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神戸地方裁判所 平成7年(行ウ)9号 判決

原告

甲野一郎(仮名)(X)

右訴訟代理人弁護士

金子武嗣

秋田真志

幸長祐美

奥村秀二

被告

篠山町議会(Y)

右代表者議長

畑俊三

右訴訟代理人弁護士

堀岩夫

事実及び理由

第四 当裁判所の判断

一  争点1について

原告の被告の議員としての任期が平成七年一一月三〇日の経過をもって終了しており、原告は、本件除名処分が取り消されても右議員の地位を回復する余地はないということができるが、そのような場合でも、本件除名処分が取り消されない限り、除名処分がなければ議員として有するはずであった報酬請求権その他の権利利益を喪失することになるから、右権利利益を回復するための適切な手段として、右除名処分の取消を求める利益はあるというべきである。

二  争点2について

1  地方自治法一三二条前段は普通地方公共団体の議会(以下「地方議会」という。)の会議又は委員会(以下、併せて「議会等」という。)における議員による無礼の言葉の使用を禁止しているが、同条が地方自治法第六章議会第九節紀律に置かれていること及び同条の規定の内容に照らすと、無礼の言葉の使用を禁止することによって議会等における議事の円滑な運営及び規律秩序の維持を目的とした規定であることは明らかであり、右目的は何ら憲法の理念に反するものでも憲法に違反するものでもない。

2  議会等における議員による言論の自由は、憲法二一条一項により保障されていると解されるが、地方自治法一三二条前段の「無礼の言葉」という文言は、前記の同条の目的に照らして、「議員が付議事項についての意見や批判の発表に必要な限度を超えて、議員その他の関係者の正常な感情を反発させる言葉」のことをいうと解され、通常の判断能力を有する一般人を基準にすると、個々の議員が言葉を使用する場合に当該言葉が無礼の言葉に該当するか否かを判断することはさほど困難ではないということができるから、明確性の要請に欠けるということはできない。

また、議会等において言論をなすことが議員の重要な職務であり、議会等の審議の場は言論の自由を基本とする言論による相互批判の場であることを考慮しても、議会等における議員による言論の自由には議会等における言論であることに自ずから伴う制約があるというべきである。すなわち、公の言論の場である議会等の審議における言論については、いたずらに感情的になったり混乱するといった事態が生じないこと(議会等における審議の規律秩序の維持)が一方では要請されていると解され、このような観点からの制約を伴っているというべきである。そして、無礼の言葉の意義は前記のとおりと解されることに鑑みると、地方自治法一三二条前段が無礼の言葉の使用を禁じていることは、議会等における言論の自由に伴う前記のとおりの内在的制約を明らかにしたものということができる。したがって、地方自治法一三二条前段は、右言論の自由を不当に制約するものということはできず、憲法二一条一項に違反するものではない。この点につき、原告が種々主張するところは、地方自治法一三二条は、国民一般に対してではなく、地方議会の議員に対して議会等における無礼の言葉の使用を禁じたものであることを看過したものであり、採用できない。

三  争点3について

1  争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告は、被告又は議長から、以下のとおりの懲罰又は注意等を受けた。

(1) 平成四年六月二五日、議長は、原告に対し、原告の住民監査請求書の写しの内容及び右写しの配布について、議員としての品位を欠き、議会の信頼を失墜する行為として、厳重注意をした。

(2) 平成四年九月二日、被告の定例会において、前記監査請求が却下された後、原告が住民訴訟を提起し、その訴状の写しを不特定多数の住民に配布したことについて、原告に対する問責決議が可決された。

(3) 平成四年一一月一〇日、被告は、原告に対し、同年九月二九日の被告の定例会における原告の一般質問の中に不穏当発言があったとして、厳重注意をした。

(4) 平成四年一二月二四日、原告は、同日の被告の定例会における原告の発言の中に問題部分があるとして、右部分の取消しを議長に命じられたが従わず、平成五年二月一七日、被告は、原告に対し、右命令に従わなかったことを理由に公開の議場における陳謝の懲罰を科した。

(5) 平成五年三月一〇日、被告は、原告に対し、原告が前記公開の議場における陳謝の懲罰に応じなかったことを理由に、同年三月一〇日から一九日までの一〇日間の出席停止の懲罰を科した。

(6) 平成五年三月一一日、被告は、原告に対し、前記出席停止の懲罰を宣告するために除斥を解除して議場への入場を求めたのに対し原告が応じなかったことが、議会の品位と秩序を乱したという理由で、同年三月二〇日から二六日までの七日間の出席停止の懲罰を科した。

(7) 平成六年六月二七日、被告の議長から原告に対し、ビラ配布などの議会外での行為について厳重注意がなされた後、被告において原告に対する辞職勧告決議案が可決された。

(二)  平成六年九月二〇日、第三回定例会が開かれ、平成五年度篠山町水道事業会計歳入歳出決算認定が議題とされ、畑委員長から右委員会における右の件に関する審査の報告がなされた。その中で、右委員会において委員から城東簡水の上宿内の導管工事が中止になった理由についての質問があり、上宿総代の反対のため中止になった旨の答弁があったとの報告がなされた。

畑委員長の報告終了後、委員長に対する質疑に入り、別紙一のとおりの右報告に関する質疑応答が原告と畑委員長との間において行われた後、原告が質問をしようと挙手をしたが、議長の指名により熊谷議員が質問を行い、その後右議題について原告は質問できなかった。

続けて、平成五年度篠山町ガス事業会計歳入歳出決算認定が議題とされ、畑委員長から民生福祉常任委員会における右の件に関する審査の報告がなされた。その中で、右委員会において委員から売上金の回収状況についての質問があり、努力しているが困難な部分もあり悪質者といわれる者が一八人ほどで夜間徴収等で対応している旨の答弁があったとの報告がなされた。畑委員長の報告終了後、委員長に対する質疑に入り、別紙二のとおりの右報告に関する質疑応答が原告と畑委員長との間において行われた後、議長が質疑を打ち切った。

(三)  平成六年九月二二日、原告は、畑委員長の前記質疑における答弁等が、原告に対する侮辱であるなどとして、畑委員長に対する懲罰を求めて、本件要求書を議長あてに提出し、同月二八日付けで本件補正書を提出した(以下、本件要求書及び本件補正書を併せて「本件要求書等」という。)。

なお、本件要求書等の中で特に問題となっている記述は以下のとおりである。

<1> 「委員長畑は誰が作成したのか判らない作文を必死になって読み上げるのが限界で、質問してやると高血圧症も手伝って、頭の中が真白になるらしくまともに答弁できない人物である」「頭の中が真白で空間も多くあるらしい哀れな委員長畑三男」、「議会全体を侮辱し愚弄することの常習犯の議員畑三男」

<2> 「拙者の議員活動を妨害することを任務としている議員熊谷満」

<3> 「議長としての普通一般の常識を頭に入れていない議長瀬戸亀男」

(四)  平成六年一〇月一四日、第三回定例会が開かれ、原告提出の「畑三男君に対する懲罰の件」が議題となり、本件要求書等が各議員に配布され、質疑等が行われた後(なお、右質疑における石塚精一議員及び岡前昌喜議員の質問に対する原告の答弁が「本件答弁」である。)、懲罰は科さない旨議決された。

(五)  同日、本件要求書等の記述及び本件答弁中の発言が地方自治法一三二条前段に違反するとして原告に対する懲罰の動議(以下「本件懲罰動議」という。)が被告に提出され議題となり、地方自治法一一七条に従って原告が退場した後、提出者による説明がなされ、原告から一身上の弁明をしたい旨の申出があったが、これを被告が否決し、原告に対する懲罰請求案件が懲罰特別委員会に付託することが決定され、午後一二時七分ころ会議は休憩となった。同日午後二時三七分ころ、会議が再開となり、右委員会の委員長から報告書が提出され、右案件が議題とされ、地方自治法一一七条に従って原告が退場した後、原告に対し除名処分を科すべきものと認めるとの報告が委員長からなされ、原告から一身上の弁明をしたい旨の申出があったが、これを被告が否決し、質疑等を経て、被告は、本件除名処分を科した。

2  地方自治法一三二条前段にいう「言葉の使用」は、その文言のみからでは発言という態様に限られるとは解されないし、文書中の記述によっても、その文書を配布することなどにより議員その他の関係者の正常な感情を反発させることがありうることからすると、文書の記述を使用することも同条にいう「言葉の使用」に該当すると解すべきである。

これを本件についてみると、前記(四)のとおり、本件要求書等は会議場内において出席議員に配布されていること、本件要求書等の記載内容は畑委員長に対する懲罰の要求とその理由を記載したものであり、畑委員長に対する懲罰について審議される際に資料となることが予定された文書であると認められること、本件答弁によれば原告自身本件要求書等が出席議員の目に触れることを容認し、それを前提とした上で発言していると認められることからすると、原告は議会の会議において本件要求書等の記述を使用したというべきである。

3  地方議会の議員が議会の会議において意見等を発表する際に用いる言葉が痛烈なものとなることは、自由で活気ある言論がなされることが議会という場の性質上期待されているという観点から、ある程度許されると解される。

しかしながら、右に述べた点を考慮しても、前記1(三)<1>の言葉は、畑委員長に対する懲罰請求に理由があることを主張するのに必要な限度を超えて畑委員長を攻撃し、議員の正常な感情を反発させるもので、地方自治法一三二条前段にいう無礼の言葉に該当することは明らかである、また、前記1(三)<2>及び<3>の言葉も、熊谷議員の言動や瀬戸議長の議事運営に対する批判に必要な限度を超えて熊谷議員又は瀬戸議長を攻撃し、議員の正常な感情を反発させるもので、地方自治法一三二条前段にいう無礼の言葉に該当するということができる。さらに、本件答弁における原告の発言は、無礼の言葉に該当する本件要求書等における記述について、それらが正確な記述であって撤回する意思がないこと、今後も侮辱的な言葉を用いること、問題があれば法的な手続をとればいいという開き直りの態度を表明したものと受け取られてもやむを得ないものであるから、本件要求書等における記述とあいまって、畑委員長に対する懲罰請求に係る答弁に必要な限度を超えて議員の正常な感情を反発させるもので、地方自治法一三二条前段にいう無礼の言葉に該当するものというべきである。

4  以上のとおりであるから、原告は、被告の会議において無礼の言葉を使用したということができ、原告には地方自治法一三二条違反という懲罰理由があったと認められる。

5  原告は、本件除名処分をするにあたって、「議長としての普通一般の常識を頭に入れていない議長瀬戸亀男」という言葉が無礼の言葉に該当するという判断はなされていないから、右の言葉を懲罰理由に含めて本件除名処分の適法性を判断することはできない旨主張する。

〔証拠略〕によれば、本件懲罰動議の提案者による提案理由の説明及び懲罰特別委員会からの報告において、無礼の言葉に該当する言葉として「議長としての普通一般の常識を頭に入れていない議長瀬戸亀男」は具体的には指摘されていないことが認められるものの、一方で、その他の言葉を具体的に指摘しつつ「等々」とか「等」という言葉を用いていることが認められる。そうすると、本件懲罰動議において具体的に指摘のあった言葉は例示であって、懲罰理由となる無礼の言葉に該当する言葉は具体的に指摘された言葉に限らず、無礼の言葉に該当する本件要求書等の記述及び本件答弁中の言葉を包括的に懲罰理由とする趣旨であったとみるのが相当である。そして、本件除名処分に当たって、具体的に指摘された言葉に懲罰理由を限定したと認めるに足りる証拠はないから、本件除名処分は右趣旨のもとになされたものということができる。したがって、「議長としての普通一般の常識を頭に入れていない議長瀬戸亀男」という言葉が無礼の言葉に該当することを懲罰理由に含めて本件除名処分の適法性を判断することは許される。

なお、本件裁決では、被告が「議長としての普通一般の常識を頭に入れていない議長瀬戸亀男」という言葉を無礼の言葉に該当するとしているとの判断をしていないが、審査庁たる兵庫県知事の判断に裁判所が拘束されるわけではないから、本件裁決における右判断は右に述べたところを左右するものではない。

四  争点4について

1  地方議会の議員に懲罰理由がある場合、当該議員に対し、懲罰処分を行うか否か、あるいは地方自治法一三五条一項が定める各懲罰処分のうちいずれを選択するかの判断は、自律的判断権を有する地方議会の合理的な裁量に委ねられるべきものであるから、裁判所が議会がなした除名処分の適否を審査するに当たっては、議会の裁量権の行使としての処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきである。

2  これを本件についてみると、前記三認定の無礼の言葉に該当する本件要求書等の記述及び本件答弁中の発言の地方自治法一三二条違反の程度態様は軽微とはいえないこと、本件要求書等の記述は議場の雰囲気に応じて偶発的になされたものではないこと、原告は反省の態度がないものと受け取られても仕方がない内容の発言を本件答弁の中でしていること、原告は本件除名処分までに議会内外における言動を理由に出席停止一〇日間などの懲罰処分や注意を被告又は議長から受けていたこと等に照らすと、除名処分は議員の地位を奪うものであって情状が特に重い者に対し科せられるべきものであることを勘案しても、被告が懲罰として除名処分を選択したことが、社会観念上著しく妥当を欠き、被告の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用したものであると認めることはできない。

3(一)  〔証拠略〕によれば、平成二年には議員定数の削減が否決されたが、原告が被告の議員となった後に議員定数が四名分減員されたことが認められる、これについて、原告は、議員定数を削減し当選ラインを引き上げることによって原告が再び当選することのないようにしたものである旨主張し、原告本人もそれに沿う供述をしている。しかしながら、証人瀬戸亀男は被告の議員定数が多く行政改革の観点から定数削減の必要があった旨証言していること、平成二年に議員定数の削減を否決していることから直ちに右原告主張に係る事実が推認されるわけではないこと、他に原告の供述を裏付ける的確な証拠がないことからすると、右原告主張に係る事実を認めることはできない。

(二)  〔証拠略〕によれば、<1>平成四年六月二五日、同年九月二九日、同年一二月二四日の被告の各定例会において原告が質問をしようとしていたところ質疑打切の動議が提出されて質疑が打ち切られたこと、<2>平成五年五月ころ原告を除く当時の被告議員が発行者となって原告の議会活動への批判等を内容とする文書が配布されたこと、<3>平成五年六月二五日の被告定例会において原告の一般質問が予定されていたところ、多数の議員が欠席し定数に達しなかったため右定例会は自然閉会となったこと、<4>原告の一般質問等の内容が議会の広報誌に掲載されたのは一回だけであることが認められる。これらの事実に加え、前記のとおりの原告に対する懲罰等を合わせ考えると、原告以外の被告の議員のほとんどすべてが原告の言動に対し程度の差はあれ批判的な態度であったことがうかがわれる。しかしながら、前記2で認定した事実に鑑みると、本件除名処分が、党派的な理由など何ら合理性のない理由にのみ基づいて、また原告を議会から排除しようとの被告の意思に基づいてなされたものであるとはいえず、本件除名処分をしたことについて、被告の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用したものということはできない。

五  争点5について

1  前記三2及び3のとおり、原告は平成六年一〇月一四日の第三回定例会の会議において地方自治法一三二条に違反して無礼の言葉を使用したということになり、懲罰事犯が生じたのと同じ日に本件懲罰動議が提出されていることになるから、篠山町議会会議規則一一〇条二項に違反しない、

2  前記三1(五)によれば、懲罰特別委員会に本件懲罰が付託されていたのは約二時間三〇分であるが、このことから直ちに右委員会の審議が不十分であったということはできない。

3  また原告の弁明の申出が被告において否決され、本件懲罰動議に対する弁明の機会が原告に与えられることなく、本件懲罰処分がなされているのは、前記三1(五)のとおりであるが、懲罰動議等が提出された議員の弁明について、篠山町議会会議規則一一二条は、議会又は委員会の同意を得たときには、他の議員をして代わって弁明させることができる旨規定しているにすぎず、他に懲罰を請求された議員が議会の同意がなくても弁明することができると解する法令上の根拠は見当たらないから、原告からの弁明の申出が否決され弁明の機会が与えられなかったことをもって、本件除名処分の手続に瑕疵があるということはできない。

六  まとめ

以上の次第であるから、本件除名処分は適法であり、原告の請求は理由がないこととなるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 西野吾一)

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