神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)344号 判決
原告 金海祥展 外四名
被告 芦屋土地建物金融株式会社
一、主 文
被告と原告金海祥展、高橋惠美子間の神戸地方法務局所属公証人岩田彌太郎作成第四八一五八号抵当権設定金銭貸借契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行は、債権元金一一一、四二八円五七銭とこれについての昭和二五年二月二〇日以降の約定遅延利息金とを超える部分については、これを許さない。
原告等のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを十分しその一を被告の負担とし、その余を原告等の連帶負担とする。
当裁判所が本件について昭和二五年五月六日にした強制執行停止決定は、これを認可する。
前項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
原告等は「主文第一項記載の債務名義に基く強制執行はこれを許さない、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のように述べた。
「被告は、昭和二五年一月二〇日神戸地方法務局所属公証人岩田彌太郎作成第四八、一五八号抵当権設定金銭貸借契約公正証書の執行力ある正本を債務名義として、昭和二五年四月二六日原告金海祥展及びその他の原告等先代高橋惠美子に対して強制執行を行つてきた。右の公正証書による契約の内容は、高橋惠美子が被告から昭和二五年一月二〇日金三万円を借受け、原告金海が債務者高橋のため連帶保証人となつたものであつて、その利息は月一割五分、返済期は昭和二五年二月一九日ということになつているが、債務者高橋が被告から現実に受取つた金銭は、一三万円に対する月一割五分の利率による一月分の利子を天引された金一一〇、五〇〇円にすぎない。從つて右債務名義記載の金一三万円については消費貸借は成立していないのであるから、右債務名義による執行は許されるべきでない。
なおまた前記債務の弁済期は昭和二五年二月一九日の約であるが、それまでに返済の見込が立たなくなつたので、原告金海は昭和二五年二月末頃、すでに右債務について抵当物となつていた同原告所有の建物を賣却し、その代金を以て右債務の弁済にあてるべく、被告にその旨申出たところ、被告はこれを承諾し、被告が代つて右建物を賣却すること、その賣れるまでは、本債務の弁済期を延期することと合意ができ、原告は被告に右建物賣却の委任状を渡したのである。從つて右建物がまだ賣れていない現在では、本債務の履行期も到來していないわけであり、この点からいつても、被告の本件債務名義による執行は許されるべきでない。なお原告金海以外の原告四名は昭和二五年八月二六日死亡した債務者高橋惠美子の相続人である。)
被告は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として次のように述べた。
「被告と高橋惠美子、金海祥展間に原告主張通りの債務名義が存在し、被告がこれに基いて原告等主張通り強制執行をしたこと、右債務名義の内容をなす契約が原告等主張の通りであつて、被告の交付した金銭が月一割五分の率による一三万円に対する一月分の利息金を差引いた金一一〇、五〇〇円であることは認める。然し、被告は「貸金業等の取締に関する法律」により大藏大臣の認可を受けた正規の貸金業者であり、しかもかくの如き貸金業者の行う貸金利子については月一割五分の率が公認されているのであるから、被告が原告主張の利率による一月分利息金を天引していても債権元金一三万円についての消費貸借は有効に成立する。
また被告は、原告等主張の建物賣却方の委任を受けたことはあるが、そのため本件債務の弁済期を延期したことはない。すなわち原告等の主張は理由なく、本件債務名義は完全に有効な執行力をもつのである。」
<立証省略>
三、理 由
被告と高橋惠美子、原告金海祥展との間に原告等主張通りの債務名義が存在すること、原告金海を除くその他の原告四名が右債務者高橋惠美子(昭和二五年八月二六日死亡)の相続人であることは当事者間に爭がない。そこでまず被告と原告金海、高橋惠美子との間に右債務名義記載の金額につき消費貸借が有効に成立したかどうかについて判断する。この点について昭和二五年一月二〇日被告は高橋惠美子に金一三万円を貸與することとし、高橋はこれを昭和二五年二月一九日弁済することを約し、原告金海は右債務につき連帶保証人となつたのであるが、その際被告は右金一三万円のうちから、これに対する一割五分の金員を一月分の利息金として差引いた残額一一〇、五〇〇円のみを交付したに過ぎないものであることは当事者間に爭がない。消費貸借はいわゆる要物契約なのであつて、目的物が現実に債務者に交付されるか、または少くとも現実に債務者に交付されたと同じ経済上の利益が與えられねば有効に成立しないのであるが、本件において債権者債務者間に現実に授受のあつたのは金一一〇、五〇〇円であり、これに加えて一月分の利息金の先拂がなされているわけであるから、その利息金が法の認める範囲内である限り、債務者について現金の交付を受けたと同様の経済上の利益が與えられたものと見ることができる。そしてこの場合法の認める利息とは、利息制限法の規定する年一割でなければならない。なるほど貸金業等の取締に関する法律によれば貸金業者の金銭の貸付の利率については特別の規定があり、成立に爭のない乙第一、四号証によれば被告が同法にいう貸金業者であることは明かであるが、同法第八條によつて準用される臨時金利調整法第二條以下の規定による貸金業者の貸付の利率についての定めが未だ正式になされていないことは裁判所に明かなところである以上、被告の如き貸金業者についても一般と同じく利息制限法の適用があるものといわれねばならない。大藏大臣が被告から提出された貸金業者の届出を受理するにつき、その現実になす貸付金利が日歩五〇銭または月一割五分の範囲内であることを受理の要件とし、逆にいえば正規の貸金業者については同率の金利を暗に認めるような処置をとつたとしても、それは貸金業等の取締に関する法律に定める業務停止処分或は同法違反としての起訴処分などの行政処分をするについての一標準となることはあつても、大藏大臣にはかかる利率を定める権限はないのであるから右のような大藏大臣の処置を以て同法第八條で準用する臨時金利調整法第二條以下の金利の最高限度を定めたものと見るわけには行かないし、その他右の事情を以て被告の如き貸金業者については利息制限法の適用がないものと解する根拠とするわけにも行かない。そうすれば、被告とその債務者高橋間に有効に成立した消費貸借契約の金額は、現実に授受のあつた金員すなわち一一〇、五〇〇円が年一割の利率による一月分の利息金を差引いた額となるべき元金額であり、これが金一一一、四二八円五七銭になることは算数上明かで本件債務名義中これを超える元金部分については有効な債務は存在せず、從つて、そこに表示せられている元本一三万円は有効に成立した消費貸借の元本と相違するが、かかる経緯の下に成立した消費貸借後の表示として同一性を失はぬものと解すべきである。しかして右元金に対する弁済期昭和二五年二月一九日までの利息金は前記のようにすでに支拂ずみであつて、これまた現在その支拂義務はないのであるから、本件債務名義上叙上有効な元本を超過する部分及右支拂済の利息に関する部分は執行力を欠くわけである。しかし、前記弁済期日を遅滯した場合の遅延損害金については、利息金の約定が月一割五分の約であつたことは当事者間に爭がないのであるから、遅延損害金も同率によるものとみられ、成立に爭のない甲第一号証(公正証書)にもその旨の約定記載があるのであるが、これは、前認定の如く被告は貸金業を営む株式会社であるから、遅延損害金については利息制限法の適用なく、また特に公序良俗に反する約定とも認められないから、右遅延損害金に関する約定は無効でなく、この部分についての債務名義は有効である。
次に原告等主張の弁済期延期の点について。成立に爭のない甲第三号証、乙第二、三号証と証人酒井きしゑの証言、被告代表者本人尋問の結果に、原告金海本人尋問の結果の一部を綜合すると、債務者高橋惠美子や連帶保証人である原告金海は前記債務の弁済期である昭和二五年二月一九日にその弁済をしなかつたので、被告からその支拂方を請求されたのであつたが、支拂資金がなかつたので、原告金海は右債務の担保に差入れていた同原告所有の建物を賣却しその代金を以て弁済しようと思い、被告にその賣却を委任する旨申出たので、被告も債務者等に弁済資金がないならば、右建物を賣却してその代金から支拂を受けるのが得策だとして、被告においてもその賣却方について努力することとなり、原告金海からその旨委任を受けることを承諾した事実が認められるが、それは結局被告において本件貸金取立を容易確実にするため、債務者等に弁済資金を入手させる手段としてとられた便法にすぎないのであつて、右の事実から本件債務の弁済期が右建物の賣れるまで当然延期されるべきものとは解されないし、その際特に右建物の賣れるまで弁済期を延期する合意が成立したことについては原告金海本人尋問の結果中そのような供述があるが、これは前記各証拠に照して信用できず、その他この点に関する原告等の主張を証するに足りる証拠はない。そうすれば、本件債務は当初の約束通り昭和二五年二月一九日その弁済期が到來しているわけであるから、未だその履行期が到來していないとの原告等の主張は採用できない。
すなわち、原告等の本訴請求は、前段に説明したように、元金について一一一、四二八円五七銭を超える部分と、昭和二五年二月一九日までの利息金部分(同月二〇日以降の遅延損害金についても右の金一一一、四二八円五七銭を元金として計算するべきことは勿論であるが)について本件債務名義に基く執行の不許を求める部分は正当であるからこれを認容すべきであるが、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二條を、本件についてなされた強制執行停止決定の認可取消について同法第五四八條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 北後陽三)