神戸地方裁判所 昭和24年(ワ)704号 判決
原告 坂本三治郎 外一名
被告 兵庫縣・神戸市
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、請求の趣旨
原告等訴訟代理人は、被告兵庫縣は原告三治郎に対し金一万二千二百二十四円九十八銭、同信泰に対し金千五百九十一円五十九銭を、被告神戸市は原告三治郎に対し金一万六千六百六十二円二十四銭、同信泰に対し金二千百七十円三十五銭を各支拂え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決と仮執行の宣言とを求めた。
三、事 実
「原告三治郎は別紙第一目録記載の不動産を、原告信泰は同第二目録記載の不動産をそれぞれ原告三治郎に対する昭和二十一年度財産税四十八万六千百八十五円の物納として昭和二十三年六月二十四日国に納付し、その所有権の移轉登記をしたのであるが、地租の賦課期日たる昭和二十三年四月一日当時においては、右土地がまだ原告等の所有であつたので、これら土地に対する昭和二十三年度分の課税として、原告三治郎は別紙第一目録記載のとおり、被告兵庫縣から地租ならびに都市計画税合計一万六千二百九十九円九十九銭を、被告神戸市から別紙第三目録記載のとおり地租附加税ならびに都市計画税合計二万二千二百十六円三十三銭を、原告信泰は被告兵庫縣から別紙第二目録記載のとおり地租ならびに都市計画税合計二千百二十二円十二銭を、被告神戸市から別紙第四目録記載のとおり地租附加税ならびに都市計画税合計二千八百九十三円八十銭を各賦課せられ、それぞれ昭和二十三年十月頃納付した。しかし右土地は前記のとおり昭和二十三年六月二十四日国の所有物となり、これに対しては右の日以後地方税の納税義務が消滅している。從つてさきに納めた昭和二十三年度の地租ならびにこれに付随する地方税の中、昭和二十三年四月一日から同年六月末日までの三ケ月分は納税義務があるとしても、同年七月一日から翌二十四年三月三十一日までの九ケ月分は被告等においてこれを收得しうる法律上の原因がないのに利得し、これがため、原告等はそれぞれ右税金中九ケ月分に相当する部分の損失を被つているので、その返還として、原告三治郎は被告兵庫縣に対し金一万二千二百二十四円九十八銭、同神戸市に対し金一万六千六百六十二円二十四銭を、原告信泰は被告兵庫縣に対し金千五百九十一円五十九銭、同神戸市に対し金二千百七十円三十五銭の支拂を求めるため本訴におよんだのである。」と述べ、被告の抗弁に対し、地方税法第五十三條第二項によつて、地租については同法第十條第一、二項の規定を適用しないのは通常納税義務者に変更があつた場合を予想して規定されたものである。即ち、地租の賦課期日たる四月一日以後土地の所有者に変更があると納税義務者が変更するのであるが、前の納税者の納税をもつて後の納税義務者の納税とみなし、あらためて納税義務者に対し月割で地租を賦課する手数を省くための便宜的規定なのである。しかし本件土地は前記の日国の所有に帰し、それ以後は地方税法第十三條第一項第三号の規定によつて地租の課税客体たりえない状態となり、その納税義務が消滅しているのであるから、かかる事案については地方税法第五十三條第二項を適用すべきものでなく、同法第十條第二項の原則規定を適用し、さきに原告等が納付した税金の中納税義務なき部分は返還すべきである。又被告等主張のように賦課処分それ自体について異議の申立、訴願をしなくとも、本件は民法第七百三條に基く不当利得の返還請求なのであるから、かかる不服手段を経ずとも差し支えはない。しかして本件事案のような場合においても、なお地方税法第五十三條第二項が適用されるのであるとすれば結局課税客体たりえない土地につき所有者でない原告から税金と称して金銭を沒收するのに等しい。從つてかかる規定は憲法によつて保証された財産権不可侵の原則に反し無効であるから、被告の抗弁は理由がない、と述べた。
被告等指定代理人は、主文通りの判決を求め、答弁として、原告等が、その主張の日、その主張の土地を、原告三治郎の財産税の物納として国に納付したことおよび被告等が原告等主張の通り右土地に対する昭和二十三年度分の地租ならびにこれに付随する地方税をそれぞれ原告等に賦課し、同人等が、その主張の頃、これを納付したことは認める。しかし右納税金の中その一部は被告等において收納しうべき法律上の原因がないのに、これを利得しているのであるとの原告主張は次の理由によつて承服することができない。即ち、地租の賦課期日は四月一日であつて、その期日において土地台帳に所有者として登録されている者に対し該土地に対するその年度分の地租を賦課し、右賦課期日後に納税義務が消滅するような事情が発生しても納税額については何等の変更を來さないのである。そのことは地方税法第五十二條、第五十三條の各項の規定によつて明らかである。從つて原告等主張のように、本件土地が財産税の物納として国に納付され、それがため地租の納税義務が消滅したとしても、昭和二十三年四月一日当時本件土地の所有者であつた原告等に対し昭和二十三年度の地租ならびにこれに付随する地方税として賦課徴收した税金を原告等に返還すべき理由がないし、又被告等は本件地租ならびにこれに付随する地方税の賦課徴收のため昭和二十三年九月十六日原告等に対しそれぞれ徴税傳令書ならびに徴税令書を交付したのであるが、もし右租税の賦課処分について違法又は錯誤があるというならば、地方税法第二十一條各項の規定に基き法定期間内に異議申立ならびに訴願をなし、その是正を求めるべきであるのに、原告等は右不服手段をとらなかつたので、右賦課処分は確定しており、これに基き適法に徴收した税金を返還すべき理由がない。次に原告等は地方税法第五十三條第二項の規定は通常納税義務者に変更があつた場合を予想して規定されたものであつて、本件のように土地が国の所有に帰し、地方税の課税客体たりえない状態になつたときは同法第十條第二項の原則規定を適用すべきであると主張するが、右主張は同法第十條第三項の規定と混同誤解しているのである。即ち右にいう通常納税義務者に変更があつた場合とは土地所有者に変更があつたけれども当該土地についてその後地方税の課税客体たりうる点については何等の変りがない場合をいつているのであらうが、かかる場合は同法第十條第三項の規定によつて前の納税者の納税をもつて後の納税義務者の納税とみなして処理されるのである。從つて同法第五十三條第二項によつて同法第十條第二項の規定の適用を排除しているのは本件事案のように地租の賦課期日後に当該土地が国の所有に帰し、地方税の課税客体たりえない状態になつた場合も充分予想し、地租についてはかかる場合においてもなお賦課期日当時の土地所有者にその年度の地租全額の納税義務を負担させるようにしたものである、と述べた。
四、理 由
原告三治郎が別紙第一目録記載の不動産を、又原告信泰が別紙第二目録記載の不動産をそれぞれ原告三治郎に対する昭和二十一年度財産税四十八万六千百八十五円の物納として昭和二十三年六月二十四日国に納付したこと、および被告兵庫縣が右土地に対する昭和二十三年度地租ならびに都市計画税として原告三治郎に合計一万六千二百九十九円九十九銭を、同信泰に合計二千百二十二円十二銭を賦課し、又被告神戸市が同じく昭和二十三年度の地租附加税ならびに都市計画税として原告三治郎に合計二万二千二百十六円三十三銭を原告信泰に合計二千八百九十三円八十銭を賦課し、原告等が昭和二十三年十月頃その税金を納付したことは当事者間に爭がない。しかして原告等は、地租ならびにこれに付随する地方税は、その課税客体たる右土地が賦課期日後である昭和二十三年六月二十四日国の所有に帰し原告の所有物でなくなつたのであるから、原告等において負担すべき昭和二十三年度の地租ならびにこれに付随する地方税は昭和二十三年四月一日以降同年六月末日までの三ケ月分のみである。從つてそれ以後翌二十四年三月末日まで九ケ月分の納付金は被告において不当利得しているのであると主張するが、地租(從つて地租割として賦課せられる都市計画税およびそれらの附加税たる本件神戸市税)は、原則として土地の所有に対し、その所有者に課するのであつて、毎年四月一日において土地台帳に所有者として登録されている者に当該年度分を賦課し、その者から徴收するのであるが、本件のように賦課期日後、課税客体たる土地が財産税として物納せられ国の所有物となつた場合仮に免税地となるものとしても(地方税法第十三條第一項但書および同項第三号により物納地に第三者が賃借権等の使用收益権を有する場合は国が前所有者の地位を承継するから、免税地とならないし、又納税者自らが使用している宅地は国が新たに有料でその者に使用させるのを通常とするので免税地とならない場合もある)地方税法第五十三條第二項の規定によつて同法第十條第二項の適用が除外されているところからみて明らかなとおり、本件土地について昭和二十三年度の地租の賦課期日たる昭和二十三年四月一日において、それぞれ原告等がその所有者であつた以上、それぞれ原告等においてその年度分の地租および地租割として賦課せられる都市計画税ならびにこれらの附加税たる神戸市税の全額を納付する義務があるのであつて、被告等において納税額を変更しなければならないという理由はない。もつとも本件事案のように課税客体の所有者に変動を來した納税義務の相対的消滅でなく、課税客体が課税客体たる性格を失つた納税義務の絶体的消滅の場合に地方税法第五十三條第二項を適用するのは不合理なようにみられないこともないが、右の場合原告主張のようにその消滅した月まで月割計算で納税するものと解せんとすれば、賦課期日後において新たに納税義務が発生した場合、即ち私有地が新たにでき、納税義務が原始的に発生したような場合も、その時から月割をもつて地租等を賦課するのでなければ不合理であるが、この場合においてもこれら租税は次の年度から賦課せられるのみならず、地租や家屋税のように課税客体の所有者(納税義務者)の変動の頻繁なものにあつては、その一々につき月割をもつて納税義務を定めるとすれば煩瑣に堪えないこととなり徴税技術上きわめて不便となるので、地方税法第五十三條第二項を設けて、税負担の衡平を期した同法第十條第一、二項の適用を排除して課税の簡便を計り、もつて税收入の確保と徴税費用の節減を期したのであつて、右第五十三條第二項それ自体が、徴税確保のための技術上の理由から納税者側の税負担の多少の不衡平を初めから覚悟の上で定められた規定であるから、納税義務者個々人からみると不合理な場合の生ずることがあるのは免れないが、これは多衆を対象とする課税の技術上避けがたい制度自体に内在する不合理でやむをえないものと解さねばならないし、租税徴收費用の節減はひつきよう納税者の負担の軽減にもなるのであるから、大局からみて是認せらるべきであつて、憲法第二十九條によつて保証された財産権不可侵の原則もまた公共の福祉のためにはある程度の制約をうけているのであるから、右の趣旨のもとに規定された地方税法第五十三條第二項が無効ということはできない。よつて原告の本訴請求は以上の理由によつて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)
(別紙目録省略)