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神戸地方裁判所 昭和29年(行モ)2号 決定

その理由として、申立人等は何れも兵庫県川辺郡川西町居住の選挙権を有する住民であり、被申立人は右川西町長であるところ、被申立人が招集した昭和二十九年六月八日の臨時川西町議会において町村合併促進法に基き第五十五号議案として昭和二十九年七月末日川西町を廃止し、同町と同県川辺郡多田村及び東谷村とを合併して同年八月一日より新たに兵庫県川西市を創設する旨の議案が提出され、更に第五十六号議案として川西町廃止に伴う財産処分の件が提案された。而して川西町においては、右臨時町議会招集前から多年の懸案として大阪府池田市との合併を策する議員とこれに反対し前記第五十五号議案の如く川西市を新設せんとする議員との間に相当紛争を重ねつゝあつたにも拘らず、昭和二十九年六月八日同町会議員全員三十名の出席の下に議長上中慶重朗は開会を宣し、直ちに右第五十五号議案を議題に供し、被申立人をして提案理由の説明をなさしめ、討論の末投票による採決の方法を執つた結果、右議案は出席議員三十名中議長を除き賛成十八名、反対十一名の多数を以て原案を可決確定せられた。次で議長は第五十六号議案として別紙目録記載の如き川西町廃止に伴う財産処分の件を議題に供したのであるが、被申立人をしてこれが提案理由の説明をなさしめないのは勿論討論の余裕も与えず直ちに探決に入り、而も起立により賛否を決するの方法を執り、僅か二分間にして、これまた賛成十八名、反対十一名の儘多数と認め、右第五十六号議案は可決確定したものとして閉会を宣した。然しながら、町村合併促進法に基く町村合併の議案の審議はすべて地方自治法に則り同法の示す方式により議決さるべきものであり、而も川西町においては町有財産につきその処分に関する町条例中その処分方法についての議決に関する規定は存在しないから、本件川西町廃止に伴う財産処分については地方自治法第二百四十三条第二項による出席議員の三分の二以上の同意によつてのみ議決せらるべきものであるに拘らず、これを無視し、前記の如く三十名の議員中十八名の賛成を得たのみで且つ原案に何等の条件乃至制限をも付することなく無条件で原案通り可決確定したのであるから、右第五十六号議案の決議(以下単に第五十六号決議と称する)は法定数の同意を欠き違法であつて、絶対に無効である。然るに被申立人は第五十六号決議は有効に成立したものとして、これに基き川西町会議員十五名及び同町民二名を加えた十七名の協議会委員を選出し、更に前記多田、東谷両村の各八名の協議会委員と相謀り、自ら協議会委員長となつて町有財産の処分に関する細部の協議を重ね着々その決議の執行をなしつゝある。第五十六号決議は前述の如く何等の条件乃至制限を付していない以上決議自体より見るときは前記両村との間に対等合併により対等に財産は処分せられるに至る趣旨の決議といわねばならない筋合となるところ、川西町有財産は右両村村有財産に比し、相当多額に上る筈であるのに、これが処分を決するに当つて何等の条件乃至制限をも付せずして対等合併をなすのは多数町民の意思及び権利を無視するものである。被申立人が無効な第五十六号決議を執行する場合には川西町住民は直接の権利を侵害されたことにならないかも知れないが、住民は町有財産例えば町有営造物を利用又は賃借する権利を有するものであるから、少くとも法律上認められた利益を侵害された結果となる。よつて川西町の住民である申立人等は本案判決の確定を俟つにおいては昭和二十九年八月一日川西市は新設されることとなり、町有財産の全部は不当に処分せられる結果、その権利は侵害せられ償うことのできない損害を蒙るので第五十六号決議に基く財産処分の執行の停止を求めるため本申立に及ぶというにある。

そこで本件申立の適否について考えて見よう。

申立人等は要するに本案訴訟において町長である被申立人を被告として第五十六号決議の無効確認並びに右決議に基く町有財産処分の執行禁止を求め、本件申立において被申立人が右無効な決議に基いてなすべき川西町有財産処分の執行停止を求めているのであるけれども、町議会の決議無効の確認等を求める訴、いいかえれば町の議決機関である町議会の決議を対象としその有効無効を争う本案訴訟において町の長であり執行機関である町長を相手方として選んだことは、仮に他の点に問題がないとしても当事者適格を誤つた不適法なものと解する。

又本件申立は次の点から考えても不適法である。すなわち、町議会の決議は法人格を有する町の内部的意思決定に過ぎないのであつて直ちに町の行為として効力を有するものではなく、従て本件の如く町長を被告として決議無効確認を求めることは全く無意味であり、申立人等は町住民であるが故にこのような確認を求める利益があるように主張しているのであるが、たとえ町長が町議会の決議に拘束されて行動すべき地位にあるとしても、かくの如き執行機関と決議機関との関係は町の内部の機関相互の関係であつて、もしその間に紛争が生ずれば町が内部的に解決すべきもので、訴訟を以て争うべきものでない。機関相互間の権限の争は法人格者間の権利義務に関する争とは異り、法律上の争訟として当然に訴訟の対象になるものではなく、法律が内部的解決に委せることを不適当とし特別の規定を設けて特に訴の提起を許している場合(例えば地方自治法第百七十六条第四項第五項は普通地方自治団体の議会の議決又は選挙が権限を超え又は法令若くは会議規則に違反すると認める場合当該団体の長にのみ一定の条件の下に出訴することを許している)の外一般住民に対しては同法第二百四十三条の二に定める場合を除いて住民の資格において当該団体の長に対し決議無効又は取消を求める争訟を許した規定は同法その他の法律中に存せず、これは地方自治に於て、代議制を探用する現代法制の当然の結果ともいえるのである。つまり法は住民に対しては当該議会の決議が直接且つ具体的に住民個人の権利を侵害する場合の外住民の資格において決議の不法不当を争いその無効確認又は取消の訴を認める法律上の利益があるとしないのである。尤も町長が町議会の決議に従つて財産処分の執行をした場合には、その行為は町の行為として効力を持つことになるから、その無効を主張するについて直接に具体的な利益を有するものは町議会決議無効を理由として町の行為の効力を争うことができる場合が考えられないことはないかも知れないが、然し本件申立は第五十六号決議により町有財産が何等の条件乃至制限を付することなく新設の川西市に引継がれることを以て一般住民としての原告の権利が侵害されるとして右決議無効確認等の本案訴訟を提起し本件申立において右決議に基きなさるべき財産処分の執行の停止を求めているのであるから仮に町執行機関である被申立人により第五十六号決議が実行に移されたとしても該決議の内容は川西町有財産を町村合併により新設される川西市にその儘引継ぐことを決定したに止り、ただ財産の主体が新設の川西市に変るだけのことであり、申立人等は新市創設と同時に当然その住民となるのである。このような場合申立人等の主張するように対等合併をしたからといつて又合併町村間の財産関係に差等があるからといつてこれにより直ちに申立人等が従来町住民として享受していた権利が具体的に侵害されるものとはいえないし、又、営造物利用関係についても対等合併により川西町住民において法律上特別に不利益を蒙るものと考えられない。他に申立人等住民が直接且つ具体的に権利侵害を蒙つた事実の主張疏明がない。結局申立人等は町住民の資格において本件町議会決議無効確認等を求める訴につき法律上の利益がないことになり、不適法たるを免かれずこれを前提とする本件執行停止の申立はこれを許すことができない。よつて本件申立はこれを却下し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昌三 前田治一郎 山本久已)

(別紙)

目録

昭和二十九年七月三十一日兵庫県川辺郡川西町、同県同郡多田村、同県同郡東谷村を廃止し、その区域を以て兵庫県川西市を置く場合、廃止当日現在の一切の財産(負債を含む)は総て新市有財産とする。

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