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神戸地方裁判所 昭和30年(ヨ)432号 判決 1955年12月01日

申請人 中西八百蔵 外一名

被申請人 尼崎製鉄株式会社

主文

債権者両名の辞表提出に基き、債務者が昭和三〇年九月二〇日附を以て『依願退職』の辞令を発してなした、雇傭契約の合意解除の効力は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

債務者は、本案判決が確定するまで、債権者中西八百蔵に対し、金二五、〇〇〇円、並びに、昭和三〇年一二月以降毎月一〇日右同額づつ、債権者浮田竹松に対し、金二四、五〇〇円、並びに、同月以降毎月一〇日右同額づつを支払わなければならない。

申請費用は、債務者の負担とする。

(註、無保証)

事実

債権者両名代理人は、「(1)債務者が、昭和三〇年九月二〇日附を以て債権者等に対しなした、『退職許可』の意思表示の効力は、これを停止する。(2)債権者は、債務者中西八百蔵に対し、即時金五〇、〇〇〇円、並びに、昭和三〇年一二月以降毎月一〇日金二五、〇〇〇円づつ、債権者浮田竹松に対し、即時金四九、〇〇〇円、並びに、同月以降毎月一〇日金二四、五〇〇円づつを、かりに支払わなければならない。(3)申請費用は、債務者の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、申請の理由として次のように述べた。

「(1) 債権者中西八百蔵は、昭和一五年三月二八日、同浮田竹松は、同年一月二七日、それぞれ債務者会社に入社し、勤続一五年余に及んでいたが、この程故あつて辞表提出を余儀なくされ、これに基き、債務者は、昭和三〇年九月二〇日附を以て『依願退職』の辞令を発し、それ以来債権者両名を従業員として所遇することを拒んでいる。しかし、債権者等の右辞表提出は、後述の理由により雇傭契約解除の申込の意思表示としての効力を欠くものであるから、右雇傭契約は、有効に合意解除されたものと解し難い。

(2) 債務者会社にあつては、総務部総務課に属するものとして警備係が置かれ、同係は、主任(守衞係長)一名、守衞長二名及び守衞一四名を以て構成され、債権者両名は、いずれもその守衞長であつた。

(3) しかるところ、守衞の一員である申請外近藤久夫が、会社構内丸島橋守衞見張所附近で菓子類販売業を営んでいる松原某方で、数年来無銭飮食を繰り返し、その額は、四〇、〇〇〇円余にも達している事実が判明したことから、債権者両名を含む警備係員一一名は、かかる不行跡が、ひとり近藤個人の問題に止まらず、社内の綱紀と治安の維持を職分とする警備係全体の威信にかかわるものであるとして、昭和三〇年七月一八日、連署を以て『一係員の不行跡に就いて』と題する書面(疎甲第二号証)を上司の総務課長に提出し、近藤に対する然るべき処分方を上申した。右の結果、総務課長は、事実調査の上債権者等とも協議し、近藤が依願退職又は懲戒解雇に相当する旨上司に報告したが、実際には近藤の家庭的事情も考慮されて、同人に対する処分は、職場転換以上に出なかつた。

(4) しかるに、同年八月五日、総務部次長多田正雄は、前掲連署にかかる上申書の提出が、内容において他人の私行を批判するもので、不穏当且つ非情であり、形式において徒党を組むもので、非民主的且つ卑劣であるという理由で、債権者等一一名の連署者に対し辞表の提出を命じた。もつとも、その際の多田次長の言明によれば、辞表は、受理されることはなく、連署者の反省の実を示す資料として社長に見せるためのものにすぎぬということであつた。そこで、債権者等は、やむなく『辞表願』、『退職願』などと題するが、軽卒を詫び謹慎の意を表するだけの趣旨の書面(疎甲第三、七号証)を差し入れたけれども、その文言が充分でないとて返戻されたため、不本意ながら退職の意向を明示した別の辞表を提出せざるを得なかつたが、これも不充分であるとて、多田次長の加筆を受けたので、(疎甲第四号証)更に改めて翌一九日、右加筆されたとおりの文言を記載した辞表を債務者に差し入れた。

(5) しかるに、多田次長は同月三〇日債権者両名を呼び付け前言を飜し、債務者会社の意向として「さきの辞表はこれを受理することとした。もし退職願が不本意なら、撤回してもよいが、その場合は『しばしば上司の命令に服しないで職場の秩序を乱した者』として、債権者両名だけでなく、連署者一一名を全員懲戒解雇することとなる。」と伝えるに至つた。事の以外に驚いた債権者等は、他の上司や労働組合を通じ、寛大な処置ですまされたい旨交渉したが、その効なく、ついに九月二〇日附を以て、債務者会社は、就業規則の定める手続に準拠し債権者両名の退職願に『許可』を与える意味において、『依願退職』の辞令を交付したのである。

(6) 右の次第で、債権者等、債務者間の雇傭契約が、一応当事者間の合意で解除されたかのごとき外形を呈していることは、否み難い。しかし、債権者等としては、債務者から要求されるままに辞表を提出したまでで、真実退職の意思を有していたわけでなく、債務者においてももとより債権者の真意を充分に了知していたのであるから、右辞表の提出は、心裡留保により、前記雇傭契約合意解除の申込たるの効力を有するものでない。かりに右心裡留保の主張が成立しないとしても、前記辞表の提出は、債権者等、債務者間の通牒虚偽表示にあたると考えられるから無効である。従つて、債権者等、債務者間の雇傭関係は、今なお有効に存続するものといわなければならない。

(7) よつて、債権者等は、債務者を被告とし、右合意解除の無効確認訴訟を提起すべく準備中であるが、その判決が確定するまでには、なお相当の期間を要するであろう。債権者中西八百蔵が債務者会社から従前支給されていた賃金(月給)は、月手取金二五、〇〇〇円、債権者浮田竹松のそれは、月手取金二四、五〇〇円を下らずいずれも毎月二五日にその月分の仮払を受け、翌月一〇日に清算支給されることになつていた。債権者等は、右賃金を唯一の収入源として一家の生計を維持して来たものであつて、到底右本案判決の確定まで手をこまねいて待つ余裕がないが、さりとて巷に失業者のあふれる今日、他に働く場所も求め難い。よつて、右本案判決が確定するまで、前記雇傭契約の合意解除の効力を停止し、且つ、債務者において債権者等に対し従前の割合による賃金手取額を支給すべき旨を命ずる仮処分を求めるため、本申請に及んだ。」(疎明省略)

債務者代理人は、「本件仮処分申請を却下する。申請費用は、債権者等の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のように述べた。

「(1) 債権者等の主張事実中、(イ)債権者両名が、昭和一五年以降債務者会社に勤続し、総務部総務課警備係の守衛長の地位にあり、その主張どおりの賃金手取額(月給)の支給を受けていたこと、(ロ)警備係所属の一守衛近藤久夫について、債権者等指摘どおりの個人的非行があつたことから、債権者両名をはじめとする警備係員一一名が、昭和三〇年七月一八日、『一係員の不行跡に就いて』と題する連署書面を総務課長に提出し、近藤守衛の処分方を迫つたこと、(ハ)総務部次長多田正雄が、右債権者等の行動を非として連署者全員に対し辞表の提出を促したところ、債権者両名が、右多田次長の勧告にしたがい、同年八月一九日債務者会社に辞表を提出したこと、(ニ)よつて、債務者が、就業規則の定める手続により右退職願に『許可』を与えるため、同年九月二〇日附を以て債権者両名に対し『依願退職』の辞令を発したことは、いずれもこれを認める。

(2) しかし、債権者両名の前記辞表提出が、その真意に基くものでなかつたという主張事実は、これを否認する。債権者等は、多田次長の命令によりやむなく辞表を提出したと主張するのであるが、同次長には、かかる命令を発する権限もないし、また、これを発した事実もない。債務者会社にあつて、従業員の人事権を握つているのは、代表取締役一人だけであり、総務部次長は、代表取締役を補佐する総務部長の下にあつて、意見具申、調査等をなすに止まるものである。ただ、同次長が、会社主脳部の債権者等に対する悪感情を緩和させようとの好意から、個人的に辞表の提出を勧告した事実はあるが、決してこれを強制したものでない。同次長が債権者両名から最初に提出された『辞表願』とか『退職願』と題する書面を返戻したことは、これを認めるが、それは、これらの書面の文言が穏当でなかつたから、当然の措置であつたといわねばならず、また、同次長が、債権者中西の改めて提出した辞表に加筆したのも事実であるが、それは、同債権者の依頼に基いて、会社主脳部の好感を得るような文章の体裁を教示する趣旨に出たものであり、これらの経緯に関する債権者等の主張も、かなり真実をゆがめたものである。そして、債権者両名も、自己の非を悟り、他の謀議連署名九名の辞表提出を抑え、自分達で責任をとるからとて退職願に及んだものであつて、今にしてそれが真意に反すると強弁するがごときは、無責任も甚だしい。

(3) 因みに、債権者等が、職場の同僚たる近藤を排斥せんがため、殊更同人の会社における勤務と関係のない個人的非行をとりあげ、連署の書面を以て糾弾し、上司に処分を迫つた所為は、著しく事業場の規律を乱したものであつて、債務者会社の就業規則によれば、本来懲戒解雇に価する。債務者が、これに対し『依願退職』を以て臨んだのは、債権者両名の今後の就職に対する障碍を除き、同人等に退職金をも支給しようという恩情的処置に外ならない。

(4) かような次第で、債権者が本件仮処分申請において主張する被保全権利は、到底その存在を認め得ぬものであるが、この点をしばらくおくとしても、なお、本申請には法律上の難点がある。(イ)まず、債権者等は、債務者がなした『退職許可』の意思表示の効力の停止を求めるというのであるが、右は、債務者会社の就業規則が、会社内部の統制や社会保障制度との関連において用いている文言を、その法律的性質につき検討を加えることなく、そのまま不用意に借り来たつたものであつて、その意味は、これを理解することができない。(ロ)更に、債権者等が本件において求める賃金仮払の命令は、本案勝訴判決によつてのみ求め得べき権利の終局的満足を招来すべきものであつて、もしこれがそのまま認容されるならば、他日本案訴訟において債務者が勝訴しても、債権者等(その無資力である事実は、債権者等も自ら認めるところである。)から何物も回復することを期待し得ない。かかる仮処分命令が、民事訴訟法上許容された仮処分の限界を逸脱することは、明瞭であるといわなければならない。」(疎明省略)

理由

(1)  (イ)債権者両名が、昭和一五年以降債務者会社に勤続し、総務部総務課警備係に属する守衛長の職にあつたこと、(ロ)警備係所属の一守衛近藤久夫について、数年来無銭飲食を繰り返し、その額がかなりに達している事実が判明したことから、債権者両名を含む警備係員一一名が、昭和三〇年七月一八日、『一係員の不行跡に就いて』と題する連署書面を総務課長に提出し、近藤守衛の処分方を上申したこと、(ハ)総務部次長多田正雄が、右債権者等の行動を非として連署上申者全員に辞表の提出を促したところ(それが、下僚に対する強制の性質を帯びていたか、同次長の個人的な勧告にすぎなかつたかは、しばらくおく。)、債権者両名が、同年八月一九日辞表を提出し、退職願に及んだこと、(ニ)債務者が、就業規則の定める手続に従い右退職願に『許可』を与える意味において、債権者両名に対し『依願退職』の辞令を交付したことは、いずれも当時者間に争がない。よつて、以下債権者両名の辞表提出が、心裡留保乃至虚偽表示により雇傭契約合意解除の申込の意思表示として無効であるかどうかにつき判断する。

(2)  成立につき争のない疎甲第六及び第七号証、疎乙第一号証の一、二、同第五号証、債権者中西本人尋問の結果により真正に成立したと認め得る疎甲第三及び第四号証、証人多田正雄の証言により真正に成立したと認められる疎乙第六号証、証人大木正貴及び同多田正雄の各証言、並びに、債権者中西本人尋問の結果を綜合すれば左記のような事実が一応認められる。債務者会社では、総務課長を介し債権者両名外九名の提出にかかる前記上申書を手にして、そこに糾弾されている近藤守衛の処分自体よりも、これを糾弾した債権者等の行為の方が会社の秩序維持の観点から問題であるとして、総務部次長多田正雄等に命じて事実の調査をさせた結果、債権者等の属する警備係の内部に二派の対立があり、右連署書面提出行為は、守衛長の債権者両名が主導して他の九名と共謀の上、他派に属する同僚近藤を排斥する手段として、同人の個人的非行をとりあげたものであるとの結論に到達し、債務者会社代表取締役山野上重喜は、連署者一同につき辞表を提出する程の自省が必要であると多田次長等に洩らした。そこで、同次長は、右代表取締役の意向に基き、同年八月四、五日頃、債権者両名を含む連署者を集め、その所為が会社の秩序維持の観点から穏当を欠く所以を説明した上、全員に対しその責任上辞表を提出するよう促し、なお、右辞表は、連署者の反省と謹慎の実を社長(代表取締役)に示すためだけのものであるから受理される心配はないと附言した。一方連署者等の側では、その所為が会社の解するごとく非難に価するものとは考えられぬから、辞表提出を拒もうという意見の者もあつたけれども、結局、多田次長の言明どおり辞表が受理されることはあるまいという債権者中西等の意見にしたがい、全員辞表を同次長の許に提出した。もつとも最初に提出した辞表は、『退職願』とか『辞表願』と題するものの、「会社のため最善の措置と信じたことが、上司において不穏当と指摘され遺憾であるが、ここに軽卒を詑び、謹慎の意を表する。」といつた趣旨の、辞意の表明も不明確で、会社の措置に対する批判すら仄したものであつたから(疎甲第三号証)、不充分として返却され、正式に受け取られた辞表は、債権者中西が改めて示した文案に多田次長が加筆した文言によるものであつた。なお、同次長は、同債権者から右辞表の文案を呈示された際も、辞表が受理される恐のないことを繰り返し言明し、且つ、同月二六、七日頃、これらの辞表を代表取締役の許に持参した際、全員辞表を提出する程反省の意を表明していることに免じ、寛大な処分で臨まれたい旨意見具申した。しかるに、債務者会社では、債権者両名の責任を特に重視し、減給、配置転換等では不充分で、むしろ懲戒解雇にすべきであるが、既に辞表の提出を見ているので、『依願退職』の形式で処分の目的を達することに決した。よつて、同月三〇日、多田次長は、債権者両名に右債務者会社の意向を伝えたところ、債権者等は、それが同次長の前言に矛盾することを指摘し、辞表提出が本心に基くものでなかつた旨訴えたけれども、同次長が、「退職願が不本意なら撤回を妨げぬが、その場合は、債権者両名は勿論、他の連署者全員をも懲戒解雇処分に付する。」と答えたので、債権者両名は一旦その場を退き下つたけれども、その後労働組合幹部の援助を得て、寛大な処置方陳情を繰り返したが、その効なく、遂に前記『依願退職』の発令を見たものである。

なお、債権者以外の連署者は、いずれも減給処分を受けたが、退職願は保留され、彼等の内から辞表を貫いて債務者会社を去つた者は、一人もいなかつた。

(3)  以上のごとく疎明された事実関係を綜合すると、債権者等は、上司多田次長から自己の行為に対する責任を問われ、辞表提出を迫られたことを甚だ心外に考えたが提出された辞表を受理することはないという同次長の言明を信じた結果退職願に及んだものであつて、右は、その真意に基くものでなかつたと一応推認せざるを得ない。債務者は、債権者等の所為が、著しく事業場の規律を乱したものとして、債務者会社の就業規則上懲戒解雇に相当する非行であり、債権者等も、深く自省の上退職願に及んだものであるから、それが真意に基かぬ筈はないと主張する。しかし、債権者等の前記上申書提出行為が、当該目的を達するための最善の方法であつたかどうかはしばらくおき、その動機が債務者主張のごときものであつた事実は、本件の疎明資料からにわかに断じ難いのみならず、かりにしかりとするも少くとも、客観的には職場秩序の維持を職責とする一警備係員の不当な行為を指摘することにより、債務者会社の利益を図る行為である以上、これをもつて債権者等につき債務者会社の定める懲戒解雇の事由に該るものとはいえない。のみならず、前記大木正貴、佐野利照の各証言、中西八百蔵本人尋問の結果に照し信用できない疎乙第一、二号証の各一、二を除き、債権者等自身が懲戒解雇されねばならぬような非行をしたものと考えていたことを認め得る疎明資料はない。やはり債権者両名には退職の真意がなかつたと一応認めるのが合理的であるという外ない。更に前認定のとおり、債務者会社代表取締役は、債権者ら十一名が「辞表を提出するほどの自省が必要である」との意向を多田次長に洩らした結果、同次長において「受理される心配はない」と明言していた以上、債務者会社代表取締役は、債権者両名の辞表を多田次長を介し受け取つた際、そこに表明された辞意が本心でないことを知つていたか、少くとも知り得べき状態にあつたと一応推認すべきものである。

(4)  してみれば、債権者両名の退職願の意思表示(雇傭契約合意解除の申込)は、心裡留保により無効であるから、それが有効であることを前提として、これに対してなされた債務者の『依願退職』の発令(同解除の承諾)は何等の効力なく、従つて、両者間の雇傭契約が合意解約により消滅したものとは認め難く(債務者が債権者両名を一方的に解雇したことの主張及び疎明はない。)、債権者両名は、なお債務者会社の従業員たる地位を保有するものと、一応断ぜざるを得ない。

(5)  債権者中西の債務者会社から支給されていた賃金(月給)が、月手取金二五、〇〇〇円、債権者浮田のそれが、月手取金二四、五〇〇円を下らず、いずれも毎月二五日にその月分の仮払を受け、翌月一〇日に清算支給されることになつていた事実は、当事者間に争がない。そして、前記債権者本人尋問の結果によれば、債権者両名は、従来債務者会社から支給されていた賃金を殆ど唯一の収入源として、その家族の生活を維持して来たものであつて、現にこれを絶たれ、生活に困窮していることが疏明される。

(6)  よつて、債権者両名のかかる現在の危難を避けるため、本件当事者間の係争権利関係につき仮の地位を定める仮処分として、本案判決確定に至るまで、債権者両名、債務者間の雇傭契約につきなされた合意解除の効力を停止し(主文第一項)、債務者において、債権者両名に対し、右合意解除がなされた翌月たる昭和三〇年一〇月分である履行期の到来した主文第二項掲記の各賃金手取額及び未だ履行期の到来しないその翌月分(同年一一月分)以降の同項掲記の各金額を同掲記の日に支給すべき旨命ずることを相当とする。債務者はかかる満足的仮処分は不適法であると主張するが、独自の見解であつて採用し難い。また、債務者は、債権者等の申請の趣旨第一項が意味不明確で不適法であると主張するが、債権者両名は、結局主文第一項と同旨の判決を求めているものと解し得る。従つて、右主張も採用しない。

(7)  なお、本件申請の趣旨第二項によれば、債権者等は、昭和三〇年九月分の賃金手取額の支給をも求めているが、少なくとも、同月二〇日まで債権者等が債務者会社の従業員たる地位を保有していた事実は、債務者の認めるところであるから、同月分の賃金(月給)は、当然債務者において任意支給するものと考えられる。よつて本件の仮処分においては、この部分の支給を命ずる必要がないものと認めて、これを除外することとした。

(8)  以上の理由により、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 栄枝清一郎 戸根住夫)

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