神戸地方裁判所 昭和33年(わ)483号 判決 1959年4月08日
被告人 中根信清 外一六名
主文
被告人中根信清を懲役六年に、
被告人沢野秀雄を懲役四年に、
被告人大盛三雄を懲役三年に、
被告人加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同板東弘を各懲役二年に、
被告人大盛三成、同本田豊治、同河辺高信、同河辺孝通を各懲役一年六月に、
被告人甲を懲役三年以上五年以下に、
被告人小西豊を懲役四年に、
被告人森本敏彦を懲役三年に、
被告人小西豊勝を懲役三月に、
被告人乙を懲役一年六月以上三年以下に、
被告人丙を懲役二年に、
それぞれ処する。
未決勾留日数中、
被告人中根信清、同沢野秀雄、同北山一男、同板東弘、同甲に対し各一〇〇日を、
被告人加藤勇に対し二三〇日を、
被告人藤田正信に対し一二〇日を、
被告人大盛三雄に対し九〇日を、
被告人大盛三成に対し八〇日を、
被告人河辺高信、同河辺孝通に対し各二〇〇日を、
被告人小西豊に対し二五〇日を、
被告人森本敏彦、同乙、同丙に対し各二〇〇日を、
右各本刑に算入する。
被告人丙に対し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告人丙を右猶予の期間中保護観察に付する。
押収にかかる拳銃一ちよう((A)証第一号)、拳銃サツク((A)証第一二号)、日本刀三振((A)証第二号―但し、鞘及びそれにはりつけられた銃砲刀剣類登録証はこれを除く―、同証第四号、同証第六号)、両刃ナイフ一本((A)証第一四号)及び、麻薬塩酸ジアセチルモルヒネを含有する粉末一四九包((B)証第一号)はこれを没収する。
訴訟費用中、
証人音春こと松本音松、同松本八郎に支給した分は、被告人甲の負担とし、
証人大盛三勝、同太田正、同森口真砂子、同服部三郎、同森口完亮に支給した分は、被告人中根信清、同沢野秀雄、同加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同大盛三成、同板東弘、同本田豊治、同河辺高信、同河辺孝通、同甲の連帯負担とする。
理由
一、罪となるべき事実
(各被告人の経歴及び関係)
被告人中根信清は、山口組の組員である大盛三平の娘婿で、かねてから神戸市長田区五番町五丁目市営アパート一三号室で麻薬の密売をしていたが、その後同室は右大盛三平の長男大盛三治の麻薬密売所となり、自分等は同市葺合区三宮国際マーケット内に麻薬密売所を設け、相被告人沢野秀雄を責任者とし、自宅に寄宿又は出入りしている者らを使つて、麻薬の密売をやつていたもの、
被告人沢野秀雄は、右中根信清の舎弟分であつて、かつて前記市営アパート一三号室の麻薬密売所で密売をしていたことがあり、麻薬取締法違反罪で処罰されたが、その後同市長田区五番町六丁目三六番地の右中根信清方に寄宿して、同人の経営する前記国際マーケットの麻薬密売所の責任者として、麻薬の仕入れ並びに販売に従事していたもの、
被告人加藤勇はかつて「わさび会」の米田義明の若衆であつたが、昭和三〇年頃から麻薬中毒患者となり、右中根方に出入りして麻薬の売子をしているうちに、麻薬取締法違反罪で処罰されたことがあり、昭和三三年三月末刑務所を出所後、再び右中根方に寄宿していたもの、
被告人北山一男は、その住居が右中根信清方の近所であり、同人のところに出入りして麻薬の売子をしていたが、その後麻薬取締法違反罪で処罰され、昭和三三年四月一四日大阪刑務所を出所後は、再び右中根方に出入りしていたもの、
被告人藤田正信は、昭和三三年一月頃から、右中根信清方に寄宿して、同人方の使い走りをしていたもの、
被告人大盛三雄は、前記大盛三平の二男、被告人大盛三成はその三男であつて、いずれも定職を持たず、パチンコ店の景品買などをして生活していたもの、
被告人板東弘は、兄が取締役をしている八阪運送株式会社の手伝をしていたが、昭和三三年四月中頃から右大盛三雄と知り合い、同人方や相被告人河辺高信、同孝通らの居住する前記市営アパート一一号室に寝泊りして、前記大盛三治の麻薬密売所で麻薬の小分けや運搬等をしていたもの、
被告人河辺孝通は、昭和三二年一一月神戸刑務所を出所後、大盛三治方に出入りするようになり、前記市営アパート一一号室に居住して、翌三三年二月中頃から、右大盛三治の前記麻薬密売所で麻薬の売子をしていたもの、
被告人河辺高信は、右孝通の兄で、昭和三三年四月四日刑務所を出所後、右孝通の居住する前記市営アパート一一号室に、寝泊りし、右大盛三治に方出入りして、右孝通と共に麻薬の売子をしていたもの、
被告人本田豊治は、中谷組の舎弟分の浅川松吉の若衆であつたが、右大盛三治と知り合い、同人方に出入りするようになり、昭和三三年四月初旬から前記市営アパートの一一号室や一三号室に寝泊りして、右孝通らと交代で麻薬の売子をしていたもの、
被告人正秋こと甲は、昭和三三年二月中頃家出をし、かねて前記大盛三平の五男大盛三勝と友達である関係から、右大盛三治方に出入りし、同人方の麻薬の売子である村田正一と共に、前記市営アパート一一号室に寝泊りして、自らは麻薬の運搬役をしていたもの、
被告人小西豊勝は、山口組々長田岡一雄の舎弟分で、前記大盛三平とは兄弟分の関係にあるもの
被告人小西豊は右豊勝の甥で、九州で大工職をしていたが、昭和三二年三月頃、詐欺賭博罪の刑を終え、神戸市に帰つて来、同年末頃から相被告人森本敏彦方に同居し、翌三三年四月中旬頃から、同市長田区四番町四丁目の通称「蔵」と称する麻薬密売所において、自己の出資で、右森本をして麻薬の密売をやらせていたもの
被告人乙、同丙は、いずれも昭和三三年三月頃から右豊の元に出入りして、同人の配下となつていたもの
被告人森本敏彦は、山口組系統の水田峯雄の若衆であつたが、昭和三二年夏、酒癖のため破門になり、同年末頃右豊に部屋を貸したことから同人と懇意になり、昭和三三年四月中頃から、豊の出資で前記「蔵」の麻薬密売所で、麻薬の密売をするようになつたものである。
第一、(被告人甲)
被告人甲は、昭和三三年四月五日午後一〇時頃神戸市長田区三番町三丁目丸金寿司屋で飲食中、同店に入つてきた顔見知りの音春こと松本音松とささいなことから口げんかをし、立腹したまま一旦は別れて前記市営アパート一一号室に引き返したが、その際、右音松が小西側に出入りしているといううわさや、前記大盛三勝が同夜同区五番町四丁目の朝日湯前で右音松らとけんかして同人らに殴られたと聞き、大盛側の者を侮辱していると考えて憤激し、同日午後一二時頃、日本刀一振((A)証第六号)を持つて前記丸金寿司屋に駆けつけ、同店内にいた右音松を呼び出し、同人が同寿司屋前路上に出てくるや、殺意をもつて、右の日本刀で同人に切りつけ、同人に対し、約一ヶ月の通院加療を要する左肘関節伸展側刺創を負わせたが、致命傷とならなかつたため、同人を殺害するに至らなかつた。
第二、
(一)(被告人沢野秀雄)
被告人沢野秀雄は、前記中根信清の麻薬密売所で麻薬の売子をしていた悦こと上本一三が同年三月末頃麻薬購入代金を持ち逃げしたことに立腹し、同年四月七日午後二時頃、同人を同市長田区五番町六丁目三六番地の右中根信清方に連行し、同家応接室において、同人の足を蹴りつけ、更に、竹箒の柄でその臀部を数回殴打して暴行を加えた。
(二)(被告人小西豊勝)
被告人小西豊勝は、前記のとおり、相被告人沢野秀雄が右上本一三を中根信清方に連れ込んだことを知るや、自分と右上本とは親戚の間柄であり、且つ当時同人が小西側に出入りしていた関係から、その様子を見させるため、相被告人小西豊、同森本敏彦らを右中根方に行かせたが、その帰りが遅いので、同日午後二時頃、自らも右中根方前路上へ行き同所において右沢野が小西豊と談判しているのを見て、沢野の態度が生意気であると考えて憤激し、同人に対し、「ワレいつからえろうなつたんや」と言いながら、右沢野の左すねを靴ばきのまま蹴りつけて暴行を加えた。
(三)(被告人沢野秀雄)
被告人沢野秀雄は、右小西豊勝らが一旦右中根信清方附近から立去つたのち、同日午後二時半頃、相被告人小西豊が日本刀をもつて再び右中根方にやつてきて同人方表ドアのガラスを叩きこわしたのに憤激し、同人を殺害しようと決意し、急ぎ右中根方裏床下に隠していた拳銃((A)証第一号)を取り出して同人方表に飛び出し、もつて殺人の予備をした。
(四)(被告人沢野秀雄)
被告人沢野秀雄は、法定の除外事由がないのにかかわらず、
(1) 同日、右中根信清方において、日本刀一振((A)証第二号)を所持した。
(2) 同日、右中根信清方において、拳銃一ちよう((A)証第一号)を所持した。
(五)(被告人小西豊)
被告人小西豊は、法定の除外事由がないのにかかわらず、同日午後二時半頃、右中根信清方前路上で日本刀一振((A)証第三号)を所持した。
(次の乱闘に至る経過)
右四月七日のけんか出入りについては、山口組の若衆水田峯雄らが仲裁に入り、一旦手打ができたが、四月二五日、小西豊がコマヤ喫茶店附近で大盛三勝と乙とが口論しているのを制止するため、双方を殴つたことから紛議が再発し、山口組の舎弟分松本一美や本田会の会員小川松之助が仲裁を試みていた。
第三(被告人乙、同丙)
被告人乙及び同丙は、同月二六日午後七時頃、同区五番町四丁目市電停留所附近ダルマ屋喫茶店前路上で乙が大盛三勝に出会つた際、いきなり同人にジヤツクナイフで突きかかられたことに憤激し、両名共謀のうえ、同日午後一〇時頃、右三勝に仕返しをするため、殺意をもつて、それぞれ日本刀一振(被告人乙の所持したものは(A)証第五号、同丙の所持したものは同証第三号)を携帯して、右三勝を捜して前記中根信清方前路上に至り、同所に居合わせた右三勝に対し、被告人乙において右の日本刀で切りかかつたが、三勝が中根方向側の森口完亮方店舗に逃げ込んだうえ、大盛側の者らが集つてきて右三勝に加勢したため、同人殺害の目的を遂げなかつた。
第四、
(一)(被告人小西豊、同森本敏彦)
被告人小西豊、同森本敏彦は、前記仲裁中に相被告人乙が大森三勝に暴行を加えられたことを聞き、小西豊において大盛三雄やその母親らと、小西豊勝において大盛三治らと、それぞれ掛合つたが、話合がつかないうちに、前記のように、相被告人乙及び同丙が大盛側に殴込に行き、かえつて丙が所携の日本刀をぶん捕られたうえ、同人らの連れである岡田弘が、小西側の者とみなされ前記中根方附近で大盛側にとりこにされたことを知り、同人を奪還し、且つ大盛側の者に報復のための先制攻撃をかけようと企て、両名共謀のうえ、殺意をもつて、翌二七日午前一時頃、それぞれ抜身の日本刀各一振(被告人小西豊の所持したものは(A)証第四号)を持つて前記中根信清方前に押しかけたところ、後記第五の(一)記載のように大盛側の狭撃を受けて乱闘となり、右の各日本刀を振り廻して大盛側の相被告人北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同板東弘、同甲、同大盛三勝と斬り合つたが、被告人森本敏彦において右藤田正信に対し、加療約一週間を要する左大腿部切創を負わせたに止まり、いずれも同人らを殺害するに至らなかつた。
(二)(被告人小西豊)
被告人小西豊は、法定の除外事由がないのにもかかわらず、同日午前一時頃、同市長田区四番町四丁目六二番地の自宅から右中根方前路上まで、日本刀一振((A)証第四号)を携行して所持した。
第五、
(一)(被告人中根信清、同沢野秀雄、同加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同大盛三成、同板東弘、同本田豊治、同河辺高信、同河辺孝通、同甲)
被告人中根信清、同沢野秀雄、同加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同大盛三成、同板東弘、同本田豊治、同河辺高信、同河辺孝通、同甲は、相被告人小西豊や同小西豊勝が掛合いにきたが話合いがつかないうちに、前記第三記載のように、同月二六日午後一〇時頃相被告人丙、同乙が中根方前路上に殴込をかけて来てその際大盛側において丙を取り囲み、同人の持つていた日本刀を取りあげたうえ同行の岡田弘をとりこにしており、且つ急を聞いて大盛三平方へ来た小西豊勝が「若い者同志けんかさしてやらんかい」と言い捨てて右三平方を立ち去つたので、その後右岡田弘を引取りに来た松本俊介に同人を引き渡したものの、右のような情勢では、いずれ小西側からの襲撃があるものと予期し、前期大盛三勝を加え共謀のうえ、殺意をもつて、小西側の者らを迎撃しようと企て、被告人沢野秀雄において、内妻の田中芳子をして同人方実家から前記の拳銃一ちようを持つて来させ、且つ大盛側の者らにそれぞれ見張りを命ずるなど同人らを指揮し、被告人大盛三成において、大盛三平方北隣の空屋に置いてあつた日本刀をとり出し、中根方前路上でそれを被告人加藤勇に手渡し、これと引きかえに両刃ナイフ((A)証第一四号)を受取り、更にそれを被告人河辺高信に手渡し、被告人大盛三雄らにおいて、竹竿の尖端に刃物を縛りつけて竹槍を作り、その他各自拳銃、日本刀及び竹槍等の兇器を準備し、中根方前道路北方及び南方の各四つ角附近を交互に哨戒見張りをしていたところ、翌二七日午前一時頃、前記第四の(一)記載のとおり、相被告人小西豊、同森本敏彦が抜刀して右中根方前路上に襲撃して来たので、それぞれ準備していた右拳銃や刃物等で同人らに攻撃を加えたが、その際、被告人大盛三雄、同藤田正信、同北山一男らにおいて、それぞれ所携の竹槍で右森本敏彦に突きかかり、同人の右腕二個所及び背部一個所を突き刺し、大盛三勝その他大盛側の者において、竹槍等で小西豊に突きかかり、同人の右上膊部その他の個所を突き刺し右小西豊が三勝らの突きかかつてくる竹槍を切り払つているとき、被告人中根信清において、右の拳銃((A)証第一号)を持ち出し、同人方玄関口前から、右豊をめがけこれを一発発射し、同人が中根方向側の森口完亮方に逃げ込んだのをめがけて更に連続一発発射したが、いずれも右豊に命中せず、その一弾が、豊の傍に立つていた森口完亮(当四一年)の腹部に命中し、これを貫通したうえ、更に同人の背後にいた同人の長女森口真砂子(当一四年)の右手に命中し、被告人大盛三雄において、右森口完亮方に逃げ込んだ小西豊に対し、所携の菜切庖丁二丁を相次いで投げつけ、被告人甲において、右豊に対し、森口方北隣李彦鎬方前に置いてあつた塵取をとつて投げつけ、被告人板東弘において、所携の日本刀((A)証第三号)で右敏彦に切りつけようとしたが逃げられ、更に森口方店内にいる右豊に切りつけようとして右日本刀を振り上げたが、乱闘の経緯を聞いて現場に駆けつけた前記水田峯雄にとめられて果さず、被告人河辺高信において両刃ナイフ((A)証第一四号)を、同河辺孝通において日本刀((A)証第六号)を、同本田豊治において木剣を、それぞれ携帯し、はじめ見張りをしていたが、小西豊が前記森口方へ逃げ込んだので、森口方裏路地南側附近路上に集つて小西豊の退路を扼して待伏せし、被告人加藤勇において、はじめ日本刀を持つて見張りをしていたが、前記中根信清の発射した拳銃の音を聞くや、右の日本刀を持つて右中根方から同人方前路上に飛び出し、森口方表口に立つて同人方に逃げ込んだ小西豊の出て来るのを待伏せし、以上の結果、森口完亮に対し、入院加療五ヶ月余、通院加療約四ヶ月を要する腹部貫通銃創を、森口真砂子に対し、加療約一〇日を要する右栂指及び環指各挫傷を、小西豊に対し、加療約一週間を要する左上膊部刺創、右栂指端切創、左右各手掌切創を、森本敏彦に対し、加療約二五日を要する右手腕部切創(二個所)並びに背部刺創を負わせたにとどまり、いずれも致命傷に至らず、殺害の目的を遂げなかつた。
(二)(被告人大盛三成)
被告人大盛三成は、同月二七日午前零時頃正当な理由がないのに、前記のとおり小西側の者を迎撃する目的で、前記大盛三平方北隣の空屋から右中根信清方附近まで、脇差一振(登録番号兵庫第一四三五二号、長さ一尺四寸七分〇厘、銘長光)を携帯した
(三)(被告人中根信清)
被告人中根信清は、法定の除外事由がないのに、同日午前一時頃、前記自宅玄関先において、拳銃一ちよう((A)証第一号)を所持した
(四)(被告人板東弘)
被告人板東弘は、法定の除外事由がないのに、同日午前零時頃から同一時頃にかけて、大盛三平方及び中根信清方前路上において、前記のとおり被告人丙からぶん捕り大盛三平方においてあつた日本刀一振((A)証第三号)を所持した
(五)(被告人河辺孝通)
被告人河辺孝通は、法定の除外事由がないのに、同日午前零時頃から同一時頃にかけて、前記市営アパート一三号室附近及び森口完亮方裏路地南側附近路上において、日本刀一振((A)証第六号)を所持した。
(六)(被告人河辺高信)
被告人河辺高信は、正当な理由がないのに、同日午前零時頃から同一時頃にかけて、前記市営アパート一三号室附近及び森口完亮方裏路地南側附近路上において、あいくち類似の両刃ナイフ一個(刃渡約一二センチメートル((A)証第一四号)を携帯した
第六(被告人森本敏彦)
被告人森本敏彦は、法定の除外事由がないのに、同月二六日午後九時頃、同市長田区四番町四丁目一〇〇番地の一の前記通称「蔵」の密売所において、戸崎勤に対し、麻薬塩酸ジアセチルモルヒネを含有する粉末八包(一包は
小売用単価一〇〇円分、司法警察員の差押数量合計〇・四八五六グラム)を交付した
第七(被告人板東弘)
被告人板東弘は、大盛豊子と共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、営利の目的をもつて
(一) 同年五月一八日、前記中根信清方において、相被告人田中芳子らから、麻薬塩酸ジアセチルモルヒネの原末一本(約五グラム、司法警察員の差押数量は、ぶどう糖混合粉末の小売用単価一〇〇円分一四九包計八・四五二八グラム(B)証第一号はその鑑定残量)を代金一一、〇〇〇円で譲り受けた
(二) 同月一九日頃、同市長田区五番町六丁目四七番地の空家内において、前記麻薬塩酸ジアセチルモルヒネを含有する粉末一四九包(計八・四五二八グラム、(B)証第一号はその鑑定残量、チヤツク付財布―(B)証第二号―在中)を所持した
ものである。
二、証拠の標目<省略>
なお、被告人沢野秀雄は、判示第二の(四)の(1)掲記の日本刀((A)証第二号)は登録がなされている旨弁解し、右日本刀にふん合するものとして当裁判所に押収された黒鞘には、昭和三二年二月二八日発行の文化財保護委員会作成名義の銃砲刀剣類登録証が添付されているのであるが、右登録証の各記載と、文化財保護委員会登録審査委員稲田慶二作成の昭和三四年二月二六日付鑑定書((A)検甲318号)及び北野富三郎の昭和三三年四月八日付司法警察職員に対する供述調書(同67号)とをあわせ検討すれば、右登録証は他の刀剣に対して交付されたものであると認められ、(A)証第二号の日本刀には登録がなされているとは認められない。従つて、同被告人の右弁解は採用できない。
三、累犯となるべき前科
(一) 被告人沢野秀雄は、
(1) 昭和二七年四月二一日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一年、四年間執行猶予の言渡を受け、昭和二七年政令一一八号により、その刑を懲役九月に減軽、猶予期間を三年に短縮されたが、昭和二八年八月二五日、神戸地方裁判所姫路支部において右刑の執行猶予を取り消され、昭和二八年一月二三日神戸地方裁判所において、詐欺罪により懲役八月に処せられ、右刑と前記執行猶予を取り消された刑とをあわせて、当時その執行を受け終り
(2) 昭和三〇年二月四日神戸地方裁判所において、麻薬取締法違反罪で懲役一年に処せられ、翌三一年二月三日その執行を受け終つた
もので、右の各事実は、同被告人の当公廷における供述及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書((A)検甲148号)によつてこれを認め、
(二) 被告人加藤勇は
(1) 昭和二八年五月三〇日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一年に処せられ、
(2) 昭和三〇年六月六日神戸地方裁判所において、暴行、恐喝、傷害の各罪により懲役八月に処せられ、
(3) 翌三一年五月四日神戸地方裁判所において、麻薬取締法違反罪で懲役八月に処せられ、
(4) 翌三二年四月一三日神戸簡易裁判所において、窃盗未遂罪により懲役一年に処せられ、
いずれも当時、右各刑の執行を受け終つたもので、右の各事実は、同被告人の当公廷における供述、検察事務官作成の同被告人に関する前科調書二通(同149号及び、同309号)及び神戸刑務所の「刑の執行状況について」と題する書面(同308号)によつてこれを認め、
(三) 被告人北山一夫は、
(1) 昭和二七年四月四日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役十月、三年間執行猶予の言渡を受け、昭和二七年政令第一一八号により、その刑を七月一五日に減軽、猶予期間を二年三月に短縮されたが、昭和二九年四月二二日大阪簡易裁判所において、右刑の執行猶予を取り消され、昭和二八年一〇月二日大阪高等裁判所において、窃盗罪により懲役一年に処せられ、右刑と前記執行猶予を取り消された刑とをあわせて、
(2) 昭和三〇年一二月五日神戸地方裁判所において、麻薬取締法違反罪で懲役一〇月に処せられ、
いずれも、当時右各刑の執行を受け終つたもので、右の各事実は、同被告人の当公廷における供述及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書二通(同150号、同313号)によつてこれを認め、
(四) 被告人河辺高信は
(1) 昭和二七年四月一七日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役六月、三年間執行猶予の言渡を受け、昭和二七年政令第一一八号により、その刑を四月一五日に減軽、猶予期間を二年三月に短縮されたが、昭和二八年六月二三日神戸地方裁判所姫路支部において、右刑の執行猶予を取り消され、昭和二八年一月二三日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一〇月に処せられ、右刑と前記執行猶予を取り消された刑とをあわせ、
(2) 昭和二九年五月二五日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一年二月に処せられ、
(3) 昭和三一年二月二四日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一年に処せられ、
(4) 昭和三二年六月四日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一〇月に処せられ、
いずれも当時右各刑の執行を終つたもので、右の各事実は同被告人の当公廷における供述、検察事務官作成の同被告人に関する前科調書(同155号)及び神戸刑務所作成の同被告人の「刑の執行状況について」と題する書面(同310号)によつてこれを認め、
(五) 被告人河辺孝通は
(1) 昭和三〇年七月一日神戸地方裁判所において、公務執行妨害罪により懲役五月に処せられ、
(2) 昭和三二年一月三一日神戸簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一〇月に処せられ、
いずれも当時右各刑の執行を終つたもので、この事実は、同被告人の当公廷における供述及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書(同158号)によつてこれを認め、
(六) 被告人小西豊勝は、昭和二九年九月二九日神戸地方裁判所において、麻薬取締法違反罪により懲役一年に処せられ、当時その執行を終つたもので、この事実は、同被告人の当公廷における供述及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書(同156号)によつてこれを認め、
(七) 被告人小西豊は、昭和二八年一二月二四日大阪地方裁判所において、詐欺罪により懲役一年(未決勾留日数中三〇日算入)に処せられ、当時その執行を受け終つたもので、この事実は、同被告人の当公廷における供述及び検察事務官作成の同被告人に関する前科調書(同157号)によつてこれを認め
る。
四、法令の適用
被告人中根信清の判示第五の(一) 森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、判示第五の(三)の拳銃の不法所持の点は、銃砲刀剣類等所持取締法第三条、第三一条第一号、罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、右各殺人未遂の点は、一個の行為で四個の罪名に触れる場合であるから(本件のように、共通の生活利益を有し、徒党を組んで行動をともにする組織的団体の構成員が、共謀のうえ、同一の機会と場所とにおいて、殺意に基き、団体間の殴込又は迎撃のための乱闘をしたときには、同一の団体に属する各共犯者の加害行為は、各自の犯意を共同して実現するものであつて、相合して一個の行為を組成するものと認めるべきであるから、その各自について、相手方の数に応ずる各殺人未遂罪の観念的競合となる。以下同じ。)刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、銃砲刀剣類等所持取締法違反罪については懲役刑を、各選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文並びに但書、第一〇条、第一四条により、重い殺人未遂罪の刑に法定の加重をし、
被告人沢野秀雄の判示第二の(一)の暴行の点は、刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、判示第二の(三)の殺人予備の点は、刑法第二〇一条本文に、判示第二の(四)の(1)、(2)の各行為は、いずれも銃砲刀剣類等所持取締法第三条、第三一条第一項、罰金等臨時措置法第二条に、判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、各該当するところ、右判示第五の(一)の四名に対する各殺人未遂の点は、一個の行為で四個の罪名に触れるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、暴行罪及び銃砲刀剣類等所持取締法違反罪については懲役刑を、各選択し、同被告人には前示前科があるから、右各罪につき同法第五六条第一項、第五七条により、同法第一四条の制限に従つて累犯の加重をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条、第一四条により、最も重い殺人未遂罪の刑に法定の加重をし、
被告人加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同本田豊治の判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に該当するところ、右各殺人未遂は一個の行為で四個の行為で四個の罪名に触れるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、各被告人とも有期懲役刑を選択し、被告人加藤勇、同北山一男にはそれぞれ前示の前科があるから、同法第五九条、第五六条第一項、第五七条により、同法第一四条の制限に従つてそれぞれ累犯の加重をし、被告人加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同本田豊治については、いずれも同法第四三条本文、第六八条第三号を適用して、各法律上の減軽をし、
被告人大盛三成の判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、判示第五の(二)の日本刀の不法携帯の点は銃砲刀剣類等所持取締法第三二条第一号、第二一条、第一〇条第一項、罰金等臨時措置法第二条に、各該当するところ、右各殺人未遂の点は、一個の行為で四個の罪名に触れるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、銃砲刀剣類等所持取締法違反については懲役刑を、各選択し、右殺人未遂罪については、刑法第四三条本文、第六八条第三号を適用して、法律上の減軽をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文並びに但書、第一〇条により、重い殺人未遂罪の刑に法定の加重をし、
被告人板東弘の判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、判示第五の(四)の日本刀一ふりの所持の点は、銃砲刀剣類等所持取締法第三条、第三一条第一号、罰金等臨時措置法第二条に、判示第七の(一)、(二)の各行為はいずれも麻薬取締法第一二条第一項、第六六条(第六四条第一項)罰金等臨時措置法第二条に、各該当するところ、右各殺人未遂の点は一個の行為で四個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、銃砲刀剣類等所持取締法違反罪及び各麻薬取締法違反罪については懲役刑を、各選択し、右殺人未遂罪については、刑法第四三条本文、第六八条第三号を適用して法律上の減軽をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条により、最も重い殺人未遂罪の刑に法定の加重をし、
被告人河辺高信、同河辺孝通の判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、被告人河辺高信の判示第五の(六)の両刃ナイフの携帯の点は、銃砲刀剣類等所持取締法第二二条、第三二条第一号、罰金等臨時措置法第二条に、被告人河辺孝通の日本刀一ふりの所持の点は、銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項、第三一条第一号、罰金等臨時措置法第二条に、各該当するところ、右各殺人未遂の点は、一個の行為で四個の罪名に触れるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、各銃砲刀剣類等所持取締法違反罪については懲役刑を、各選択し、被告人両名にはそれぞれ前示の各前科があるから、被告人両名の右各罪につき、刑法第五九条、第五六条第一項、第五七条により、同法第一四条の制限に従つて、それぞれ累犯の加重をし、右殺人未遂罪については、被告人両名とも、同法第四三条本文、第六八条第三号を適用して法律上の減軽をし、以上の被告人両名の各罪は、それぞれ同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文(被告人高信については同条但書も)、第一〇条により、それぞれ重い殺人未遂罪の刑に法定の加重をし、
被告人甲の判示第一の音春こと松本音松に対する殺人未遂の点は、刑法第二〇三条、第一九九条に、判示第五の(一)の森口完亮、同真砂子、小西豊、森本敏彦に対する各殺人未遂の点は、いずれも同法二〇三条、第一九九条、第六〇条に各該当するところ、右後者の各殺人未遂は、一個の行為で四個の罪名に触れるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情の最も重い森口完亮に対する殺人未遂罪の刑に従い、右各殺人未遂罪につき有期懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の重い判示第一の殺人未遂罪の刑に、同法第一四条の制限に従つて法定の加重をし、
被告人小西豊、同森本敏彦の判示第四の(一)の北山一男、藤田正信、大盛三雄、板東弘、甲、大盛三勝に対する各殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に、被告人小西豊の判示第二の(五)及び判示第四の(二)の各日本刀の所持の点は、いずれも銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項、第三一条第一号、罰金等臨時措置法第二条に、被告人森本敏彦の判示第六の行為は、麻薬取締法第一二条第一項、第六四条第一項、罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、判示第四の(一)の各殺人未遂の点は、いずれも一個の行為で六個の罪名に触れるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、それぞれの犯情の最も重い藤田正信に対する殺人未遂罪の刑に従い、右殺人未遂罪については有期懲役刑を、各銃砲刀剣類等所持取締法違反罪及び麻薬取締法違反罪については懲役刑を、各選択し、被告人小西豊には前示前科があるから、同法第五六条第一項、第七五条により、同法第一四条の制限に従つて、同被告人の右各罪に加重をし、以上の被告人両名の各罪は、それぞれ同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、いずれも重い殺人未遂罪の刑に、同法第一四条の制限に従つて法定の加重をし、
被告人小西豊勝の判示第二の(二)の暴行の点は、刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するから、懲役刑を選択し、同被告人には前示前科があるから、同法第五六条第一項、第五七条により再犯の加重をし、
被告人乙、同丙の判示第三の殺人未遂の点は、いずれも刑法第二〇三条、第一九九条、第六〇条に該当するから、有期懲役刑を選択し、両被告人とも同法第四三条本文、第六八条第三号を適用して法律上の減軽をし、
被告人甲、同乙は、いずれも少年であるから、少年法第五二条第一項本文、第二項に従い、被告人丙も少年であるが、同被告人に対しては執行猶予を言渡す場合であるから、同条第三項に従い、
被告人ら全員をそれぞれ主文第一項の刑に処し、被告人中根信清、同沢野秀雄、同加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同大盛三成、同板東弘、同河辺高信、同河辺孝通、同甲、同小西豊、同森本敏彦、同乙、同丙に対し、刑法第二一条により、主文第二項のとおり、それぞれの未決勾留日数の一部を右各本刑に算入し、
被告人丙に対しては、情状により、刑法第二五条第一項第一号を適用して右刑の執行を猶予し、更に、同法第二五条ノ二第一項前段を適用して、右猶予の期間中、同被告人を保護観察に付することとし、
(A)証第一号の拳銃及び同第一二号の拳銃サツクは、合わせて判示第二の(四)の(2)の犯行を組成したもの、同証第二号の日本刀は、判示第二の(四)の(1)の犯行を組成したもの、同証第四号の日本刀は、判示第四の(二)の犯行を組成したもの、同証第六号の日本刀は、判示第一の犯行の用に供したもの、同証第一四号の両刃ナイフは、判示第五の(一)の犯行の用に供したもので、以上いずれも犯人以外の者に属しないものであるから、(A)証第一号、同証第一二号、同証第二号、同証第四号については、刑法第一九条第一項第一号、第二項を、(A)証第六号、同証第一四号については、同法第一九条第一項第二号、第二項を、各適用して、(A)証第一号、同証第一二号、同証第二号は被告人沢野秀雄から、同証第四号は被告人小西豊から、同証第六号は被告人甲から、同証第一四号は判示第五の(1)冒頭掲記の被告人らから、それぞれこれを没収し、(B)証第一号の麻薬塩酸ジアセチルモルヒネを含有する粉末一四九包は、判示第七の(二)の犯行において、被告人板東弘の所持した麻薬であるから、麻薬取締法第六八条本文に従い、同被告人からこれを没収し、
なお、訴訟費用中、証人音春こと松本音松、同松本八郎に支給した分は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、証人大盛三勝、同太田正、同森口真砂子、同服部三郎、同森口完亮に支給した分は、同法第一八一条第一項本文、第一八二条により、主文第四項のとおりその負担を定める。
(判示第四の(一)の殺人未遂の公訴事実についての判断)
本件昭和三三年(わ)第四八二号の起訴状第二、同(わ)第六四九号の起訴状第二の(2)記載(判示第四の(一)に当る。)の事実は、判示被告人小西豊、同森本敏彦は、共謀のうえ、殺意をもつて、前記判示第四の(一)記載の日時場所において、それぞれ所携の日本刀をもつて相被告人中根信清、同加藤勇、同北山一男、同藤田正信、同大盛三雄、同甲及び大盛三勝と斬り合つたが、被告人森本敏彦において、藤田正信に傷害を負わせたにとどまり、いずれも殺害の目的を遂げなかつたというのであるが、そのうち中根信清、加藤勇に対する各殺人未遂行為は、本件の全証拠を検討しても、これを認めるに足る証拠がない。しかし、右の点は、判示第四の(一)に認定した各殺人未遂の行為と、刑法第五四条第一項前段の関係にあるものとして起訴されていると認められるから、特に主文において無罪の言渡をしないこととする。
(裁判官 山崎薫 野間礼二 大石忠生)