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神戸地方裁判所 平成8年(行ウ)18号 判決 1998年11月27日

原告

兵庫県職員労働組合県庁支部

右代表者支部長

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

野田底吾

豊川義明

西田雅年

城塚健之

被告

兵庫県地方労働委員会

右代表者会長

本田多賀雄

被告補助参加人

財団法人二一世紀ひょうご創造協会

右代表者理事長

計盛哲夫

右訴訟代理人弁護士

俵正市

寺内則雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、兵庫県地労委平成五年(不)第一一号不当労働行為救済申立事件について、平成八年一月三〇日付けでした申立却下決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告がした不当労働行為救済命令申立てについて、被告が、原告には申立適格がないことを理由にした却下決定に対し、原告がその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、兵庫県の職員で構成する、兵庫県人事委員会に登録された地方公務員法上の職員団体である兵庫県職員労働組合の、兵庫県庁職員で構成された支部機関である。

2  被告補助参加人は、兵庫県における新しい地域社会づくりについて、調査及び研究を行うとともに、その実践活動に参画し、もって県民福祉の向上に寄与することを目的として、新しい地域社会づくりに関する<1>方策の立案及び提言、<2>調査及び研究、<3>資料の収集及び提供、<4>事業の実施及び受託等の事業を行う公益法人である(<証拠略>)。

被告補助参加人は、兵庫県との職員の派遣に関する協定書(以下「本件協定書」という。)に基づき、兵庫県職員の派遣を受けてその業務を行わせている。平成四年六月当時、被告補助参加人の職員は四六名で、うち兵庫県から派遣された職員は三六名であり、そのうち二一名は原告に所属していた(以下、原告に所属する被告補助参加人職員を「本件派遣職員」という。)。本件派遣職員は、兵庫県職員としての身分を保有したまま、職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和三八年四月一日兵庫県条例第三三号)及び職務に専念する義務の特例に関する規則(昭和三九年七月一七日兵庫県人事委員会規則第一一号)に基づき、職員の職務に専念する義務を免除され、被告補助参加人に派遣されている。なお、被告補助参加人には、原告以外の職員団体又は労働組合に加入している職員はいない。

3(一)  本件派遣職員の勤務条件の決定権限は、本件協定書に基づき、個別の労働条件ごとに兵庫県と被告補助参加人の間で分配されているところ、本件協定書には、以下の内容の規定がある。

(1) 派遣職員の給料及び諸手当は、兵庫県の関係規程を適用し、兵庫県が支給する。ただし、時間外勤務手当については、被告補助参加人の関係規程を適用し、被告補助参加人が支給する(第三条)。

(2) 被告補助参加人職員の服務、勤務時間、休暇及び健康管理については、被告補助参加人の関係規程を適用する。ただし、派遣職員の健康診断(成人病検査及び胃集団検診を含む。)については、兵庫県が実施する(第六条)。

(3) この協定について、疑義が生じたとき及び改正の必要が生じたときは、兵庫県と被告補助参加人が協議して定める(第九条)。

4  被告補助参加人は、平成四年六月二五日、神戸東労働基準監督署による事情調査を受け、同年七月六日、節度ある時間外労働、三六協定の締結及び就業規則の届出を求める旨の是正勧告を受けた。

5  原告は、同年九月二日、被告補助参加人に対し、三六協定締結に関する申入れを文書で提出するとともに、口頭で団体交渉を申し入れたが、被告補助参加人は、同月七日、原告が三六協定締結の当事者適格を有しないとして、原告との団体交渉を拒否した。その後、被告補助参加人は、同年一二月二一日、本件派遣職員を除く従業員により選出された従業員代表を相手方として三六協定を締結し、右従業員代表の意見書を添付して、これを神戸東労働基準監督署に届け出た。

6  原告は、平成四年九月一日、被告に対し、被告補助参加人が原告との団体交渉を拒否したまま従業員代表者と三六協定を締結して届け出た行為が、原告の団体交渉権を侵害する不当労働行為であるとして、被告補助参加人が原告との団体交渉に応じることを求める救済申立てをした(兵庫県地労委平成五年(不)第一一号不当労働行為救済申立事件。以下「本件申立て」という。)。

7  被告は、平成八年一月三〇日、原告が労働組合法上の労働組合には当たらないから救済申立人適格を有しないとの理由で、本件申立てを却下する旨の決定(以下「本件決定」という。)を行った。

8  原告は、本件申立てを却下した本件決定は違法であるとして、その取消を求めて本件訴えを提起した。

二  争点

原告が、被告補助参加人に対する関係で、労働組合法上の労働組合として不当労働行為救済申立人適格を有するか。

三  争点に関する原告の主張

1  本件派遣職員の地位と職務について

(一) 地方公務員法五八条一項において、一般職の地方公務員に対して労働組合法の適用が排除されているのは、全体の奉仕者としての職務の公共性及び勤務条件条例主義等の地方公務員の地位の特殊性に基づくものである。

この点、被告補助参加人は、兵庫県の出資により設立されてはいるものの、法的には県とは独立した財団法人(いわゆる第三セクター)であるから、兵庫県の行政組織に属するものではなく、その職務に「全体の奉仕者」という公共性は認められない。

また、本件派遣職員の勤務条件の決定方式は本件協定書で定められているところ、右規定上、本件派遣職員の服務、勤務時間、休暇、健康管理及び時間外勤務手当については被告補助参加人の関係規定を適用し、時間外勤務手当は被告補助参加人が支給することになっており、条例主義の原則は適用されていないのだから、これらの労働条件については、本件派遣職員に地方公務員としての地位の特殊性はない。

(二) したがって、地方公務員法五八条一項の趣旨は、本件派遣職員にはあてはまらず、また、本件のように、第三セクターに派遣された職員の労働条件の決定方式については同法には規定されていない。したがって、本件派遣職員の労働条件に関しては、地方公務員法の適用対象外の事態であり、地方公務員法が直接適用されるわけではないと解すべきである。

2  混合組合との類似性について

本件派遣職員に地方公務員法五八条の適用が排除され、労働組合法が適用される結果、本件派遣職員の加入する原告は、いわゆる混合組合と同様の性質を有することになるのであるから、被告補助参加人との関係については労働組合法を適用すべきである。

すなわち、地方公務員法五八条が適用されず、労働組合法の適用がある一方で、地方公務員法上の職員団体に加入することができるとされている単純労務職員(以下「単労職員」という。)と一般職の地方公務員によって構成される職員団体(以下「混合組合」という。)については、単労職員の労働条件に関する限り、労働組合法上の労働組合として扱われるべきであると解されているのであるから、単労職員と同様に、労働組合法が適用される一方で一般職の地方公務員の身分をも有する本件派遣職員が加入する原告もまた、本件派遣職員の労働条件に関する限り、被告補助参加人との関係で労働組合法が適用されるべきである。

3  本件協定書によれば、本件派遣職員の労働時間については被告補助参加人が掌握しているのであるから、両者の間には従属労働関係が成立している。よって、この限りでは本件派遣職員と被告補助参加人の関係は、民間の集団的労働関係として、地方公務員法の対象とはならず、本件派遣職員の加入する原告が、労働時間についての処理権限を有する被告補助参加人に対して団体交渉を要求するのは当然のことである。

4  よって、原告には労働組合法が適用され、不当労働行為救済申立人適格を有するにもかかわらず、これを認めなかった本件決定は、判断を誤った違法なものであり、取り消されるべきである。

四  争点に関する被告及び被告補助参加人の主張

1  不当労働行為の救済申立人適格について

不当労働行為に係る救済申立人適格を有するのは、労働組合法二条及び五条二項の規定に適合する労働組合であるところ、原告は、兵庫県人事委員会に登録された地方公務員法上の職員団体である兵庫県職員労働組合の、兵庫県庁に職場を持つ者によって組織された支部であり、労働組合法上の労働組合でないことは明らかであるから、原告は、労働組合法二七条一項の規定に基づき、不当労働行為の救済申立てをする適格を有しない。

2  本件派遣職員の地位と職務について

(一) 被告補助参加人の業務は、県民福祉の向上に寄与することを目的としたものであり、民間研究団体の行う一般的な研究業務と違い、県の職務遂行と密接に関連した公共的色彩の強いものである。また、本件派遣職員の勤務条件は、実質的に見て県職員と全く同一の定めとなっており、乖離が生じないように運用実施されているのであるから、実質的には地方公務員法による条例主義の原則が適用されているといえる。

(二) よって、本件派遣職員につき、原告の主張する、地方公務員法五八条の対象外の事態が生じているとはいえないのであるから、同条の適用を除外する理由はない。

3  混合組合との類似性について

職員団体であり、労働組合でもあるという労働団体の存在を肯認するのはあまりにも便宜的であって、現行法の本来予想しないところであることに照らし、失当である。また、単労職員のような明文の定めのない一般職の地方公務員が、労働組合法の適用されない地方公務員法上の職員であると同時に労働組合法上の労働者であり、また、その職員が加入する地方公務員法上の職員団体が、同時に労働組合法上の労働組合であることは認められない。

なお、本件派遣職員の労働条件について、県職員との乖離があると認める場合には、原告が、派遣元である兵庫県に対し、本件協定書の趣旨に則り被告補助参加人に対して協議を求め、改善策を実施するよう交渉を申し入れることができるのであるから、原告と被告補助参加人の間で団体交渉ができなくとも、本件派遣職員に不利益は生じない。

4  よって、原告は労働組合法上の労働組合ではなく、不当労働行為救済を申し立てる資格を有しないのであるから、被告が原告の不当労働行為救済申立てを却下した本件決定に違法な点はなく、原告の請求には理由がない。

第三争点に対する判断

一  被告補助参加人の業務内容について

証拠(<証拠・人証略>)によれば、被告補助参加人の事業は、大別して、地域政策研究事業、地域情報サービス事業、二一世紀学会支援、兵庫県シンクタンク等協議会支援の四つであり、地域政策研究事業には、自主研究、民間団体との共同研究並びに兵庫県及び県下の市、町からの受託研究があること、被告補助参加人の平成八年度における事業費支出は一億九四二七万六七一二円で、そのうち地域政策研究事業費は一億七三二四万六〇一八円、民間団体との研究費は六〇一万二七八〇円(地域政策研究事業費中約三・四七パーセント)であることを認めることができ、右事実によれば、被告補助参加人の主たる業務は公共団体からの受託業務等の公益性の強い事業であると窺われる。

しかし、右各証拠によれば、被告補助参加人は、兵庫県の出資により設立されてはいるものの、法的には県とは独立した財団法人(いわゆる第三セクター)であり、兵庫県の行政組織には属しておらず、その業務内容は、地域政策研究等の研究業務を中心とするものであって行政的作用を伴わず、業務遂行につき兵庫県から指揮、命令を受けることもないことを認めることができるから、被告補助参加人の業務内容に公益性が認められるからといって、実質的に兵庫県の業務と同一視できるとはいえない。

二  被告補助参加人における本件派遣職員の性格について

1  労働組合法三条は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活している者」を労働者として規定しているところ、一般職の地方公務員も本来右定義には該当し、ただ、その職務の公共性及び勤務条件が条例により定められるという地位の特殊性に鑑み、地方公務員法五八条の規定により労働組合法の適用が一般的に除外されているものである。

そうすると、右の地方公務員としての地位の特殊性の存しない労働関係においては、地方公務員法五八条は適用されないと解するのが相当である。

2  本件派遣職員が被告補助参加人において従事する業務は、前記認定のとおり、公益的色彩の強いものとはいえ、兵庫県の業務と実質的に同視できるほどの性質のものではない。また、本件派遣職員の勤務条件中、本件で問題となっている勤務時間及び時間外勤務手当については、被告補助参加人が決定することとされているのであって、条例主義は適用されていない。

この点につき、被告及び被告補助参加人は、被告補助参加人が決定する勤務条件についても、実質上県職員と本件派遣職員との間で勤務条件に乖離が生じないように運用されているから、条例主義の適用が排除されているわけではない旨主張する。

しかしながら、地方公務員の地位の特殊性は、地方公務員の勤務条件が条例で定められることを根拠にするものであるから、本件派遣職員の勤務条件が県職員と実質的に同程度であるとしても、これをもって本件派遣職員に条例主義の適用が排除されていないと解することは相当でない。

3  したがって、本件派遣職員は、被告補助参加人における勤務時間及び時間外勤務手当に関しては、地方公務員法五八条の規定の適用はなく、派遣先である被告補助参加人における労使関係について労働組合法上の労働者に当たるものと解するのが相当である。

三  原告の救済申立適格について

前項のとおり、被告補助参加人における勤務時間、時間外勤務手当に関して、本件派遣職員は労働組合法上の労働者に当たると解されるが、そのことから直ちに本件派遣職員の加入する原告が労働組合法上の労働組合に当たるといえるわけではない。その理由は以下のとおりである。

1  地方公務員法上の職員団体は、地方公共団体との交渉を通じて職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とする団体であり、地方公務員法五二条を根拠とするものであるから、職員団体が、地方公共団体以外の団体の職員の勤務条件について、労働組合法の適用される職員が加入していることの一事をもって、明文の定めもなく当然に、地方公共団体以外の団体と団体交渉を行うことができると解することは、地方公務員法及び労働組合法の予定しないところであり相当でない。

このように解したとしても、前記のとおり、派遣職員には、派遣先である団体での勤務条件の関係において労働組合法の適用があるから、派遣職員が派遣先の労働組合に加入し、あるいは派遣先において新たに労働組合を結成して、右勤務条件について団体交渉を行うことができるのであり、憲法二八条の保障する勤労者の団結権を実質的に剥奪することにはならない。

2  また、混合組合に単労職員の労働条件に関する限りで労働組合法上の労働組合性を認めるべきとする見解(いわゆる混合組合の理論)は、単労職員の人数が地方公務員の中で比較的少なく、また、職場が各所に点在していることが多く、単労職員だけで労働組合を結成することが事実上困難で、その団結力も十分ではないことを理由の一つにしているが、第三セクターに派遣された一般職の地方公務員が一般的にそのような状況にあると認めるに足りる証拠はなく、また、前記のとおり本件派遣職員は被告補助参加人の従業員中半数近くを占め、労働組合を結成することが事実上困難であるともいえないことを考えると、職員団体に労働組合法上の労働組合性を肯定する必要性の面でも、本件の場合と単労職員の場合とでは大きな差異があり、原告の主張する混合組合の理論を本件で採用することはできない。

3  原告の副支部長である証人四方田は、陳述書(<証拠略>)及び証人尋問において、被告補助参加人が本件派遣職員の組合結成を妨害すること、本件派遣職員は三年程度で兵庫県庁に復帰すること及び本件派遣職員は派遣期間中も原告を脱退するわけではなく、原告と別個の組合を結成し、二重に加入することの負担が大きいことを理由に、被告補助参加人において労働組合を結成することは事実上不可能である旨供述している。しかし、被告補助参加人が本件派遣職員の組合結成を妨害をしたとの事実は本件証拠上認められず、仮に被告補助参加人がかかる行為を行った場合、本件派遣職員が、労働組合法上の不当労働行為の救済を申し立てる資格を有することは前記のとおりであり、その他の点も、前記結論を左右するものではないというほかない。

四  結論

以上のとおり、原告が、被告補助参加人との関係において労働組合法上の労働組合に該当するとは直ちにいえず、ほかにそのように解すべき根拠も見当たらない以上、原告は、同法上の不当労働行為救済を申し立てる資格を有せず、原告の不当労働行為救済申立てを却下した本件処分に違法な点はなく、原告の請求には理由がない。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年七月一七日)

(裁判長裁判官 森本翅充 裁判官 徳田園恵 裁判官 坂本好司)

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