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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2109号 判決 1998年5月28日

原告

寛島清子

被告

竹村佳朗

主文

一  被告は、原告に対し、金三四〇万一七八五円及びうち金三一〇万一七八五円に対する平成八年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七四六万五八三五円及びうち金六七九万六一〇五円に対する平成八年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、弁護士費用を除く内金(ただし、請求の減縮前のもの)に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成七年三月二九日午後三時三〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市垂水区平磯一丁目一番先路上

(三) 事故態様

訴外寛島一男は、普通乗用自動車(神戸五三も六六七〇。以下「原告車両」という。)を運転し、右発生場所を東から西へ直進して走行していた。

他方、被告は、普通乗用自動車(神戸五三む四九四〇。以下「被告車両」という。)を運転し、原告車両の後方を、原告車両と同一方向の東から西へ直進して走行していた。

そして、右発生場所で、被告車両の前部が、原告車両の後部に追突した。

なお、原告は、原告車両の助手席の同乗者である。

2  責任原因

被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は、原告に生じた損害額である。

四  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は、平成一〇年三月一九日である。

第三争点に対する判断

争点に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当該裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。

一  原告の傷害等

まず、原告の損害の算定の基礎となるべき原告の傷害の部位、程度、入通院期間、その間の治療の経緯等について検討する。

1  甲第二号証の一ないし四、乙第一、第二号証、証人中川紀充の証言、原告本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、本件事故の発生した平成七年三月二九日、医療法人沖縄徳洲会神戸徳洲会病院(以下「神戸徳洲会病院」という。)で診療を受けた。同病院における当初の診断傷病名は、頭部打撲、頸椎捻挫である。

そして、同日と同年四月三日に同病院に通院したが、症状が増悪したため、同月七日から同年六月四日までの五九日間、同病院に入院した。

また、原告は、その後も、同年八月二三日まで、同病院に通院した(同病院への実通院日数は合計二〇日。)。

(二) 原告は、神戸徳洲会病院に入院中の同年四月二七日と同病院に通院中の同年六月二八日、同病院の依頼により、医療法人明仁会明舞中央病院(以下「明舞中央病院」という。)でMRI検査を受けた。

また、同年八月九日から平成七年二月二八日まで、同病院に通院した(同病院への実通院日数は合計七四日。)。同病院における診断傷病名は、頸椎捻挫、頸椎椎間板ヘルニア、外傷性頸部症候群である。

なお、原告は、神戸徳洲会病院で第四、第五頸椎椎間板の突出の除去手術を勧められたが、理学療法を望み、明舞中央病院に転医して、理学療法を受けたものである。

(三) 明舞中央病院の医師は、原告の傷害は、頭重感、頸部の不快感、こり感、右下肢の軽度の脱力感を残し、平成八年二月二八日症状固定した旨の診断をした。

2  被告は、原告の治療期間が必要以上に長期にわたる旨主張する。

しかし、前記証拠により認められる右認定事実によると、その必要性、相当性は優に認められ、被告の主張を採用することはできない。

また、被告は、原告には椎間板ヘルニアの既往症が存在したから、その寄与度に応じた減額がなされるべきである旨主張する。

しかし、右既往症の存在を認めるに足りる証拠はない上に、原告本人尋問の結果によると、本件事故前に、原告は首に痛みを感じたことはまったくないことが認められる。そして、当事者間に争いのない本件事故の態様、前記認定の原告の治療の経緯に照らすと、被告の右主張を採用することはできない。

二  損害

1  治療費

甲第五号証によると、明舞中央病院の治療費金一万九一三五円を認めることができる。

2  入院雑費

入院雑費は、前記認定の五九日の入院日数につき、一日あたり金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、次の計算式により、金七万六七〇〇円となる。

計算式 1,300×59=76,700

3  休業損害

原告の主張する休業損害は、原告が有限会社関西創健から受けていた役員報酬につき、平成七年四月から九月までこれを受けることができなかったことによる損害である。

ところで、甲第三号証、第六号証、第一〇号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、有限会社関西創健の代表取締役であること、同社の営業内容は、健康器具・健康食品・化粧品・肌着の販売等であること、同社で営業活動を行っているのは原告一人であり、経済的には同社と原告個人とをほぼ同一視することができること、本件事故のため、原告は、平成七年四月から九月まではほとんど営業活動に携わることができなかったこと、このため、右期間中、原告は、それまで得ていた一か月金五〇万円の同社からの役員報酬を得ないこととしたことが認められる。

他方、右各証拠によると、同社の収入の中には、傘下の代理店、特約店、販売店の売上に対する手数料があるため、右期間も、同社の売上高、収益はそれまでとほとんど変わらなかったこと、したがって、同社が原告に一か月金五〇万円の役員報酬を支払うのに何ら支障はなかったことが認められる。

そして、前記のとおり、経済的には同社と原告個人とをほぼ同一視することができるから、原告の主張する役員報酬を直ちに原告の休業損害と評価することはできない。

ただし、前記のとおり、原告は、五九日間入院を続けたところ、乙第二号証、原告本人尋問の結果によると、本件事故当時、原告は夫と同居し、家事にも従事していたこと、神戸徳洲会病院を退院した後も、握力低下、耳鳴り、手のしびれなどにより、原告の主張する平成七年九月ころまでは、ほとんど家事に従事することができなかったことが認められる。

したがって、原告の休業損害を算定するにあたっては、家事労働に従事することができなかったことを評価するために、賃金センサス平成八年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計、六〇~六四歳に記載された金額(原告は本件事故時満六四歳であり、右金額が年間金三〇一万一九〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基準に、その六か月分にあたる金一五〇万五九五〇円を認めるのが相当である。

4  慰謝料

当事者間に争いのない本件事故の態様、前記認定の原告の傷害の部位、程度、入通院期間、その間の治療の経緯、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた原告の精神的損害を慰謝するには、金一五〇万円をもってするのが相当である。

なお、別表の欄外の注に記載のとおり、原告は、慰謝料に関し、有限会社関西創健に生ずべき損失に関して原告が被った多大の不安に関するもの金二〇〇万円を主張し、これと、平成九年四月から七月分までの役員報酬金二〇〇万円とを選択的に併合して請求する。

しかし、後者については、本件全証拠によっても、その後の有限会社関西創健の倒産と本件事故との間の相当因果関係を認めることはできない。そして、前者に関することは、本件に現れた一切の事情のうちの一つの要因として、前記慰謝料の金額を認定した。

5  小計

1ないし4の合計は、金三一〇万一七八五円である。

三  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金三〇万円とするのが相当である。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(付帯請求に関しては、原告の主張を忖度し、弁護士費用を除く内金に対する訴状送達の日の翌日からの分を認めることとする。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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