神戸地方裁判所 平成8年(行ウ)17号 判決 1999年11月08日
原告
原巌(X)
右訴訟代理人弁護士
中北龍太郎
被告
姫路市(Y)
右代表者市長
堀川和洋
右訴訟代理人弁護士
有田尚徳
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第二 事案の概要
四 争点に関する当事者の主張
〔中略〕
(原告の主張)
土地の価値は交換価値のみによって決まるものではなく、権利者の利用目的によっては利用価値が重要性を有する場合もあり、農地については利用価値の面から照応しているかどうかを十分考慮しなければならない。そして、減歩率の割合が高い場合には設計の細部について考慮することが求められ、営農にとって耕作面積が減少することは最大の損失であることからすると、施行区域に占める農地の割合が大きいような場合には農地を集合化するなどの考慮が求められる。
原告は従前地を農地として利用し、今後も営農を続け仮換地についても農地として利用する意思がある。しかるに、本件仮換地指定は、減歩率が高率であるにもかかわらず、農地の集合化は図られておらず、それ以外にも何ら設計の細部に特別の便益が施されていない。
したがって、農地として高い減歩率に見合う利用増進がない以上、本件仮換地指定は照応の原則に違反している。
1 土地利用と照応の原則について
現実の土地は多様な目的・形態で利用され、その利用目的・形態によっては、交換価値ではなく、地積、環境、水利、土質、利用状況等利用価値が重要な意味を持つ。農業を営む者にとっては、土地が狭小になればそれだけ耕作面積が減少しその結果農作物の収穫量が少なくなるという不利益を被るのであって、交換価値が増大するからといって、永続して農業を営み土地を処分する意思を有しない者にとっては全く無意味である。土地が農地として利用され、仮換地においても営農を続ける場合には、農地として利用されている状況を踏まえ、面積、水利、土質、環境の面からも照応しているかどうか厳正に検討し、これら利用価値をも考慮に入れて照応の原則を判断すべきである。
被告の主張に従えば、実際の利用目的・形態を無視し、すべて宅地利用と仮定して評価することになるが、そのような画一的な評価方法は、現実の実態にそぐわず、実際上の不公平を惹起せしめる。
2 主観的事情について
法にいう「利用状況」とは、当然のことながら、主観・客観の両面から把握されるべきであって、その中には利用目的も包摂されている。被告は、「利用状況」とは客観的な現実の利用状況のみを意味すると主張するようであるが、仮換地指定段階では未だ仮換地を利用していないのであるから、どのように将来利用するかは権利者の主観的目的によって判断するしかない。
3 土地相互間の調整について
様々な利害を調整し、全体としての調和を図ることは、土地区画整理事業における通常の作業の範囲内に含まれる事項である。利用目的により実質的な利用増進が異なる以上、その差異に即応した減歩率を決定する方が実質的平等を充足することになるのであり、同一条件下で同一減歩率の場合において農地利用者が宅地利用者に比較して被る不利益を調整するため、農地について減歩率を緩和することは許容される。
「土地区画整理設計標準」(昭和八年七月二〇日発都第一五号各地方長官、各都市計画地方委員会長あて内務次官通達。昭和四一年三月三一日建設省発書第一二七号改正)第二の一イが「道路、水路、小公園及小学校ノ敷地ニ依ル民有地ノ減歩率ハ二五「パーセント」以内ヲ以テ目途トスルコト従テ民有地ノ減歩率ヲ過大ナラシムル事情アルモノニ付テハ特ニ設計ノ細部ニ付考慮スルコト」としているのは、減歩率が二五パーセント以上の場合には、仮換地に特別の便益が認められることが必要であることを定めたものであり、右条項は、照応の原則の適合性を判断する上で、大いに活用されなければならない。
4 農地の利用増進について
被告は、接道により大型機械の導入が可能となる便益がある旨主張するが、従前においても他人地を通行して所有地に入ることに何の問題もなかった。また、整形地か不整形地かによって作業効率に変化はないというのが農業の実態であって、不整形地が整形地になったからといって便益はない。しかも、水路が整備されても、農業の効率は従前と変わらず、また、従前用水の水質は保全されており、下水道とかんがい用水に区別しても、農業に具体的な利益をもたらすものではない。むしろ、地区の市街化のための環境整備は、隣地に建物が建築されると日照を妨害され、道路の夜間照明により営農上支障も生ずるというように、利益どころか、阻害要因を増大させるのである。
5 農地の集合化について
本件事業の規模は相当に大きく、付近の環境も一変することが予想されるから、営農者に対しその意向を調査した上、農地を集合化させることが必要であり、かつ可能であった。本件地区のように、水田を中心とした農地が施行区域の五七パーセント近くを占めているような土地利用状況の下では、農地としての利用を継続する意思のある所有者に対しては、照応の原則の適用・運用に当たって、農地としての特性に応じた考慮が求められ、農地を集合化して営農の便益を図ることが、高い減歩率による不利益をカバーするためにどうしても必要であり、照応の原則違反の有無を判断する重要な要素である。
第三 当裁判所の判断
一 本件事業における仮換地計画について
〔証拠略〕によれば、本件事業においては、本件地区について、市街化を前提とした宅地利用を想定し、画地について路線価式評価方法により評価し、従前地の評価総額に対する整理後の総評価価格の比を求め、その比を基準に換地をする比例評価式換地計算法により、従前地と整理地とが価格的に照応するようにし、かつ、現地換地を原則にして換地計画を定めて、仮換地指定をしたものであることが認められる。
二 農地への配慮について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、本件事業において、仮換地を定めるに当たり、照応の要素である利用状況についても照応するよう、整理前が農地であれば整理後も継続して農地として利用できるよう整備することとし、具体的には、農地利用する上で必要となる用排水を確保するため道路側溝・水路等を整備し、整理工事に着工する前に各権利者の意向を確認した上、農地として利用予定の換地については水口(用水の取水口)、落し口(排水口)、農地への農業機械の進入路等を整備し、併せて表土(耕作土)も一五センチ程度復元した。
(二) 本件各土地についても、これまで農作業車が入れなかったり、他人の土地を通ってしか行けなかった農地も、広幅員の道路に面するようになり、農作業車が横付け又は直接進入できるようになった。また、土水路、土畦畔等がコンクリート側溝、境界壁等に置き換えられ、さらには下水道とかんがい用水路とが分離された。
(三) 一方、原告は、従前地においても、近隣の農地所有者等との相互協力により、互いの土地を自由に通ることができた。また、畦は土であれば他の作物を植えることができたし、用水の水質も特に問題はなかった。
2 右1の(一)及び(二)の事実によれば、本件事業においても、本件各仮換地の農地利用に支障がないよう配慮されているものと認められる。原告は、同(三)の事実等から本件各仮換地に利用の便の増進はない旨主張するが、近隣農地が宅地化しても農作業車の進入等に支障がないなど、潜在的にせよ、利用の便の増進があるということができる。また、原告は、不整形地が整形地になったからといって便益はない旨主張するが、農作業の効率は整形地の方が不整形地より多少なりともよいと考えるのが自然である。
三 原告の営農状況について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は本件各従前地をおおむね農地として利用していた。
(二) 作っていたのは米が主で、作った米は、以前は半分ぐらい農協に出していたが、最近では自家用米だけとなっている。
(三) 原告は、平成三年までは農業所得を雑所得として所得税の申告をしていたが、平成四年には農業所得の申告をするほどの収穫はなく、同年以降は農業所得の申告はしていない。
(四) 原告は、大正四年生まれであるところ、今後も農業を続けていく意思を有しており、原告が農業をすることができなくなったときはその子供たちが農業を継続する予定である。
(五) 平成一〇年は、原告の子供が一年間東京に転勤となり、機械を使うことのできる者がいなくなったため、原告は耕作をしなかった。
2 右事実によると、原告は、本件各仮換地も従前地と同様農地として利用する予定であったということができるが、生活を農業収入に頼っているわけではなく、その営農規模はおおむね縮小傾向にあり、平成一〇年は耕作をしなかった状況にある。
四 照応の原則について
土地区画整理法九八条二項、八九条一項は、仮換地を定める場合においては、仮換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するよう配慮しなければならないという照応の原則を定めているところ、すべての条件が従前の土地に照応するように仮換地を定めることは、技術的にほとんど不可能であるから、照応の原則を定めた右規定の趣旨は、右の諸要素を総合的に勘案して、各仮換地が、従前地と大体同一の条件をもって、しかもすべての仮換地がおおむね公平に定められるべきものとするところにあると解すべきである。
これを本件についてみるに、前記争いのない事実によれば、本件地区は、従前地の農地の割合が五八・五パーセントを占める土地利用状況であるが、地区内に国道二号や同バイパスが通っており、鉄道貨物基地及び旅客新駅の設置が予定されている市街化区域であつて、現在も小規模な開発が進行しているというのであるから、本件事業により道路等が整備されれば、将来的には市街化が進み、農地についても宅地等として農地以外に利用されていくであろうことが予想される地域であり、いわゆる横の照応との関係でも、地区全体の市街化を想定して換地設計することに合理性がないとはいえない。
そして、前記一認定の事実によれば、被告は、本件事業において、市街化を前提とした宅地利用を想定し、画地について路線価式評価方法により評価し、従前地の評価総額に対する整理後の総評価価格の比を求め、その比を基準に換地をする比例評価式換地計算法により、現地換地を原則にして換地計画を定めたものであるというのであって、その結果、本件地区の仮換地は、客観的に将来の宅地利用にとって便益増進の度合いが高く、その土地利用の増進に比例して減歩率が高率になったものであると認められ、そして、前記二認定の事実によれば、用排水設備や進入路が整備されるなど、農地としても利用できるよう整備され、農地利用としても便益の増進があるというのである。
そうすると、本件各仮換地指定処分について、農地としての利用状況を考慮しても、減歩率が高いことのみをもって、社会通念上不照応であるとはいえない。
原告は、農地として高い減歩率に見合う利用増進がない以上、本件仮換地指定は照応の原則に違反する旨主張するが、市街化区域内にある農地は、宅地への転用も容易になし得ることからすると、通常の場合、客観的には、潜在的にせよ、土地区画整理事業によって宅地としての利用価値は大きくなっているものと評価することができるから、農地についての仮換地指定処分が照応の原則に違反するか否かを判断するに当たっても、右の諸点も含めて前記諸要素を総合的に勘案すべきであり、農地としての利用のみに着目して判断すべきものとは解されない。また、仮換地指定処分は、対物処分というべきものであり、土地の利用状況は、地権者の主観によらず、客観的に判断されるべきものであると考えられる。さらに、原告は、「土地区画整理設計標準」は減歩率が二五パーセント以上の場合には仮換地に特別の便益が認められることが必要であることを定めたものであり、右条項は照応の原則の適合性を判断する上で大いに活用されなければならない旨主張するが、〔証拠略〕によれば、右通達は、現状においては、実態として土地区画整理事業における設計標準として使用する必要はないものと扱われていることが認められ、右通達自体を照応の原則の適合性判断について重視すべきものではないと解される。さらに、本件地域は市街化区域に属し、そして、本件事業は、集合農地区を定めることができる特定土地区画整理事業ではなく、また、都市計画及び土地区画整理事業の事業計画決定に係る地元説明会及び縦覧手続の際に、農地を集合化して保全していく旨の意見は出ていないこと(〔証拠略〕)などの事情にかんがみると、被告が、本件事業において仮換地を定める際、農地を集合化しないからといって裁量の範囲を逸脱したということはできない。
五 個々の土地について
以上を前提に、本件各仮換地指定処分について検討する。なお、仮換地指定された本件各土地を含む原告所有土地一二筆の基準地積の合計は六一五三・八九平方メートルであり、仮換地一三筆の地積の合計は四四二二平方メートルであって、全体としてみれば、減歩率は二八・一パーセントである(弁論の全趣旨)。
1 別所字戌亥角九七番地(以下「従前地(1)」といい、対応する仮換地を「仮換地(1)」という。)について
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
(1) 従前地(1)の基準地積は五四五・二六平方メートル、仮換地(1)の地積は三〇三平方メートル、減歩率は四四・五パーセントである。
(2) 仮換地(1)は、その約二分の一が従前地(1)と重なる、ほぼ原位置にある。
(3) 進入路について、従前地(1)は、幅員〇・九メートル程度の水路の泥上げ敷にしか面しない土地であったところ、仮換地(1)は、北側で幅員一二・〇メートルの歩道付きの都市計画道路に間口一五メートルで、西側で幅員九・〇メートルの道路に間口二〇メートルで面する、いわゆる角地である。
(4) 従前地(1)の形状は不整形であったところ、仮換地(1)の形状は角切りはあるがほぼ長方形である。
(5) 本件事業により道路、公園等の公共施設及び上・下水道、都市ガスの供給処理施設が改善され、それに伴い環境等が良好となる。
(二) 〔証拠略〕によれば、従前地(1)は「こした」という、右田に先に水を入れなければ上の田に水を入れることができない慣習がある農地であり、他人の農地との相互協力の関係が深く、原告は、従前地(1)に農業機械等を入れるのに他人の土地を通ることができたことが認められる。
(三) 右(一)及び(二)によれば、四四・五パーセントという減歩率はかなりの高率であるが、都市計画道路に接する角地となるなど宅地としての利用の便の著しい増進が認められることからして、利用状況が農地としての利用であることを考慮しても、仮換地(1)は従前地(1)と大体同一の条件にあるということができる。
2 山ノ口一七四―一、同一七五、同一七八―一及び同一八四(以下、順に「従前地(2)」……「従前地(5)」といい、対応する仮換地を、順に「仮換地(2)」……「仮換地(5)」という。)について
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
(1) 従前地(2)ないし(5)の基準地積は、順に、一八八・四七平方メートル、四一八・五八平方メートル、四二五・六一平方メートル、三八五・五四平方メートルであり、その合計は一四一八・二平方メートルである。仮換地(2)ないし(5)(ただし、仮換地(5)は二筆の土地である。)の地積は、順に、一三八平方メートル、三三一平方メートル、三〇三平方メートル、七〇平方メートル及び二一〇平方メートルであり、その合計は一〇五二平方メートルである。
(2) 従前地(2)と(3)、従前地(4)と(5)はそれぞれ接しているが、従前地(2)と(4)の間には公共用地である水路がある。一方、仮換地(2)ないし(5)はすべて同一街区内に一団の土地として指定されている。
(3) 仮換地(2)及び(3)は、従前地(2)及び(3)に大部分が重なる、ほぼ原位置に定められている。
(4) 従前地(2)及び(3)は、東側で幅員約四メートルの道路に間口約四一メートルで面するところ、仮換地(2)は、東側で幅員六メートルの道路に間口二〇メートルで面し、北側で幅員一二メートルの歩道付道路に間口七メートルで面する、いわゆる角地であり、仮換地(3)は、東側で幅員六メートルの道路に間口二〇メートルで面し、南側で幅員六メートルの道路に間口一七メートルで面する、いわゆる角地である。
従前地(4)は、北側で幅員約八メートルの道路に高低差約二・五メートルないし四・〇メートルの段差を介して間口約三〇メートルで面するものであり、従前地(5)は、道路に直接面しないが、従前地(4)と東側で接するところ、仮換地(4)は、北側で幅員一二メートルの歩道付道路に間口一五メートルで面する土地であり、仮換地(5)は、北側で幅員一二メートルの歩道付道路に間口三・五メートルで面する土地と、南側で幅員六メートルの道路に間口一〇・五メートルで面する土地である。
(5) 従前地(2)及び(3)の形状はそれぞれ不整形であったところ、仮換地(2)及び(3)の形状はそれぞれ角切りはあるが、ほぼ長方形である。
従前地(4)及び(5)の形状はそれぞれ不整形であったところ、仮換地(4)及び(5)の形状はいずれも長方形である。
さらに、仮換地(2)ないし(5)は、原告所有地の別件仮換地である符号五九―一を含め一体として一街区すべてを占め、三方が道路の、角切りが二箇所あるほぼ長方形の土地である。
(6) 本件事業により公共施設、供給処理施設等が整備され、これに伴い環境等がよくなる。
(二) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 従前地(2)ないし(5)は、(5)、(4)、(2)、(3)の順でおおむねワの字型のような配置となっており、しかも前記のとおり従前地(4)と(2)の間に公共用地である水路があるが、仮換地(2)ないし(5)は、右のとおり、仮換地符号五九―一を含め、三方が道路の、角切りが二箇所あるほぼ長方形の土地である。
(2) 右別件仮換地符号五九―一は、いわゆる飛換地で、その地積は二九平方メートルである。
(三) 右(一)及び(二)によれば、従前地(2)ないし(5)全体と仮換地(2)ないし(5)全体を比べると、減歩率も二五・八パーセントであって、著しく高率というわけではなく、仮換地(2)ないし(5)全体は従前地(2)ないし(5)全体と大体同一の条件にあるということができる。
3 志ノ坪二七五―一(以下「従前地(6)」という。)、二七五―二(以下「従前地(7)」といい、従前地(6)及び(7)に対応する仮換地を「仮換地(6)(7)」という。)について
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
(1) 従前地(6)及び(7)の基準地積は、一八三〇・七七平方メートル、九〇・三二平方メートルで、合計一九二一・〇九平方メートルであり、仮換地(6)(7)の地積は一三四五平方メートルであって、減歩率は三〇パーセントである。
(2) 仮換地(6)(7)は、従前地(6)及び(7)の西約七〇メートルの位置にある。これは、従前地(6)及び(7)の位置に都市計画公園が計画決定されているため、物理的に原位置に仮換地を指定することができなかったためである。
(3) 進入路について、従前地(6)及び(7)は、幅員〇・九メートル程度の水路の泥上げ敷にしか面しない土地であったところ、仮換地(6)(7)は、東側で六メートルの道路に間口四七メートルで面し、南側で六メートルの歩行者専用道路に間口二八メートルで面する、いわゆる角地である。
(4) 従前地(6)及び(7)の形状は不整形であったところ、仮換地(6)(7)の形状は角切りはあるがほぼ長方形である。
(5) 本件事業により道路、公園等の公共施設及び上・下水道、都市ガス等の供給処理施設が改善され、それに伴い環境等が良好となる。
(二) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 従前地(6)及び(7)には関西電力株式会社のために有償で地役権が設定され、右各土地の上には高圧送電線が通っている。仮換地(6)(7)も右高圧送電線下にある。そのため、従前地(6)及び(7)並びに仮換地(6)(7)はいずれも居宅の敷地としての利用には適しない。
(2) 従前地(6)及び(7)は、町内では一番米の取れる土地であると噂する者がいるなど、他の土地と比べ、土質が良く、米の収穫もよかった。
(三) 右(一)及び(二)によれば、仮換地は、高圧送電線下で居宅の敷地としての利用には適しないなど、宅地転用後の利用も限定されており、本件土地の利用状況が農地利用であり、土質の良いところから飛換地されている事情は存するが、従前地も高圧送電線下にあり、仮換地は角地になるなど宅地としての利用の便の増進が認められるから、三〇パーセントの減歩率を考慮しても、仮換地(6)(7)は従前地(6)及び(7)全体と大体同一の条件にあるということができる。
4 曽根夫四四〇(以下「従前地(8)」といい、対応する仮換地を「仮換地(8)」という。)について
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
(1) 従前地(8)の基準地積は三〇一・八二平方メートル、仮換地(8)の地積は一九三平方メートル、減歩率は三六・一パーセントである。
(2) 仮換地(8)はその過半が従前地(8)と重なる、ほぼ原位置にある。
(3) 進入路について、従前地(8)は、幅員〇・九メートル程度の水路の泥土敷にしか面しない土地であったところ、仮換地(8)は、北側で幅員八・〇メートルの道路に間口七・五メートルで面する土地である。
(4) 従前地(8)の形状は不整形であったところ、仮換地(8)の形状は長方形に近い四辺形である。
(5) 本件事業により道路面公園等の公共施設及び上・下水道、都市ガスの供給処理施設が改善され、それに伴い環境等が良好となる。
(二) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 従前地(8)は南辺がやや傾斜したほぼ台形であり、仮換地(8)は、ほぼ長方形であるが、その南辺は従前地(8)の南辺とほぼ同じ位置にある。
(2) 仮換地(8)の東隣に原告所有地の別件仮換地である符号六八―四が指定されており、仮換地(8)と右別件仮換地とを一体としてみても長方形に近い形となっている。
(3) 右別件仮換地符号六八―四は、いわゆる飛換地で、その大部分が従前地(8)の中に包含される位置にあり、その地積は一〇八平方メートルである。
(三) 右(一)及び(二)によれば、仮換地(8)は、三六・一パーセントというかなり高い減歩率ではあるが、道路に面するなど宅地としての利用の便の増進が認められるだけでなく、仮換地(8)の東隣に飛換地された別件仮換地符号六八―四との一体的な利用が可能であって、従前地(8)とほぼ一致する位置で、従前地(8)とおおむね同じくらいの地積の土地が確保でき、そして、本件事業による原告所有土地全体の減歩率も考慮に入れれば、仮換地(8)の指定が照応の原則に反し違法であるとまでいうことはできない。
第四 結論
以上のとおり、本件各仮換地指定処分は照応の原則に反するものではないから、原告の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 大竹貴)
別表〔略〕