神戸地方裁判所 平成9年(ワ)106号 判決 1997年11月19日
原告
伯野博
ほか二名
被告
竹内宏行
ほか一名
主文
一 被告らは、連帯して、原告伯野博に対し金五三八万九七〇四円、原告伯野由樹及び原告伯野茂雄に対し各金二六九万四八五二円並びに右各金員に対する平成六年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、連帯して、原告伯野博(以下「原告博」という。)に対し一九五〇万九三八六円、原告伯野由樹(以下「原告由樹」という。)及び原告伯野茂雄(以下「原告茂雄」という。)に対し各九七五万四六九三円並びに右各金員に対する平成六年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外伯野京子(以下「京子」という。)の夫である原告博及び子である原告由樹及び原告茂雄が、被告竹内宏行(以下「被告竹内」という。)に対しては民法七〇九条により、被告合資会社赤川銘板製作所(以下「被告会社」という。)に対しては自賠法三条により、それぞれ損害賠償を求めた事案である。
なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成六年六月五日午前一時四五分頃
(二) 場所 神戸市中央区割塚町七丁目二番九号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車 普通乗用自動車(車両番号・神戸三三ま六一八九)
右運転者 被告竹内
右所有者 被告会社
(四) 被害車 原動機付自転車(車両番号・神戸中え四七三六)
(五) 態様 本件交差点を東から北へ右折しようとしていた被害車と西から東へ直進中の加害車が衝突した。
(六) 結果 京子は、脳挫傷により、前同日午後二時三分に死亡した。
2 被告らの責任
(一) 被告竹内
被告竹内は、前方注視して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、十分には前方注視しないで加害車を進行させた過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により後記損害を賠償する責任がある(甲五ないし二〇、被告竹内)。
(二) 被告会社
被告会社は、加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により後記損害を賠償する責任がある。
3 身分関係及び相続
原告博は京子の夫で、原告由樹及原告茂雄は京子の子である。
二 争点
1 過失相殺
2 損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲六ないし二〇、二二、原告博、被告竹内、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、片側四車線の東西道路(山手幹線)と片側一車線の南北道路とが交差しており、信号機により交通整理が行われていた。東西道路の最高速度は時速五〇キロメートルであった。東西道路の西行車線の歩道(本件交差点の少し東)上に原動機付自転車に対する二段階右折の標識が設置され、同交差点内にそのための右折枠もあった。同交差点付近には、街灯が設置されており、夜間でもかなり明るく、同交差点上の単車及び運転者を五四・五メートル西の東西道路上から確認することができた。東西道路の中央分離帯上に樹木、植え込みがあるため、直進車と右折車との見通しは悪かった。
(二) 京子は、自己の経営するスナックの仕事を終えて帰宅するため、被害車を運転し、無灯火のまま、東西道路を西進し、二段階右折の規制に違反して本件交差点を右折し、中央分離帯を少し越え、北向きの状態で停止し、三、四秒後に加害車に衝突され、跳ね飛ばされた。本件事故後、京子のヘルメットは、同人の約三メートル東に転がっていた。
(三) 被告竹内は、元勤務先のOB会に参加して飲食し、午後七時頃から午前一時頃までの間にビール中瓶二、三本、冷酒一合、水割二、三杯程度を飲酒した。同被告は、帰宅するため、加害車を運転し、東西道路を東進し、本件交差点の約六〇メートル前方で同交差点の対面信号機の表示が青色であることを確認し、そのまま中央分離帯に近い第四車線を時速七〇キロメートルの速度で東進し、京子に約二二・八メートルに接近して始めて同人を発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、自車前部を被害車左側面に衝突させた。同被告は、飲酒して本件事故を起こしたため、驚愕し、救護義務等を尽くさず、そのまま自宅に帰った。
2 右認定によると、京子は、本件事故当時、原動機付自転車を運転していたが、無灯火で二段階右折の規制に反して右折をし、東西道路に少し進入して停止したため、直進車である加害車の進行を妨げたものであるから、京子の過失は相当大きいといわざるをえない。京子のヘルメットが、本件事故後、近くに転がっていたことは前記のとおりであるが、同人のその着用が不適切であったことを認めるに足りる証拠はない。
他方、被告竹内は、対面信号が青色表示を確認して直進し、中央分離帯の樹木等のため、京子が西進し、右折して来るのを発見しにくかったが、相当飲酒のうえ、制限速度を二〇キロメートル程度超過し、五四・五メートル程度手前で発見可能であるのに二二・八メートル手前で被害車を発見したのであるから、その過失は大きいというべきである。
そこで、その他本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、京子と被告竹内の過失を対比すると、京子の過失が三割、被告竹内の過失を七割とみるのが相当である。
二 争点2について
1 治療費(請求及び認容額・二四八万〇〇二〇円)
証拠(甲二、弁論の全趣旨)によると、京子は、本件事故により、治療を受けたが及ばず死亡したものであるが、その治療費として二四八万〇〇二〇円を要したことが認められる。
2 葬儀費用(請求額・一三〇万円) 一二〇万円
証拠(原告博、弁論の全趣旨)によると、京子の死後、同人の葬儀が執り行われ、相当の費用を要したことが認められる。
右認定に京子の年齢、職業等を考慮すると、その葬儀費用は一二〇万円とみるのが相当である。
3 逸失利益(請求額・三四七一万六七一三円) 三四七一万六二二一円
証拠(甲一九、原告博、弁論の全趣旨)によると、京子は、本件事故当時、四六歳の女性であり、昼間は主婦として家事をし、夕方から深夜にかけてスナックの経営者として働き、相当の収入を得ていたことが認められる。
右認定によると、京子は、本件事故がなければ、四六歳から六七歳に達するまでの間、賃金センサス平成六年女子労働者学歴計四五歳ないし四九歳の年間給与額三五一万六四〇〇円程度の収入を得られたものと推認でき、その生活費としては三〇パーセント程度を要するものとみるのが相当である。
そこで、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除し、京子の本件事故当時における逸失利益の現価を算定すると、次のとおり三四七一万六二二一円となる(円未満切捨、以下同)。
3,516,400×0.7×14.1038=34,716,221
4 慰謝料(請求額・三〇〇〇万円) 二二〇〇万円
本件事故の態様、結果、京子の年齢及び家庭環境等本件に現れた一切の事情を考慮すると、同人の精神的苦痛に対する慰謝料としては二二〇〇万円が相当である(原告らが、京子の慰謝料として請求するのか、原告ら固有の慰謝料として請求するのか明確ではないが、前者とみることとする。)。
5 小計 六〇三九万六二四一円
6 過失相殺
京子の損害額につき三割の過失相殺がなされるべきであることは前記認定のとおりであるから、その後に京子の請求できる損害額は四二二七万七三六八円となる。
7 損害の填補
京子の右損害に対し、自賠責保険から三〇〇〇万円、被告らから治療費として二四七万七九六〇円の支払がなされたことは、当事者間に争いがない。なお、被告らは、原告らに対し、香典として一〇万円、診断書代として六一八〇円を支払ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠がないうえ、右香典については社会通念上原告らを慰謝するために贈与されたというべきであるから、損害の填補とみることはできない。
すると、その控除後に京子の請求できる損害額は九七九万九四〇八円となる。
8 弁護士費用(請求額・三〇〇万円) 九八万円
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、九八万円とみるのが相当である。
9 相続
原告博が京子の夫であり、原告由樹及び原告茂雄が京子の子であることは前記のとおりであるから、京子の右損害賠償請求権につき、原告博がその二分の一、原告由樹及び原告茂雄が各四分の一の割合で相続することになる。
従って、被告らに対して請求できる損害額は、原告博が五三八万九七〇四円、原告由樹及び原告茂雄が各二六九万四八五二円となる。
第四結論
以上のとおり、原告らの請求は、主文第一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)