神戸地方裁判所 昭和25年(行)51号 判決
原告 田中修
被告 神戸市須磨区農地委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「被告が昭和二三年一〇月一日公告した別紙目録記載の土地に対する買収計画の無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求原因として次のように述べた。
「別紙目録記載の農地は原告の所有であるが、被告は昭和二三年四月三日この農地につき自作農創設特別措置法による買収計画を樹立公告したので、原告はこれを違法とし、同月二一日異議を申立て同月二八日却下されたので、同年五月一二日兵庫県農地委員会に対し訴願した。ところが、被告は、原告の右訴願に対して何の裁決もなされず、従つてさきの買収計画が存在するにもかかわらず、昭和二三年一〇月一日重ねて別紙目録記載の農地を買収する計画を樹立公告した。
このように、一たん買収計画の樹立されている農地について重ねて定められた買収計画は無効であるから、その確認を求める。また現に訴願の対象となつている買収計画を取消す場合は、訴願者にその旨の通告をすることを要するものと解されるが、右第一次買収計画について原告は何らそれを取消す旨の通告を受けていないのであるから、それは有効に取消されたことなく存在していたものである。」
被告は主文と同じ判決を求め、答弁として次のように述べた。
「被告が昭和二三年四月一三日原告所有の別紙目録記載農地につき買収計画を樹立公告したこと、これにつき原告主張の如く異議申立、その却下、ならびに訴願がなされたこと、この訴願に対する裁決はなされずして、昭和二三年一〇月一日原告主張の買収計画が樹立公告されたことは認める。然し、昭和二三年四月一三日公告された買収計画は、本件買収計画公告の日より前の昭和二三年七月三日取消され、従つて、本件買収計画樹立当時は別紙目録記載農地について他の買収計画は存在しなかつたのである。すなわち、原告は前記訴願をしたころ右農地について仮処分の申請をし、昭和二三年五月一五日右土地について仮処分決定がなされたところから、その関係者間で互に交渉するところがあり、結局同年六月二一日に至つて原告や関係者間に取きめができたのであつたが、兵庫県農地委員会としては、右のような紛議の実情に鑑み、しばらくその裁決を延期していたため、右の買収計画において買収時期として定められた昭和二三年七月二日までには、右訴願の裁決はなされず、従つて右計画に対する兵庫県農地委員会の承認も同日までに得られる見込がなくなつたので、被告としては、これを取消すこととし、昭和二三年七月三日右買収計画を取消し、その旨公告したのである。
以上のように、本件買収計画樹立当時は、それに先立つ買収計画は有効に取消され失効していたのであるから、本件買収計画は適法有効なものである。」(立証省略)
三、理 由
原告主張事実は、昭和二三年四月一三日別紙目録記載の農地につき樹立公告された買収計画が、昭和二三年一〇月一日本件買収計画公告の当時有効に存在していたかどうかの点を除いて当事者間に争がない。そうして、成立に争のない乙第一、二、三号証によれば、右の昭和二三年四月一三日公告された農地買収計画は、これに対する訴願につき裁決がなされぬうち、その買収計画で定められた買収期日が切迫し、右計画に対する県農地委員会の承認が買収期日までに得られなかつたため、昭和二三年七月三日被告においてこれを取消(廃止)し、同日その旨の公告をしたことが認められる。右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実によれば、前記昭和二三年四月一三日公告された買収計画は同年七月三日有効に取消(廃止)されたものと認められる。原告は、これに対し訴願提起中なのであるから、訴願者である原告にその旨通告がなされぬ限り、買収計画は有効に取消されないと主張するが、買収計画の外部に対する発表、その効果発生は、公告の方法によりなされるものであることから見て、その取消或は廃止処分も公告の方法によつて外部に表示されれば足りるものと解する。そして、これはその計画に対して訴願がなされていた場合でも別異に解する理由はないものと考える。元来、目的土地所有者に対して、重大な不利を及ぼす買収計画の樹立においてさえも公告を以て足り、その所有者に対する個別的な通告は要しないものとされているのであるから、それ自体においては原則として所有者の利益となるべき計画の取消廃止について、特に、個別的な通告を要するものとする理由はない。訴願がなされている場合その訴願自体に対する裁決その他の処分が訴願者に対する通告を要するからといつて、買収計画自体に関する処分について、その通告を要するとはいえない。
そうすれば、本件買収計画の樹立公告された昭和二三年一〇月一日当時には、さきに同一農地につき定められた買収計画はすでにその有効な存在を失つていたわけであるから、その有効な存在を前提とする原告の主張は理由がない。また、さきの買収計画に対する原告の訴願が右買収計画の取消後も存続していたならば、訴願庁である県農地委員会は、これに対し何等かの裁決を与えねばならず、買収計画失効の故を以て、これを放置して足りるわけのものではないが、その裁決がないことが、本件買収計画を無効とするものとは解されない。
すなわち、本件買収計画を無効であるとする原告の本訴請求は理由がなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 細見反四郎)
(目録省略)