神戸地方裁判所 平成8年(ワ)960号 判決 1997年6月25日
原告
藤原克明
ほか一名
被告
藤田友三
ほか一名
主文
一 被告らは各自原告らそれぞれに対し、金九三六万九六八七円及びこれに対する平成六年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは各自原告らそれぞれに対し、金一二九四万〇四〇四円及びこれに対する平成六年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により頭部打撲で死亡した訴外藤原麻美(以下「亡訴外人」という。)の両親である原告らが、被告藤田友三(以下「被告藤田」という。)及び被告川原清明(以下「被告川原」という。)に対して、自賠法三条、四条、民法七一九条に基づき、損害賠償を求める事案である。
なお、付帯請求は、本件事故の日である平成六年五月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成六年五月一五日午後九時三五分頃
(二) 場所 神戸市東灘区向洋町中五丁目一一先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車
(1) 訴外川原和也(以下「訴外川原」という。)運転の普通乗用自動車(神戸三三ふ九九四一、以下「川原車両」という。)
(2) 訴外藤田裕二(以下「訴外藤田」という。)運転の普通乗用自動車(大阪七七や四三一六、以下「藤田車両」という。)
(四) 事故態様
亡訴外人が同乗する訴外川原運転の川原車両が南進して本件交差点に進入したところ、西進して同交差点に進入した訴外藤田運転の藤田車両と出会い頭に衝突し、本件事故当日、亡訴外人が死亡した。
2 保有者
被告藤田は藤田車両の保有者であり、被告川原は川原車両の保有者である。
3 相続
原告らは、亡訴外人の両親であり、亡訴外人の本件事故による損害賠償請求権をそれぞれその二分の一の割合で相続した(甲二、弁論の全趣旨)。
二 争点
1 自賠法三条但書の免責の抗弁について
被告川原は、本件事故は、訴外藤田が対面信号の赤色表示を無視して本件交差点に進入したため発生したものであり、対面信号の青色表示に従い同交差点に進入した訴外川原には何ら過失がなく、川原車両には構造上の欠陥及び機能上の障害もなかつたから、運行供用者責任を負わない旨主張する。
2 好意同乗による減額について
(一) 被告ら
亡訴外人と訴外川原は双方の親も認める恋人同士であり、本件事故当日も、亡訴外人は、川原車両に同乗させてもらつて訴外川原とデートをし、自宅まで送り届けてもらう途中で本件事故にあつた。従つて、本件事故により亡訴外人の被つた損害については、被告川原につき、好意同乗として実質的公平の見地から民法七二二条二項の類推適用ないし信義則により減額がなされるべきである。
仮に訴外藤田に過失がある場合、藤田車両の運行供用者である被告藤田は、被告川原と連帯して本件事故により亡訴外人及び原告らが受けた損害を賠償する責任を負うところ、民法四三七条を類推適用して右減額の効果を被告藤田関係についても及ぼすべきである。
(二) 原告ら
好意同乗を理由とする減額は、被害者に非難すべき事情の存在することが必要であり、単に好意同乗を理由としては減額しないのが原則であるところ、本件においては被害者である亡訴外人には本件事故発生につき非難すべき事情が存在しないから、減額されるべきではない。
3 損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(乙A一、乙B一ないし三、証人川原、原告克明、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、二車線の南行一方通行道路と七車線の東西道路(三車線の東行道路と四車線の西行道路との間に中央分離帯が設置されている。)が交差する交差点である。
西進車と南進車の本件交差点への進入前後の互いの見通し状況は、中央分離帯上の橋脚のために相当悪いが、それでも南進していた訴外川原は、本件交差点に進入直後、西進して同交差点に進入しようとする藤田車両を左前方約四一メートルの地点で見通すことができる。
本件交差点に設置されている信号機の本件事故当時の一サイクルは九六秒であり、訴外川原進行の南北道路用の信号機は青色六一秒、黄色四秒、赤色一一二秒の順に、訴外藤田進行の東西道路用の信号機は青色二一秒、黄色四秒、赤色七一秒の順に表示が変わり、南北道路用の信号機が青色から黄色に変わつて七秒後に東西道路用の信号機が青色表示に変わる対応関係になつていた。
(二) 訴外川原は、本件事故直前、川原車両を運転し、制限速度時速六〇キロメートルのところ、時速六〇ないし七〇キロメートルの速度で南進し、本件交差点の少し前で対面信号機の表示が青色であることを確認し、同交差点の直前で時速四〇ないし五〇キロメートルの速度に減速し、中央分離帯の途切れた辺りで一八・三メートル左前方を西進して来る藤田車両を発見し、急制動をしたが、一〇・一メートル進行した地点で一二・四メートル進行した同車両と衝突した。その衝突箇所は川原車両の左側部と藤田車両の前部であつた。
その際、川原車両が青色表示から黄色表示に変わつた直後に本件交差点に進入したことを目撃した者がいた。
(三) 訴外藤田は、本件事故により、同事故前後の状況についての記憶を完全に喪失している。
(四) 訴外藤田及び訴外川原は、本件事故につき、いずれも不起訴処分となつた
2 右認定によると、訴外藤田が、本件事故当時、対面信号が何色表示で本件交差点に進入したか明確ではないが、訴外川原は、黄色表示に変わつて直後に同交差点に進入し、しかも同交差点を通過するまでの距離が長いから、特に前方左右の安全確認を十分にすべきところ、四一メートル左前方まで見通すことができるのに、一八・三メートル左前方に接近するまで藤田車両を発見できなかつたのであるから、前方左右の安全確認義務を怠つた過失があるというべきである。
従つて、その余の判断をするまでもなく、被告川原の免責の抗弁は理由がない。
3 よつて、被告らは、各自(連帯して)、本件事故による亡訴外人及び原告らが受け後記損害を賠償する責任がある。
二 争点2について
証拠(証人川原、原告克明本人、弁論の全趣旨)によると、亡訴外人と訴外川原は双方の親も認める恋人同士であり、本件事故当日も、亡訴外人は、川原車両に同乗させてもらつて訴外川原とデートをし、帰宅する途中で本件事故にあつたことが認められる。
ところで、無償同乗させてもらつた者が交通事故にあつた場合、同乗者に事故発生につき非難すべき事情が存する場合にはじめてその損害額の減額を考慮することができ、特段の事情のない限り、単に好意同乗の事実だけでは減額すべき法律上の根拠があるとはいえないから、減額すべきではないというべきである。
右認定によると、亡訴外人は、訴外川原に無償同乗させてもらつていたものであるが、同乗者である亡訴外人に本件事故発生につき非難すべき事情を認めることはできない。また、亡訴外人と訴外川原は双方の親も認める恋人同士であり、本件事故当日も、デート中であつたことは右認定のとおりであるが、好意同乗による減額を考慮すべき特段の事情があるとまではいえない。
従つて、被告らの好意同乗の主張は、採用できない。
三 争点3について
1 逸失利益(請求額・三八四六万七五〇九円) 三五七一万九三七四円
証拠(甲二、五、六、弁論の全趣旨)によると、亡訴外人は、本件事故当時、満二一歳の女性であり、兵庫トヨタ自動車株式会社に勤務し、平成五年五月から同六年四月までの一年間、二三三万五〇七二円(内賞与三二万円)を得ていたことが認められる。
右認定によると、亡訴外人は、本件事故がなければ六七歳に達するまでの四六年間、二三三万五〇七二円の収入を得られたものと推認でき、その生活費としては、独身の女性であることや当時の収入その他の諸般の事情を考慮のうえ右収入の三五パーセント程度を要するものとみるのが相当である。
そこで、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除し、亡訴外人の本件事故当時における逸失利益の現価を算定すると、次のとおり三五七一万九三七四円(円未満切捨)となる。
2,335,072×(1-0.35)×23.5337=35,719,374
2 慰謝料(請求額・二二〇〇万円) 一八〇〇万円
原告らが川原車両の搭乗者傷害保険金として合計一〇〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがないところ、右事情も慰謝料の一事由として斟酌すべきであること、その他本件事故の態様、結果、亡訴外人の年齢、職業及び家庭環境等本件に現れた一切の事情を考慮すると、亡訴外人の慰謝料としては一八〇〇万円が相当である。
3 相続
原告らは、亡訴外人の両親であり、亡訴外人の本件事故による損害賠償請求権をそれぞれその二分の一の割合で相続したことは前記のとおりである。すると、その後に原告らが被告らに対して請求できる損害合計額は、各二六八五万九六八七円となる。
4 葬儀費用(請求額・一二九万三三〇〇円) 各六〇万円
証拠(甲七、八、弁論の全趣旨)によると、原告らは、亡訴外人の葬儀を執り行ない、その費用として一二九万三三〇〇円を支出したことが認められる。
右認定に亡訴外人の年齢及び職業等を考慮し、一二〇万円を相当な葬儀費用とみることとする。従つて、原告らが被告らに対して請求できる葬儀費用は、各六〇万円となる。
5 損害の填補
原告らが、本件事故に関し、自賠責保険から合計三七八八万円(原告らにつき各一八九四万円)の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。
すると、その控除後に原告らが請求できる損害金額は、各八五一万九六八七円となる。
6 弁護士費用(請求額・合計二〇〇万円) 各八五万円
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては原告ら各八五万円とみるのが相当である。
第四結論
以上のとおり、原告の請求は、主文第一項の限度で理由があるからその範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)