着を可能にするという効果を奏する。

4  被告は、平成五年六月以降、業として別紙イ号図面記載の鋸柄(以下「被告鋸柄」といい、被告鋸柄に装着されている背金を「イ号物件」という。)に替え刃を装着して製造販売しているところ(以下、被告鋸柄に替え刃を装着したものを「被告鋸」という。)、イ号物件は、

(一) 鋸柄の先端部に背金を取り付け、該鋸柄への替え刃の取り付けに際しては、背金の内側に形成した支持部に替え刃の凹部を掛け合わせるように構成した替え刃式鋸において、

(二) 替え刃の手前側基部を支持する寸法に設定した鋼板を上方で二つに折り曲げて下方を開放し、

(三) その内側に替え刃の凹部を掛け合わせる支持部を形成し、支持部の周囲及び下方を替え刃の基部を容易に差し入れうる巾に設定して差込部とし、支持部の前方で別紙イ号図面の図3記載の斜線部分を替え刃の厚み以下の巾に設定して挟持部とし、挟持部の上部折り曲げ部分は替え刃の厚みと同じかそれよりやや広い巾を形成し、

(四) 替え刃の掛け止め操作時には、替え刃の背部が差込部から挟持部に至るまでの問は、替え刃を自由に回動させるようにする一方、替え刃の完全装着時にあっては、挟持部の内壁面のほぼ全体で替え刃の側面部を押圧する、との構成の背金である。

5(一)  イ号物件の構成(一)、(二)及び(四)は、本件考案の構成要件(一)、(二)及び(五)を充足する。

(二)  本件考案の構成要件(三)、(四)及び(六)の充足性について

イ号物件のうち「挟持部」は、本件考案にいう「狭まり部C」に該当し、イ号物件のうち「差込部」と「挟持部上部の折り曲げ部分」は、本件考案にいう「間隙部B」に該当し、イ号物件の「差込部」と「挟持部上部の折り曲げ部分」の内壁面は、替え刃完全装着時に、替え刃側面に対して圧接状態にならない。

なお、イ号物件の「挟持部上部の折り曲げ部分」は、鋼板を二つ折りにしたことによって必然的に形成される間隙ではなく、二つ折り鋼板の上端からやや下方付近を強圧することにより故意に形成されたものである。これは、この部分に線状痕が存在することからも明らかである。

そして、イ号物件の「差込部」と「挟持部上部の折り曲げ部分」の間隙は、挟持部に至るまで継続しており、挟持部は背金の先端側かつ下端側に存在しているから、イ号物件は本件考案の構成要件(三)、(四)及び(六)を充足する。

(三)  したがつて、イ号物件は、本件考案の構成要件を全て充足し、本件考案の技術的範囲に属するから、イ号物件を装着した被告鋸柄の製造販売は、本件実用新案権を侵害する。

6  原告は、被告の右侵害行為によつて本件実用新案権の実施料相当額(被告鋸の売上額の三パーセント)の損害を被つた。

被告鋸の販売数量は、これと同種の原告製品の販売数量に、同種の原告製品と被告鋸との市場における販売比率(この比率は原告の市場調査によつて判明した。)を乗じて推定することができ、被告鋸の販売単価は、これと同種の原告製品の販売単価と同額と推定することができるから、右損害の額は、(一) 平成五年六月一日から平成九年五月三一日までが合計八四四万一二九〇円、(二) 平成九年六月一日以降が一か月当たり一七万五八五一円である。

<替え刃に係る主位的請求-不正競争防止法に基づく請求>

7  原告は、平成元年九月以降、別紙原告替え刃目録記載二の形態の替え刃(以下「本件替え刃2」という。)を、平成三年三月から同目録記載一の形態の替え刃(以下「本件替え刃1」という。)を製造し、子会社である株式会社ゼット販売(以下「ゼツト販売」という。)にこれらを販売させている(以下「本件替え刃1」と「本件替え刃2」を併せて「本件替え刃」という。)。

8  本件替え刃の商品形態の商品表示性・周知性

(一) 本件替え刃は、(1) 基部側上方位置に形成されたフツク状の掛け止め部の形状、(2) 掛け止め部の近傍の背凹部の存在、(3) 商品名の一部としての寸法表示が施されていること、以上三点の特徴を有している。

(二) 需要者が替え刃式鋸を購入する際には、自己の所有する鋸柄に装着可能か否かという観点から、まず、替え刃の掛け止め部の形態に着目するのであり、次に、替え刃の寸法にも注意を払うのであつて、本件替え刃の右特徴はいずれも需要者の注意を惹くものであるといえる。

(三) 原告は、昭和五七年七月以降、右特徴を有する数種類の替え刃を独占的かつ継続的に製造販売したところ、それら替え刃は、その高品質及び利便性が需要者に認められるとともに、活発な宣伝広告活動が行われたため、爆発的な売れ行きを記録した。

したがつて、本件替え刃の商品形態は、取引者及び需要者の間で自他識別力及び周知性を獲得した。

9  被告は、平成五年六月以降、別紙被告替え刃目録記載の各替え刃(以下、同目録記載一の替え刃を「八号物品」といい、同目録記載二の替え刃を「二号物品」といい、これらをあわせて「被告替え刃」という。)を販売している。

10  被告替え刃の掛け止め部の形状と本件替え刃の掛け止め部の形状は、肉眼では識別し得ないほどそつくりである。

また、被告替え刃にも掛け止め部の近傍には、本件替え刃の背凹部よりやや横巾が広いものであるが、やはり背凹部が存在する。両者の背凹部の形状の違いは、需要者をして本件替え刃と被告替え刃を顕著に識別させるほどの相違ではない。

さらに、被告替え刃においても商品名の一部として寸法表示が施されている。

したがつて、本件替え刃と被告替え刃の商品形態はほとんど同一であるから、需要者は、本件替え刃と被告替え刃の出所について誤認混同し、又は、両商品の出所の問にライセンス契約、業務提携関係、OEM契約(相手先ブランドによる商品供給契約)等の一定の緊密な関係があるのではないかと誤認するおそれがあり、被告替え刃の販売によつて、原告は営業上の利益を侵害された。

11  被告替え刃は、本件替え刃とほとんど同一の形態であるうえ、被告替え刃の背凹部は、本件替え刃と異なり製造工程上不要であるにもかかわらず、あえて形成されていることからすると、被告は、本件替え刃を模倣して被告替え刃を製造したもの、すなわち本件不正競争行為につき故意があつたものである。

12  原告は、被告の右不正競争行為によつて本件替え刃の商品形態の使用料相当額(被告替え刃の売上額の三パーセント)の損害を被つた。

被告替え刃の販売数量は、原告の本件替え刃の販売数量に、本件替え刃と被告替え刃との市場における販売比率(この比率は原告の市場調査によつて判明した。)を乗じて推定することができ、被告替え刃の販売単価は、本件替え刃と同額と推定することができるから、右損害の額は、(一) 平成五年六月一日から平成九年五月末日までが合計三六五万三六九七円、(二) 平成九年六月一日以降が一か月当たり七万六一一六円である。

<替え刃に係る予備的請求-商標権に基づく請求>

13  原告は、別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有しているところ、被告は、ハ号物品に別紙被告標章記載の標章(以下「被告標章」という。)を付して販売している。

14  本件登録商標と被告標章の類似性

本件登録商標のうち、「ハード」の部分は、商品の品質を表示するものとして一般的に用いられているものであり、自他識別力を有しないから、その要部は「インパルス」である。

他方、被告標章のうち、「SUPER」の部分も商品の品質等を表示するものとして一般的に用いられているものであるから、その要部は「IMPULSE」である。

したがつて、本件登録商標と被告標章とはいずれも要部における称呼及び観念が同一であり、両者は全体として類似するから、被告標章を付したハ号物品の販売は、本件商標権を侵害する。

<まとめ>

15  よつて、原告は、被告に対し、実用新案法二七条に基づき被告鋸柄の製造販売の差止めを求めるとともに、主位的に不正競争防止法三条一項、二条一項一号に基づいて被告替え刃の製造販売の、予備的に商標法三七条一項、三六条に基づき八号物品に被告標章を付して販売することの各差止めを求め、さらに、民法七〇九条、実用新案法二九条二項、不正競争防止法四条、五条二項一号に基づき、平成九年五月末日までの損害賠償金一二〇九万四九八七円及び平成九年六月一日から本件口頭弁論終結の日である平成九年一〇月八日まで一か月当たり金二五万一九六七円の割合による損害賠償金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。ただし、被告は、平成八年一月以降は、仕様変更した背金を装着した鋸柄を製造販売しているので、今後被告鋸柄を製造販売することはない。

2  同5(一)は認め、同(二)及び(三)は争う。イ号物件が本件考案の構成要件全部を充足するわけでないことは、後記の被告の反論のとおりである。

3  同6の事実は否認する。

4  同7の事実は認める。

5  同8の事実は否認する。

商品の形態が技術的機能に由来する場合は、これに商品表示性を認めると、一定の技術を特定人に永久に独占させるという不合理な結果を招来することになるから、当該商品形態に商品表示性は認めるべきでない。

本件替え刃の掛け止め部の形状は、背金の円形支持部に替え刃の基部側のフツク状の掛け止め部を掛け合わせた後、替え刃全体を背金の背部側に回動させ、背金の挟持部で替え刃を固定する(以下「回転着脱方式」という。)鋸の替え刃式鋸について、必然的に選択される形態であるから、本件替え刃の掛け止め部の形状に商品表示性は認められない。

殊に、本件においては、原告が回転着脱方式の替え刃式鋸について過去に取得した実用新案権が、既に、昭和六三年一月一人日をもつて消滅しているのであるから、本件替え刃の掛け止め部の形状に商品表示性を認めることは、実用新案法が予定する以上に原告に技術を独占させるという不合理な結果が明瞭である。

また、本件替え刃1の側面には「ゼツトソー7寸目」の表示が、本件替え刃2の側面には、「ゼツトソー仮枠333」の表示が、それぞれ付されているが、右「ゼツトソー」とは、原告の商品を表示するものとして需要者に広く認識されている原告の登録商標である。このように、商品自体に氏名、商号及び商標など商品の出所が識別できる表示が付されているときは、商品形態を独立に取り上げて商品表示と把握することは困難である。

右のとおりであって、本件替え刃の全体形状は、市販されている他の多くの替え刃の全体形状と大きく異なるものではないから、本件替え刃の形態に商品表示性は認められない。

6  同9のうち、被告が業として、平成六年一月以降ハ号物品を、平成五年一〇月以降ニ号物品をそれぞれ販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。

7  同10の事実は否認する。

替え刃式鋸の需要者は、替え刃あるいはその包装に表示された氏名、商号、商標を手掛りにその商品の製造者、販売者を確認するのが通常である。

本件替え刃の本体側面及びその包装袋には原告の登録商標である「ゼットソー」が表示され、その包装袋には、さらに「製造元 株式会社岡田金属工業所」と明記されており、他方、被告替え刃の本体側面及びその包装袋には「バクマソー」又は「BAKUMA」と表示され(なお「バクマ」は被告の登録商標である。)、その包装袋にはさらに「バクマ工業株式会社」と明記されているから、需要者が両商品の出所を誤認混同するおそれはない。

8  同11及び12の事実は否認する。

9  同13の事実は認める。

10  同14のうち、被告が平成六年一月から平成九年三月までの間、業としてハ号物品に被告標章を付して販売していたことは認めるが、その余の事実は否認し(被告は、平成九年四月以降はハ号物品に被告標章を付していない。)、本件登録商標と被告商標とが類似するとの主張は争う。

本件登録商標における「ハード」の語句は、本件登録商標にかかる指定商品についての品質表示として一般的に用いられているものではない。

また、「インパルス」とは、鋼の加工方法である「衝撃焼き入れ」を意味するものであり、品質表示的な語句であるから、この部分のみを取り出して要部ということはできない。

したがって、本件登録商標は「ハード」の部分と「インパルス」の部分が一体となって自他識別力を有するものと解すべきであり、同様に、被告標章においても「SUPER」と「IMPULSE」の部分が一体となって自他識別力を有するものと解すべきである。

そうすると、本件登録商標と被告標章とは、「ハード」の部分と「SUPER」の部分が大きく異なるから、全体として類似しない。

11  同15は争う。

(被告の反論)

1  本件考案の登録に至る経緯

(一) 公知技術の存在

実公昭五三-一六七四号公報に記載されている鋸の背金の構成は、本件考案の構成要件(二)及び(四)を除き、本件考案のその余の構成要件と同一であり(右公報記載の背金の狭まり部は、背金における支持部よりも前方側のほとんど全体に形成されている。)、原告は、昭和五七年ころから、右公報記載の考案の実施品であり、かつ、背金の短い替え刃式鋸(以下「乙一五鋸」という。)を製造販売していた。

また、実公昭五三-二四九四〇号公報の第8図には、上端部分に間隙部が存在し、その下方部分全体に狭まり部が形成されている鋸の背金の断面形状が記載されており、背金の上端部分を除いた下方部分全体の狭まり部で替え刃を挟持するという技術が示されている。

(二) 本件考案の出願公告に至る経過

本件考案の登録出願(昭和六一年四月二八日)の際の請求の範囲においては、「替え刃式鋸において、支持部5の下方付近は、替え刃4の端部Aを差し入れ得る間隙部Bを形成するとともに、背金3の他の箇所に、間隙を少なくした狭まり部Cを形成し」と記載されており、狭まり部の形成箇所を特に限定していなかった。

そのため、特許庁審査官は、原告に対し、実公昭五三-一六七四号公報を引用し、本件考案は実用新案法三条二項の規定により登録を受けることができないとして拒絶理由を通知した。

そこで、原告は、狭まり部の形成箇所を、背金の先端部に形成した縦方向の辺部あるいは該辺部に続く横方向の辺部全体、又はその両辺部全体と限定するなどの補正書を提出したが、それでも、特許庁審査官は、原告に対し、「縦方向の辺部と横方向の辺部を設けた点に格別の作用効果があったものとは認められない」として、再度拒絶理由を通知した。

その結果、原告は、「間隙部B」と「狭まり部C」の形成箇所を構成要件(四)のとおりに補正し、本件考案が出願公告された。

(三) 被告の登録異議の申立てに対する原告の主張

被告は、右出願公告に対し、被告は、実公昭五三-一六七四号公報及び実公昭五三-二四九四〇号公報並びに本件考案の出願前に原告が製造販売していた鋸(以下「乙四〇鋸」という。)を引用し、本件考案は実用新案法三条二項の規定により登録を受けることができないとして、登録異議の申立てをした。

原告は、答弁書において、「本件考案は、種々の厚みの異なった替え刃、具体的には〇・三ミリメートルないし〇・九ミリメートルの厚みの替え刃に対して使用可能な鋸柄を提供することを最大の目的としたものである。

実公昭五三-一六七四号公報記載の考案(鋸)は、挟持溝全体により替え刃を支持するものであり、予め適正厚以上の鋸刃を装着した場合は、背金の下方部はスカート状に広がるものである。

実公昭五三-二四九四〇号公報記載の考案(鋸)は、替え刃を支持する挟持部が平行状に配置されているとともに、特別な狭まり部はなく、平行な間隙部より薄い替え刃を装着させれば支持状態とならずに脱落してしまうし、また、それよりも厚い替え刃を装着すれば、背金の下方部はスカート状に広がってしまう。したがって、本件考案は、いずれの考案に基いても出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。」と主張した。

(四) 本件考案登録の際の特許庁審査官の判断

特許庁審査官は、(1) 実公昭五三-一六七四号公報記載の考案は、間隙部以外の挟持溝全体で鋸刃を挟持しており、実公昭五三-二四九四〇号公報記載の考案は、背金の上方側にわたり背金のほぼ全幅に狭まり部が設けられており、乙四〇鋸の挟持部は、下方側から上方側にわたり背金のほぼ全幅であると認定し、(2) 他方、本件考案の構成要件(四)(巾広状の間隙部を、背金における支持部よりも前方で、かつ、背金の下方側付近、あるいは、背金の先端側付近に形成した替え刃の厚み以下に設定した狭まり部に至るまで継続させ)とは、狭まり部が、背金の下方側付近又は先端側付近にのみ存在し、それ以外は間隙部となっていることを意味し、背金の少なくとも上方側全体又は先端側と支持部の問全体が間隙部であることを意味していると解され、(3) 本件考案の構成要件(四)により明細書記載の作用効果を生ずるものと認められるから、本件考案は、「間隙部」及び「狭まり部」の構成が公知技術とは相違し、公知技術から極めて容易に考案をすることができたとは認められない、と判断し、本件考案が登録されるに至った。

2  本件考案の「狭まり部C」及び「間隙部B」の構成の理解

右1の経緯に照らせば、本件考案にいう「狭まり部C」とは、挟持する厚みの異なる種々の替え刃のうち最も薄いもの(具体的数値は〇・三ミリメートル)よりも狭い巾を形成し、かつ、支持部より前方側の下方側付近あるいは背金先端側付近にのみ形成されているものを意味すると解すべきであり、本件考案にいう「間隙部B」とは、挟持する厚みの異なる種々の替え刃のうち最も厚いもの(具体的数値は〇・九ミリメートル)よりも広い巾を形成し、狭まり部を除く全体に形成されているものを意味する。

3  イ号物件の構成

(一) イ号物件は、「挟持部上部の折り曲げ部分」を除いて、背金の下方側から上方側にわたり替え刃を挟持する部分のほぼ全幅が替え刃の厚み以下の巾に設定されていて、替え刃厚み以下の形成位置が、背金の下方側あるいは先端側に限定されていないから、本件考案にいう「狭まり部C」は存在しない。

(二) イ号物件の「挟持部上部の折り曲げ部分」は、物体を挟持する鋼板を二つ折りに加工した場合に必然的に形成されるものであって、本件考案にいう「間隙部B」に該当しない。

すなわち、二つ折りにした鋼板で厚みのある物体を挟持する場合、折り曲げ部分が設定された隙間よりも広がると物体を挟持することができないから、折り曲げ部分は、挟持が予定されている物体の厚み以上の巾を持つように設定しておかなければならず、イ号物件は、特定の厚みの替え刃を挟持することを前提とするものであって、〇・三ないし〇・九ミリメートルという広範囲の厚みの替え刃に対応しうるようには構成されていない。

このため、イ号物件には、装着する替え刃の厚みにあわせて、「挟持部上部の折り曲げ部分」の隙間を大小にした二種類の背金があり(一つは、ハ号物品、「バクマソー250・8寸目」及び「バクマソー265」の替え刃を装着するための背金であり、他方は、ニ号物品及び「バクマソー300」を装着するための背金である。)、一方の背金に、他方の背金に装着予定の替え刃を装着することは構造上不可能なのである。

三  抗弁(実用新案権に基づく請求に対し)

本件考案は、前記の公知技術と実開六〇-四三六二号公報に示されている技術、すなわち、弾力性を備えた材質を<省略>状に屈曲形成し、下方の狭まり部のみで薄板状の物体(包丁の刃板)を挟持するという技術(以下「乙一三挟持技術」という。)の組み合わせにより、その出願前に当業者がきわめて容易に考案をすることができたから、実用新案法三七条一項一号、三条二項により、無効とされるべきものである。

このような無効原因があることが明らかな本件実用新案権に基づく請求は権利の濫用であって許されない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  実用新案権に基づく請求について

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、イ号物件が本件考案の構成要件(一)、(二)及び(五)を充足することも当事者間に争いがない。

二  そこで、イ号物件には、本件考案にいう「狭まり部C」及び「間隙部B」に該当する構成が存在するかどうかについて検討する。

1  まず、本件考案にいう「狭まり部C」が装着予定の替え刃の厚みより幅が狭く、本件考案にいう「間隙部B」が装着予定の替え刃の厚みより幅が広いことは、本件考案の登録請求の範囲の記載から一義的に明らかであり、「狭まり部C」が替え刃を圧着して固定する部分であり、「間隙部B」が替え刃を圧着しない部分であることも明らかである。

次に、本件考案にいう「狭まり部C」は、背金の「下方側付近」あるいは「先端側付近」に設けられるとされており、かつ、本件考案にいう「間隙部B」は、支持部の下方(この部分は替え刃基部の差入れ箇所であり間隙が設けられるのは必然である。)以外にも、支持部より前方の「狭まり部C」以外の部分にも設けられるものとされている。

ところが、背金のうち支持部の前方に関しては、どの範囲に「狭まり部C」が設けれられるのかという点が(背金のうち支持部の前方に関しては、「狭まり部C」以外の部分が必然的に「間隙部B」となる。)、登録請求の範囲の記載では、背金の「下方側付近」とか「先端側付近」というだけで、必ずしも具体的に特定できるわけではない。

2  そこで、「狭まり部C」及び「間隙部B」の構成がどのような作用効果を有するものかという点を斜酌して、「狭まり部C」の範囲を検討するに、本件公報の「考案の詳細な説明」の項の記載によれば、本件考案は、同一の背金で種々厚みの異なる替え刃の装着を可能にすることを目的としたものであり、そのために、支持部前方の背金の大部分を「狭まり部C」とした場合には、一方で圧着箇所が広がって替え刃の挟持力は強まるが、他方で使用可能な替え刃の厚みの範囲が限定されてしまうため(間隙部が広い方が使用可能な替え刃の厚みの範囲が広がる。)、挟持力の確保と多様な厚みの替え刃を挟持するという両効果を最も効果的に実現させることを目的として、「狭まり部C」を背金の「下方側付近」あるいは「先端側付近」に限定することにしたことが認められる。

3  右の作用効果を斜酌すれば、「狭まり部C」が形成される「下方側」とは、少なくとも、支持部前方の背金の上下巾の中間点より下方に限定されるものと解すべきである。

4  イ号物件のうち、替え刃の厚み以下の巾に設定された部分は、イ号図面の図3記載の斜線部分であるところ、これは明らかに支持部前方の背金の上下巾の中間点付近より上方側で、かつ、先端部から支持部方向へ相当の範囲にわたっており、この部分で背金を圧着する構成であることが明らかである。

したがって、イ号物件は、本件考案にいう「狭まり部C」に該当する構成を有しない。

三  よって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属さないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件実用新案権に基づく原告の請求は理由がない。

第二  不正競争防止法に基づく請求について

一  請求原因7の事実は当事者間に争いがない。

二  証拠(甲三の2、四の1、2、七の1ないし369、八の1ないし227、九の1ないし18、一四の1、2、二〇、二一の1、2、二二、二四、乙一四の1ないし3、乙二二、二三、二四の1、2、乙二五の1、2、二六、二七、二八の1、2、二九の1、2、三四の1、2、四六、五〇、五五、検甲一、二、一四ないし一七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  鋸市場に替え刃式鋸が登場するまでは、柄に鋸刃を一体的に取り付けた構造の両刃鋸が一般的であったが、このような両刃鋸では、鋸刃の目立て作業が必要となるところ、昭和四〇年ころから目立技術者の不足が顕著となる一方、鋸刃を激しく傷める集成材等の新建材が出現し、従来の一体型の鋸の不便さが顕在化した。このころ、柄に対して鋸刃を自由に取り替えることができるように構成した替え刃式鋸が出現した。

訴外レザーソー株式会社は、昭和四四年ころ、鋸市場において、替え刃式鋸「レザーソー」の大量販売に初めて成功したが、右「レザーソー」は、柄に取り付けた背金内に替え刃の背部を差し入れた後、替え刃を柄側に水平移動させ、鋸柄の下方に取り付けたネジを締め込むごとによって替え刃を固定させる構造であった。

2  原告は、昭和五〇年六月から「パネルソー」の名称で回転着脱方式の替え刃式鋸の製造販売を開始した。「パネルソー」の替え刃は、基部にフック状の掛け止め部を形成し、右掛け止め部から刃先部分に至るまで緩やかな円弧を形成した形状であった。

原告は、回転着脱方式を採用した替え刃式鋸について、実用新案権を取得し(実公昭和五三-一六七四)、右権利は昭和六三年一月一人日まで存続した。

3  「パネルソー」は、替え刃の背部全体にわたって背金を配置させる構造となっていたため、切断できる木材の太さが刃幅のものに限定されるという難点があった。

そこで、原告は、右難点を克服するため、新たに背金を短くした回転着脱方式の替え刃式鋸「ゼットソー265」を開発し、昭和五七年七月にその製造販売を開始した。「ゼットソー265」の替え刃基部の掛け止め部の形状は「パネルソー」の掛け止め部の形状と同}であり、掛け止め部から刃先に至るまでの部分も「パネルソー」の替え刃と概ね同様の緩やかな円弧が形成されている(以下、「ゼットソー265」の掛け止め部の形状及び刃先部分に至る円弧の形状をあわせて「本件基部形状」という。)。

4  さらに、原告は、様々な太さの木材を効率よく切断できる鋸に対する需要者の要望を満たすため、昭和五九年八月に「ゼットソー八寸目」を、昭和六一年六月に「ゼットソー300」を、平成元年九月に本件替え刃2を装着した「ゼットソー仮枠333」を、平成三年三月に本件替え刃1を装着した「ゼットソー七寸目」を、それぞれ製造販売し始めた(以下、これら「ゼットソー」の商品名で販売されている鋸及び替え刃をあわせて「原告商品」という。)。

原告商品における替え刃基部の形状は全て本件基部形状と同一であり、かつ、それら替え刃は、掛け止め部近傍の替え刃の背の部分に凹部(背凹部)が存在すること及び替え刃側面に寸法表示がされていることの特徴をも具備している。

5  販売実績

原告商品は、発売以来、次々に鋸市場におけるヒット商品となり、その売上額は、昭和六三年に約三一億円を記録するまで順調に伸び、以後は、毎年二〇億円ないし三〇億円程度で推移し、原告は、原告商品の販売によって業界のトップクラスの地位を確立した。なお、原告は、昭和六三年一二月一日以降、原告商品の販売をゼット販売に委ねている。

6  宣伝広告活動

我が国有数の金物生産地である三木市では、生産物増加、産業発展の目的で殖産品指定を行っているが、「ゼットソー265」は、三木市の昭和五七年度の新殖産品に指定され、三木市により、全国の約八〇〇〇の小売店にダイレクトメールで紹介された。

また、原告及びゼット販売は、原告商品全般を大々的に宣伝広告しており、これに要した費用は次のとおりである。

(一) 新聞広告費用

期間 昭和五八年二月二八日から平成六年一一月二〇日まで

金額 三七八三万〇五〇〇円

(二) ラジオ、テレビ、カタログ等の費用

期間 昭和五七年四月一三日から平成六年一一月二〇日まで

金額 二億〇四八〇万八二三〇円

7  本件替え刃は、錆を防止するため包装袋に入れて販売されているが、右包装袋には替え刃の全体形状が印刷されており、本件基部形状も認識できるようにされている。

三  本件基部形状の周知性について

1  右認定の各事実によれば、本件基部形状は、原告の開発にかかる独自のものであって、原告は、昭和五〇年から昭和五七年までの間は、本件基部形状とほぼ同一の基部形状を有する「パネルソー」の替え刃を、昭和五七年七月から昭和六三年ころまでの間は、本件基部形状を有する「ゼットソー」シリーズの替え刃を独占的に製造販売していたことが認められ、右認定の原告商品の販売期間、販売実績、宣伝広告の状況等を考慮すると、本件基部形状を有する替え刃の形態は、遅くとも平成元年ころには、替え刃式鋸の取引者及び需要者の間において、原告の商品であることを表示する自他識別力を有するに至るとともに、周知性を獲得し、現在もその状態は継続しているものと認められる。

したがって、本件基部形状を有する本件替え刃の商品形態も、発売開始後間もなく周知性を獲得したものと認められる。

2  本件基部形状は、掛け止め部の部分についてはともかく、全体としては、替え刃式鋸において回転着脱方式を採用したことにより必然的、不可避的に選択される形状ではないから、これに商品表示性を認めたとしても被告の主張するような不合理な結果を招来するものではない。

3  原告は、替え刃側面に寸法が表示されていることも、商品表示の一部であると主張するが、替え刃式鋸において寸法を商品名の一部に取り入れ、これを替え刃の側面に表示することは、商品を特定するための表示として通常ありふれたものと解されるから、本件基部形状と寸法表示とが一体となって原告の商品であることを表示する自他識別力(商品表示性)を有することになるということはできない。

四  被告の不正競争行為について

1  被告が平成六年一月以降現在までハ号物品を、平成五年一〇月以降現在までニ号物品をそれぞれ販売していることは当事者間に争いがない(それ以前の販売行為を認めるに足りる証拠はない)。

2  被告替え刃の基部は、フック状の掛け止め部と刃先部分に至る緩やかな円弧から成り、掛け止め部近傍には背凹部がする。その円弧の半径が本件替え刃のそれよりも若干長く、その背凹部が本件替え刃のそれよりも若干横巾が広いものの、被告替え刃の基部形状は、本件基部形状とほぼ同一であるというべきである。

また、被告替え刃の全体形状は、本件替え刃の全体形状と極めて類似している。

3  本件替え刃と被告替え刃の商品形態は酷似しているから、本件替え刃上に原告の登録商標「ゼットソー」(甲二五の一、二、乙一六、一七)の表示が、被告替え刃に被告の登録商標の「バクマ」(乙一八、一九)の表示がなされていることを考慮しても、取引者又は需要者において、少なくとも両商品の製造・販売主体に親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存在するかのように誤認する(いわゆる広義の混同)おそれがあるということができ、被告が平成六年一月以降ハ号物品を、平成五年一〇月以降ニ号物品をそれぞれ販売した行為は、原告の営業上の利益を侵害する不正競争行為であるということができる。

4  被告替え刃の販売が開始された平成五年時点では、本件替え刃の商品形態が原告製替え刃を表示するものとして周知性を獲得していたことは、右のとおりである。そして、弁論の全趣旨によると、本件替え刃の背凹部は、製造工程上の必要から形成されているものであるのに対し、被告替え刃の背凹部は、製造工程上は何らの必要性もないのに敢えて形成されていることが認められるから、被告は、本件替え刃を模倣して被告替え刃を製造したもの、すなわち右不正競争行為について故意があったものと推認すべきである。

五  右不正競争行為による原告の損害について

1  証拠(乙五四、六一の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、平成五年一〇月一日から平成九年六月三〇日までの間に販売した被告替え刃の数量及び売上額は次のとおりであると認められる。

なお、証拠(乙六一の1、2)によれば、平成八年一月のハ号物品の販売単価が三一五円、ニ号物品の販売単価が三七〇円であると認められるから、特段の反証がない本件においては、右期間における被告替え刃一枚の販売単価も右認定の販売単価と同一であると推認すべきである。

(一) 被告替え刃のみ

(1) ハ号物品

販売数量 六万四三三六枚

売上額 二〇二六万五八四〇円

(2) ニ号物品

販売数量 九万二八七五枚

売上額 三四三六万三七五〇円

(3) 売上額の合計 五四六二万九五九〇円

(二) 被告替え刃を装着した鋸本体(ただし平成五年一〇月一日から平成七年一二月三一日まで)

(1) ハ号物品を装着した鋸

販売数量 二八四三本

売上額(替え刃のみ) 八九万五五四五円

(2) ニ号物品を装着した鋸

販売数量 一万六八六一本

売上額(替え刃のみ)六二三万八七五〇円

(3) 売上額の合計 七一三万四二九五円

(三) 被告替え刃を装着した鋸本体(ただし平成八年一月一日から平成九年六月三〇日まで)

(1) ハ号物品を装着した鋸

販売数量 三二六六本

売上額(替え刃のみ)一〇二万八七九〇円

(2) ニ号物品を装着した鋸

販売数量 一万三九六七本

売上額(替え刃のみ)五一六万七七九〇円

(3) 売上額の合計 六一九万六五八〇円

(四) 右(一)ないし(三)の売上額の合計

六七九六万〇四六五円

2  平成九年七月一日以降の被告替え刃の販売数量を正確に認定する証拠はないが、右認定の販売実績に照らし、平成九年七月一日以降の一か月あたりの被告替え刃の販売数量は、その直前半年間の(平成九年一月から六月まで)の毎月の販売数量の平均(被告替え刃のみのハ号物品の月平均販売数量は二七三七枚、二号物品のそれは二八七四枚、ハ号物品を装着した鋸の月平均販売数量は二二三本、二号物品を装着した鋸のそれは八一一本である。)を下回らないものと推認すべきである。

これによると、平成九年七月一日から本件の口頭弁論終結の日である同年一〇月八日までの被告替え刃の販売数量及び売上額は次のとおりとなる(販売単価は右1と同じ)。

(一) 被告替え刃のみ

(1) ハ号物品

販売数量 八九一七枚

売上額 二八〇万八八五五円

(2) ニ号物品

販売数量 九三六三枚

売上額 三四六万四三一〇円

(3) 売上額の合計 六二七万三一六五円

(二) 被告替え刃を装着した鋸本体

(1) ハ号物品を装着した鋸

販売数量 七二六本

売上額(替え刃のみ)二二万八六九〇円

(2) ニ号物品を装着した鋸

販売数量 二六四二本

売上額(替え刃のみ)九七万七五四〇円

(3) 売上額の合計 一二〇万六二三〇円

(三) 右(一)及び(二)の売上額の合計

七四七万九三九五円

3  原告ば、不正競争防止法五条二項一号に基づき、商品表示の使用料相当額を損害として請求するところ、本件替え刃の形態は、本件基部形状に特徴を有するものの、それ以外の大部分はありふれた形態であること(乙五〇、検甲一三、弁論の全趣旨)、替え刃式鋸において回転着脱方式を採用した場合には、替え刃の掛け止め部の形状はある程度似通ったものとならざるを得ないこと、本件替え刃の側面には商品名が表示されているから、需要者が商品の形態のみを頼りに当該商品の出所を識別し選択するわけではないと考えられることを考慮すれば、商品表示(本件替え刃の商品形態)の使用料は、せいぜい売上額の三パーセント程度であると算定するのが相当である。

そこで、右1及び2においで認定の売上額(合計七五四三万九八六〇円)に三パーセントを乗じて損害額を算出すると、二二六万三一九五円(円未満の端数を切り捨て)となる。

第三  結論

以上の次第で、本訴請求は、被告替え刃の製造販売の差止め及び二二六万三一九五円の損害賠償金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 島田佳子)

被告替え刃目録

一 商品名「バクマソー・225替え刃(7寸目)」

商品形態は別紙「ハ号物品」記載のとおり

二 商品名「バクマソー・仮枠330替え刃」

商品形態は別紙「ニ号物品」記載のとおり

ハ号物品

<省略>

ニ号物品

<省略>

イ号図面

<省略>

実用新案権目録

一 考案の名称 替え刃式鋸における背金の構造

二 出願日 昭和六一年四月二八日

三 出願公告日 平成二年一一月二〇日

四 登録日 平成五年二月一二日

五 登録番号 第一九五一六二三号

六 実用新案登録請求の範囲 添付の実用新案公報の写し(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおり。

<10>日本特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平2-43681

Inl.Cl.3B 27 B 21/04 B 25 G 3/12 識別記号 B A 庁内整理番号 8709-3C 6759-3C 公告 平成2年(1990)11月20日

考案の名称 替え刃式鋸における背金の構造

<21>実願 昭61-64806 公開 昭63-37202

<22>出願 昭61(1986)4月28日 昭63(1988)3月10日

<72>考案者 山本次 兵庫県三木市大村561番地 株式会社岡田金属工業所内

<71>出願人 株式会社 岡田金属工業所 兵庫県三木市大村561番地

<74>代理人 弁理士 大西健

審査官 橋本康

早期審査対象出願

参考文献 実公 昭31-11700(JP、Y1) 実公昭53-1674(JP、Y2)

<57>実用新案登録請求の範囲

柄2の先部に背金3を取り付け、該柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式の鋸において、背金3全体の長さを、替え刃4の手前基部を支持する寸法に設定するとともに、背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差入れる巾に設定して解放し、該巾広状の間隙部Bを、背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した鋸替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあつては、鋸替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは、挟持状態となることなく自由に回動させ得るようにする一方、鋸替え刃の完全装着時にあつては、専ら該恒久的な狭まり部Cによつて挟持され、背金3における他の内壁面部分は、鋸替え刃4の側面部に対して、圧接状態とならないように形成したことを特徴とする替え刃式鋸における背金の構造.

考案の詳細な説明

この考案は、先端部に背金を取り付けた柄と、その柄に取り付ける鋸刃とから成り、柄に対して、鋸刃を必要に応じて任意に着脱し得るように構成した替え刃式鋸にあって、背金部への鋸刃取り付け手段の改良に関するものである.

従来、木材の切断に際して使用せられる鋸としては、所謂両刃鋸が大多数を占めていたのであるが、合板や集成材等の新建材の多用化にともなつて、最近では、目立て作業を必要としないえ刃式の鋸か多く使用せられもまうになつているのである.

このような柄に対して鋸刃を任意に取り替える構成の替え刃式鋸にあっては、簡単な操作でもって鋸刃の着脱を行い得ること、並びに、その取り付け状態が確実で、長時間の使用に耐え得るこどが、その製品の優劣を決することになるのである.

ところで、このような替え刃式の鋸における柄への鋸刃の係合手段としては、例えば、昭和57年実用新案公告第2672イ号公報に記載される如く、柄の先端部に鋸刃を差し入れ得る形の背金を取り付けるとともに、その背金の内側壁部に支持部を形成し、鋸刃の取り付けに際しては、その支持部に対して鋸刃の凹部を掛け合わすように構成したものが存在するのであるが、この種の構成のものにあっては、その構成がシンプルであって着脱操作を極めて簡単に行えると同時に、長時間にわたる使用にも耐え得るという利点がある反面、背金における鋸替え刃の差し入れ部の間隔が、特定の鋸刃の厚み寸法に合わせて形成せられた構成となっている結果、例え、掛け止め凹部の形状が同じであっても、厚みの異なる鋸替え刃に対しては使用出来ないという不便さがあるのである.すなわち、鋸刃の厚みは、鋸刃の刃長さによつて種々異なつているのが普通であるが、背金を従来のような構成とした場合には、それぞれ鋸刃の厚みに応じて、形の異なる背金を用意しなければならないという不便さがあるのである.

この考案は、鋸替え刃を係合させるための背金の改良に関するものであつて、背金に、替え刃を差し入れる間隙部を形成するとともに、背金の一定個所に、その間隙を少なくした狭まり部を形成した構成とすることによつて、従来の構成のものにみられた上記のような問題点を解決しようとするものである.

図面にもとづいて、この考案に係る替え刃式鋸における背金の構成を説明すると、替え刃式鋸本体1は、第1図並びに第2図に示すとおり、先端部に背金3を有する柄2と、該背金3に対して着脱可能な鋸替え刃4とをもつて形成せられた構成となつており、その鋸替え刃4の取り何け部となる背金3は、第3図乃至第6図に示すとおり、鋸替え刃4を差し入れ得る間隙部と、該間隙部を絞り込むことによつて形成せうれた狭まり部Cを有するとともに、該間隙部内に、鋸替え刃4を掛け止めるための支持部5を有し、かつ、その支持部5の下方位置に、鋸替え刃4の端部Aを差し入れ得るだけの間隙部Bを有する形の金属板をもつて形成せられていると同時に、その全体に対して焼入れ加工を施した構成となつているのである.なお、背金3全体に対する焼入れ加工は、背金における狭まり部Cの形状を長期間にわたつて維持するためのものであるが、この考案の不可欠の要件ではない.

上記は、背金3における狭まり部Cを背金3の下方部に形成した場合であるが、その別実施例としては、第7図に示すとおり、背金の中間部に形成した構成とすることも出来るし、また、場合によつては、第8図に示すとおり、背金の前方部に形成した構成とすることも可能であり、しかも、その形成位置によつて、鋸替え刃4を挟持する力を異ならしめることが可能となるのである.

この考案における替え刃式鋸の背金3は、上記のような構成であるが、背金部への替え刃4の取り付けに際しては、第2図に示すとおり、鋸替え刃4の端部Aを、背金3に形成せられた間隙部B内に差し入れると同時に、鋸替え刃に形成した凹部6を、背金の支持部5に掛け合わせた状態とした後、鋸替え刃全体を上方向へ押し上げるという操作によつて行われるのである.

この考案に係る替え刃式鋸における背金の構造は、上記のような構成であつて、次のような効果をもつものである.

すなわち、替え刃式鋸にあつて、背金の内部に支持部を形成し、該支持部に、鋸替え刃に形成した凹部を掛け止めるように構成した場合、簡単な操作で替え刃の着脱を行えること、並びに、その取り付け状態が確実で長期間の使用に耐え得るという利点がある反面、所定の厚さをもつ鋸替え刃以外のものは、例え、掛け止め凹部の形が同じであつても装着させることができないという不便さがあるのであるが、この考案に係る背金にあつては、鋸替え刃の厚み以下に設定した狭まり部Cが形成せられた構成となつている結果、鋸替え刃における掛け止め凹部6の形状並びに位置を共通にさせることによつて、種々の厚みをもつた鋸替え刃を装着させ得るという便利さがあると同時に、装着時にあつては、狭まり部Cによつて鋸刃自体が挟持せられた形となるので、鋸替え刃4と柄2との係合状態をまり確実なものにし得るという利点があるのである.

図面の簡単な説明

添付図面は、この考案の一実施例を示すものであつて、第1図は替え刃式鋸の全体を示す側面図、第2図は柄と替え刃との着脱状態を示す側面図、第3図は背金の全体を示す斜視図、第4図は背金と鋸替え刃との係合状態を示す斜視図、第5図は背金における間隙部の内部構造を示す斜視図、第6図は背金における狭まり部の形状を示す底面図、第7図並びに第図は狭まり部の別実施例を示す斜視図である.

1……鯵え刃式鋸本体、2……柄、3……背金、4……鋸替え刃、5……支持部、6……凹部、A……鋸替え刃先端部、B……間隙部、C……狭まり部.

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

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第5図

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第6図

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第7図

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第8図

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原告替え刃目録

一 商品各「ゼットソー・7寸目替え刃」

商品形態は別紙「本件替え刃『ゼットソー7寸目』」記載のとおり

二 商品名「ゼットソー・仮枠333替え刃」

商品形態は別紙「本件替え刃『ゼットソー仮枠333』」記載のとおり

本件替え刃「ゼヅトソー仮枠333」

<省略>

本件替え刃「ゼットソー7寸目」

<省略>

商標権目録

一 登録番号 第一九八六八一四号

二 登録日 昭和六二年九月二一日

三 指定商品第一三類(ただし、平成三年政令第二九九号、平成三年通商産業省令第七〇号による改正前の商標方法施行令、商標法施行規則の各別表によるもの)

「手動利器、手動工具、金具(他の類に属するものを除く)」

四 登録商標 左枠内のとおり

<省略>

被告標章

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実用新案公報

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