神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)100号 判決
原告 福田兵蔵
被告 滝口かよ子
一、主 文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対して兵庫縣武庫郡鳴尾村小曾根字千歳七十三番地上の木造瓦葺二階建住宅一棟建坪十八坪四八、二階坪十坪八九の家屋を明渡さねばならぬ、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求めその請求原因として
原告はその所有にかかる前記家屋一棟を訴外堤中敬造に対して賃貸借の期間を定めず、家賃一ケ月金八百円毎月末日限り持參支拂の約定で賃貸したところ被告は何等原告の承諾を得ることをせずに右堤中から家屋一部の轉貸を受けたと称して原告に対抗し得る権原なく不法に右家屋の二階並に階下一部に不法に占拠しているから被告に対してこれが明渡を求める」と述べた。<立証省略>
被告は原告の請求を棄却する旨の判決を求め答弁として原告がその主張の家屋を堤中敬造に賃貸し被告が右堤中方に同居している事実はこれを認めるが右同居については訴外田中堅藏を通じて原告の承諾を得ているものであると述べ、証人田中堅藏の証言を援用し甲号各証は不知と述べた。
当裁判所は職権を以て被告の身分関係について調査をした。
三、理 由
当裁判所が職権を以て調査したところによると被告はアメリカ合衆国の軍人で現在東京の軍病院に入院療養中のウイリアム・ジヨン・シヤンターグと本訴提起後の一九五〇年(昭和二十五年)十月十七日に正式に婚姻し、アメリカ合衆国官憲によりその旨の確認を受けているものであつて右の事実は被告本人に対する審訊の結果並に被告から提出にかかる婚姻証明書及鳴尾村警察署長の調査報告書を綜合してこれを認めることができる。
そうすると被告は一九五〇年(昭和二十五年)十月十八日附の連合国最高司令官総司令部から日本政府に対する民事及刑事裁判権の行使と題する覚書の一、a項、b項に定められている連合国軍人に随伴する近親者及び被扶養者として同本文にいわゆる占領軍要員に該当するものであるから同覚書八、により日本の裁判所は被告に対していかなる種類の民事裁判権をも行使することを禁ぜられていることは明であるから被告に対する本件訴は裁判権がないものとしてこれを却下すべきであり、なお訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおりに判決をする。
(裁判官 河野春吉)