神戸地方裁判所 昭和25年(ヨ)219号 決定
申請人 淡路産業株式会社
被申請人 全日本金属労働組合兵庫支部淡路産業本社分会
右代表者 組合長
一、保証 金參拾万円
二、主 文
一、申請会社洲本工場の建物、機械、器具等に対する被申請人の占有を解いて申請人の委任する神戸地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。
一、執行吏は申請人の申出により生産事業以外の執務のために申請人に対し右工場の使用を許可することができる。
一、執行吏は前各項の目的を達するため被申請組合員に対し前記洲本工場の土地建物より退去を命じ、かつその立入を禁止することができる。
一、執行吏は前記保管並に立入禁止を公示するため適当な方法をとらねばならない。
三、理 由
本件申請の要旨は、申請人会社(以下会社という)は主として鐘ケ淵紡績株式会社から註文をうけて紡織機の製造に従事しているものであるが、昭和二五年四月頃より右会社からの註文は殆んどなくなり、見込生産をするにしても債務額はすでに三、〇〇〇余万円に達し経営極度に逼迫したので、人員整理による企業の合理化を企図し、被申請人組合(以下組合という)に諮つたところ、組合は何等平和的交渉をなさずして同月二七日闘争宣言を発し、ストに突入して工場を占拠し、会社に対し首切り反対、七、〇〇〇円ベースによる賃金即時支給等の要求をつきつけ、あらゆる非合法手段によつてこれが承認方を迫つたので、会社はついに同年五月五日已むなく組合側の要求を全面的に承認したが、前記のように経営困難を極めていた折柄とて、工員を整理せずしかも四月度分より賃金ベースを七、〇〇〇円に引上げるというが如き右承認の内容を実行することは、到底不可能であつたから、同月一五日とりあえず臨時休業を宣言し、その後危難をおそれて各地に逃避していた幹部が集合し債権者である神戸銀行や得意先の前記会社と協議した結果、一応洲本工場を閉鎖し、かつ社員、工員全員を解雇すると共に、その後における会社の再起方策を検討することを決意し同月二七日工場閉鎖を発表し、同時に数人の残務整理社員を残して全員を解雇する旨通告した。そして一方会社は重役の保証によつて右銀行から金融を得、五、六月分給料ならびに解雇予告手当を準備して被解雇者にその受領方を催告し、同年六月二日前記承認を強迫に因るものであるから取消す旨組合に通告した。ところが組合は、いぜんとして闘争態勢のまま工場の占拠を継続するのみか、同月一五日に至り、全員が右給料、解雇予告手当および離職票を受領し過半数の者が組合を脱退し争議団から離脱したにもかかわらず、六〇名余の組合員が生産管理を宣言し、じ来何等の仕事もないのに盗電により一部機械を動かしたり半製品を工場外に持出したり等して工場を不法に占拠している。会社は目下組合に対し、解雇有効確認ならびに所有権に基く妨害排除請求訴訟を提起すべく準備中であるが、本案判決確定まで待つては囘復し難い損害を蒙るおそれがある。よつてこのような損害を避けるため、組合員が工場に立入ることを禁止する旨の仮処分決定を求める、というのである。これに対して、組合は、(一)会社が組合員全員を解雇したのは、先に成立した協定に違反するばかりでなく、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として無効であり、組合員が解雇予告手当等を受取つたのは生活に窮迫したためで決して解雇を承認したものではない。また、(二)会社がなした臨時休業やこれに続く工場閉鎖は右協定に違反するもので、かつ事実行為を伴わない工場閉鎖は争議行為としてもなりたたない。要するに、組合は、会社の不誠意に対抗し、合法的に争議手段として工場を占拠しているものである、と主張する。
さて、会社が昭和二五年五月一五日洲本工場について臨時休業を宣言し、ついで同月二七日工場閉鎖を宣言し、同時に組合員全員に対し解雇を通告すると共に、五、六月分の給料、一ケ月分の給料に相当する解雇予告手当等の受領方を催告したところ、同年六月一五日に至り、全員が右給料、解雇予告手当ならびに離職票を受領したことおよび組合員六〇名余が現に右工場を占拠していることは当事者間に争がない。
そこで、組合が六〇名余の組合員をもつて現に工場を占拠していることが違法であるかどうかについて判断する。
本件疎明資料によれば、会社は、同年四月頃紡織機の註文が減少しあまつさえ債務額が三、〇〇〇万円に達し、経営が相当窮迫したので、これを打開するため、人員の一部整理による企業の合理化を企図していた折柄、同月二二日頃組合から賃金値上げの要求をうけたので従前社員を含めた賃金ベースが四、〇〇〇円内外であつたのを、とりあえず五月度分を五、五〇〇円程度に引上げるかわりに、工員約四〇名を整理する旨囘答し、この線にそつて組合と交渉したが、退職手当の問題で決裂するに至つたところ、組合は同月二七日闘争宣言を発し、会社に対し首切り反対、七、〇〇〇円ベース即時支給等の要求をつきつけ、会社幹部の私宅に押しよせて家族達を脅迫したり、会社側交渉委員を長時間に亘つて軟禁したり、或はまた幹部をつるし上げする等の暴力的手段によつて右要求の早急なる承認方を迫つたので、会社はついに同年五月五日已むなく組合側の要求(右に掲げた外、争議期間中の賃金支払、労働協約締結まで工場閉鎖や長期休業等をしないこと)を全面的に承認したが、前記のような経営が相当窮迫していた折柄とて、全然人員を整理せず、しかも四月度分より賃金ベースを七、〇〇〇円に引上げるというようなことは到底不可能であつたから、といつて漫然右協定を履行しなかつたならば、さらにいかなる暴行脅迫をうけるかも知れないことをおそれて、社長以下幹部は洲本市から逃避すると共に、従前より会社に関係のあつた糟谷猪三を総務部次長に任命して、同人に工場の管理を委任し、同月一五日とりあえず同人をして臨時休業を宣言させたが、一方組合側が協定の成立によつて事実上解いていた闘争態勢を再び強化し、右管理人やその他の警備員に暴行を加えて工場に侵入し、じ来工場の占拠を続けたので、その後会社幹部において逃避先で協議した結果、経営のなりたたないことを理由として前記のように工場閉鎖を宣言し、かつ、社員、工員の解雇を通告したものであることが一応認められる。されば、上敍のような状況下に成立した右協定は民法第九六条にいわゆる強迫に因る意思表示となると解するのが相当であるところ、疎明資料によると、会社が同年六月二日組合に対しその翌日到達した書面をもつて該協定取消の意思表示をしたことを認め得るから、右協定は無効に帰したものといわねばならない。従つて一方的に会社のなした前記臨時休業、工場閉鎖ならびに解雇が前記協定に違反するものであるとの組合の主張は理由がない。ところが、会社が組合員を解雇した当時においては、前記認定のように、経営が相当窮迫していて、全然人員を整理せずして賃金ベースを七、〇〇〇円に引上げるということは、到底実行不可能であつたにしても、それは、組合において、あくまで七、〇〇〇円ベースの要求を固持することを前提とするもので、しからざる限り、即座に全員を解雇せねばならぬ経営上の事由があつたものとは認め難いし、また社員、工員全員を右認定のような理由で解雇している点よりみて、組合員が不当な争議行為をしたことに基くものとも解し得ない。そうだとすれば、会社のなした右解雇は、表面上の理由はともかく、実質的には、過当な要求を固持してあくまで闘争せんとする組合側の行過ぎに対し、その反省を促すと共に組合の闘争力の劣弱化を企図してなされたものと推断するのほかはない。従つて右解雇は労働組合法第七条第一号に該当する無効のものといわねばならない。しかして、疎明資料によると相当数の組合員が争議団より離脱したことが認められるが、それと共に前記のように六〇名余の者がいぜんとして闘争を続けている点よりみて、組合員全員が解雇予告手当等を受領したことの一事によつて、直ちに解雇を承認したものとは認め得ない。されば、解雇の有効なることを前提とする点は被保全権利の存在につき疎明がない。そこで、組合の争議行為としてのストならびにこれに続く生産管理が違法なものであるかどうかについて考えてみるのに、前記認定のように、組合指導者の態度が余りに闘争的であつたがために、争議に際して、しきりに違法な行為が繰返され、従つて争議行為の総体が暴力的傾向を帯びる場合には、右争議行為を全体として違法とみなければならない。とすると、会社のなした前記臨時休業や工場閉鎖が、よし、組合側の過当な要求の固持ないしは行過ぎの行動に対し反省を促す対抗手段であり、従つて事実行為を伴わなければならないものとしても、そのこととは別に、違法な争議行為たるストならびに生産管理の手段としてなされ、かつ現になされている工場占拠は、また当然に違法なものであるといわねばならない。ついで、疎明資料によれば工場を占拠せる争議団は、会社側が工場内の事務所に入ることをも拒否し、受註もないのに一部機械を動かしたり、半製品を工場外に持出したり等して、会社の業務を妨害していることが一応認められる。よつて、結局本件申請は、その被保全権利および仮処分を必要とする事由の在在につき疎明十分であるから、これを認容すべきものとし、主文の通り決定する。
(裁判官 古川静夫 中島誠二 谷口照雄)