大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和25年(ヨ)117号 決定

申請人 大谷重工業株式会社

被申請人 全日本金属労働組合兵庫支部

大谷尼崎分会

右代表者 組合長

申請

一、申請の趣旨

(一) 別紙物件目録記載の建物及同建物敷地其他事業場に対する被申請人組合の占有を解き、申請人の委任する神戸地方裁判所執行吏の保管に付する。

(二) 右執行吏は前記建物及同建物敷地其他事業場をロール及機械製造、鋼材圧延業経営の目的の為申請人に対しその使用を許すことが出来る。

(三) 第二項の場合申請人は執行吏から別紙目録記載の物件の引渡を受けた後申請人会社従業員等をして右物件其他申請会社所有の物件等を使用して被申請人組合の現に管理中の全事業を引継いで之に従事せしめる事が出来る。

(四) 右執行吏は前記事業の経営を妨害する被申請人組合員に対しては右建物及同建物敷地其他事業場から退去を命じ、且建物及同建物敷地その他事業場への立入を禁ずることが出来るし、その他前各項趣旨の実効をあげる為適当な措置をとることが出来る。

との御裁判を求める。

二、申請の理由

(一) 申請人は尼崎市西高洲町参拾壱番地尼崎工場を所有し従業員七百六拾七名を傭ひロール及機械製造販売、鋼材圧延の業務を営むものなるところ従業員の給与に関し、昭和二十二年十一月以降経営協議会、団体交渉等に依り数次の改訂をなし同種企業に於ける賃金水準を遙かに超える実質賃金一人平均壱万四千円余を支給し現在に及んだのであるが被申請人組合から昭和二十五年三月十日深夜業手当及残業手当を五割に増額その他十六項目について要求があつたので申請人は事情の許す限り団体交渉に依り同月十三日、十四日、十五日、十六日、十七日、十八日、二十三日、二十四日の連日に亘り協議し深夜業手当及残業手当を三割に増額する等会社経理の許す限り被申請人組合の要求に対し誠意努力を傾倒して来たのにも拘らず被申請人組合は申請人が讓歩すればする程新要求を逐次提出して参りました。然し乍ら申請人は三月二十四日の団体交渉に於て出来る限りの讓歩を為したのであるから被申請人組合に於ても要求再考の上団体交渉を妥結に導くやう要望したところ被申請人は後日何分の囘答を為す旨を約して別れました。

(二) 然るに被申請人組合は三月二十五日申請人に対する囘答を為すに先だち且申請人との間に四月四日迄時間外労働を為す旨の書面による協定があるのを無視して三月二十七日より早出、残業、夜勤の一切を拒否し全員定時出勤を行ふことを決定し、被申請人組合員に指令しその旨申請人にも通告して参りました。

(三) 申請人会社の事業の性質上時間外労働を拒否することは反射炉の熔解作業を不可能ならしむるもので時間内の全作業を痲痺させる重大なる意義を有するものであるに拘らず被申請人組合の通告は団体交渉継続中のことであり書面による協定を無視した全く誠意を欠く不当なものであつたので申請人は被申請人組合が前記通告の通り時間外労働の拒否を実行する場合は既に提示した一切の讓歩を白紙に戻す旨の条件付通告及早出、残業夜勤の業務命令を三月二十五日致して置きました。

(四) 然るに被申請人組合は何等反省することなく被申請人の前記通告の日に先立ち三月二十六日夜勤から申請人の業務命令に違反し鬪争宣言も発せず突如として勤務拒否を実行した上翌日二十七日以降早出残業夜勤の拒否を実行すると共に同月二十八日は申請人に通告することなく全工場の作業を停止し職場放棄を敢行しました。

(五) 然れども申請人は全工場の動脈的作業である反射炉の熔解作業停止の為被申請人組合員の他の作業も停止するの止むなきに立至つたものであろうと善意に解釈し未だ鬪争宣言も受けていなかつたので反射炉に点火すれば被申請人組合も反省して作業に従事するものと信じ三月二十九日早朝申請人会社のみで反射炉に点火しようとした処被申請人組合は之をすら妨害し遂に点火作業を不能ならしめ同日全作業を放棄致しました。

(六) 前記の如く被申請人組合は不当なる争議行為を敢行した後三月二十九日やうやく組合大会を開き同盟罷業を決議して同日午後一時三十分鬪争宣言を申請人に通告して参り四十八時間ストに入り次いで七十二時間ストを敢行したのであるが四月三日午前三時申請人に対し「ストを解除し平常作業に復す」旨の通告をして置き乍ら鬪争宣言を撤囘せず被申請人組合員以外の申請人会社従業員約三百名の工場内入場並就業を拒否し職長等技術者の指図によらないのは勿論申請人の業務命令に依らない無暴な作業を開始し申請の趣旨記載の物件を不法に占有し且同物件中の銑鉄、屑鉄、合金鉄、石炭、油脂等其他の資材を使用し申請人の工場退去命令に従はずして自ら右業務を行い申請人に莫大なる損害を及ぼし乍らストに於ける自己の主張を有利に展開せんとしつつあるのであります。

(七) 然れども右は生産会社に於ける使用者側の生産サボの如く申請人に何等業務懈怠の事実なく又一方被申請人組合に於て之を為す何等の原因事情なきに拘らず巧妙な方法で業務管理を敢行せるものであつて右行為は申請人の有する企業経営権を侵害するのみならず別紙目録記載の申請人の財産に対する所有権の侵害であるし右被申請人組合の行為を認容するに於ては労働争議に於ける労資の地位の平等性を一方的に蹂躪するものであつてかかる行為を永続せしめる時は企業形態に於ける申請人の地位利益の全面的抹殺となり其の損害測り知るべくもないのであります依つて本訴を俟つの暇なく茲に右著しい損害をさける急迫強暴な侵奪を防ぐため本申請に及びます。

(疏明省略)

神戸地方裁判所 御中

一、保証 金五拾万円

二、主  文

(一)  別紙第一、二目録記載の不動産に対する被申請人の占有を解いて申請人の委任する神戸地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。但し被申請人組合事務所の占有は従前通り被申請人の占有にとどめるが、被申請人は右事務所と工場外との連絡は執行吏の指定する出入口並に通路によらなければならない。

(二)  執行吏は申請人の申出あるときは、(イ)被申請人組合員(第一組合員)をも作業に従事せしめること、(ロ)第一組合員及び第二組合員以外の者を作業に従事せしめないことを条件として申請人に対し右不動産において従業員を指揮して目的業務を行うことを許可することができる。又申請人に右許可を与えたときは従業員に右不動産に立入ることを許可しなければならない。

(三)  (イ)申請人において前項の条件に違反したとき、(ロ)作業中暴力を用いる従業員あるときは、執行吏は組合(第一、二組合)側、会社側及び弁護士北山亮(兵庫県地方労働委員会公益委員)の各意見を求めた上、(イ)の場合には申請人に対し業務遂行の許可を取消すことができるし(この場合は従業員全員に対する立入許可を取消さねばならない)(ロ)の場合にはその従業員の所属する組合の組合員全員に対し立入許可を取消し、且つ右不動産から退去を命じてこれへの立入を禁ずることができる。

(四)  執行吏は前各項の執行を確保するため適当な措置を講ずることができる。

(五)  執行吏は如何なる場合と雖も、昭和二〇年勅令第五四二号「ポッダム」宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く工場、事業所等の管理に関する件(昭和二一年商工、文部省令第一号)に定められている経営者として遵守すべきすべての管理業務を行うことを申請人に許さねばならない。

(裁判官 古川静夫 中島誠二 保津寛)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!