大判例

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神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)75号 判決

原告 相沢高尚

被告 中村静子

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和二十四年二月四日なした強制執行停止決定はこれを取消す。

前項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告を申立人とし訴外相沢宮古を相手方とする神戸簡易裁判所昭和二四年(ユ)第一七八号家屋明渡等調停事件につき同年八月二十三日成立した調停調書の執行力ある正本に基く神戸市垂水区西垂水町二二四番地上木造瓦葺平屋建居宅一戸に対する強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。

被告は、原告の母訴外相沢宮古を相手方として神戸簡易裁判所に請求の趣旨記載の家屋(以下本件家屋と略称する)明渡の調停の申立をし、同庁昭和二十四年(ユ)第一七八号家屋明渡等調停事件として昭和二十四年八月二十三日両者間に次のような条項の調停成立し、同日その旨の調停調書が作成された。すなわち、

一、相手方は申立人に対し本件家屋の内四畳半一室および六畳一室(但畳付の分)を昭和二十四年八月末日までに明渡すこと。

一、申立人は昭和二十四年九月一日よりその家族と共に右二室に入りこみ使用すること。

一、申立人は相手方に対し右家屋中応接間四畳半、六畳(但板敷)および八畳(板敷)の三室を昭和二十四年九月一日より昭和三十年一月末日まで無償にて使用せしめ、相手方と本件家屋に同居すること。

一、相手方は申立人に対し昭和三十年一月末日までに右家屋を無条件にて明渡すこと。

一、相手方は右家屋に対する昭和二十四年九月一日以降の家屋税および地代を負担すること。

一、右家屋に対する昭和二十四年九月一日以降の電燈料金はその三割を申立人その余の七割を相手方の各負担とすること。

一、右家屋に対する昭和二十四年九月一日以降の水道料金は双方において折半負担すること。

一、右家屋中前記各室以外の風呂場、炊事場、便所および玄関は双方共同使用することとし、これにつき便所の汲取料は相手方の負担とすること。

一、本件調停費用は各自弁のこと。

そして被告は右調停条項第一項に基き、右調停調書の正本に執行文の付与を受け、神戸地方裁判所執行吏にその執行を委任し、本件家屋の一部につき明渡の強制執行に着手した。しかしながら、本件家屋は原告の亡父訴外相沢高亮が昭和十七年十二月頃、被告の夫訴外中村嘉市からこれを賃借し、占有していたが、訴外高亮は昭和二十年六月九日死亡したので、同日同人の長男である原告はその家督を相続し、因つて本件家屋の占有権を承継取得した。したがつて、被告が訴外相沢宮古に対する債務名義である前記調停調書の執行力ある正本に基き、本件家屋に対しなさんとする強制執行は、原告の本件家屋につき有する占有権を侵害するもので失当であるからこれが排除を求めるため本訴に及んだ次第である。

被告訴訟代理人は主文第一、二項通りの判決を求め、答弁として次の通り述べた。

原告主張事実中、被告が訴外相沢宮古を相手方として神戸簡易裁判所に本件家屋明渡の調停の申立をし、同庁昭和二十四年(ユ)第一七八号家屋明渡等調停事件として昭和二十四年八月二十三日両者間に原告主張のような条項の調停が成立し、同日その旨の調停調書が作成され被告が右調停条項第一項に基き右調停調書の正本に執行文の付与を受け、本件家屋の一部につき明渡の強制執行に着手したことは認めるが、その余の事実は否認する。本件家屋は被告の夫訴外中村嘉市の所有名義となつているが、同人は昭和十七年頃島根県出雲一畑電鉄株式会社に勤務し、神戸市内に在住していなかつた関係上、同市内に居住していた被告は、同人から本件家屋の使用收益を委されていたので、この権限に基き本件家屋を被告が訴外相沢宮古に賃貸したものであり、原告の亡父および原告は訴外宮古と被告間に成立した右賃貸借により右宮古に附随して本件家屋に同居しているにすぎない。したがつて、原告は本件家屋につき占有権を有していないから原告の本訴請求は失当である。被告は訴外宮古との間に成立した前記賃貸借につき紛議が生じたので前記調停の申立をしたものである。

<立証省略>

三、理  由

被告が訴外相沢宮古を相手方として神戸簡易裁判所に本件家屋明渡の調停の申立をし、同庁昭和二十四年(ユ)第一七八号家屋明渡等調停事件として昭和二十四年八月二十三日両者間に原告主張のような条項の調停が成立し、同日その旨の調停調書が作成され、被告が右調停条項第一項に基き、右調停調書の正本に執行文の付与を受け、本件家屋の一部につき明渡の強制執行に着手したことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第二号証の二と証人中村嘉市、相沢宮古(第一、二回)の各証言および被告本人の供述を綜合すれば、本件家屋は訴外中村嘉市が鉄道省から受けた退職金で建てた同人所有のものなのであるが、同人は家族と別居してその再就職地である島根県に在住していた関係上、その家屋の管理一切をこれに住んでいた妻である被告に一任したところ、昭和十七年十二月被告は夫嘉市と同居すべく本件家屋から転出するに際り、周旋人萩原幸一にその賃貸の仲介を依頼した結果、同人は相沢一家に賃貸することに取決めたのであるが、その際別に家請書の差入もなく、貸主借主が誰であるかさへも明示されず、ただ右萩原はその家屋の所有者の代理人として相沢家の世帶主である当主に賃貸する意思であり、借りる方も暗黙のうちにまたそう解していたものと推認できるのであつて、(これに反する証人相沢宮古の証言と被告本人の供述は信用できない)当時相沢家には未だ原告の父であり戸主であつた高亮が在世中で、同人がその世帶主であつたことは成立に争のない甲第一号証と原告本人の供述により明かであるから、借主は同人であつたと認めるべきである。しかして同人が昭和二十年六月九日死亡し、原告がその家督を相続したことは右甲第一号証により明白であるから原告が右賃借人の地位を承継したことは勿論であるが、右甲第一号証と成立に争のない乙第二号証同第一及び第三乃至第七号証の各一、二、証人相沢宮古(第一、二回)同相沢広外の各証言、原告本人の供述とを綜合すれば、原告は右相続当時は未だ若年で勉学の身であつたので、その世帶の中心はむしろその母であり被相続人の妻である相沢宮古に移り、本件賃借権についても家主への折衝はすべて同人が当つた関係上、右賃貸当時管理人であつた被告は夫嘉市のために自己の名において本件調停を申立てるにあたり、実際上の世帶主として原告のため本件家屋の直接の支配をしている相沢宮古(当時原告は学生として京都に下宿していて本件家屋には時々帰宅する状態であつた)を相手取つたのであるが、原告家の実情が右次第であるから、右調停手続中その相手方の点につき終始何等の問題はなかつたのみならず、宮古は右調停に出頭するに先立ち、原告とも相談を遂げ、原告は、その調停が本件家屋明渡の目的で申立てられていることを承知の上で、その折衝と解決を母に一任したので宮古は原告の弟広外(当時満二十六年)を相談相手として伴つて出頭した上、円満妥結して前記調停が成立したことを推察できるのであつて、この認定に反する相沢宮古の証言や原告本人の供述は信用できない。

果してそうだとすれば、被告が夫嘉市のために自己の名において本件調停を申立てるにあたり、原告家の実際上の世帶主として本件家屋を直接支配し、従来から本件賃貸借に関し、本件家屋の管理人である被告との折衝に当つていた原告の母宮古を相手取つたのに対し、本件家屋の賃貸人である原告においても、右宮古が原告家の実際上の世帶主として本件家屋を直接支配し、従来から本件家屋の賃貸借に関し主として賃貸人との折衝に当つていた関係上、右宮古に前記被告の調停申立に応じ、その折衝と解決方を一任したので、右宮古は原告のため自己の名において本件調停の申立に応じ、円満妥結して本件調停が成立したものと認められるのであつて、右調停が有効であることは言を俟たないところであるし、又右調停は民事訴訟法第二〇一条により、前記原告家の事情に基き、本件家屋賃貸借に関する紛争解決のため母宮古にその名において原告のため本件調停の申立に応ずることを信託した原告にもその効力が及ぶから、原告は今更その内容に不服ありとし、本件強制執行につき第三者の地位に立ち、その占有権を以て、宮古と被告間に成立した調停の目的物を引渡すことを妨ぐべき権利ありと主張することは許されないものといわなければならない。

以上の理由により、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、借地借家調停法第一二条、民事訴訟法第五六〇条、第五四九条第四項、第五四八条第一項第二項に則り主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 北後陽三)

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