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神戸地方裁判所 昭和25年(行)23号 判決

原告 田中俊雄 外九名

被告 兵庫県知事

一、主  文

一、原告等の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告等の連帶負担とする。

二、事  実

原告等は、「被告が別紙目録記載の農地について昭和二十四年四月十五日附兵庫県報に告示してなした五年間売渡を保留する旨の指示はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のように述べた。

原告等は別紙目録記載の農地の耕作者であるが、右農地は自作農創設特別措置法により買收されたので、原告等は各その耕作地について買受の申出をし、別紙目録記載9、10の土地は原告田中俊雄が、同22は原告田中才一郎が、同73、74は原告浅尾房次郎が売渡を受けて、その所有権を取得し、その他も当然各耕作者である原告等に売渡あるべきものであるが、被告は、昭和二十四年四月十五日附兵庫県報に、右農地を含む尼崎市生島土地区画整理地区に対し自作農創設特別措置法施行規則第七条の二の三による五年間売渡を保留する旨の指定を告示して行つたため、右土地のうち、売渡未了の分についてはその後売渡手続が進められず、既に売渡済のものについてもその移転登記手続がなされず、原告等は重大な不利益を与えられている。

然しながら、被告の右指定処分は、次の理由により無效である。

一、右指定の根拠となつている自作農創設特別措置法施行規則第七条の二の三は、同法の趣旨目的に反する事項を定めた施行規則で無效の命令であり、從つてこの規則に基いてなされた被告の本件指定処分は当然無效である。

二、仮に右規則第七条の二の三の規定が有效なものであるとしても、この指定処分は被告の自由裁量処分でなく、一定の基準によつてなされねばならぬものであるが、本件指定は、その基準に該当しないから、無效である。

三、殊に別紙目録記載9、10、22、73、74の農地は、本件指定のなされた時はすでに売渡済なのであることさきに述べた通りなのであつて、このように売渡済の農地についてなされた本件売渡保留処分は法律上不能の処分で無效である。

右の理由により、本件指定処分は無效なのであるから、それは無效とはいえ形式上行政処分として一応存在するように見えるから、その取消宣言を求めるのである。

被告はまず「原告等の訴を却下する」との判決を求め、その理由として、

原告等は自作農創設特別措置法施行規則第七条の二の三によつて被告知事が行つた行政処分の取消を求めているのであるが、その処分のあつたのは昭和二十四年四月十五日であり、本訴の提起されたのは昭和二十五年四月二十五日で処分のあつた日から二月という法定の提訴期間後の提訴であるから、不適法な訴である。また原告等は、本件行政処分の根拠となつた右規則第七条の二の三の規定が無效であると主張するのであるが、それならばまず国を被告としてその無效確認を求めるべきであるので、兵庫県知事を被告とする本訴は不適法であると述べ、

次に、「原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として次のように述べた。

被告が昭和二十四年四月十五日、自作農創設特別措置法施行規則第七条の二の三の規定による指定を別紙目録記載の農地中9・10・22・73・74・を除く農地について行つたこと右9・10・22・73・74の農地が当時売渡済であつたことは原告等主張の通りであるが、被告は、右五筆の土地については売渡保留地の指定をしていない。すなわち、被告は一定の地域を指示しその地域内に存在する買收農地を売渡保留指定の対象とする指定方法をとつたのであり、右地域内には9・10・22・73・74も存在するのであるが、売渡保留指示の趣意からいつて、その指示は、当然右地域内にある売渡未済の買收農地についてのみその效力が生じるべきものとして行われたのであり、右のように、売渡済の農地に対しては、本件指定はなされていないのである。このような包括的指定をしても、ある土地が買收農地であるか、売渡未済の農地であるかは、何人にも明白な事実であるから、指定が不明確または、不確定となるおそれはないのである。

また、右の売渡済以外の農地についてなされた本件指定は、行政事件訴訟特例法にいう行政処分ではない。すなわち、右指定行爲は、單に自作農創設特別措置法により買收された農地のうち、市町村農地委員会がその売渡を保留することができる農地の範囲を示したものに過ぎず、右指定行爲自体は、直接、即時、対外的に売渡を保留する法的效果を生じるのでなく、市町村農地委員会が買收農地の売渡を保留するについての法的效果を発生せしめるに過ぎない。自作農創設特別措置法施行規則第七条の二の三にいう「売渡を保留する」とは市町村農地委員会が売渡計画樹立を保留することである。元來、売渡は、市町村農地委員会の売渡計画樹立処分が根本となつて政府の売渡が実現されるのであり、知事自身はこれを自ら代行する権限なく、監督的形式的権能あるに過ぎない。前記規定も直接知事に売渡を保留する権限を与えたものでなく、市町村農地委員会が売渡保留処分をするについての指針を与える行爲をすることを知事に認めたに外ならないのであつて、このように対内的な效果を発生するにすぎない指定処分を施行規則で定めるのは違法ではない。すなわち、右指定に基いて市町村農地委員会がする売渡保留処分により、対外的に国民の権利、利益は影響を受けるのであつて、それを爭うのは格別、国民に対して直接具体的にその権利利益に影響を及ぼさない本件指定行爲の取消を求めるのは行政事件訴訟特例法の認めるところではない。

三、理  由

まず提訴期間の点について、原告等は、本訴において、被告のした行政処分の取消を求めるという請求をしているので、それは行政事件訴訟特例法第二条の訴であり、從つて同法第五条の提訴期間の制限を受ける訴であるように見えるが、その本旨は被告の指定処分を以て、取消をまたずして当然無效な処分であるとし、その無效確認を取消宣言という形で求めているものであると解されるので、本訴は行政事件訴訟特例法第二条のいわゆる抗告訴訟ではなく行政処分の無效確認を求める訴として、同法第五条の提訴期間の制限を受けないものというべきである。

次にそうした訴における被告知事の当事者適格について、本件行政処分の主体、その效果の帰属者は結局において国なのであつて、その行政処分をした知事は国の機関としてこれをしたにすぎないのであるから、その效果の有無を爭う訴訟における正当な当事者は国であつて、知事ではないと一応いえるのであるが、それは、違法な行政処分の取消を求める訴においても理論上は同じなのであつて、ただこの場合について行政事件訴訟特例法第三条は行政廳に当事者としての資格を与えているので、同法第二条の訴については当該行政処分をした行政廳が被告となり得るし、被告でなければならないものとされる。然し、右第三条が国の一機関である行政廳に当事者としての資格を与えた理由は、主として、その行政処分をした行政廳がその訴訟について最もよく知識を持つており、訴訟遂行に便宜があるという点にあると思われるが、その理由は行政処分の有效無效を爭う訴訟についても同樣に妥当するのであるから、そうした訴訟においても同条を準用し、当該行政処分をした行政廳、本件では兵庫県知事を被告とすることも許されて然るべきものと解する。なお被告は農林省令である自作農創設特別措置法施行規則の無效を爭う本件においては、被告知事を被告とするべきではないというが原告等の爭つているのは、右規則に基く被告の行政処分の效力であつて、その理由として右規則の無效を主張しているにすぎず右規則自体の無效確認を求めているのではないのであるから、前述の理由により、右指定行爲をした兵庫県知事を被告とする本訴は適法なものである。

次に、被告は、本件指定行爲は行政訴訟の対象となるべき行政処分ではないと主張するので、右指定行爲の性質を考えて見る。右指定はどのような效果を持つものであるかというと、それは、自作農創設特別措置法によつて買收された農地については、通常ならば、同法第一六条の規定による売渡が引続き必ず行われるべきものなのであるが、右指定のなされた農地については、その売渡保留がなされ得るのであつて、市町村農地委員会は、右の指定を受けた農地については、一般の場合と異り、その判断によつて、或は、その売渡計画をたてることを保留することもできるし、また場合によつては、その売渡計画をたてることもできるのであり、知事についていえば、すでに売渡計画が確定されている場合でも、それに基く売渡令書交付処分をするか、これを一定の期間保留するかの選択ができることとなる。すなわち、右の指定は、売渡保留処分とは別なものであつて、それ自体が売渡保留の效果を生じるものではなく、將來別箇の機関である市町村農地委員会によつて行われる売渡計画の保留、或は知事が別箇の立場においてする買收令書交付の保留等に対する前提であるに過ぎず指定自体は、右のような保留がなされる可能性を設定するに過ぎない。そうして、一般に行政処分に対して訴を提起してその效力の有無を爭うものは、その処分により自己の権利または利益が侵害された者でなければならず、その処分は、直接人民の権利利益を侵害するものでなければならないのであり、これを本件について見ると、原告等がその主張のように、本件農地を耕作する者であり、その買受申込をしたものであり、右農地の売渡を受ける権利ないし資格を有する者であるとしても、本件指定処分自体によつて直接その権利を侵害されるのでなく、右指定によつて、市町村農地委員会ないし知事が売渡を保留して、はじめて、原告等は本件農地をただちに買受けることができないという不利益を受けることとなるのであるから、原告等は、本指定処分につきその権利利益を害されたものとして訴を提起し爭うことはできないものといわねばならない。それは、国或は自治団体の意思決定機関である議会等が特定の者に対していかに不利益な議決をしても、これを訴訟の対象として爭うことはできず、その執行機関が、右議決に基いて行政処分をした時はじめてその処分に対し訴を起せる関係と類似するといえよう。すなわち、本件指定処分は、被告のいうように、行政訴訟の対象となるべき行政処分ではないと解すべきであるから、その取消を求める原告等の本訴請求は、他の爭点を判断するまでもなく失当で棄却されねばならない。

そこで、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 北後陽三)

(目録省略)

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