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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2258号 判決 1998年10月26日

兵庫県小野市来住町一〇一五番地の一

原告

株式会社ユーエム工業

右代表者代表取締役

宮脇卯一

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

松本司

岩坪哲

田辺保雄

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

右輔佐人弁理士

亀井弘勝

稲岡耕作

新潟県南蒲原郡下田村大字上大浦四七四番地

被告

バクマ工業株式会社

右代表者代表取締役

馬場幸一

右訴訟代理人弁護士

坂井煕一

斉木悦男

右輔佐人弁理士

近藤彰

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙被告物件目録記載(一)及び(二)の替え刃式折込鋸並びに同目録記載(三)の替え刃を製造し、販売してはならない。

2  被告は、その所有にかかる前項記載の鋸及び替え刃を廃棄せよ。

3  被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成八年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、大工工具、刃物の製造、販売等を業とする株式会社である。

2(一)  原告は、平成二年から、ゴムボーイ240mmの名称で、別紙原告物件目録記載(一)の替え刃式折込鋸(以下「原告鋸(一)」という。)を製造販売し、同目録記載(三)の替え刃(以下「原告替え刃(一)」という。)を製造販売している。

(二)  原告は、昭和六〇年から、ゴムボーイ210mmの名称で、替え刃式折込鋸を製造販売し、平成四年中ころ仕様変更し、同名称で別紙原告物件目録記載(二)の替え刃式折込鋸(以下「原告鋸(二)」という。また、「原告鋸(一)」と「原告鋸(二)」をあわせて「原告鋸」という。)を製造販売し、同目録記載(四)の替え刃(以下「原告替え刃(二)」という。また、「原告替え刃(一)」と「原告替え刃(二)」をあわせて「原告替え刃」といい、「原告鋸」と「原告替え刃」をあわせて「原告商品」という。)を製造販売している。

3  原告商品及びその容器の形状

(一) 原告鋸の形状

(1) 原告鋸の形

原告鋸の形状は次のとおりである(以下、鋸の形状は、全て、鋸の刃にあたる部分を右側にし、柄の背部分を上にして平面上に置いたものを垂直に上から見た場合を前提とする。)。

<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じである。

<2> 柄の部分をほぼ二対一に分割し、二の割合にあたる左側が黒色ゴム部分、一の割合にあたる右側が白色金属部分である。

<3> ゴム部分下方は緩やかにカーブしており、その上方の表面及び裏面に黒色突状斑点が施されている。

<4> 金属部分の右下側には刃と柄を結合する黒色ネジがある。

(2) 原告鋸の寸法

原告鋸(一)の寸法は、全長が五〇五ミリメートル、柄の長さが二六五ミリメートル、柄の幅が四〇ミリメートル(根元)・三〇ミリメートル(中央)・四〇ミリメートル(先端)、刃渡りが二四〇ミリメートル、刃の幅が三五ミリメートル(根元)・三〇ミリメートル(中央)・一五ミリメートル(先端)である。

原告鋸(二)の寸法は、全長が四四〇ミリメートル、柄の長さが二三ミリメートル、柄の幅が四〇ミリメートル(根元)・二八ミリメートル(中央)・三五ミリメートル(先端)、刃渡りが二一〇ミリメートル、刃の幅が三五ミリメートル(根元)・三〇ミリメートル(中央)・一五ミリメートル(先端)である。

(二) 容器の形状

(1) 容器の形

原告鋸の容器の形は次のとおりである。

<1> 容器はプラスチック製のトレイ、紙箱、透明なプラスチック製の外装ラップ及び吊り下げ用の短片からなっている。

<2> トレイは正面形状が縦長の長方形で、折り畳んだ状態の鋸をのせられるように凹凸が付けられている。

<3> トレイが入れられる紙箱は、正面形状がトレイと同様の縦長の長方形で、その正面側は、上端、下端及び中央部の斜め帯を残して切り取られており、トレイにのせられた鋸が正面側から見えるようにされている。

<4> 外装ラップは紙箱の上端面及び下端面を除く周囲を覆うもので、透明なプラスチック製のため、紙箱表面の記載や中に入れられた鋸を確認する妨げになることなく、縦長直方体状の容器の外形を形成している。

<5> 吊り下げ用短片は、紙箱の背面上端から上方へ突出しており、紙箱と一体となった紙及び外装ラップと一体になったプラスチック薄板の重なったもので、横長の短い短冊状をし、その中央部に、吊り下げ用の丸穴が形成されている。

(2) 容器の寸法

原告鋸の容器の寸法は、中に収用する鋸の寸法の違いにあわせており、原告鋸(一)の容器の寸法が、縦三一七ミリメートル、横七五ミリメートルであり、原告鋸(二)の容器の寸法が縦二三二ミリメートル、横六四ミリメートルである。

(三) 原告替え刃及び容器の形状

(1) 原告替え刃の形

原告替え刃の形は次のとおりである(以下、替え刃の形状は、全て、刃の背部分を上側にして平面上に置いたものを、垂直に上から見た場合を前提とする)。

<1> 根元部から先端へ向かって次第に刃幅が狭くなるように、背に緩やかな下り勾配がつけられており、その腹には根元部から先端まで鋸刃が形成されている。

<2> 根元部の下寄り位置には、柄の装着する際にネジが貫通される丸穴が形成されるとともに、根元部の上縁に係止用の切込溝が一つ形成されている。

(2) 原告替え刃の寸法

原告替え刃(一)の寸法は、刃の長さが二七〇ミリメートル、横幅の最長が四〇ミリメートルである。

原告替え刃(二)は、刃の長さが二四〇ミリメートル、横幅の最長が四〇ミリメートルである。

(3) 原告替え刃の容器の形状

原告替え刃(一)の容器は、縦三一八ミリメートル、横六三ミリメートルの紙板の上に刃より一回り大きいプラスチック紙を貼ったもので、その中間に替え刃を収用してある。

原告替え刃(二)の容器は、紙板の大きさが縦二八八ミリメートル、横六三ミリメートルである点を除いては、原告替え刃(一)の容器と同様のものである。

4  原告商品の商品表示性及び周知性

(一) 原告鋸及びその容器の形態は、以下のとおり、その形態が極めて特殊である。

(1) 従来の折込鋸のほとんどの商品の柄が、木製やプラスチック製で、その色合いも木の色やネズミ色のようなものであったから、原告鋸の柄を黒色ゴム部分と白色金属部分の二色にし、かつ、黒色ゴム部分に突起状の模様を付したものにしたことは、この種の商品については画期的で斬新なデザインであって、取引者又は需要者の注意を十分喚起するものである。

(2) また、原告鋸の容器は、中の商品を透視できるようにした点、商品説明を前面で行うことにした点、箱でありながら陳列用のフックに掛けて展示できるようにした点で、従来にない斬新なものである。

(二) 原告替え刃の形態は、前記3(三)(1)のとおりのもので、特徴的なものである。

(三) 鋸の日本全国の一年間の販売金額は約一〇〇億円(うち、原告の全製品がしめる販売シェアは約二五パーセント)であり、原告鋸の販売高は約一〇億円であって、原告鋸は全国の鋸の約一〇パーセントの販売シェアを占めており、原告鋸は、その形態のスマートさとユニークさ、その販売量、原告による宣伝広告の効果により、その商品形態自体が、原告の商品であることを示す商品表示として取引者または需要者の間において広く認識されている。

5  被告の不正競争行為

(一) 被告は、平成七年四月から、別紙被告物件目録記載(一)の替え刃式折込鋸(以下「被告鋸(一)」という。)、同目録記載(二)の替え刃式折込鋸(以下「被告鋸(二)」という。また、「被告鋸(一)」と「被告鋸(二)」をあわせて「被告鋸」という。)及び同目録記載(三)の替え刃(以下「被告替え刃」という。また、「被告鋸」と「被告替え刃」をあわせて「被告商品」という。)を、「ハンター」と称して製造販売している。

(二) 被告鋸(一)は、柄の黒色ゴム部分と金属部分との割合が〇・八五対〇・一五である点及び黒色ゴム部分に黒色突状縦線模様がある点を除いては、右3(一)(1)記載の原告鋸と同一の形をしており、寸法も原告鋸(一)と同じである。

(三) 被告鋸(二)は、柄の黒色ゴム部分と金属部分との割合が〇・八三対〇・一七である点及び黒色ゴム部分に黒色突状縦線模様がある点を除いては、右3(一)(1)記載の原告鋸と同一の形をしており、寸法も原告鋸(二)と同じである。

(四)(1) 被告鋸(一)の容器の形状の特徴は、紙箱の正面側の上左端及び下右端に三角形の切り残しが作られている点及び中央部の斜め帯が横方向に延びる部分と斜めに延びる部分からなる帯になっている点を除いて、原告鋸の容器の形状の特徴と同じである。

(2) 被告鋸(二)の容器の形状の特徴は、中央部の斜め帯を除去した点を除いて、原告鋸の容器の形状の特徴と同じである。

(3) 被告鋸の容器の寸法は、中に収用する鋸の寸法の違いにあわせており、被告鋸(一)の容器の寸法が、縦三一七ミリメートル、横七五ミリメートルであり、被告鋸(二)の容器の寸法が、縦二三二ミリメートル、横六四ミリメートルである。

(五)(1) 被告替え刃の形状の特徴は、柄に装着する際にネジが貫通される穴が、根元部の縁から切り込まれた切込穴になっている(斜め下に開放されている)点、根元部の上縁の係止用切込溝が二つ形成されている点を除いて、原告替え刃の形状の特徴と同じである。

(2) 被告替え刃の寸法は、刃の長さが縦二四〇ミリメートル、横幅四〇ミリメートルである。

その容器は、縦二八七ミリメートル、横六二ミリメートルの紙板の上に刃より一回り大きいプラスチック紙を貼ったもので、その中間に替え刃を収用してある。

(六) 右のとおり、被告商品及びその容器の形態は、細かい模様の部分にわずかの差異はあるものの、基本的には原告商品及びその容器と同一の形状をしており、取引者、需要者において被告商品を原告商品と混同することは明らかである。

なお、原告商品及び被告商品には、原告及び被告それぞれの商標が表示されているが、顧客は折込式鋸の形状に着目して購入を決意するのであるから、商標の表示は被告商品と原告商品との誤認混同を防止する重要な役割を果たしていないというべきである。

(七) 被告替え刃は、原告商品に使用できるよう製造されていることに照らせば、被告は、被告商品と原告商品との間の誤認混同が生じることを知りながら、被告商品を製造販売していることが明らかである。

6  原告の損害

被告の平成七年四月から平成八年三月末までの間の被告商品の売上金額は合計二億円であり、被告は、これにより、少なくとも二〇〇〇万円の利益を得たから、その利益額が原告の損害額と推定される。

7  まとめ

よって、原告は、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、被告に対し、被告商品の製造販売の差止め及び破棄を求めるとともに、同法四条、五条一項に基づき、被告に対し、二〇〇〇万円の損害賠償金及びこれに対する不正競争行為の日の後である平成八年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2のうち、原告が原告商品を製造販売している事実は認めるが、その余の事実は否認する。原告鋸の製造販売は平成五年以降である。

3(一)  請求原因3(一)(1)のうち、同<1>、<3>及び<4>の事実、同<2>のうち原告鋸の柄の左側ほぼ三分の二が黒色(ゴム状合成樹脂)である事実は認めるが、その余の事実は否認する。原告鋸の柄の右側ほぼ三分の一は金属による金属色あるいは銀色である。

同(2)のうち、原告鋸(一)の柄の先端の幅が四〇ミリメートルである事実、原告鋸(二)の柄の中央の幅が二八ミリメートル、刃渡りが二一〇ミリメートル、刃の先端部分の幅が一五ミリメートルであることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同(二)(1)の事実は認めるが、(2)の事実は否認する。原告鋸(一)の容器は正確には、縦三一七ミリメートル、横七四ミリメートルであり、原告鋸(二)の容器は、縦二八三ミリメートル、横六三ミリメートルである。

(三)  同(三)(1)の事実は認めるが、(2)、(3)の事実は否認する。。

原告替え刃(一)の長さは正確には、二七〇ミリメートル、最大巾は三七ミリメートルであり、その包装は、一方が縦三一八ミリメートル、横六三ミリメートルの厚紙で、他方は替え刃より一回り大きいプラスチックである。また、原告替え刃(二)の長さは正確には、二三七ミリメートル、最大巾が三六ミリメートルであり、その包装は一方が縦二八九ミリメートル、横六三ミリメートルの厚紙で、他方は替え刃より一回り大きいプラスチックである。

4(一)  同4(一)の事実は否認する。

(二)  同4(二)の事実中、原告替え刃の形態が原告主張のとおりであることは認めるが、それが特徴的なものであることは争う。

(三)  同4(三)の事実は否認する。

元来、商品の形態は、商品の実用性や審美性を高めることを目的とするものであって、自他の商品の識別を目的とするものではなく、例外的に商品の形態自体が商品表示性を獲得することがあるとしても、それは、極めて限定された場合に限られるというべきである。

折込式鋸において柄と刃の長さをほぼ同じにすることは、折り込んだ状態でできるだけ短く、開いた状態で刃の部分をできるだけ長くするという機能上当然要求される形態であり、柄の下部に緩やかなカーブがあることや柄の上部に斑点状突起物があることは、握り易さのための当然の形態であり(検甲8ないし22、乙9ないし16の各1、2)、柄と刃との結合部付近にネジを設けることは、折込鋸においては当然の構造であり(乙5ないし16の各1ないし4)、折込鋸の柄が異なる材質・色の部材で構成されることもありふれたことである。また、原告鋸の容器、原告替え刃及びその容器の形状も、この種の商品に一般的な形状であり、何ら特徴的なものではない。

要するに、原告商品の形態は、折込鋸として顕著な特徴がある独自な形態ではないから、それ自体で商品の出所識別機能を有する商品表示性を獲得するものではない。

5(一)  同5(一)の事実は認める。

(二)  同5(二)の事実は認める。ただし、被告鋸(一)の柄の黒色部分はゴム状の合成樹脂であり、黒色部分と金属部分との比率は〇・八六五対〇・一三五である。

(三)  同5(三)の事実は認める。ただし、被告鋸(一)の柄の黒色部分はゴム状の合成樹脂である。

(四)  同5(四)(1)(2)の事実は認め、同(3)の事実は否認する。。

被告鋸(一)の容器は、正確には、縦三一二ミリメートル、横六五ミリメートルであり、被告鋸(二)の容器は正確には、縦二八〇ミリメートル、横六四ミリメートルである。

(五)  同5(五)(1)の事実は認め、同(2)の事実は被告替え刃の容器の縦の長さが二八七ミリメートルであることは認め、その余は否認する。

被告替え刃は正確には、刃の長さが縦二三五ミリメートル、横幅の最大幅が三五ミリメートルである。その容器の横幅は六一ミリメートルである。

(六)  同5(六)は争う。原告鋸と被告鋸とには、(1) 柄における黒色部分と金属部分の長さの比率、(2) 柄における突起物の形状、(3) 柄の右側金属部分の形状(原告鋸にあっては台形状、被告鋸にあっては平行四辺形)及び大きさ(被告鋸の方が小さい。)、(4) 操作部上辺のプツシュボタンの形状(原告鋸にあっては、長さ二七ミリメートルの扁平半月形、被告鋸にあっては、長さ一二ミリメートルの長方形)、(5) 柄の金属部分及び刃の側面に表示された商標(原告鋸にあっては「GOMBOY」の文字、被告鋸にあっては「BAKUMA」「HUNTER」の文字)という相違があるため、商品の形態が類似しているとはいえない。

また、原告替え刃と被告替え刃とには、(1) ネジを貫通するための穴の形状(原告替え刃にあっては丸穴、被告替え刃にあっては根元部の斜め下方に向かって開放されている穴)、(2) 刃を柄と固定する係止用切込溝の数(原告替え刃にあっては一つ、被告替え刃にあっては二つ)という相違があるため、商品の形態が類似しているとはいえない。

なお、原告替え刃と被告替え刃とは、その形状及び構造の相違により、(1) 原告鋸は、替え刃を取り替えるとき、柄の前方下側のネジを柄から引き抜いた上、刃を柄から取り外し、新しい替え刃を柄に差し込んで改めてネジを柄と替え刃に差し込んで締めなければならないのに対し、被告鋸は、替え刃を取り替えるとき、右ネジを柄から引き抜くことなく、ネジを緩めるだけで刃を柄から取り外し、新しい替え刃を柄に差し込んでネジを締めるだけでよい、(2) 原告鋸は、係止用の切込溝が一つだけであるため、刃を開いて柄に固定した場合の刃と柄の角度が約一八〇度のみであるのに対し、被告鋸は、右切込溝が二つあるため、右角度が約一八〇度のほか、それより広い角度でも固定できる、という作用効果の相違がある。

要するに、原告商品と被告商品とは類似しないことは明らかであって、原告商品が原告の製造販売に係るものであることは、商品に付された「GOMBOY」「ゴムボーイ」という商標や「UM.KOGYO INC」という商号によって識別されるのであり、そのことは被告商品にあっても同様なのである。

6  同6は否認する。

7  同7は争う

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  原告が、原告鋸及び原告替え刃を製造販売し、原告鋸が、<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じである、<2> 柄の左側ほぼ三分の二がゴム(ゴム状合成樹脂)による黒色である、<3> 右黒色部分は下方においてややカーブをなし、その上方において表面及び裏面にわたって黒色の突状の斑点が施されている、<4> 金属部分の右下側に刃と柄を結合する黒色ネジがあるという形状であること、被告が平成七年四月から被告鋸及び被告替え刃を製造販売しており、被告鋸の形状が、<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じであること、<2> 柄の部分の後方がゴム状の合成樹脂による黒色であること、<3> 柄の黒色部分の下辺がややカーブをなしていること、<4> 金属部分の右下側に刃と柄を結合する黒色ネジがあることという各点で原告鋸と共通し、柄のゴム状の合成樹脂部分に黒色で突状の縦線模様が施されている点で、ゴム部分に黒色の突状斑点が施されている原告鋸と相違していることは、当事者間に争いがない。

二  また、原告鋸の容器の形(請求原因3(二)(1))及び原告替え刃の形(同3(三)(1))が原告主張のものであることは当事者間に争いがなく、証拠(検甲第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六、七号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告鋸の寸法(請求原因3(一)(2))、その容器の寸法(同3(二)(2))、原告替え刃の寸法及びその容器の形状(同(三)(2)、(3))は、おおむね原告主張のとおりのもの(ただし、原告鋸(一)の容器の縦は二八三ミリメートル、原告替え刃(一)及び(二)の各横幅の最長は三七ミリメートル、原告替え刃(二)の刃の長さは二三七ミリメートル)であることが認められる。

三  証拠(甲第一ないし第四〇号証、第四二ないし第四六号証、検甲第一ないし第二一号証、乙第一ないし第八号証、第一七ないし第二五号証、証人宮脇昌司)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  原告は、大工工具、刃物等の製造、販売を業とする株式会社であり、昭和五五年までに、柄が黒色の折込鋸(検甲第一四号証)を製造販売していたが、そのころには、他社の製造販売する折込鋸として、<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じで、<2> 柄の部分の後方を黒色、前方を金属色とし、<3> 柄の黒色部分の下辺が緩やかなカーブで、<4> 柄の金属部分の右下のビスで柄と刃とを結合するという形態の盆栽用鋸(乙第一八号証八四頁)が販売されていたし、柄が黒色でない物で右の各構成を備える折り込み鋸柄は多種類販売されていた。

2  原告は、遅くとも昭和五九年ころから、商品名等を記載し上部に吊り下げ用の穴をあけて折込鋸を固定した厚紙を、透明なプラスチック容器の中に収納する方式により、陳列台に吊り下げたまま、外から折込鋸の形状・色彩等が見える商品を開発していた。しかし、厚紙と透明プラスチックで形成された吊り下げ式容器に収納して工具類や小物家庭用品類を出荷・販売する方式は、右原告の開発前から広く行われており、その中には前面に商品の説明事項が見えるように工夫された厚紙を使用するものも存在していた。

3  原告は、昭和六一年ころから、「ゴムボーイ」の名称で、原告鋸(二)とよく似た折込鋸を製造販売していたが、それ以外にも、<1> 白色の柄に、その左側約五分の三位の範囲で太い縦線状の突起模様を設けた黒色滑り止め用ゴムカバーを付け、<2> 柄の下方が緩やかな湾曲する折込鋸を製造販売していた。

さらに、原告は、昭和六三年には、赤色プラスチック製の柄に、その左側約五分の四の範囲で黒色滑り止め用ゴムカバーを付けた折込鋸を製造販売していた。

4  原告は、平成二年から原告鋸(一)を製造販売し、平成五年から原告鋸(二)を製造販売したが、平成二年から平成六年の間には、他社が製造販売する折込式鋸として、「タジマはね丸210」なる商品が市場に出回っていたところ、その形状は、<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じである、<2> 柄の左側ほぼ四分の三が赤色プラスチック製で右側が金属色である、<3> 柄の下方に緩やかな湾曲がある、<4> 突起形状の滑り止めのゴムカバーが付けられている、<5> 柄の右下側に柄と刃の部分とをネジで結合する部分が形成されているというものである。

5  原告は、右各原告鋸の製造販売開始以降、原告鋸について、他の原告製品と共に宣伝用パンフレツトに掲載してこれを頒布し、平成二年から平成六年までの間日本刃物工具新聞(発行部数は約一万五〇〇〇部から約一万六五〇〇部)に、平成五年に家庭用品新聞(発行部数五万二五三〇部)に、平成六年に日経流通新聞に、それぞれ広告を掲載するなどして宣伝した。この間の原告の全商品についての宣伝広告総費用は、年間約三七〇〇万円から約七〇〇〇万円であった。

6  さらに、アルスコーポレーション株式会社は、平成六年九月一三日、折込鋸について意匠権登録のための出願をし、平成九年一月一〇日その意匠権登録がされたが、その折込式鋸の形状は、<1> 柄の部分と刃の部分の長さがほぼ同じである、<2> 柄を約二対一に分割し柄の左側約三分の二が黒色で、右側約三分の一が白色金属色である、<3> 柄の黒色部分は下方で緩やかに湾曲している、<4> 柄の表面及び裏面にわたって縦に滑り止め用の溝の模様が設けられている、<5> 柄の金属色の右下側にネジで柄と刃の部分とを結合しているというものである。

7  原告鋸には、柄の金属部分及び刃の側面に、原告の登録商標である「GOMBOY」という文字が表示されており、同様に、被告鋸には、被告の登録商標である「HUNTER」という文字が表示されている。

四  以上の事実が認められるところ、証人宮脇昌司は、平成九年度の原告商品全体の売上げは約二七億円で、そのうち原告鋸の売上げが約一〇億円であり、わが国の鋸全体の取引高の合計が約一〇〇億円である旨証言しているが、このことを裏付ける帳簿等の客観的資料が、原告にとって提出は容易であると思われるにもかかわらず提出されておらず、その証言だけから、そのような事実があるものと認定することはできない。

五  右認定事実に照らして、原告商品及びその容器の形態が、不正競争防止法二条一項一号の商品表示性を有するかどうかについて検討する。

1  ある商品が非常に特徴的な形態をしており、当該商品が長年特定の企業によって独占的に製造販売されていたり、短期間であっても非常に大がかりな宣伝がされるなどして、記号・文字・図柄による標章などが付されなくとも、当該商品の形態そのものが当該商品の出所を需要者に示すとみられる場合には、その商品形態そのものが不正競争防止法二条一項一号所定の商品表示となることが肯定される余地がある(したがって、この場合、商品表示性が認められれば、同条項の周知性も認められるのが通常である。)。

2  そこで、原告鋸及びその容器が右のような意味で商品表示性を獲得しているのかどうかについて検討するに、まず、原告鋸の容器と同様の厚紙と透明プラスチックで形成された吊り下げ式容器は、右認定のとおり、原告が原告鋸を含む原告商品を製造販売する以前から、原告に限らず広く使用されていたのであり、工具類についても右のような容器に収納して販売することが、他社が行わない原告に独自の斬新な販売方法であったとは認めがたい。

3  次に、原告は、従来の折込鋸のほとんどの商品の柄が、木製やプラスチック製で、その色合いも木の色やネズミ色のようなものであったから、原告鋸の柄を黒色ゴム部分と白色金属部分の二色にし、かつ、黒色ゴム部分に突起状の模様を付したものにしたことは、この種の商品については画期的で斬新なデザインであると主張する。

しかし、右認定のとおり、被告商品の製造販売が開始された平成七年の時点では、既に、原告鋸以外にも、柄の部分を金属製の部分とゴムないしプラスチック製の部分とで構成した様々な種類の折込式鋸が製造販売されていた事実や、柄の部分に滑り止めとして表面に溝を形成する等の模様を付したゴム状のカバー等が折込鋸で取り入れられていた事実が認められるのであり、原告鋸の商品としての形態が、折込鋸として非常に独創的で印象的なものとは到底認めがたい。

4  また、原告鋸(一)の製造販売が開始された平成二年ころから被告鋸の製造販売が開始されるまでの間は五年程度しかないし、その間、原告鋸に関する大がかりな宣伝活動が行われてこれが爆発的なヒツト商品となったという事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。

したがって、商標ではなく原告鋸の形態を見ただけで、このような形態の折込鋸を製造販売しているのが特定の企業しかないという、商品形態と商品の出所との結びつきが広く需要者に認識されていたと考えることはできない。

5  原告替え刃についても、原告がその形態的特徴と主張する、<1> 根元部から先端へ向かって次第に刃幅が狭くなるように、背に緩やかな下り勾配がつけられており、その腹には根元部から先端まで鋸刃が形成されている点、<2> 根元部の下寄り位置には、柄の装着する際にネジが貫通される丸穴が形成されている点は、原告替え刃の製造販売以前から製造販売されていた替え刃式折込鋸用の替え刃に多く見られたものであるし(検甲第八ないし第一九号証)、係止用切込溝と合わせて、その機能、形態に照らし、替え刃式折込鋸用の替え刃の機能からも導かれる一般的な形態であるといえる。

右の点に、前記2ないし4に説示したところを合わせ考慮すれば、原告替え刃についても、原告鋸と同様、原告替え刃の形態を見ただけで、これが原告の製造販売に係るものであるという、商品形態と商品の出所との結びつきが広く需要者に認識されていたと考えることはできない。

六  以上の次第で、原告商品及びその容器の形態が不正競争防止法二条一項一号の商品表示性を獲得したことは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 鳥飼晃嗣)

(別紙)

被告物件目録

(一) 被告の二四〇mmの替え刃式折込鋸

但し、添付写真<1>ないし<5>の製品

(二) 被告の二一〇mmの替え刃式折込鋸

但し、添付写真<6>ないし<10>の製品

(三) 被告の二一〇mmの替え刃

但し、添付写真<11>、<12>の製品

以上

原告物件目録

(一) 原告の二四〇mmの替え刃式折込鋸

但し、添付写真<13>ないし<17>の製品

(二) 原告の二一〇mmの替え刃式折込鋸

但し、添付写真<18>ないし<22>の製品

(三) 原告の二四〇mmの替え刃

但し、添付写真<23>、<24>の製品

(四) 原告の二一〇mmの替え刃

但し、添付写真<25>、<26>の製品

以上

<1>

<省略>

<2>

<省略>

<3>

<省略>

<4>

<省略>

<5>

<省略>

<6>

<省略>

<7>

<省略>

<8>

<省略>

<9>

<省略>

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自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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