神戸地方裁判所 昭和25年(行モ)20号 決定
被申立人が昭和二十五年十月五日兵庫縣武庫郡本庄村と神戸市との合併を決定した処分は、申立人から被申立人に対する右処分の取消を求める本案判決確定に至るまでその執行を停止する。
(二) 申立の原因
申立人は兵庫縣武庫郡本庄村の住民であるが、被申立人は、昭和二五年十月五日、本庄村及び神戸市の申請に基き、兵庫縣議会の議決を経て、その合併を決定した。
しかしながら、被申立人のなした右合併処分は、次の理由により違法である。すなわち、申立人らにおいては、本庄村議会のなした神戸市との合併の議決が同村民の総意ではないとして、昭和二五年七月七日、選挙権者総数の三分の一以上のものの連署をもつて、本庄村選挙管理委員会に対し議会の解散を請求したところ、同委員会は、審査の結果、同月二五日選管告示第二九号をもつて、法定数二三〇五名を遙かに突破する二九〇三名の有効署名ありと決定し、ここに村議会の解散請求は成立した。しかるところ、細井重治郎外一三名が、同年八月一日、村選挙管理委員会に対し署名簿の署名に関し異議の申立をなしたところ、同委員会は、その申立を正当であるとして、代筆その他の理由により、署名簿中六六六名の署名は無効である旨修正決定した。申立人らは、右決定を不服として、これが取消を求めるため、神戸地方裁判所に訴を提起し、現に訴訟繋属中である。
このように、村議会の解散請求に関する紛議中に、被申立人がなした合併処分は違法である。そこで、申立人らは、被申立人のなした右合併処分の取消を求めるため訴を提起するとともに、被申立人の合併処分を現状の儘放置するにおいては、本庄村は数日を出でずして神戸市に合併されてしまう結果となり、償うことのできない損害を蒙るので、右本案判決確定まで、合併処分の執行の停止を求める。
四、理 由
日本国憲法は、主権が国民に存することを宣言する反面、憲法改正等重要な事項についてのみ国民の直接投票による過半数の賛成を要することとしたほか、国民は原則として自ら主権を行使するのではなくして、国会、内閣、裁判所等に属する公務員が、国民より、その主権を信託されて、これを行使することとし、その信託を担保するため国民は、固有の権利として、公務員を選定し、及びこれを罷免することができることと定め、一方地方公共団体に関しては、その議事機関として、住民が直接に選挙した議員をもつて組織する議会を設置すべく地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて法律で定めることとなし、地方自治法は、更にこれを具体化して、一定の重要事項についてのみ住民の直接投票による賛成を要することとしたほか、地方公共団体の意思決定につき、住民による直接支配を認めず、住民を代表する議会を通じて、これを決することとなし、議会が住民の総意を反映することを担保するため、住民に、当該地方公共団体の議会の議員を選挙する権利と、併せて、これと表裏一体をなすものとして、議会の解散及び議員の解職を請求する権利を認めている。すなわち、地方自治について、特段の定めのない限り、住民を代表する議会が、地方公共団体の意思決定をなすいわゆる代議政治形態が、原則として採用されているのである。しかして、地方自治法によれば、市町村の廃置分合は、関係市町村の申請に基き、これを包括する都道府縣議会の議決を経て、その都道府縣知事がこれを定め、内閣総理大臣に届出ることを要請するのみで、その関係市町村の全住民の直接投票による意思決定等はこれを要求する規定も存しない。しからば市町村の廃置分合について、その全住民による直接投票等によりその総意を問うた上でこれを決するのが政治的に至極妥当な措置であろうが、現行法上は、全住民の直接投票による総意を問うことなく、関係市町村が、その議会において合併を議決した上、その申請をなした以上、都道府縣知事は市町村の廃置分合に関する処分を適法になし得ると解するのが相当である。また、地方公共団体の議会の解散請求が成立するには、單に総選挙権者の三分の一以上の連署をもつて、その代表者から選挙管理委員会に対し解散の請求をなしたのみでは足りず、更に選挙人の投票に付し、その過半数の賛成があつた場合、その選挙管理委員会がその結果を公表した日において始めて、議会が解散することとなるものであつて、それまでは議会は存続し、有効にその権限に属する議決をなし得るは勿論、解散請求手続開始以前に遡及して既になされた議決の効力を、法律上当然に左右することはない。かゝる見解の下に、申立人らの主張事実を檢討するに、本庄村は、その議会において神戸市との合併を議決し、神戸市ととも、被申立人に対し合併の申請をなし、その後申立人らが本庄村議会の解散請求手続を進めていたところ、被申立人が合併処分をなしたというのであるから、その政治的当否は別として、右合併処分が直ちに違法であるとは断定し難い。果して然らば、被申立人の合併処分が違法であるとの申立人らの主張はそれ自体採用することができないから、本件行政処分執行停止の申立はこれを許すことができない。そこで、本件申立はこれを却下し、申立費用の負担について、民事訴訟法第八九條、第九五條を適用して、主文の通り決定する。
(裁判官 古川靜夫 西川正世 保津寛)