神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)902号 判決
原告 上原光秋
被告 東洋化成株式会社
一、主 文
被告は原告に対して金一万七千円を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は金五千円の担保を供して仮に執行できる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文第一、第二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、「原告は昭和二十四年四月三十日被告よりタイヤープレス一台の製作を、代金九万円で請負い、同日内入金として金三万円を受取り、残金は製品引渡と同時に支払を受ける旨約定し、右品は同年五月十五日製作の上納入したが、被告は右約定に反し同年六月一日金一万五千円、同月七日金一万一千円、同年十二月三十日金一万円、昭和二十五年五月十三日金五千円、同年六月二十六日金二千円合計金七万三千円を支払つたのみで残金一万七千円を支払わない。よつてこの支払を求めるため本訴に及んだ次第である。被告の抗弁は之を争う。」と述べた。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、「原告の主張事実は全部認める。しかし原告の納入したタイヤープレスは製作が不完全で使用不能のため、直ちに之が補修を請求したが、未だに原告は之に応じない。従つて被告は目的物の完全な引渡をなしたとは言えないから被告に請負代金の請求をすることはできないのであり、被告にはその支払義務はない。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告主張の日主張の請負契約が原被告間に締結され、その主張の日に目的物の引渡がなされたこと及び請負代金が原告主張通りに内払されたことは被告の認めるところである。
被告は、原告の納入したタイヤープレスは不完全で使用不能なるために原告にその補修を請求したところ之に応じないので残金支払義務はないと抗弁するが、前示の如く被告は昭和二十四年五月十五日原告からタイヤープレスを受取つてより翌二十五年六月二十六日迄の間五回に亘つて請負代金の内払をしており、証人上原珠子の証言と原告本人の供述によれば右内払に際して何等タイヤープレスが不完全なる旨異議を述べず、且引続き残金の支払日を指示しながら突然その支払を拒むに至つたもので、更に右タイヤープレスを製品の製作に使用したことが認められ之等の事実に徴すると、右タイヤープレスには被告の抗弁するような瑕疵があつたとは認められず、他に被告の抗弁を認むべき証拠はない。
被告は右抗弁立証のため、唯一の証拠として、証人村上憲治の尋問を申出で、当裁判所は同証人を尋問する旨の決定をなし、裁判長はその証拠調の期日を昭和二十六年四月二十四日午後一時と指定し、右決定ならびに命令は当日出頭した被告訴訟代理人に告知したが、民事訴訟法は昭和二三年法律第一四九号による改正後、当事者主義の原則によつて貫かれることになり、当事者本人尋問等若干の例外を除き、原則として職権による証拠調の制度は廃止され、証人の尋問も同法第二九四条により申出た当事者が先づ之を尋問すべく、裁判長の尋問は補充的な性質となり、証人尋問施行の全責任は当事者が負うことになつたが、このような権利と責任を持つ当事者がその申出た証人の尋問をすべき期日に、何等正当の事由もなく、反対の意思を表示することなく、出頭しないときは、証人が出頭したと否とを問わず、その当事者は最早やその証人の証拠調をする意思はないものと推測されるし、民事訴訟法第二六三条は裁判官の補充的権能を規定したにすぎないのであるから、かくの如き場合裁判所は進んで自ら尋問をすべきではなく、且その証拠調のためにのみ新期日を指定し、ために訴訟の遅延を来すおそれがある場合には同法第一三九条の精神に照して、その証人の尋問をすることなく審理を終結すべきである、と解すべきところ、被告本人も被告訴訟代理人も前記期日に出頭せず、同日裁判長は右期日を昭和二十六年七月七日午前九時半に延期し、その呼出状を同年五月七日当庁に於て、被告訴訟代理人に交付して送達したに拘らず、何等正当の事由もなく、被告本人其代理人はともに右期日にも出頭しなかつた。よつて被告は右証人の尋問をする意思がないものと推測され、且訴訟を遅延するおそれがあるので、唯一の証拠ではあるが当裁判所は右証人の証拠調をしないで口頭弁論を終結した。
以上の次第で原告の請求は理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を仮執行の宣言につき同第一九六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 村上幸太郎)