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神戸地方裁判所 昭和27年(行)15号 判決

原告 文谷忠 外二名

被告 明石市選挙管理委員会

一、主  文

被告が昭和二七年七月三一日明石市長解職請求者署名簿の署名に関する原告等ほか六名の異議申立に対してなした決定のうち、

別紙第一目録記載の二番、(中略)二四二九七乃至二四三七五番、

別紙第二目録記載の四二番、(中略)二四三一五番、

別紙第三目録の二五五八乃至二七六四番(中略)二四〇一六番、

別紙第四目録の一六八三四番、二四二八二番

別紙第五目録の一七〇〇四番、一七八四八番

の署名(合計六五二一名)に関する部分を取消す。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告等の負担とし、その余を被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二七年七月三一日明石市長解職請求者署名簿の署名に関する原告等並びに外六名の異議の申立に対してなした決定の中別紙第一目録記載の七二〇八名(訴状添付第一目録に七一〇三番藤井五子とあるは小山やく、九三六三番内川きよことあるは米谷よしえ、九六四二番鐘谷梅太郎とあるは鐘谷正子、一七六二一番鷹浜きくえとあるは鷹浜文蔵、二二五六二番小川セキとあるは小川秋夫の誤記と認める。)第二目録記載の一六二一名、(訴状添付第二目録に一一七三六番長谷川達六とあるは長谷川勇次郎の誤記と認める。)第三目録記載の一六二名、第四目録記載の五四名、第五目録記載の五名、第六目録記載の七〇名に関する部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告等は明石市長解職請求の代表者であるが、明石市長解職請求者署名簿に選挙権を有するものの三分の一である二〇七一九名を超える二四三九八名の署名捺印を得、昭和二七年六月二一日右署名簿を被告に提出して、右署名捺印をしたものが選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたところ、被告は右署名のうち一〇三四二名の署名を有効、一四〇五六名の署名を無効と決定し、その旨の証明をした上右署名簿を関係人の縦覧に供した。よつて、原告等並びに外六名の代表者は縦覧期間内である昭和二七年七月一七日被告に対し異議の申立をしたところ、被告は同年七月三一日前記無効と決定した署名のうち四〇一四名の署名について原告等の申立を正当と決定したけれども、別紙第一目録記載の七二〇八名の署名については本人の自筆ではない。別紙第二目録記載一六二一名の署名については昭和二六年一二月二〇日確定の基本選挙人名簿に登載されていないものの署名である。別紙第三目録記載の一六二名の署名については印形不鮮明で何人のものであるか確認できない。別紙第四目録記載の五四名の署名については捺印漏れである。別紙第五目録記載の五名の署名についてはその署名者が何人であるか確認できない。別紙第六目録記載の七〇名の署名は請求者署名収集委任状に請求代表者古村徳一郎の印が脱漏しているとの理由により無効署名と認めて原告等の異議を棄却し、右決定は同年八月四日原告等に通知された。

しかしながら右第一乃至第六目録記載の署名は次のような理由で有効であるから、前記棄却の決定は違法である。

すなわち、

別紙第一目録記載の署名はいずれも本人の自筆である。

別紙第二目録記載の署名中別紙第七目録上欄記載の署名はいずれも下欄記載の通り選挙人名簿に登載されているものの署名であり、その余の署名もいずれも前記名簿に登載されているものである。

別紙第三目録記載の署名中二四七六番梅谷半治、二六一七番仁科よしの、二七六四番内藤ますえ、六一三八番魚住春夫、一四九二一番山中市太郎、一五一六五番高橋哲男、二二二三〇番池田ふで、二二七六六番字和田知恵、二三九〇七番安藤いし、二四〇一六番一徳庄吉はそれぞれ名下に拇印をしているものであり、その他の署名についても押印が署名者の印影であることが明認されるものである。

別紙第四目録記載の署名はいずれも捺印漏れではない。

別紙第五目録記載の署名はいずれも何人の署名であるか解読できるものである。

別紙第六目録記載の署名については解職請求者署名収集委任状に請求代表者のうちの一人の押印がなくとも右署名を無効とする理由とはならない。すなわち、解職請求者署名簿の署名の収集は請求代表者が数人存在する場合においても、請求代表者が各自単独でこれをなしうると解すべきものであるから、右署名の収集を委任することも各自単独でなしうる筈であるし、請求代表者が二人以上あるときは委任状にはすべての代表者がその氏名を記載し、印を押すことを定めた地方自治法施行規則第九条の委任状の様式の備考は請求代表者が各自単独で署名の収集を委任することを禁止したものではなく、単に手続錯雑防止の見地からする準則に過ぎないのであるから他の請求代表者の押印があり古村徳一郎に委任の意思がある本件の場合においては、単に右様式に反するとの理由から委任状の効力を否定すべきではない。

以上の次第であるから、被告が有効とした前記の署名に別紙第一乃至第六目録記載の署名を加えると、明石市長解職請求者署名簿の署名は選挙権を有するものの総数の三分の一以上に達するから、原告等は被告の前記決定のうち別紙第一乃至第六目録記載の署名に関する部分の取消を求める為本訴に及んだと述べ、

被告の本案前の主張に対し、地方自治法第七四条の二第四項の署名簿の署名に関し異議を申立てうる関係人とは地方公共団体の長及び議員の選挙権を有するものを指称するものであるから、明石市の長並びに議員の選挙権を有する原告等は異議の申立並びに本訴を提起する権利がある。仮りに右法条の関係人には右のような一般の選挙有権者を含まないとしても、原告等は明石市長解職請求者の代表者の一部のものであるが、代表者が数人存在する場合においては、全員合同するのでなければ、異議の申立並びに訴訟を提起できないとした規定は存在しないから、原告等は各独立して本訴を提起できるものである。したがつてこの点に関する被告の主張は理由がないと述べ、

被告の答弁に対し、「被告主張の署名が第三者の収集に係るものであるから無効であるとの主張は争う、仮にそうであるとしても、被告は右の理由でその主張の署名を無効と決定したものではないから、本訴においては右のような決定理由と異なる無効事由を主張できない。」と述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は本案前の答弁として「原告等の本件訴は却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との裁判を求め、その理由として、「地方自治法第七四条の二第四項の署名簿の署名に関し異議の申立権がある関係人とは解職請求代表者、被解職請求者署名者等、署名に直接利害関係のある者を指称するものであるから、請求代表者は適法に署名簿の署名の効力に関し争訟を提起することができるわけであるが、請求代表者が二人以上存在する場合においては、地方自治法、同法施行令等の関係法令の規定の趣旨より推考すると、請求代表者は常に全員合同してのみ行為を為しうべきものであるから、署名簿の署名の効力に関する争訟の提起についても全員合同してのみこれを為しうべきこと多言を要しない。したがつて請求代表者の一部の者である原告等の提起した本訴は不適法である。」と述べ、

本案について、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告等の主張事実中、原告等が明石市長解職請求代表者であること、原告等がその主張の日その主張数の署名押印のある署名簿を被告に提出し、右署名者が選挙人名簿に登載された者であることの証明を求めたこと、被告は原告等主張の日その主張のような決定をなし、その旨証明した上署名簿を関係人の縦覧に供したこと、右決定に対し原告等並びにほか六名の請求代表者より原告主張の日に被告に対し異議の申立をなし、被告は原告等主張の日無効と決定した署名の中四〇一四名の署名について原告等の申立を正当と決定し、原告等主張の別紙第一乃至第六目録記載の署名に関する部分の決定を棄却したこと、右決定は原告等主張の日原告等に通知されたこと、原告等主張の右第一乃至第六目録記載の署名無効理由はその主張の通りであつたこと、原告等が署名簿に署名印を求めた当時選挙権を有するものの総数の三分の一は二〇七一九名であつたこと、基本選挙人名簿に原告等主張の第七目録下欄記載のような登載のあることはいずれも認める。

原告等主張の右第一乃至第六目録記載の署名は次の理由から無効である。

別紙第一目録記載の七二〇八名の署名は他の署名と同一筆跡であるところから本人の自署と認められない無効の署名である。仮にそうでないとしても、右署名中二一一七番秋定福太郎(中略)一八六九五番橋本もゝえの各署名は請求代表者である原告等並びにほか六名から署名を求めることを委任された正規の署名収集人によつて収集されたものではないから無効である。

別紙第二目録記載の一六二一名の署名については右署名のうち別表七の署名簿の署名欄記載の署名はその下欄記載の選挙人名簿登載者の表示といずれも住所、氏名、生年月日等本人を特定する要素の一部或いは全部が相違しているから、原告主張のように選挙人名簿に登載のある者の署名といえないし、残余の第二目録記載の署名(但し一九三〇八番の橋本泰子の分を除く)もいずれも選挙人名簿に登載のないものの署名であり、一九三〇八番橋本泰子の署名は一七九五〇番橋本泰子の署名と重復するから、一九三〇八番の同人の署名は無効である。

別紙第三目録記載の一六二名の署名は署名下の印が何人の印なりや否やを判読できないから結局押印がなかつたものに帰着する。

別紙第四目録記載の五四名の署名中一七一番神藤秀治(中略)二三七九九番石塚寛の一二名の分は全く押印を欠いた署名であり、その他の署名はその署名下に押印はあるが当該署名者の印影ではなく、他人の印影であるから結局押印を欠く署名としていずれも無効である。

別紙第五目録記載の五名の署名は記載自体を検しても何人の署名であるか解読できない無効の署名である。

別紙第六目録記載の七〇名の署名については、請求代表者の一人である古村徳一郎の名下に同人の押印がない不適式な署名収集委任状により署名を収集した者の収集に係るものであるから無効である。

以上の理由から被告の決定には原告主張のような違法はない。

仮に別紙第一乃至第六目録記載の署名についての被告の主張が認められないとしても、本訴は被告のなした行政処分の取消を求める訴所謂抗告訴訟であるが、これを実質的に見ると署名簿の署名の有効なることを主張するものであるから、原告は署名の効果発生に必要な要件事実、すなわち(一)解職請求代表者が法令で定めるものであること、(二)署名収集者は解職請求代表者より適法に署名収集を委任されたものであること、(三)収集された署名は法令の定める形式を具備し署名簿に自署押印されたものであること(四)請求代表者、署名収集を委任された者、署名者はいずれも選挙人名簿確定の日にこれに登載された選挙有権者であること等を主張し且つ立証しない限り署名は有効と認められない。しかるに、原告は右署名につき、それぞれ署名の要件事実の一部の存在を主張しているだけで、その他の要件事実の存在を主張も立証もしないから、結局原告等の本訴請求は失当である。(本件口頭弁論の全趣旨に徴し被告は上記の主張以外に原告等が主張していない署名の有効要件の存否を具体的に争つているものとは認められない。)」と。述べた。(証拠省略)

三、理  由

先づ被告の本案前の主張について考えてみる。

原告等三名が明石市長解職請求代表者の一部のもので、同市基本選挙人名簿に登載されている者であることは当事者間に争がない。

地方自治法第八一条により普通、地方公共団体の長の解職請求に準用される同法第七四条の二第八項により同条第五項の選挙管理委員会の決定に不服ありとして出訴し得る者は第四項の関係人でなければならない。しかうして右第四項の関係人とは選挙人名簿に登載のあるもの全部を指称するものではなく、署名簿の署名の効力の決定に関して直接利害関係にたつもの、すなわち、署名者、解職請求代表者、被解職請求者、請求代表者の委任を受けた者、他人に自己の名を偽筆された者等であると解すべきであるから、単に選挙人名簿に登載されている選挙有権者であるという事実だけでは不服の訴の当事者となり得ないが、解職請求代表者の資格を有する限りその一人乃至は数人より提起した不服の訴であつても不適法だとはいえない。蓋し解職請求代表者よりする不服の訴はその全員よりするを要する旨の規定の存しないのみならず、解職請求代表者が数人ある場合においては、解職請求の手続はその全員の合同行為によつてのみ進展せしめらるべきである(このことは他方自治法並びにその関係諸法令の規定の趣旨より推論できる。)ということから直ちに署名簿の署名の効力の決定に関する不服の争訟手続についても請求代表者全員よりするを要すると解しなければならないことはないし、また常に全員よりするを要すると解すると、請求代表者の一部の者の死亡等の事故があつた場合においては残存の請求代表者は既に請求代表者全員により適法に収集された署名の効力の決定に関し不服の途を奪われる結果となり妥当ではないからである。そうだとすると被告のこの点に関する主張は採用の限りではない。

よつて、本案につき考えることとする。

原告等主張の事実中、原告等が明石市長解職請求代表者で同市の選挙人名簿に登載のある者であること、原告等がその主張の日その主張数の署名、押印のある署名簿を被告に提出し、右署名者が選挙人名簿に登載された者であることの証明を求めたこと、被告は原告等主張のような決定をなし、その旨証明した上、署名簿を関係人の縦覧に供したこと、右決定に対し原告等並びにほか六名の請求代表者より原告等主張の日に被告に対し異議の申立をなし、被告は原告等主張の日無効と決定した署名のうち四〇一四名の署名について原告等の申立を正当と決定し、原告等主張の別紙第一乃至第六目録記載の署名に関する部分の決定を棄却したこと、右決定は原告等主張の日原告等に通知されたこと、原告等主張の右第一乃至第六目録記載の署名の無効理由は原告等主張の通りであつたこと、原告等が署名簿に署名印を求めた当時選挙権を有するものの総数の三分の一は二〇七一九名であつたことはいずれも当事者間に争がない。

そこで、別紙第一乃至第六目録記載の署名に関する被告の決定につき原告等の主張するような違法原因があるかどうかを順次検討することとする。

第一、別紙第一目録記載の署名について、

(一)  別紙第一目録記載の署名中

二番(中略)二四三七一乃至二四三七五番の各署名は同目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲証人氏名欄記載の各証人、原告本人の供述によりそれぞれ当該署者の自署であることが認められる。右認定に反する同目録中前記各署名者名下証拠欄乙欄に記載の各乙号証(乙第二号証の一の成立は被告代表者山田俊雄本人尋問の結果により、乙第四号各証の成立は証人小西祝次の証言により認められる。)証人並びに原告本人の各供述及び証人小山英一、寺部儀衛の証言より成立を認めうる乙第五号証の記載は当裁判所は信用しない。

(二)  三番、(中略)二四二九五番の各署名は別紙第一目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲記載の各乙号証(乙第号証の二の成立については被告代表者山田俊雄本人及び証人大山ラクの供述により、乙第三号証の一の成立については証人小西祝次の証言により乙第三号証の三の成立については証人田中末夫の証言により、認める。)と各証人の証言によりそれぞれ代筆であることが認められる。右認定に反する同目録中の前記各署名者氏名下証拠欄乙記載の各証人、原告本人の各供述は当裁判所は信用しないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  一八番、(中略)二四二八一番の各署名は第一目録中の当該署名氏名下証拠欄乙記載の各証人、原告本人の各供述によると当該署名者の自筆である旨供述しているが当裁判所は信用しない。同目録中当該署名者氏名下証拠欄甲に記載の前記乙第二号証の一、二、証人小山英一、寺部儀衛の証言により真正に成立したと認める乙第五号証の記載に署名簿であることについて当事者間に争のない各甲号証を検した結果を綜合すると、右署名はいずれも同目録中当該署名者氏名下備考欄記載の署名と同一筆跡であることが認められるから、反証のない限りその中の一名が代筆したものと推測されるとしても、果して当該本人が自己の氏名を自署した上同一筆跡の他の署名を代筆したとの証拠は前記信用しない証拠を除いては他にないから、右署名はいずれも自署であると認めるわけにはいかない。九三一四番の署名は同目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲記載の署名簿であること当事者間に争のない甲号証を証人大森勝美の尋問の際の同人の宣誓書と対照して検するに右証人が代筆したものであることが推認される。右認定に反する前記証人の証言は信用しないし他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(四)  六八乃至一四八番(中略)二四二二五乃至二四二二七番の各署名は第一目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない。)の当該署名者の署名をその前後の他の署名と対比しながら検するに他に右各署名と同一筆跡と認められるような署名はないから当該本人の自署であると推測できないこともない。右推測に反する同目録中の前記署名者氏名下証拠欄乙記載の書証(乙四号各証については証人小西祝次の証言により成立を認めうる。)並びに証人の証言及び前記乙第五号証の記載は信用しないところであり他に右推測を覆すに足る証拠はない。

二九三番、(中略)一六九二四番の各署名は第一目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲記載の甲号証(いずれも署名簿であることは当事者間に争がない。)を同欄記載の証人尋問の際の当該証人の宣誓書と対比して検するといずれも当該本人の自筆であることが推認でき右認定に反する前記署名者氏名下証拠欄乙記載の書証(乙第四号各証の成立は証人小西祝次の証言より認められる)証人の証言に及び乙第五号証の記載は信用しない。その他右認定を覆すに足る証拠はない。

(五)  残余の各署名は第一目録中当該署名者氏名下証拠欄記載の各証人、原告本人の各供述と同欄の甲号証(いずれも署名簿であることは当事者間に争がない。)を前記各署名とその前後の署名とを対照しながら検した結果とを綜合するといずれも当該署名名義人本人の自筆であることが認められる。右認定に反する右署名者氏名下証拠欄乙記載の書証(乙第四号各証の成立は証人小西祝次の証言により認められる)、証人の証言及び前記乙第五号証の記載は信用しないところであり他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(六)  第三者の集めた署名であるとの被告の主張について、第一目録記載の署名についての被告の決定理由はいずれも自筆でないというにあることは当事者間に争のないところであるが、右決定は署名が自署でないから成規の手続によらない無効署名と認めて原告等の異議を棄却したものと解すべきであるから、被告が右決定の違法でないとする理由として、第三者の集めた署名が成規の手続によらない署名に該当すると主張する限りこれを右決定理由としていないからといつて、本訴で主張できないいわれはない。

四七〇九番、(中略)二三八一〇乃至二三八三四番の各署名は第一目録中の当該署名者氏名下証拠欄甲記載の各証人の証言により請求代表者から署名の収集を委任されたものでない第三者の収集した署名であることが認められる。

解職請求者の署名簿の署名の収集は請求代表者が自ら収集するか或は請求代表者から収集を委任された者が収集するかの方法によるべきものであつて、他の第三者が収集した署名は法令に定める成規の手続によらない署名としてその効力を認められないものと解するを相当とするから、前記の各署名はいずれも当該本人の自署であるかどうかの判断を待つまでもなく無効の署名といわねばならない。

一三六〇八乃至一三六五〇番、一三六六二乃至一三六六七番、一三六七九乃至一三六八〇番の各署名は証人梅沢初一、寺本善光の証言によると署名収集受任者である梅沢初一において収集した署名ではないが解職請求代表者の一人である寺本善光において収集した署名であることが認められる。しかうして解職請求代表者は自から単独で署名の収集をなしうると解するを相当とするから右署名が第三者の収集した署名であるとの被告の主張は理由がない。

二一一七番の署名は証人尾鼻三次の証言によると収集受任者である同人の娘が、二一六三六乃至二六四五番、二一六四九乃至二一六五四番の各署名は証人森口力松の証言によると収集受任者である同証人の娘がいずれも収集した署名であることが認められる。娘等署名収集受任者と同一家族の者が署名の収集に当つたような場合は反証のない限り単に署名収集受任者の指図に従いその補助者として署名の収集に加わつたもので単独に署名の収集を行つたものとは認め難いから、右署名が第三者の収集に係る署名であるとの被告の主張は理由がない。

五二七四番(中略)二一三五九番の署名は証人永谷勘次郎の証言によると署名収集受任者である右証人が回覧板式の方法により収集した署名であることが認められるが、回覧板式の方法で他人から他人えと手渡されて収集された署名であつても、反対の証拠がない限り、その他人は署名収集受任者の署名の収集に際し、その手足となつて署名簿の手渡等の労務を補助しただけでその他人は署名簿に請求者の署名を求める意思の下に行動したものとは認められないから、前記の署名は第三者の収集に係る署名と認め難い。したがつて右署名に関する被告の主張は理由がない。

五三一四番、七二七五番の両署名については前者は証人永谷勘次郎、後者は証人山田悟の各証言によると、それぞれ署名収集受任者である右証人等が各直接収集した署名であることが認められるから右署名が第三者の収集に係る署名であることの被告の主張は理由がない。

第二、別紙第二目録記載の署名について、

署名簿の署名が選挙人名簿の記載と相違があつても選挙人名簿に登載のある者の表示であると認められる限りこれを有効な署名と解するを相当とする。

四二番(中略)二四二三七番の各署名は第二目録中の当該署名者氏名下証拠欄記載の各書証(甲号証については署名簿であることについて争いがなく乙号証については成立に争がない。)と同欄記載の証人の証言を各綜合すると別紙第七目録中の前記署名者氏名下の選挙人名簿登載欄に記載の通り選挙人名簿に登載されたものの表示であることが認められるし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二四一番(中略)二一〇四一番の各署名は第二目録中の当該署名下証拠欄記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない。)の当該本人の表示と同欄記載の乙号証(いずれも成立に争がない)中の原告主張の登載者の表示を対照すると原告主張の通りいずれも選挙人名簿に登載のあるものの表示であることが明かに認められる。

後記各署名は、第二目録中の当該署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない。)の当該署名者の住所、姓名、生年月日等の表示、その他前後の署名者の表示等と同欄記載の乙号証(いずれも成立に争がない。)の原告等主張の登載者の表示、その他右登載者の家族、近隣の者の表示等とを綜合検討すると、四八五〇番(中略)二一八四四番の各署名は生年月日が、二一九九二番は生年月日と姓の字が、三八四八番(中略)一九五一三番の各署名は生年月日と名の字が、七六〇九番、(中略)一九八五三番の各署名は姓と生年月日が、一〇八三番、(中略)二一〇四二番の各署名は姓と生年月日と名の字が三〇四三番(中略)二四二三六番の各署名は生年月日と名が、一九八番、八二四六番、一二三九一番の各署名は姓名が、一五二一三番の署名は住所と名が七九八五番(中略)一二七四七番の各署名は住所と生年月日が、一二七四八番の署名は住所と生年月日と姓が、署名簿の表示と原告主張の選挙人名簿の登載者の表示と多少相違しているが、いずれも原告主張通り選挙人名簿に登載のある者の表示であることを推測できないことはなし、他に右推測を左右するような証拠はない。

三七四三番(中略)一八五七四番の署名は第二目録中の右署名者氏名下証拠欄記載の証人の証言によると原告等主張のように選挙人名簿に登載のある者の表示でないことが認められ他に右署名が選挙人名簿に登載のある者の表示であるとの証拠はないからこの点に関する原告の主張は理由がない。

二三七番(中略)二二〇八三番の各署名については第二目録中の当該署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない)と同欄記載の乙号証(いずれも成立に争がない。)と対照するだけでは右署名名義人が原告主張のような表示で選挙人名簿に登載されているものと同一人であるとの推測はつかないし、他に右署名が選挙人名簿に登載されている者の表示であるとの証拠はないから、右署名に関する原告の主張は理由がない。

一九三〇八番の署名については第二目録中の当該署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(署名簿であること当事者間に争がない。)と一七九五〇番の署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(署名簿であること当事者間に争いがない。)とを対照して検するに右二個の署名は同一人のものであることが明に認められるから、後になされた一九三〇八番の署名は重復署名として効力は認められないから、右署名に関する原告等の主張は理由がない。

残余の署名はいずれも選挙人名簿に登載されたものの表示であるとの証拠はないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

第三、別紙第三目録記載の署名について、

別紙第三目録記載の署名について同目録中当該署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない。)を精査すると、それぞれ次の通りのことが認められる。

二五五八番(中略)二二三四四番の各署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄には当該署名者のものと認められる印影のあることが検認される。

二六一七番(中略)二四〇一六番の各署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄には押印はないが拇印のあることが検認されるところであり、押印に代えて拇印の存するときは押印に代るものとして有効なものと解すべきであるから右各署名は押印のある署名というべきである。

五四四六番、一四九八三番の各署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄に前者は押印がないし、後者は他人の印影が存するのみであり、残余の署名については前記甲号証中の当該署名者氏名下の印影欄には何人のものか確認できない印影が単に朱肉の汚染と認められるものの存するだけであつて、当該署名者の印影であると認めるに足らないから、右署名に関する原告の主張は理由がない。

第四、別紙第四目録記載の署名について、

別紙第四目録記載の各署名につき同目録中の当該署名者氏名下証拠欄記載の各甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない。)をそれぞれ精査するに、

一六八三四番の署名については前記書証の当該署名者氏名下の印影欄には署名者の姓である熊原と読みうる印影が存在することが検認されるし、二四二八二番の署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄には最初ペン字でサインをした後これを訂正してその上から署名者を表示する印を押捺したものであることが窺われるから右二個の署名はいずれも捺印のある署名である。

二三三一四番の署名については前記甲号証中の当該署名者氏名下の印影欄には捺印がなく単にペン字で松本なるサインの存することが認められるがサインは捺印或は拇印に代えて有効と解し得ないから右署名に関する原告の主張は理由がない。

一七一番、(中略)二三七九九番の名署名については前記甲号証中当該署名者氏名下の印影欄にはいずれも捺印が漏れていることが認められるから右署名に関する原告の主張は理由がない。

二一三四六番の署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄には他人の印影は存するが署名者の捺印はないから右署名に関する原告等の主張は理由がない。

四七八番、四六一七番、四六一九番の各署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄にはそれぞれ家族の氏名の頭文字でできた「阪源」「若源」なる押印があり、残余の署名については前記甲号証の当該署名者氏名下の印影欄には家族の氏名を表示した印影の存することがいずれも検認できるが、右のような印章は同一世帯の家族が共同して使用し得る姓のみを表わす印章とはことなり、当該個人を表示し、その個人のみが使用する為のものであるから、かかる印影の存在するかといつて当該署名者の押印があるものとは解せないから、右署名に関する原告の主張は理由はない。

第五、別紙第五目録記載の署名について、

第五目録記載の各署名につき同目録中当該署名者氏名下証拠欄記載の甲号証(いずれも署名簿であること当事者間に争がない)を検するに

一七〇〇四番の署名は原告主張のように松本幸義と読み得るし、一七八四八番の署名は一七八四七番増田吉太郎の署名から推して、原告主張のように「ますだため」と読み得るから右両署名はいずれも解読不能ではない。その余の署名はいずれも何人の署名であるか解読することができないから右署名に関する原告の主張は理由がない。

第六、別紙第六目録記載の署名について、

第六目録記載の各署名は請求代表者の一人である古村徳一郎名下に同人の押印のない署名収集委任状により収集された署名であることは当事者間に争がない。

前記のように請求代表者が数人ある場合には合同して行為をなすを要することからして、請求代表者が署名の収集を他人に委任する場合には全員よりこれをなすを要すること勿論である。この趣旨より地方自治法施行規則も右委任状には請求代表者が二人以上あるときはすべての代表者の氏名を記載し印を押すことを要する旨規定したのである。しかうして解職請求のように地方自治の運営に重大な影響のある制度にあつては、手続を厳格に遵守することが手続の公正なる進展の為不可缺の要件であり、このことから推論すると、右委任状の様式の規定は単に準則に過ぎないものとは解せられないから本件のように委任状に請求代表者の一人の押印を欠く場合においては残余の代表者の氏名押印があり、押印を欠く代表者において委任の意思を有していたとしても、右委任状を添付した署名簿の署名はいずれも成規の手続によらない署名としてその効力を認めるわけにはいかない。したがつて原告の前記第六目録記載の署名に関する主張は理由がない。

第七、被告は別紙第一乃至第六目録記載の署名中原告主張の署名の有効要件の存在が認められた場合においても、更に右署名につき残余の有効要件の存在を主張立証しない限り原告の本訴請求は認容されない旨主張するからこの点について考えることとする。

本件のような解職請求代表者からする選挙管理委員会のなした地方自治法第七四条の二第五項の異議を棄却した決定に対する不服の訴は、争点を署名の効力にのみ限定され、原告は署名の有効なることを争うことにより被告のなした決定の取消を目的とするものであるから、形式的には所謂抗告訴訟の形態をとつていても、実質的には署名の有効なることの確定を求める訴(署名の有効が確定された結果反射的に被告の署名を無効として異議を棄却した決定は失効することになるわけであるが、形式的に行政処分としての決定が存在するのであるから、その効力のないことを明確ならしめる為に便宜的に決定の取消を求める抗告訴訟の形態を採つたものと解すべきである。)の性質を有するものであるが、右のように解するとしても原告は署名簿の署名につきその有効要件のあるものを欠いているとの被告の判断の誤りを指摘し、右要件を具備していることを主張立証すれば足り、被告において争はないのに、署名につき残余の有効要件の全部を具備していることまでも主張立証しない限りその請求が容認されないということはない。しかうして、被告は第一乃至第六目録の署名につき原告等存在することを主張している以外の有効要件の不存在を具体的に争つていないことは前記の通りであるからこの点に関する被告の主張は採用の限りではない。

以上認定したところからすると、別紙第一乃至第六目録記載の署名中主文掲記の署名はいずれも有効であるから、右第一乃至第六目録記載の署名に関する決定中主文掲記の六五二一名の署名に関する部分は違法である。

そうだとすると、原告の本訴請求中右部分は正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 中島孝信 大野千里 裁判官坂上弘は転任に付署名捺印できない。裁判官 中島孝信)

(別紙第一目録――第七目録省略)

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