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神戸地方裁判所 平成9年(ワ)1950号 判決 1998年8月14日

原告(反訴被告)

岸田真造

被告(反訴原告)

和田文子

主文

一  被告は、原告に対し、金四一万九二五〇円及びうち金三八万九二五〇円に対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告に対し、金九万八六七三円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告及び被告のその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告は、原告に対し、金九五万四七〇〇円及びうち金八五万四七〇〇円に対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は、被告に対し、金四三万四六九五円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)によりいずれも物損を被った原告及び被告が、それぞれ相手方に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、いずれも、本件事故の発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である(原告の付帯請求は弁護士費用を除く内金に対するものである。)。

二  争いのない事実

次の交通事故が発生したことは当事者間に争いがない。

1  発生日時

平成九年六月一六日午後七時五五分ころ

2  発生場所

神戸市東灘区西岡本三丁目二〇番一号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

3  争いのない範囲の事故態様

原告は、普通乗用自動車(神戸三三ね七六六三。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から東へ直進しようとしていた。

他方、被告は、普通乗用自動車(神戸三四ね二四六四。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を東から北へ右折しようとしていた。

そして、本件交差点内で、原告車両の右前部と被告車両の左前部とが衝突した。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様並びに原告及び被告の過失の有無、過失相殺の要否、程度

2  原告及び被告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告

本件交差点を構成する東西道路のうち、原告車両が走行していた東行き車線は、直進用車両二車線、右折用車両一車線から成っている。

原告は、原告車両を運転し、本件交差点を西から東に直進するために、東行き車線の路端側車線を走行していた。そして、本件交差点の青色信号にしたがって、本件交差点を通過しようとしたところ、突然、被告車両が東から北に右折するために本件交差点内の原告車両の進路前方に進入してきた。

そこで、原告は、自車に急制動及び左転把の措置を講じたが及ばず、本件交差点内の北端に近い地点で、原告車両の右前部と被告車両の左前部とが衝突した。

よって、本件事故は、車両を運転して交差点を右折する際の被告の注意義務違反によって発生したものである。

2  被告

本件事故の直前、被告は、被告車両を運転し、本件交差点を東から北に右折するために、本件交差点中央部で被告車両を停止させていた。

他方、原告車両は、東行き車線の中央側車線を最高速度を上回る速度で直進してきて、そのまま、停止していた被告車両に衝突した。なお、原告車両は、被告車両との衝突後、本件交差点の北東角の歩道に乗り上げて停止しており、原告には、不適切なハンドル操作をした過失もある。

よって、本件事故は、速度超過及び不適切なハンドル操作をした原告の一方的な過失により発生したものである。

なお、仮に、被告に何らかの過失があるとしても、原告にも右のような過失があるから、被告は、相応な割合による過失相殺を主張する。

五  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年七月九日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第二号証の二、第四、第五号証、乙第一号証の一ないし一九、第二号証の一、第三号証の一ないし二一、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、住吉川に架かる水道橋の東詰めに位置する交差点である。

本件交差点を構成する東西道路は、水道橋の中央部を頂点として、そこから東側、西側の双方への下り坂となっているため、東西方向の見通しはやや悪い。そして、本件交差点の西側では、東行き車線が三車線(うち一車線は右折車両の専用車線)、西行き車線が二車線であり、東行き車線、西行き車線のそれぞれの外側に路側帯が設けられている。また、本件交差点の東側では、東行き車線が二車線、西行き車線が三車線(うち一車線は右折車両の専用車線)であり、東行き車線と西行き車線との間に中央分離帯が設けられている。また、これらとは別に、歩道が設けられており、車道部分の幅員は合計約一五メートルである。なお、東西道路の最高速度は五〇キロメートル毎時と指定されている。

本件交差点を構成する南北道路は、片側一車線、両側合計二車線の道路であり、幅員合計約八メートルで、これとは別に、東側に歩道が設けられている。

(二) 原告は、原告車両を運転し、本件交差点を西から東に直進するために、東行き車線の路端側車線を、時速五〇ないし六〇キロメートルで走行していた。そして、本件交差点の青色信号にしたがって、本件交差点を通過しようとしたところ、突然、被告車両が東から北に右折するために本件交差点内の原告車両の進路前方に進入してきた。なお、この時点における原告車両と被告車両との距離は、一〇ないし一五メートルであった。

そこで、原告は、自車に急制動及び左転把の措置を講じたが及ばず、本件交差点内の北端に近い地点で、原告車両の右前部と被告車両の左前部とが衝突した。

2  右認定に反し、被告は、本件交差点の中央部で停止していた被告車両に原告車両が衝突してきた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はまったくない。

また、被告は、原告には、速度超過及び不適切なハンドル操作をした過失がある旨主張するが、速度超過の点は右に判示した限度においてのみ認められ、これを超えて認めるに足りる証拠はなく、不適切なハンドル操作の点を認めるに足りる証拠はない。

3  車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない(道路交通法三七条)。

そして、右認定の本件事故の事故態様によると、被告には右注意義務に違反した過失があることは明らかであり、本件事故の主な原因は、被告の右過失にあるというべきである。

しかし、他方、車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(同法三六条四項)のであって、右認定の本件交差点の見通し状況、原告車両の速度に照らすと、本件事故に関し、原告にも右注意義務に違反した過失があるというべきである。

そして、右認定の本件事故態様に照らすと、本件事故に対する過失の割合を、原告が二五パーセント、被告が七五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(損害額)

1  原告に生じた損害額(本訴)

(一) 損害

(1) 修理費用 金五一万九〇〇〇円(請求額も同額)

甲第二号証の一ないし三によると、原告車両には、本件事故により、修理費用金五一万九〇〇〇円を要する損傷が生じたことが認められる。

なお、被告は、右修理費用は原告車両の時価額を上回る旨主張する。

しかし、甲第二号証の一、原告本人尋問の結果によると、原告車両は、一九七八年式のポルシェ九一一SCと呼ばれる形式の車両であること、右年代、右形式のポルシェは一定の人気のある車両であること、原告は、平成六年ころ、原告車両を金四〇〇万円で購入したことが認められ、これらによると、右修理費用が原告車両の時価額を下回ることを優に認めることができる。

したがって、右金五一万九〇〇〇円の修理費用は、本件事故による損害というべきである。

(2) 車両評価損 認めない(請求額は金一五万五七〇〇円)

交通事故で車両が損傷を受けた場合、右損傷を修理してもなお価格の減少がある場合には評価損が認められうるところ、これは、単に当該車両に事故歴があるというだけでは足らず、修理技術上の限界から、当該車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことが立証されてはじめて、これを認めるのが相当であると解される。

ところで、本件においては、前記のとおり、原告車両は、一九七八年式のポルシェであるところ、甲第二号証の三によると、原告車両の損傷に対しては、多くが部品の交換によって対処されたことが認められる。

そして、これらの事実と、客観的に、原告車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことを認めるに足りる証拠がまったく存在しないこととを総合すると、原告車両の修理の後に、なお、評価損が生じたとまでは認められない。

したがって、原告の主張する評価損を認めることはできない。

(3) 代車料 認めない(請求額は金一八万円)

原告本人尋問の結果によると、原告車両は、本件事故前には、原告の通勤用に使われていたわけではなく、原告が休日に使用し、また、原告の妻が稽古事やボランティア活動に行くために日常的に使用していたことが認められる。

ところで、代車料は、事故により車両が使用不能になった場合に、代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に使用したときに、相当性の範囲内で認められるべきものである。

そして、右認定事実によると、原告車両の修理期間中、代替車両を使用する必要があったとまではいまだ認められず、かつ、代替車両を現実に使用したことを認めるに足りる証拠はない。なお、原告本人尋問の中には、原告車両の修理期間中、タクシーを使用しており、これに一日平均金六〇〇〇円程度の費用を要したとの部分があるが、その内容自体直ちに信用することができず、しかも、仮にこれが事実であるとしても、右認定の原告車両の本件事故前の使用状況に照らすと、一日平均金六〇〇〇円のタクシーの使用が相当性の範囲内であるとは到底解されない。

したがって、原告の主張する代車料を認めることはできない。

(4) 小計

よって、本件事故による原告の損害は、修理費用金五一万九〇〇〇円とするのが相当である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告の過失の割合を二五パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金三八万九二五〇円となる。

計算式 519,000×(1-0.25)=389,250

(三) 弁護士費用 金三万円(請求額は金一〇万円)

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金三万円とするのが相当である。

なお、右金額の算定にあたっては、後記のとおり、被告の弁護士費用を損害としては認めないことをも考慮した。

2  被告に生じた損害額(反訴)

(一) 修理費用 金三九万四六九五円(請求額も同額)

乙第二号証の一、二によると、被告車両には、本件事故により、修理費用金三九万四六九五円を要する損傷が生じたことが認められ、右金額は、本件事故による損害というべきである。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する被告の過失の割合を七五パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、被告の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金九万八六七三円となる(円未満切捨て)。

計算式 394,695×(1-0.75)=98,673

なお、原告は、反訴に関し過失相殺の主張を明示的にはしていない。しかし、原告は、被告の過失を基礎づける事実に関しては主張しており、過失相殺は、法律の適用の問題にすぎないから、本件において過失相殺による減額をしても、弁論主義には反しない。

(三) 弁護士費用 認めない(請求額は金四万円)

被告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著である。

しかし、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案し、特に、本件事故による過失の割合が被告の方が原告よりもはるかに大きいことを斟酌すると、被告に生じた弁護士費用の一部にせよ、これを原告に負担させるのは相当ではない。

第四結論

よって、原告の請求は主文第一項記載の限度で、被告の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからこれらの範囲で認容し(本訴の付帯請求は原告の主張による。)、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

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