神戸地方裁判所 平成9年(ワ)2020号 判決 1998年5月28日
反訴原告
山口順子
反訴被告
柴田百合子
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金七四万八九七三円及びこれに対する平成九年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その三を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金二〇三万七六〇〇円及びこれに対する平成九年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った反訴原告が、反訴被告柴田百合子に対しては民法七〇九条に基づき、反訴被告柴田喬に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案(付帯請求は、反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金)である。
なお、被告らの債務は、不真正連帯債務である。
また、本訴(反訴被告らから反訴原告への債務不存在確認請求)は、訴えの取下げにより終了した。
二 争いのない事実
1 交通事故の発生
(一) 発生日時
平成八年九月一九日午後〇時四〇分ころ
(二) 発生場所
神戸市西区伊川谷町潤和一六八七番地の七先 信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 争いのない範囲の事故態様
本件交差点は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路と、本件交差点からほぼ北西へ向かう道路とからなる、T字型の三叉路である。
反訴被告柴田百合子は、普通乗用自動車(神戸五二ふ四四一一。以下「反訴被告車両」という。)を運転し、本件交差点を、北西から北東へ左折しようとしていた。
他方、反訴原告は、自転車に乗って、本件交差点を北東から南西へ直進しようとしていた。
そして、本件交差点内で、反訴被告車両の左側面前部と反訴原告の乗っていた自転車とが衝突した。
2 責任原因
反訴被告柴田百合子は、本件事故に関し、左折の際の左方安全確認義務違反の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。
また、反訴被告柴田喬は、反訴被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度
2 反訴原告に生じた損害額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1 反訴被告
反訴被告車両は、 本件交差点手前で一時停止し、その後、徐行しながら左折しようとしていた。
そこに、反訴原告の乗った自転車が走行してきたため、反訴被告車両がこれに衝突したものである。
そして、右事故態様に照らすと、反訴原告にも前方不注視の過失があり、本件事故に対する反訴原告の過失の割合は、少なくとも三割とみるべきである。
2 反訴原告
本件事故の直前、反訴原告は、自転車にまたがり、左足を地面につけた状態で、本件交差点手前で自転車を停止させていた。
そこに反訴被告車両が衝突してきたものであり、反訴原告には、本件事故に関し、過失相殺の対象となるべき過失はない。
五 口頭弁論の終結の日
本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年四月四月九日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1 甲第一〇号証、第一二号証、第一六号証、検甲第一号証の一ないし一六、反訴原告及び反訴被告柴田百合子の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は、ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路と、本件交差点からほぼ北西へ向かう道路とからなる、T字型の三叉路である(前記のとおり、当事者間に争いがない。)。
ほぼ北東とほぼ南西とを結ぶ道路は、片側一車線、両側合計二車線の道路であり、各車線の幅員はいずれも約三・二メートルで、外側には、幅約二・〇ないし二・二メートルの歩道が設けられている(後述のとおり、反訴原告の自転車は歩道を走行していたが、右歩道の幅は約二・二メートルであった。)。また、反訴原告の自転車が走行してきた北東方向から本件交差点にかけては、勾配が約一〇〇分の二の下り坂である。
本件交差点からほぼ北西に向かう道路は、幅約三・六メートルの道路である。また、反訴被告車両が走行してきた北西方面から本件交差点にかけては、勾配が約一〇〇分の四の上り坂である。
そして、本件交差点の北側の角には高さ約一・九メートルのコンクリート壁が建てられており、反訴原告の自転車が走行してきた本件交差点の北東方向と、反訴被告車両が走行してきた本件交差点の北西方向とは、相互に見通しが悪い。
(二) 反訴被告柴田百合子は、反訴被告車両を運転し、本件交差点手前で一時停止した。なお、本件交差点の角にあるコンクリート壁のために、右停止地点から本件交差点の左方を直接視認することはできなかった。
そして、反訴被告柴田百合子は、自車をゆっくりと発進させたところ、左方から、歩道を通って本件交差点内に進入してきた反訴原告の乗った自転車が、反訴被告車両の左側面前部に衝突した。
なお、反訴被告柴田百合子は、右衝突の瞬間まで、反訴原告の乗った自転車をまったく認識していない。
2 右認定に反し、反訴原告は、本件事故の直前、反訴原告の乗った自転車は停止していた旨主張し、反訴原告の本人尋問の結果の中にはこれに沿う部分がある。
しかし、反訴原告の本人尋問の結果によっても、反訴原告の乗った自転車が停止していた理由は明らかではない。そして、甲第一二号証(実況見分調書)における反訴原告の指示説明に照らすと、反訴原告の本人尋問の結果は、信用することができない。
3 車両等は、交通整理の行われていない交差点においては、その通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の通行妨害をしてはならない(道路交通法三六条二項)。
そして、前記のとおり、反訴被告柴田百合子は、左方の見通しの悪い本件交差点に左折して進入するに際し、衝突の瞬間まで左方から来た反訴原告の乗った自転車をまったく認識していなかったのであるから、左方の安全を充分に認識すべき義務に違反していることは明らかであり、その過失の程度はきわめて大きいというべきである。
他方、車両等(道路交通法二条一項八号、一一号、一一号の二、一七号により、ここでいう「車両等」に「自転車」が含まれることは明らかである。)は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)。
したがって、反訴原告にも、右注意義務に違反した過失が優に認められる。
そして、右認定の本件事故の態様によると、反訴被告柴田百合子の過失の方が反訴原告の過失に比べてはるかに大きいことは明らかであり、具体的には、本件事故に対する過失の割合を、反訴原告が一〇パーセント、反訴被告柴田百合子が九〇パーセントとするのが相当である。
二 争点2(反訴原告に生じた損害額)
争点2に関し、反訴原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、反訴原告の損害として認める。
1 反訴原告の傷害等
まず、反訴原告の損害の算定の基礎となるべき反訴原告の傷害の部位、程度、通院期間、その間の治療経過等について検討する。
甲第二ないし第七号証の各一、第八、第九号証、第一三、第一四号証、反訴原告の本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。
(一) 反訴原告は、本件事故の発生した平成八年九月一九日と翌二〇日、医療法人仁恵会石井病院(以下「石井病院」という。)に通院した。同病院における反訴原告の診断傷病名は、左肘・左手関節・左下腿部打撲、左足関節捻挫である。
(二) ついで、反訴原告は、同月二四日から平成九年四月一七日まで、明石市立市民病院に通院した。同病院における反訴原告の診断傷病名は、左肘打撲、左手関節打撲、左足関節打撲である。
なお、甲第一三号証によると、反訴原告は、この間、本件交通事故以外の原因による症状によっても明石市立市民病院に通院したことが認められるところ、甲第八号証により、本件事故による実通院日数を一六日とするのが相当である。
(三) 明石市立市民病院の医師は、平成九年四月一七日、反訴原告の傷害は、左手関節、手指の機能の障害を残して症状固定した旨の診断をした。
また、自動車損害賠償責任保険手続において、反訴原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表に掲げる後遺障害には該当しない旨の事前認定がなされた。
2 損害
(一) 治療費
反訴被告らは、反訴被告らが負担した反訴原告の治療費として金一二万二九三〇円の存在を主張し、反訴原告はこれを認めた。
(二) 装具費
反訴原告は、明石市民病院の医師の指示により、自己負担により左手首及び左肘にサポーターを着用している旨主張し、その費用を請求する。
そして、乙第七号証によると、同病院の医師は、反訴原告が左手首にサポーターを着用することを容認していることがうかがえるものの、右各サポーターの着用が、同病院の医師の指示によること、あるいは、被告の傷害に対して必要かつ相当なものであることについては、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
よって、反訴原告の請求する装具費が、本件事故と相当因果関係のある損害であるとまでは認められない。
(三) 通院交通費
(1) 石井病院
平成八年九月一九日のタクシー代金二五〇〇円については当事者間に争いがない。
反訴原告は、同月二〇日のタクシー代を請求するが、タクシーによる通院が必要かつ相当であったことを認めるに足りる証拠がない。そこで、民事訴訟法二四八条に照らし、弁論の全趣旨により認められるバス代金八〇〇円を認めることとする。
よって、石井病院への通院交通費は合計金三三〇〇円である。
(2) 明石市民病院
明石市民病院への通院交通費が一日あたり金八〇〇円であることは当事者間に争いがなく、症状固定までの同病院への実通院日数は、前記のとおり一六日である。
よって、明石市民病院への通院交通費は合計金一万二八〇〇円である。
(3) 小計
(1)及び(2)の合計は金一万六一〇〇円である。
(四) 休業損害
反訴原告の本人尋問の結果によると、反訴原告は、三人の子と暮らしていること、本件事故当時、クリーニング屋で就労していたこと、右時給は金七五〇円であったことが認められる。
ところで、反訴原告は、反訴原告が本件事故により五五日間通院した旨主張し、右通院日数について一日あたり金五〇〇〇円の割合による休業損害を請求する。
また、反訴被告らは、反訴原告が本件事故により一〇日間通院した旨主張し、右通院日数について一日あたり金八四四三円の割合による休業損害が相当である旨主張する。
そして、反訴原告の実通院日数は、前記のとおり、石井病院が二日間、明石市立市民病院が一六日間の合計一八日間であるので、この日数に相当する休業損害を認めることとし、一日あたりの金額は、反訴被告らの主張(反訴原告の主張よりも高額である。)によることとすると、休業損害は、次の計算式により、金一五万一九七四円となる。
計算式 8,443×18=151,974
(五) 慰謝料
前記認定の本件事故の態様、反訴原告の傷害の部位、程度、通院期間、その間の治療の経過、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた反訴原告の精神的損害を慰謝するには、金七〇万円をもってするのが相当である。
(六) 小計
(一)ないし(五)の合計は金九九万一〇〇四円である。
2 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する反訴原告の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、反訴原告の損害から右割合を控除する。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金八九万一九〇三円(円未満切捨て。)となる。
計算式 991,004×(1-0.1)=891,903
3 損害の填補
反訴被告らが治療費金一二万二九三〇円を負担したこと、反訴被告らから反訴原告に対し金一〇万円が支払われたことは当事者間に争いがない。
したがって、右合計金二二万二九三〇円は既に損害が填補されたものとして、右過失相殺後の金額から控除すると、控除後の金額は、金六六万八九七三円となる。
4 弁護士費用
反訴原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、反訴被告らが負担すべき弁護士費用を金八万円とするのが相当である。
第四結論
よって、反訴原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(付帯請求は反訴原告の主張による。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)
別表