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神戸地方裁判所 昭和31年(わ)514号 判決 1958年12月25日

被告人 山田英三 外一名

主文

被告人両名を各懲役二年に処する。

但し、被告人両名に対し、本裁判確定の日から、いずれも四年間、右各刑の執行を猶予する。

押収にかかる、銀行認証書二十通(証第三十六号の一ないし十九、二十三)、及び、神戸税関の通関済の証明印ある外国為替銀行買取用輸出申告書二十六通(証第二十一号の一ないし六、及び八ないし二十六、同第二十三号)の各変造部分、並びに、「中西」と刻した認印、「KOBE CUSTOMS」と刻したゴム角印各一個(証第一号)、周囲に「SANWA BANK KAWARA MACHI」と刻した丸型日付印(証第三十一号)は、いずれもこれを没収する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(犯行に至つた経緯)

被告人両名は、昭和二十八年十二月頃から雑貨品の輸出を業とする山久商会を共同経営していたが、同二十九年十二月頃、シリヤに向け輸出したライターについて事故を生じ、その輸出為替手形(額面百九十万円)が不渡となつたため、取引銀行であつた東京銀行大阪支店に対して約二百万円の債務を負担することとなり、同銀行との取引が不能となつたので、同三十年三月頃、やむなく右商会を解散し、同年四月末頃、新たに、同じく雑貨及び機械類の輸出を主たる業とするオリエンタル商事株式会社(資本金三十万円)を設立し、本店を大阪市南区東平野町二丁目十一番地新上六ビル内におき、両名が代表取締役となつて、ともにその業務の執行にあたることとし、この新会社において、右商会当時の債務をすべて引受け、同会社の収益で右債務を支払つて行くことになつた。

このようにして発足した会社の業務として、被告人両名は、イラク方面へのミシンの輸出を計画したが、輸出しようとするミシンが一流品でないため、通産省の定めた輸出価格の最低基準額(いわゆるチエツクプライス)では高額にすぎ、このような価格では到底外国商社と輸出契約が成立しないので、両名で相談した結果、相手商社との間では、右チエツクプライスよりも低い価格で契約を締結し、その価格で信用状を開設させたうえ、通産省に対しては、これよりも高額のチエツクプライス相当額で輸出するものとして申告して、右価格での輸出承認を受け、外国為替銀行の輸出代金決済方法の認証を受けるに際しては、右信用状どおりの低価格で認証をとり、輸出申告をするときには、その認証書に記載された代金額を、右輸出承認のあつた高いチエツクプライス相当額に変造して、これを税関に提出して行使し、制規の価格による輸出であるとして右ミシンの輸出手続を終えたうえ、この輸出について、低い信用状記載の額即ち当初銀行認証を受けた金額を記載した輸出為替手形を、外国為替買取銀行に提出して、その買取を受け、その後、税関から交付を受けた右銀行買取用輸出申告書を同銀行に追提出するにあつては、同申告書に本来チエツクプライス相当額で記載されている輸出代金額を、さきに銀行認証を受け、且つ、現に買取をしてもらつた低い価格に変造し、これを銀行に提出行使して買取手続を終了させようと企て、もつてチエツクプライスを免れて輸出する手段として別表第一及び第三のうち通し番号1ないし18の各公文書変造、同行使を敢行するにいたり、

さらに、被告人らの会社は、前記のように山久商会当時の債務を引き受けていたので、その売得金の殆んどを右債務の支払いに充て、且つ、その経営自体においても、右のようにチエツクプライスを下廻る価格で輸出したためその採算がとれず、昭和三十一年三月頃には、輸出ミシンのメーカーであるオーシヤンミシン工業株式会社ほか一店に対し負担する債務が約百三十六万円に達し、その支払いについては厳重な督促を受けるにいたつたので、その金策に苦慮し、その頃被告人両名で相談した結果、外国商社からミシン完成品の注文のあつたものについて、右完成品を輸出するように装つて、実際はその頭部だけを船積したうえ、完成品の代金額の輸出為替手形の買取を受けて不当に利得するという詐欺輸出を考え出し、その方法として、まず通産省に対してはミシンの頭部のみを輸出するものとして輸出承認を受け、前記の銀行認証にあたつては、ミシン完成品を輸出するものとして認証を受け、輸出申告のときには、これをその頭部だけの輸出代金についての認証書であるように、その品名、金額の記載を変造したうえ、右変造の認証書を税関に提出して行使し、税関からは右頭部のみについての輸出許可を受けて、頭部だけを通関、船積し、その後、該輸出代金についての為替手形の買取申請に際しては、完成品の代金額を記載した手形を、さきの船積にあたつて右完成品を受取つた旨の記載をさせておいた船荷証券等とともに買取銀行に差し出して、あたかも完成品を船積したかのように装つて、同銀行から右完成品代金相当額を不当に利得して、これを騙取し、さらに、前記買取用輸出申告書の追提出に際しては、右申告書にはミシン頭部のみの品名、金額が記載されているのを、その完成品及びこれに対応する金額の記載に変造したうえ、これを銀行に提出行使して同完成品代金についての為替手形の買取手続を終了させようと企て、もつて詐欺輸出の手段として別表第一及び第三のうち通し番号19ないし28の各公文書変造、同行使、並びに別表第二の詐欺を敢行するにいたつた。

(罪となるべき事実)

被告人両名は共謀のうえ、

第一、別表第一記載のとおり、昭和三十年十月三十一日頃から同三十一年三月三十日頃までの間、二十回にわたり、いずれも前記被告人らのオリエンタル商事株式会社内において、それぞれ税関に提出して行使する目的で、ほしいままに、同表「銀行認証番号」欄記載の番号の、外国為替銀行三和銀行瓦町支店で認証を受けた、同銀行の記名押印ある公文書たる銀行認証書合計二十通(証第三十六号の一ないし十九及び二十三)について、いずれもその「売買建値及び送り状記載金額」及び「未使用残高」の各欄に記入されている金額の数字をタイプ等で抹消し、その附近に、同表「変造した金額」及び「変造した未使用残高」各欄記載の数字をタイプ又はペン等で記入し、(同表番号<20>の分についてはその「商品名」欄に、同表掲記のとおりの文字をタイプで附加)、さらに、あらかじめ偽造しておいた「SANWA BANK KAWARA MACHI」と刻した同銀行の訂正用丸型日付印(証第三十一号)を、同表「変造に使用した偽造印」欄記載の分に押捺するなどして、あたかも右金額等に対して前記銀行が代金決済方法の認証をしたもののように変更し、もつて右外国為替銀行の記名押印ある同銀行作成名義の公文書たる銀行認証書各一通(合計二十通)を、それぞれ変造し、同表「行使日時」欄記載のとおり、同三十年十一月八日頃から同三十一年四月二日頃までの間、十回にわたり、いずれも神戸市生田区加納町六丁目所在の神戸税関において、同税関係員に対し、情を知らない同表「行使者」欄記載の者らを介し、右変造にかかる銀行認証書合計二十通を、いずれも真正に成立したものとして、同表記載のように一通又は数通一括して提出し、それぞれこれを行使し、

第二、別表第二記載のとおり、各外国商社との間に、同表「契約品」欄記載の家庭用ミシン完成品等について売買契約が成立し、これについての信用状が発行されていたのに、その輸出にあたつては、同表「実際の輸出品」欄記載のように、その頭部のみを、いずれも神戸港において、外国向け船舶に船積しておきながら、船会社からは「HOME USE SEWING MACHINES」(家庭用ミシン)との総括的記載のなされた船荷証券を受領したうえ、同表「買取申請日時」欄記載の日時頃、十回にわたり、情を知らない同表「申請仲介者」欄記載の者らを介し、同表「申請銀行」欄記載の各銀行において、右各銀行係員に対し、いずれも契約どおりの貨物の船積を済ませたように装い、前記各船荷証券、信用状等とともに、いずれもオリエンタル商事株式会社振出の同表「手形金額」欄記載の額面(ミシン完成品の代金額)の輸出為替手形を呈示して、その買収方を求め、よつて、同銀行係員をして、真実契約どおりの貨物の船積があつたものと誤信させ、その結果、同表「入金日時」欄記載のとおり、十回にわたり、いずれも右輸出為替買取名義の下に、同表「入金額」欄記載の金員を、同「振替先」欄記載の各当座預金口座に振り替えて入金させ、もつて、それぞれ右金額相当の財産上不法の利益を得、

第三、別表第三記載のとおり、昭和三十年十一月二十三日頃から、同三十一年四月十七日頃までの間、二十六回にわたり、いずれも前記オリエンタル商事株式会社内において、それぞれさきに輸出為替手形を買い取つてもらつた銀行に提出して行使する目的で、ほしいままに、神戸税関から交付を受けた、同表「申告番号」欄記載の番号の、同税関の通関済証明印の押捺された外国為替銀行買取用輸出申告書合計二十六通(証第二十一号の一ないし六及び八ないし二十六、同第二十三号)について、いずれもその「品名」及び「申告価格」の各欄に記載されている文字、数字の一部又は全部を、消ゴム、タイプ等で抹消し(一部の品名欄については「HEADS ONLY」の二字を抹消すれば完成品(SEWING MACHINE)の記載となる)、若しくは空白部分を利用して新たに、それぞれの該当欄に同表「変造した品名」及び「変造した申告価格」欄に掲記の文字、数字を、タイプ、ペン等で記入し、さらに、あらかじめ偽造しておいた「KOBE CUSTOMS」と刻した神戸税関の訂正用ゴム角印、「中西」と刻した認印(いずれも証第一号)を、同表「使用した偽造印」欄に掲記してある分について、適宜押捺するなどして、あたかも右各品名、金額のものについて、同税関が通関済であることを証明したもののように変更し、もつて同税関の通関済の証明印ある外国為替銀行買取用輸出申告書各一通(合計二十六通)を、それぞれ変造し、同表「行使日時」欄記載のとおり、同三十年十一月二十四日頃から、同三十一年四月十七日頃までの間、十四回にわたり、同表「行使先」欄記載の各銀行(いずれも外国為替買取銀行)において、同表「行使方法」欄記載のように情を知らない松本佳子を介し、又は郵送して到着せしめて、右各銀行係員に対し、右変造にかかる買取用輸出申告書合計二十六通を、いずれも真正に成立したものとして、同表記載のように一通又は数通一括して提出し、それぞれこれを行使し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人らの判示行為中、判示第一の公文書変造の点は、いずれも外国為替及び外国貿易管理法第六十九条、刑法第百五十五条第二項、第一項、第六十条に、同行使の点は、いずれも同法第百五十八条第一項、第百五十五条第二項、第一項、第六十条に、各該当するが、別表第一の同番号の公文書変造と同行使とは、それぞれ互に手段結果の関係にあり、且つ、番号<2>と<3>、<5>と<6>、<8>ないし<12>、<13>ないし<15>、<16>ないし<18>の各変造公文書の一括行使は、いずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五十四条第一項後段、前段、第十条により、結局犯情の重い同表番号<1><2><4><5><7><8><14><16><19><20>の各変造公文書行使罪の刑に従い、判示第二の各詐欺の点は、いずれも、同法第二百四十六条第二項、第六十条に該当し、判示第三の公文書変造の点は、いずれも外国為替及び外国貿易管理法第六十九条、刑法第百五十五条第二項、第一項、第六十条に、同行使の点は、いずれも同法第百五十八条第一項、第百五十五条第二項、第一項、第六十条に、各該当するが、別表第三の同番号の公文書変造と同行使とは、それぞれ互に手段結果の関係にあり、且つ、番号<5>と<6>、<8>と<9>、<10>と<11>、<14>と<15>、<16>ないし<19>、<21>ないし<26>の各変造公文書の一括行使は、いずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五十四条第一項後段、前段、第十条により、結局犯情の重い同表番号<1><2><3><4><5><7><8><10><12><13><14><17><20><26>の各変造公文書行使罪の刑に従い、以上の各罪は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条により重い右公文書変造罪及び同行使罪のうち、最も犯情の重い別表第三の番号<26>の同行使罪の刑に法定の加重をしたうえで、被告人両名を、それぞれ主文第一項の刑に処し、なお、本件犯行の動機に酌量すべき点があり、且つ、被告人等が海外商社に対して被害額を弁償し改悛の情顕著である等諸般の情状を考慮し、同法第二十五条第一項を適用して、被告人両名に対し、主文第二項の期間、右各刑の執行を猶予し、押収にかかる、銀行認証書二十通(証第三十六号の一ないし十九、二十三)及び神戸税関の通関済の証明印ある外国為替銀行買取用輸出申告書二十六通(証第二十一号の一ないし六、八ないし二十六、同第二十三号)の各変造部分は、それぞれ判示第一及び第三の各別表に掲記した行使行為の組成物件であつて、いずれも何人の所有をも許さないものであり、また、証第一号の認印一個及びゴム角印は判示第三の別表第三番号<5>、<6>、<12>及び<15>(認印のみ)<14>及び<16>ないし<26>(角印のみ)の、証第三十一号の丸型日付印は判示第一の別表第一番号<15><20>の、各公文書変造行為の供用物件であつて、いずれも被告人ら以外の者の所有に属しないものであるから、前者について同法第十九条第一項第一号、後者について同第二号、各同条第二項を適用して、主文第三項のとおり、いずれもこれを没収し、なお、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条により、主文第四項のとおり、被告人ら両名に連帯して負担させることとする。

(裁判官 山崎薫 野間礼二 大石忠生)

(別表第四略)

別表第一(銀行認証書の変造及び行使)<省略>

別表第二(詐欺)<省略>

別表第三(税関の通関済印ある銀行買取用輸出申告書の変造及び行使)<省略>

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