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神戸地方裁判所 平成9年(ワ)614号 判決 1998年10月30日

原告(反訴被告)

神尾欣一

被告(反訴原告)

岡山スイキュウ株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一一一万一二二五円及びこれに対する平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告会社に対し、金一二三万三九四〇円及びこれに対する平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告及び被告会社のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用の負担を次のとおりとする。

1  原告に生じた分を三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

2  被告会社に生じた分を二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

3  被告宇多に生じた分を三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告宇多の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告らは、原告に対し、連帯して金三五七万二七〇〇円及びこれに対する平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は、被告会社に対し、金二五七万二五五五円及びこれに対する平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により物損を被った原告及び被告会社が、それぞれ相手方当事者に対し、損害賠償を求める事案である。

なお、原告の被告会社に対する請求は民法七一五条に、被告宇多に対する請求は民法七〇九条に、被告会社の原告に対する請求は民法七一五条に、それぞれ基づくものである。

また、付帯請求は、いずれも本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金であり、本訴における被告らの債務は、不真正連帯債務である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成八年二月二一日午後四時二〇分ころ

(二) 発生場所

兵庫県伊丹市荒牧字鶴田 中国縦貫自動車道下り一四・九キロポスト付近

(三) 争いのない範囲の事故態様

本件事故の発生場所は、片側三車線からなる中国縦貫自動車道の下り車線上である。そして、本件事故当時、このうち、中央分離帯に近い部分では道路工事が行われ(以下、この部分を「工事部分」という。)、工事部分とそれ以外の車両の通行の用に供されていた部分(以下「車両通行供用部分」という。)とは、フェンス、セーフティーコーンで画されていた。

本件事故の直前、被告宇多は、大型貨物自動車(岡山一一こ六二四。以下「被告車両」という。)を運転し、車両通行供用部分のうち工事部分寄りに走行していた。また、訴外豊田貴裕(以下「訴外豊田」という。)は、普通貨物自動車(神戸四六さ三三五五。以下「原告車両」という。)を運転し、右フェンスの切れ目を通って、工事部分から車両通行供用部分に進入しようとし、又は、進入していた。

そして、被告車両の右前部と、原告車両の左後部とが衝突した。

2  責任原因

被告宇多は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、被告宇多は、本件事故当時、被告会社の業務に従事中であったから、被告会社は、民法七一五条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

さらに、訴外豊田は、本件事故当時、原告の業務に従事中であった。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び訴外豊田の過失の有無、過失相殺の要否、程度

2  原告及び被告会社に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告

本件事故は、原告車両が高速道路の工事部分から車両通行供用部分に進入し、原告車両の向きと道路の向きとが完全に一致した後に発生したものである。

したがって、本件事故に関し訴外豊田には過失はなく、本件事故は、被告宇多の一方的過失によって発生したというべきである。

仮に、訴外豊田に何らかの過失があるとしても、右事故態様に照らすと、本件事故は追突に類似する事例であるというべきである。また、本件事故の発生場所付近は、五〇キロメートル毎時に速度規制されていたが、被告車両の本件事故の直前の速度は時速七〇ないし八〇キロメートルであって、これを大きく上回っていた。

これらに照らすと、訴外豊田の過失と比べて、被告宇多の過失の方がはるかに大きい。

2  被告ら

訴外豊田は、高速道路の工事部分から車両通行供用部分に進入するに際し、後方の安全を十分に確認せずに、漫然と進行した過失がある。

他方、被告宇多は、危険を感じるや直ちに自車に急制動、左転把の措置を講じたが及ばず、本件事故の発生に至った。

そして、本件事故の態様、本件事故が高速道路上で発生したものであること等に照らすと、本件事故の過失の割合を、訴外豊田が少なくとも七割、被告宇多が多くとも三割とするのが相当である。

五  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年八月一九日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第八、第九号証、乙第五、第六号証、弁論の全趣旨によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 争いのない事実記載のとおり、本件事故の発生場所は、片側三車線からなる高速道路上であり、本件事故当時、このうち、中央分離帯に近い部分では道路工事が行われ、工事部分と車両通行供用部分とは、フェンス、セーフティーコーンで画されていた。

ところで、右工事は、もっとも中央分離帯に近い車両通行帯すべて及びその左側の車両通行帯の半分程度に対して行われていたため、片側三車線のうち、一・五車線程度とその左側の路側帯が事実上の車両通行供用部分にあてられていた。

(二) 右工事のため、本件事故発生場所付近の最高速度は、五〇キロメートル毎時と指定されていた。

また、本件事故の発生場所の前後には、数名のガードマンが配置されていた。

(三) 被告車両の本件事故の直前の速度は時速七〇ないし八〇キロメートルであった。

(四) 争いのない事実記載のとおり、本件事故は、被告車両の右前部と原告車両の左後部とが衝突したものである。

右衝突後、被告車両はブレーキ装置が破損して左前方に逸走し、約三〇〇メートル滑走した後に、ハンドブレーキが用いられて停止した。

また、原告車両は被告車両との衝突後、右に横転し、衝突地点の右前方の工事部内で、右側面を接地させて停止した。

2  ところで、乙第六号証(被告会社の加入する保険会社に提出された調査報告書)の中には、訴外豊田が右調査にあたった担当者に対して、原告車両が車両通行供用部分に進入しようとした時、被告車両は、約三〇〇メートル後方の路端側の車線を走行していた旨、及び、原告車両が車両通行供用部分に進入し、ギアをサードにして時速三〇ないし五〇キロメートルになった後に被告車両に追突された旨を述べたとする部分がある。また、右調査報告書の中には、被告宇多が右調査にあたった担当者に対して、被告車両が、工事部分内に停止していた原告車両の手前約五〇メートルに至った時、原告車両が車両通行供用部分に進入を開始した旨を述べたとする部分がある。

しかし、右各供述内容についてはいずれも客観的な裏付けがなく、1で認定した事実を超えて、右供述内容のいずれが本件事故の態様に合致するのかを認定することができない。

結局、訴外豊田の過失の有無、過失相殺の要否、程度を判断するにあたっては、右各供述内容をいずれも採用することはできず、1で認定した事実をもとに検討するのが相当である。

3  1で認定したとおり、被告車両は高速道路を直進進行していたのに対し、原告車両は工事部分から車両通行供用部分に進入しようとしていたのであるから、定型的に相手車両の進行を妨げる立場にあった原告車両の運転者である訴外豊田が、事故回避のための一次的な責任を負うというべきである。

したがって、訴外豊田に過失があることは明らかである。

他方、工事のために車両通行供用部分の幅が狭くなり、かつ、片側三車線のうち、一・五車線程度とその左側の路側帯が事実上の車両通行供用部分にあてられていたという不自然な状態になっていたこと、右工事のため、本件事故発生場所付近の最高速度が五〇キロメートル毎時と指定されていたことに照らすと、時速七〇ないし八〇キロメートルで被告車両を運転していた被告宇多の過失もきわめて重大であり、これを看過することができない。

そして、右のような事情を考慮すると、訴外豊田及び被告宇多の過失は同程度とみて、本件事故に対する過失の割合を、訴外豊田が五〇パーセント、被告宇多が五〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(損害額)

1  原告

争点2のうち原告に生じた損害額に関し、原告は、別表1の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄の記載の金額を、原告の損害として認める。

(一) 損害

(1) 車両価格

原告が原告車両を所有すること、原告車両が本件事故により、その車両価格九二万円を超える金額による修理を要する損傷を受けたことは当事者間に争いがない。

よって、右車両価格金九二万円は本件事故により原告に生じた損害である。

(2) コンプレッサー価格

原告車両にはコンプレッサーが装着されていたこと、本件事故時点における右コンプレッサーの減価償却後の価格が金八七万〇二五〇円であることは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右コンプレッサーは十分使用に耐えるものであり、新たに購入の必要がなかったこと、コンプレッサーについては中古市場が存在せず、新たに新品を購入せざるをえなかったこと等を理由に、右減価償却後の価格の二倍に相当する金一七四万〇五〇〇円が原告の損害となる旨主張する。

しかし、本件事故が発生しなければ購入の必要がない新品のコンプレッサーを購入することを原告が余儀なくされたとしても、それは、本件事故により損傷したコンプレッサーよりも耐用年数の長い新品のものであること、内国法人の有する資産につき災害による著しい損傷等が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価格を下ることとなった場合においては、法定の要件のもとに、税法上損金計上することができること(法人税法三三条二項)に照らすと、右減価償却後の価格である金八七万〇二五〇円を原告の損害とすることによって、原告に生じた損害はすべて填補されると考えることができる。

よって、これに反する原告の主張は採用の限りではなく、金八七万〇二五〇円が本件事故時の右コンプレッサーの客観的な価格であり、右金額をコンプレッサー損傷による損害とするのが相当である。

(3) ブレーカー及びブレーカーホース価格

甲第六号証、原告本人尋問の結果によると、本件事故により、原告車両に積載していたブレーカー、ブレーカーホースが損傷を受け、あるいは散逸したこと、損傷したブレーカーは修理が可能であったが、原告はこれを修理せずに新品を購入したこと、損傷・散逸したブレーカーホースは中古品であったこと、ブレーカー、ブレーカーホースの購入代金は合計二一万七二〇〇円であることが認められる。

そして、ブレーカー及びブレーカーホースについても、コンプレッサーに関して判示したのと同様に、本件事故時の客観的な価格を算定する必要があるところ、民事訴訟法二四八条を適用して、弁論の全趣旨により、これを右購入代金の二分の一に相当する金一〇万八六〇〇円と認定することとする。

(4) レッカー代

甲第五号証、原告本人尋問の結果によると、本件事故後、原告車両を移動させるためのレッカー代として、原告が金四万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(5) 休車損

甲第一一号証、原告本人尋問の結果によると、本件事故当時、原告車両を高速道路の工事現場に派遣することによって、原告には一日金一〇万円の売上げがあったことが認められる。

また、一日あたりの人件費金五万円を右売上高から控除することは原告が自ら認めるところであり、原告本人尋問の結果によると、経費として一日あたり、ガソリン代金九〇〇〇円、高速代金一二〇〇円、以上小計一万〇二〇〇円を要することが認められる。

したがって、休車損算定の基礎となるべき一日あたりの収入は、売上高から人件費、右経費を控除した金三万九八〇〇円とするのが相当である。

また、原告本人尋問の結果によると、原告車両の損傷により、原告は、七日間にわたって右収入を得ることができなくなったことが認められる。

したがって、原告に生じた休車損は、金三万九八〇〇円の七日間分の金二七万八六〇〇円となる。

(6) 小計

(1)ないし(5)の合計は金二二二万二四五〇円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する訴外豊田の過失の割合を五〇パーセントとするのが相当である。また、訴外豊田が、本件事故当時、原告の業務に従事中であったことは当事者間に争いがない。

よって、訴外豊田の過失を被害者側の過失として、原告の損害から訴外豊田の過失割合を過失相殺により控除するのが相当であり、控除後の金額は、次の計算式により、金一一一万一二二五円となる。

計算式 2,222,450×(1-0.5)=1,111,225

(三) 弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著である。

しかし、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情、とりわけ訴外豊田の過失と被告宇多の過失の割合が同程度であること、被告会社の損害に対しては原告も損害賠償責任を負うことを勘案すると、原告に生じた弁護士費用の一部にせよ、被告らに負担させるのは相当ではないというべきである。

2  被告会社

争点2のうち被告会社に生じた損害額に関し、被告会社は、別表2の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、被告会社の損害として認める。

(一) 損害

(1) 修理費用

本件事故により、被告車両に修理費用金二四六万七八八〇円を要する損傷が生じたことは当事者間に争いがない。

(2) 休車損

被告会社の主張する休車損は、本件事故前の一日あたりの被告車両の売上高から経費を控除した金額に、修理に要した日数を乗じたものである。

ところで、乙第二号証の一ないし六、証人岡本伸一の証言によると、被告会社には約二三〇台の車両があること、被告車両の所属する備前営業所にも約七〇台の車両があること、被告車両は、本件事故前には、特定の荷主から依頼される定期的な運送に従事していたことが認められる。

そして、右認定事実の下では、被告車両が修理に要した期間中であっても、代車等の利用により被告会社には損害(得べかりし利益の喪失)は発生していないとするのが経験則に合致するというべきであり、その他、この期間、被告会社が得べかりし利益を得ることができなかったという事情を認めるに足りる証拠はまったくない。

結局、被告会社の主張する休車損は、理由がない。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する被告宇多の過失の割合を五〇パーセントとするのが相当である。また、被告宇多が、本件事故当時、被告会社の業務に従事中であったことは当事者間に争いがない。

よって、被告宇多の過失を被害者側の過失として、被告会社の損害から被告宇多の過失割合を過失相殺により控除するのが相当であり、控除後の金額は、次の計算式により、金一二三万三九四〇円となる。

計算式 2,467,880×(1-0.5)=1,233,940

(三) 弁護士費用

被告会社が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著である。

しかし、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情、とりわけ訴外豊田の過失と被告宇多の過失の割合が同程度であること、原告の損害に対しては被告会社も損害賠償責任を負うことを勘案すると、被告会社に生じた弁護士費用の一部にせよ、原告に負担させるのは相当ではないというべきである。

第四結論

よって、原告の請求は主文第一項記載の限度で、被告会社の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからこれらの範囲で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(原告の損害)

別表2(被告会社の損害)

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