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神戸地方裁判所 平成9年(ワ)2076号 判決 1999年1月27日

原告

森中寛

被告

石橋浅昭

主文

一  被告は、原告に対し、金五二万六八六七円及びこれに対する平成九年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四〇一万二四五〇円及びこれに対する平成九年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により物損を被った原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成九年三月六日午前一一時三五分ころ

(二) 発生場所

神戸市長田区大橋町九丁目四番三号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

訴外森中克美(以下「訴外克美」という。)は、普通乗用自動車(神戸三四ほ四四六九。以下「原告車両」という。)を運転し、東から本件交差点に進入して、本件交差点で転回して東へ向かおうとしていた。

他方、被告は、普通乗用自動車(姫路三四ろ六〇〇二。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から東へ直進しようとしていた。

そして、本件交差点内で、原告車両の左側面後部と被告車両の右前部とが衝突した。

2  原告車両の所有関係等

原告は、原告車両の所有者である。

また、原告車両を運転していた訴外克美は、原告の妻である。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様、及び、これを前提とした被告の過失の有無、過失相殺の要否、程度

2  原告に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告

本件事故当時、原告車両及び被告車両が従うべき東西方向の信号の色は赤色であり、右方向への青色の灯火の矢印の信号により、右折車両のみが進行することができる状態であった。なお、本件交差点内は転回禁止の交通規制はなかった。

したがって、本件事故は、右赤色信号を無視した被告の一方的過失によって生じたものである。

2  被告

本件事故当時、原告車両及び被告車両が従うべき東西方向の信号の色は青色であった。

そして、被告は、被告車両を運転し、右信号にしたがって本件交差点を直進しようとしていたところ、その直前に原告車両が右折転回して、進入してきたものである。

したがって、本件事故は、訴外克美の無謀な運転によって生じたものであり、被告には過失はない。

また、仮に、被告に何らかの過失があるとしても、訴外克美にも右折転回時の安全確認義務違反の過失があり、かつ、原告と訴外克美とは夫婦であるから、原告に生じた損害につき、訴外克美の過失による相応の過失相殺がなされるべきである。

五  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年一二月四日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第一、第二号証、第一三、第一四号証、第一七、第一八号証、乙第一号証、証人梶原潔及び証人森中克美の各証言、被告本人尋問の結果、調査嘱託の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、ほぼ東西に走る道路とほぼ南北に走る道路とからなる十字路である。

東西道路は、片側各五車線、両側合計一〇車線の道路であり、本件交差点付近では、東行き、酉行きとも、番右側の車両通行帯が右折車両専用となり、これらと別に歩道も設けられている。なお、東西道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時と指定されている。

また、東西道路の上には阪神高速道路が走り、中央分離帯にはその橋脚が並立しており、本件交差点内にも橋脚が設けられている。そして、東西道路から右折する車両は、東行き、西行きとも、本件交差点内に設けられた橋脚の手前を進行することとされている。

なお、本件交差点内は、午後一〇時から午前六時まで、転回禁止の交通規制があるが、本件事故発生当時は、右交通規制にかかる時間帯ではない。

(二) 本件交差点の東西方向の車両用の信号は、青色、黄色についで、赤色ではあるが右方向への青色の灯火の矢印により右折車両だけが進行することができる状態を経て、赤色となる。

また、右時間配分は、周辺の交通状況に応じて定められており、本件事故当時の時間配分のデータは廃棄されて現存しない。

(三) 訴外克美は、原告車両を運転し、西行き車線のうち第五車線(車線の番号は路端側から数えたもの。以下同様。)を進行し、徐行しながら、本件交差点の東側にある横断歩道のすぐ西側で、右にハンドルを切り、本件交差点で転回して東へ向かおうとした。

そして、原告車両が北方向からやや東に向いたあたりで、原告車両の左側面後部と被告車両の右前部とが衝突した。

なお、訴外克美は、右衝突まで、被告車両をまったく認識していない。

(四) 他方、被告は、東行き車線のうち第四車線を、時速約五〇ないし五五キロメートルで進行し、本件交差点を、青色信号にしたがって、西から東に直進しようとしていた。

この際、被告は、本件交差点中央部に、右折するために停止している対向車両を認めた。そして、右停止車両の横を通り過ぎた付近で、自車の前方約一〇・六メートルの地点に、自車の進路を塞ぐようにして右折転回してきている原告車両を認め、直ちに自車に急停止の措置を講じたが及ばず、原告車両の左側面後部と被告車両の右前部とが衝突した。

(五) 右衝突後、原告車両は約三・五メートル前進し、東行き車線の第三車線上で、本件交差点の東側の横断歩道のすぐ西側に、北を向いて停止した。なお、路面には、原告車両の前輸のスリップ痕(右約四・六メートル、左約四・四メートルで、反時計回りのほぼ四分の一の円周の円弧状のもの。)が残された。

また、右衝突後、被告車両は約五・六メートル前進し、原告車両の左後方に、ほぼ北東方向を向いて停止した。

2  右認定に反し、原告は、本件事故当時、原告車両及び被告車両が従うべき東西方向の信号の色は赤色であり、右方向への青色の灯火の矢印の信号により、右折車両のみが進行することができる状態であった旨主張し、証人森中克美の証言の中には、これに沿う部分があるので、これを検討する。

(一) まず、甲第一号証、第一三号証、第二〇、第二一号証により客観的に認められる原告車両及び被告車両の損傷の程度に照らすと、右認定のとおり、本件事故直前の被告車両の速度を時速約五〇ないし五五キロメートルと認定するのが相当であって、被告車両がこれを超える速度であったことを認めるに足りる証拠はない。

そして、右認定のとおり、訴外克美は、被告車両との衝突まで被告車両をまったく認識していないのであるから、本件事故直前、訴外克美の本件交差点の西側に対する注視が不十分であったことは明らかである。

さらに、証人森中克美の証言を裏付ける証拠は何も存在しない。

結局、これらを総合すると、証人森中克美の証言を採用することはできない。

(二) 他方、被告主張に沿う被告本人尋問の結果は、自車の速度、原告車両に気づいた地点等、自らに不利益な内容が含まれており、しかも、内容が具体的であって、信用性が高い。

また、第三者の地位にあって本件事故を目撃した証人梶原潔の証言も、内容が具体的であって、信用性が高い。

原告は、証人梶原潔の証言、被告本人尋問の結果につき、縷々問題点を指摘するが、いずれも客観的な裏付けを欠く自らの主張が正当であることを前提とするものであって、採用の限りではない。

3  車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)。

そして、1で認定した事実によると、被告には、右注意義務に違反した過失があることは明らかである。

他方、車両等は、交差点で転回する場合においては、右折する場合と同様、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならず(同法三七条参照)、対向車線の安全確認義務を十分に尽くさなかった訴外克美に、右注意義務に違反した過失があることも明らかである。

そして、右認定の本件交差点の道路状況、信号機の色、双方車両の衝突箇所等によると、他車の安全な進行を妨害した訴外克美の過失の方が、被告の過失よりもはるかに大きいといわざるをえず、具体的には、本件事故に対する過失の割合を、訴外克美が八五パーセント、被告が一五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(原告に生じた損害額)

1  損害

(一) 修理費 金三一五万円(請求額も同額)

甲第四号証、第二〇、第二一号証、原告本人尋問の結果によると、本件事故による原告車両の損傷のための修理費用として、原告が金三一五万円を負担したことが認められる。

(二) 評価損 金三五万三〇〇〇円(請求額も同額)

甲第一号証、第五号証、原告本人尋問の結果によると、原告車両は、本件事故の二か月弱前の平成九年一月に初度登録されたキャデラックであること、本件事故までの走行距離が約三六〇〇キロメートルであること、財団法人日本自動車査定協会は、平成九年九月三日の査定で、右修理費用による修理復元後の状態で、金三五万三〇〇〇円の評価損が発生した旨の査定をしたことが認められる。

そして、これらの事実と右認定の修理費用とを併せ考えると、右金三五万三〇〇〇円を、本件事故による原告車両の評価損と認めるのが相当である。

(三) 文書料 金九四五〇円(請求額も同額)

甲第六号証、原告本人尋問の結果によると、右評価損の査定に関し、原告に金九四五〇円の費用が生じたことが認められる。

そして、右評価損認定の基礎となった事実によると、これを本件事故による損害と認めることができる。

(四) 慰謝料 認めない(請求額は金五〇万円)

物損に関する損害については、特段の事情のない限り、これが填補されれば損害賠償責任はすべて果たされたということができ、精神的損害に対する慰謝料を認める必要性も相当性もない。

そして、本件においては、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

なお、原告は、被告は、本件事故後、損害賠償につき誠実に交渉する態度を示さなかった旨主張するが、右認定の本件事故に対する過失の割合に照らすと、むしろ、原告の方が、客観的裏付けのない自己の主張に拘泥していたというべきであって、原告の右主張を採用することはできない。

(五) 小計

(一) ないし(四)の合計は金三五一万二四五〇円である。

2  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する訴外克美の過失の割合を八五パーセントとするのが相当であり、原告と訴外克美とが夫婦であることは当事者間に争いがない。

したがって、訴外克美の過失を被害者側の過失と評価して、過失相殺として、原告の損害から訴外克美の過失割合を控除するのが相当である。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金五二万六八六七円となる(円未満切捨て。)。

計算式 3,512,450×(1-0.85)=526,867

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(付帯請求は原告の主張による。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

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