大判例

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神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)313号 判決

原告 森欣一

被告 小畑市太郎

一、主  文

被告は原告に対して、別紙目録<省略>記載の株券を引渡せ。もし、右株券を引渡すことができないときは、引渡しに代えて金一一〇、五〇〇円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金三〇、〇〇〇円の担保を提供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は別紙目録記載の株式の株主であり、これを自宅に保管していたところ、昭和二四年一二月八日頃盗難に罹つた。その後、原告は右株券の行方を探していたが、被告が現に右株券を占有していることが判明した。よつて、被告に対して、株主として、右株券の引渡しを求め、もし被告において右株券を引渡すことができないときは右株券の時価相当の損害金である一一〇、五〇〇円の支払いを求める。仮に、原告が右株式の株主でないとしても、原告は右株券の所有者であるから、所有権に基いて、前記給付を求める。よつて、本訴に及んだ次第である。と述べ、被告の抗弁事実をすべて争い、仮に被告主張のごとく、被告がその主張の日木村峯一に金五〇、〇〇〇円を貸与し、その担保として、右株式に質権を設定して木村よりその引渡しを受け、且つその時右株券に森の裏書があつたとするも、右裏書は偽造であり被告はその事実を知つていたのである。もし、知らなかつたとするも、その際、被告において、右裏書の森の印影と右株券発行会社への株式名義人としての森の届出印とを照合して調査をすれば右裏書が偽造であることが直に判明したのにその調査をしないで右引渡しを受けたのであるから昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二二九条第二項にかんがみ過失あるものであり被告は右株式につき適法に質権を取得したものではない。したがつて、それにつづく競売手続が適法になされたとするもすべて無効である。仮に然らずとするも、競落の際には既に被告は、右裏書の偽造であることを知つており、仮に知らなかつたとしても被告において、前記裏書の真否につき前述のごとき調査をしたならば直にその偽造であることが判明したのにその調査をしなかつたのであるから知らなかつたことについて被告に過失がある。と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、被告が原告主張のごとき株券を占有していることは認めるがその他の事実は全て争う。被告は次のような経緯によりすでに右株式の株主となり、株主として右株券を占有しているのである。即ち、被告は訴外染田迪夫の仲介により、昭和二四年一二月一一日頃訴外木村峯一に金額五〇、〇〇〇円支払期日昭和二四年一二月二三日支払地振出地大阪市支払場所富士銀行北浜支店振出人木村峯一なる約束手形の割引貸付をなし、その担保として、右株式に質権を設定した。而して、その際右株券にはその名義人森の被裏書人白地の裏書があつたから被告は右株券の所持人木村をその譲受人と信じて右株券の引渡しを受けたのであり、且つその間に何んらの過失がないから被告は善意無過失に右株式の上に質権を取得したのである。然るに、木村は支払期日に至るも右手形金を支払わなかつたので、被告は昭和二五年二月末頃右質権に基き大阪地方裁判所執行吏に右株券の競売を申立てた。次いで、同年三月七日その競売手続が行われ、被告は自らその競落人となり善意無過失に右株券を取得したのである。と述べた。<立証省略>

三、理  由

真正に成立したと認められる甲第一号証、証人南外次郎、同富田三芳の各証言及び原告本人の供述によれば別紙目録記載の株式は原告が森ふく、森篤子の名義を借りて株式引受及び株金払込みをなし且つその保管をしていたものであるところ、原告主張の頃盗難にかかつたことを認めることができる。右認定はこれを覆えすに足る証拠はない。而して、他人名義を以て株式を引受けた場合においては名義人ではなく実質上の引受人がその株主となると云わなければならない。蓋し商法第二〇一条第一項は単に他人名義の使用者に株金払込の責任を負わせたのみでなく、進んでその者が株主となることを規定したものと解するを相当とするからである。よつて、本件株式の株主は原告であると云わなければならない。もつとも、昭和二五年法律第一六七号による改正前後の商法第二〇六条にかんがみ、原告が、その株主であることを会社に対抗するには株主名簿に、第三者に対抗するには右株券にそれぞれ自己の氏名を記載しなければならないが右にいわゆる第三者中には株式についての無権利者は含まれないこと、換言すればかかる無権利者との関係においては、原告はその氏名を株券に記載しなくとも株主であることを対抗できることは勿論である。而して、被告が現に右株券を占有していることはその自認するところであり成立に争ない乙第一号証の一、二証人染田迪夫の証言により真正に成立したと認める乙第二号証、右証言及び証人木村峯一の証言の一部を総合すれば、被告がその主張の日木村峯一にその主張のごとき約束手形の割引貸付をなし、その担保として、右株式に質権を設定して木村よりその引渡しを受けたこと、その際右株券の裏書欄に被告主張のごとき森と云う印影があつたこと及び木村はこれより先、小林と自称する者から右株式を担保として金融仲介方を依頼されたので、染田某を紹介したところ、その後同人より右森という印影が株式発行会社に対する届出印と相違していることを指摘されたので会社及び原告方に就いて調査した結果右印影が右小林と自称する者の偽造に係り会社に対する届出印と相違することを知りながら染田よりこれを引取る一方、これを被告に担保として交付して前記のように手形割引を受けたもので、被告もまた木村より右株式の引渡しを受けるにあたつて右印影の相違する事実を知つていたことを認めることができる。木村の証言中右認定に反するところは信用し難くその他にはこれを覆えすに足る証拠はない。したがつて、被告は悪意の取得者であつて、右質権設定は無効であると云わなければならない。而して、右質権設定後たとえ被告主張のごとく適法に競売手続が行われ、被告がその競落人となつたとしても、質権に基く競売手続は債務名義のごとく確定した権利に基く執行手続でないから、その競売手続の根本となる質権が前述のごとく無効な場合はその後の手続はすべて無効であり、そのかぎりにおいて、競落人である被告の善意無過失による株券の取得を容れる余地はないのである。仮に、質権に基く競売手続において、善意無過失による即時取得がありうるとしても、本件株券の裏書が偽造であり、その点につき、競落人である被告が悪意であること前述のごとくであるから、いずれにしても、被告が競落により右株券を取得し得ないこと極めて明かである。而して、原告は、その名義を右株券に記載しなくとも、右株式の株主であることを、それにつき全くの無権利者である被告に対抗できることは前に説明した通りである。よつて、被告は原告に対して、右株券を引渡し、また、右株式の口頭弁論終結の日の株価が一株八五円であることは真正に成立したと認める甲第五号証により認めることができる。したがつて本件株式の総価額が金一一〇、五〇〇円であることは算数上明かであるから、被告において、右引渡しができないときは、その引渡しにかえて、右金一一〇、五〇〇円の損害金を支払わなければならない。よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 古川静夫 西村哲夫 田尾桃二)

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