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神戸地方裁判所 昭和25年(行)56号 判決

原告 育波村農業協同組合

被告 兵庫県知事

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告が育波村農業会所有財産につき、原告と育波村第一農業組合との間の財産分割に関して昭和二五年三月八日附でした裁定を取消す、被告が昭和二五年四月二〇日附でした育波村農業会所有財産の処分認可の処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のように述べた。

「育波村農業会は、農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律(昭和二二年法律第一三三号、以下単に法と略称する)の規定により、昭和二三年八月一五日までに解散することとなつた。そして、右農業会の会員たる者の一部を組合員として原告組合が昭和二三年五月に、育波村第一農業組合(以下第一組合と略称する)が昭和二四年七月に設立された。それで、両組合は法第五条の規定により、右農業会に対し財産の分割を請求することとなつたが、法の施行に関する政令(昭和二二年政令第二八一号)第一条の規定する協議が調わなかつたので、昭和二五年二月四日同条の規定に従い、第一組合から被告知事に対し裁定の申請がなされ、被告はこれに対し、同年三月八日附で協議にかわる裁定をし、原告は、この同裁定を同月九日知つた。右の裁定は、農業会財産について、原告組合に帰属すべきものと、第一組合に帰属すべきものと、農業会に残存すべきものとの三に分つているのであるが、農業会所有の空地一九七坪二合の処分については、これを原告組合に帰属すべきものとも、第一組合に帰属すべきものとも定めず、農業会に残存せしめている。然しながら、裁定は農業協同組合にとつて必要欠くべからざる農業会財産の分割を求めるための手続の一としてなされるものなのであるから、本件空地のように、農業協同組合に必要不可欠の財産を農業協同組合に帰属せしめない、本件裁定は、右空地に関する範囲において未だ財産分割の裁定がなされていない未完成な裁定処分なのであつた。そこで、被告は、右裁定のぬけていた部分を補充完成する意味で、昭和二五年四月二〇日農業会の申請に基き同会が右空地を代金一二万円で、原告および第一組合に売渡す資産処分に対し認可処分をした。

然しながら、右の裁定、認可はいずれも違法である。まず裁定処分についていえば、農業会財産の分割は、法第五条第二項、同施行令第一条の規定によつて明かなように、原告組合員で農業会員たるものの持分の農業会員持分総額に対する割合に応じてなされなければならないのに、本件裁定は、この割合を無視して原告組合には、僅少の財産を分割し、他方同時に同一裁定の一当事者となつた第一組合に対してはその組合員の持分割合をはるかにこえて多額の財産を帰属せしめているので、これは全く法第五条に反した違法な裁定である。

本裁定はさきに述べたように、農業会の重要財産である空地については、これを農業会に残存せしめ、実質的に財産分割の対象から脱落し何等裁定をしていないので、無効である。

また本裁定は、原告と農業会との間の債権債務の処理について「農業会が原告に支払うべき貯金利息と、原告が農業会に支払うべき動産不動産の賃借料および有価証券経過利息預金経過利息とはこれを相殺し差引零とすると裁定しているが、それでは内容不明確で経理上の処理が不可能であり、不明確、不確定な処分として無効である。

次に前記資産処分認可は、さきに述べたように、実質的には、裁定を補充完成せしめる処分であるのに、これを法第二条の認可の型式でしたのは、処分の型式または内容を欠いた処分となるのであつて無効である。

また、右認可は、その対象土地の買受人である原告組合、第一組合との間に協議が調つたものとして農業会がその売却処分認可申請をしたのに基いてなされたのであるが、事実は協議が調つていないのであるから、無効または違法である。

また、右裁定と認可とは両者合して農業会の財産分割割合を定めるものであるから、前記裁定処分の違法は、ひいて後の処分である認可処分の違法を来す。

以上のように、本件裁定、認可はいずれも違法な処分であるから、その取消を求める次第である。

なお、本件裁定の取消を求める訴の提訴期間の点について原告は次のように主張する。

すなわち、原告が、右の裁定処分を知つたのは、昭和二五年三月九日であるが、さきに述べたように、右の認可処分は実質上右不完全な裁定を補足し完成せしめたものであつて、この両処分は合してはじめて農業会財産の分割を律する一の完全な処分となるものと解すべきところ、原告が右認可処分の存在を知つたのは昭和二五年九月中旬以降であるから、同年一二月二三日提起した本訴は、右裁定処分に対する関係においても提訴期間内に提起されたものというべきである。

このことは、法第五条、昭和二二年農林省令第六四号「農業団体の資産処分の制限等に関する件」同年八月四日附農林省農政局長の各県知事あて通牒「農業団体の資産処分の制限等に関する臨時措置の件」昭和二三年政令第二一五号「市町村農業会整理特別措置令」第六条の規定等から見ても明かなのであり、すなわち、右各規定等によれば知事の裁定は農業会の清算手続の最終段階においてなされるべく、裁定後残余財産に対する法第二条による処分認可はなされるべきでなく、本件土地に対する処分認可の如きも実は最終的になされるべき裁定中に脱落していた右土地の処分を決したので、実質は補足的裁定処分なのである。

さらに、被告は、昭和二五年六月一日附原告宛通牒「有価証券の処理に関する件」として「原告が農業会より譲り受けた有価証券の処理についてはその経営上より考慮して被告においてはかねてより第一組合に対してその一部の引受方をあつせんして来たのであるが、その問題は双方が協議して自主的に円満に解決することが協同組合運動および将来の組合運営上より見て適当と思われるので従来の経過よりして左記の通り基礎資料を提示するからこれを基礎として至急解決せられるよう特に申し進める、なおこの書面は同文のものを双方に送附してあるから参考のため申しそえる。

(一)  受け渡しする有価証券の限度、この問題の協議が成立した日現在において第一組合員が原告組合に預け入れしている貯金総額の範囲内

(二)  有価証券の受渡価額、原告組合が農業会より譲受けた価額

(三)  受渡方法原告組合は(一)の貯金を一括して第一組合へ払戻してこの見返りとして有価証券を引渡す。

(四)  「実行期日その他双方の協議による」なる内容の通牒を発し、これにより前記裁定の内容を自ら変更したので、農業会の財産分割裁定は、前記三月八日附裁定書、本件通牒、四月二〇日附認可処分により、完全な処分となつたのであり、右三月八日附裁定に対する取消についての提訴期間も結局原告が右三処分の存在を知るに至つた昭和二五年九月中旬を起算点として算定されるべきである。

以上の提訴期間算定に関する原告の主張が理由なしとしても、右裁定は、さきに述べたように当然無効な処分であるから本訴は提訴期間の制限を受けない。

また本件認可処分が法第二条の認可処分であつて、実質的に裁定処分をなすものでないとした場合、原告はその取消を求める本訴を提起する利益を有する。すなわち、農業会は右認可処分がなされるや、同会と原告との間に右土地の売買契約が有効に成立したとして、同会の原告に対する債務を右売買代金債権を以て相殺すると称し、原告に対する債務の支払をしないのである。このように、原告は右認可処分の存在によつてその利益を害されている者として、本訴を提起する利益を有する」

被告は主文と同じ判決を求め、本案前の抗弁として次のように述べた。

「まず、原告主張の裁定処分を原告が知つたのは昭和二五年三月九日である以上、原告がその取消を求める訴は、行政事件訴訟特例法の規定により、同日から六月内に提起されねばならないわけである。然るに本訴は右の提訴期間を過ぎた昭和二五年一二月二三日の提訴であるから、不適法な訴で却下されるべきである。なお、被告が、原告主張通りの裁定、認可処分をしたことは認めるが、被告が原告主張の裁定処分をするにあたり、原告主張の空地を裁定から脱落したことはない。それは原告主張の通り原告組合に帰属せず農業会に残存せしむべき財産として(それは将来農業会の清算費用や、残留農業会員の持分払戻用にあてる予定の財産として残された)裁定したのであり、もしその価格の割合が法所定の分割率を超えるものであつて右裁定を不当あるいは違法ならしめることはあつても、裁定から脱落したことにならないし、従つて裁定が完了していないことにもならない。右土地について昭和二五年四月二〇日になされた認可処分は、かくして、裁定後依然農業会財産として残された右土地を農業会が処分するについて法第二条の要求する知事の認可処分なのであつて、何ら裁定の実質を備えるものではない。

要するに、本件裁定は、農業会所有財産全部についてもれなくその分割方法を定め、原告あるいは第一組合に帰属すべきもの、農業会に残存するものと逐一明確にしているのである。従つて右処分に対する提訴期間の起算点は、原告がその処分を知つた昭和二五年三月九日より後であるべきでない。

なお、原告主張の昭和二五年六月一日附通牒は、原告主張のその内容自体から明かなように、原告組合の経営難打開の一方策として原告と第一組合とが自主的に協議するよう農業協同組合の指導監督者としての立場から被告が勧告したにすぎず、何らさきの裁定内容を変更したものでないから、これまた提訴期間の起算点を考えるについて無関係である。

次に、原告主張の認可処分について、原告は昭和二五年五月九日農業会に対し、右認可の対象である土地の代金を支払つているので、おそくともその日には右認可処分の存在を原告は知つたものであり、従つてこれについても本訴は提訴期間を経過した訴である。そればかりでなく、法施行に関する政令第二条の規定により明かなように、本件裁定がなされ、法第五条第二項の規定による財産帰属があつた以上、原告組合の組合員で農業会の会員であつたものは、農業会を脱退し、その農業会に対する持分の払戻を受けられなくなり、同組合員、原告組合は農業会の財産に対し何ら関係がなくなるのであつて、本件認可処分は農業会が分割後も所有する財産である本件土地を処分するにつき認可申請をしたのに対し、被告が同農業会に対し認可したので、原告はこれにつき何等利害関係なく、従つてその取消を求めるにつき正当な利益を有する当事者ではない。」

三、理  由

まず、原告主張の裁定処分について判断する。原告は、右裁定処分につき、農業会所有の財産のうち重要な資産である空地の分割帰属が定められていないので、無効であると主張するが、原告自らが主張するように、それは原告組合または第一組合に分割帰属するものとはされていないが、農業会に残存せしめられる分として裁定されているのであり、分割裁定の対象から全く脱落しているわけでないし、法の規定によつても、農業会の会員の一部を組合員とする農業協同組合に帰属すべき農業会財産は、その農業協同組合員となつた農業会員の持分の総持分に対する割合に応じて分割されるのであるから、農業会資産の一部が農業会に残存せしめられることは法の当然予期するところであり、原告主張の空地が農業会に残存せしめられるよう裁定がなされたとしても、それを含めた残存資産の総資産に対する割合が、残存会員の持分割合に相当していれば、その裁定は何ら違法でないし、またたとえその割合が残留会員の持分割合を超過していたとしてもそれは単にその裁定を不当または違法とするに止り、裁定において帰属を定めぬ財産があるわけでなく、従つてその裁定が完結していないものとして無効となるわけでもない。すなわち、この理由で本件裁定を無効と見るわけには行かない。

次に原告は右裁定の内容が不明確、不確定だというのであるが、原告主張の如き債権債務の処理方法が定められても、それは要するに、原告と農業会との間の右債権債務の精密な計算をすることなく両者の間の処理を互に簡明ならしめるため両者を全体として相殺して零としたので、その具体的数字を挙げなくても、それは法律上不能な内容を定めたものとは言えないし、債権債務の処理が不明確となるわけでなく、またかゝる分割処理の方法は著しい不公平を来さない限り無効となるとは考えられない。

以上のように、本件裁定に無効原因があるとの原告主張は理由がない。

そこで次に右裁定取消の訴は提訴期間経過後の訴でないかどうかについて考える。

原告が右裁定処分を知つたのが昭和二五年三月九日であることは当事者間に争なく本訴提起が同年一二月二三日であることは本件記録上明かであるから、右訴は行政事件訴訟特例法第五条の定める六箇月間の期間を経過した後の提訴であることとなる。

この点に関し、原告は、被告の認可処分は、実質的に本件裁定の一部であるから、右裁定処分に対する提訴期間は右認可処分の日を基礎として考えられるべきだというが、右裁定が原告主張の空地につき、これを全く裁定の対象としなかつたわけでないことは前述の通りである以上、右空地の処分を認可した本件認可処分を前記裁定を補充完成せしめた追加裁定だと解することはできないわけであるし、裁定と認可とが結局農業会解散後の、その所有財産の処分、清算という一の目的を達成するものであるとしても、そのように経済的社会的に一の目的に結びつけられているというだけでは、後行処分の日を以て、前行処分に対する提訴期間の起算点とすることはできない。後行処分が前行処分の瑕疵を引つぐといつても、それは法律上の一の手続をなす処分における後行処分に対する違法の理由として前行処分の違法を主張することができるというだけであつて、既に提訴期間をすぎた前行処分に対しても後行処分の提訴期間内は、取消の訴がおこせるというものではないし、元来本件裁定と認可とは、法律上一の手続をなす処分とは見られない。また原告は、裁定処分は、農業会の財産処理上最後の段階において行われるべきであり、法第二条の資産処分はその前において行われるべきものであるから、最終的に農業会の資産を処分する本件認可処分は、実質的に裁定と見るべきだと主張するが、さように解すべき法律上の根拠はない。市町村農業会整理特別措置令第六条も農業会より農業協同組合に承継せられるべき債務の債権者に対し、弁済その他の措置をとつた後でなければ、法第五条の財産分割をしてはならないことを定めるのみであり、その他財産分割後、農業会の財産処分を禁する規定はなく、むしろ、さきに述べたように財産分割後も農業会に残存すべき財産があることが法の予期するところである以上、その財産を処分するについても農業会は法第二条の認可を得なければならないので、分割後の処分認可の存することは、法の規定上明白であるといわねばならない。従つて、いかように解しても、本件認可が、実質上裁定処分の一をなすとの原告主張は採用できぬ。

さらに、原告は、被告は昭和二五年六月一日附通牒で本件裁定を変更したと主張するのであるが、原告主張の右通牒文言は、単に、原告組合が農業会から譲り受けた有価証券の処理について第一組合と協議して円満に解決するように申し進めるというのみで、前記裁定の内容を公権を以て変更したものとは到底解されない。被告のいうように、単なる勧告にすぎないものであることは、その文面上明かである。従つて、この点からも、右裁定取消の訴の提訴期間起算点を別異に解することはできない。

すなわち、原告の右裁定取消を求める訴は提訴期間を徒過して提起された違法な訴として却下を免れない。

次に原告の認可取消の訴について考える。まず、それが、前記裁定の一部またはこれを補足する処分でないことは前述の通りであるから、これは法第二条の規定する認可処分として右裁定とは別異独立の行政処分として解されねばならない。そうすれば、それは法第二条の規定で明かなように、農業会がその資産を処分するについて農業会に対してなされるもので、その相手方は農業会であり、原告組合ではない。また法の施行に関する政令第二条の規定する通り、法第五条第二項の規定による財産帰属がなされた後、その組合員で農業会の会員であつた者も農業会を脱退し、農業会からその持分の払い戻しを受けられないこととなり、これ等を組合員とする原告組合としても農業会の資産処分に関与できず、その処分によつて、利害に影響を受けることはないわけである。たまたま、本件認可を受けた処分が、農業会から原告組合に対する土地の売却処分であるとしても、事実原告と農業会との間にそのような売買契約がないのならば、被告の右認可処分は、単に農業会にその所有財産処分の権能を与えたに止まり、何ら原告に買受義務を発生せしめるものではないのであるから、右認可処分によつて、原告の農業会に対する代金支払義務が生じるわけなく、その農業会に対する債権が消滅するわけでもない。すなわち、原告は右認可処分についてその直接の効果を受ける相手方でもないし、これによつて影響を受ける法律上の利益をもつている者でもないのであるから、右認可処分の取消を求める訴を提起するについて正当な利益を有する当事者ではないといわねばならない。そうすれば、右認可の取消を求める原告の訴も、訴につき正当な利益を欠くものとして却下されねばならない。従つて、この訴については提訴期間の点について判断するまでもない。

以上のように、原告の本件訴はすべて違法な訴であるから、これを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 村上幸太郎)

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