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神戸地方裁判所 昭和35年(む)1333号 判決 1960年6月28日

申立人 孫斗八

決  定

(申立人氏名略)

右の者から裁判の解釈を求める申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件申立理由の要旨は、

神戸地方裁判所第一刑事部が申立人に対する強盗致死被告事件において、昭和二六年一二月一九日言渡した被告人を死刑に処する旨の判決につき、(一)右判決主文にいう刑罰「死刑」はいかなる法律に根拠し、どのような執行を受けるのか、(二)右の死刑は日本国憲法第一三条、第一四条、第二〇条、第三一条、第三二条、第三六条、第九八条第一項及び第九九条に反しないかの二点に関し疑義があるので、刑事訴訟法第五〇一条により右裁判の解釈を求める

というのである。

本件訴訟記録によると、申立人は強盗致死被告事件について、昭和二六年一二月一九日神戸地方裁判所において「被告人を死刑に処する。訴訟費用は全部被告人の負担とする。」との判決の言渡を受け、昭和三〇年二月一九日大阪高等裁判所において、申立人の控訴を棄却する旨、同年一二月一六日最高裁判所において、申立人の上告を棄却する旨の各判決の宣告があり、前記神戸地方裁判所の判決が確定するにいたつたこと、及び右事件の控訴審においては、事審誤認、量刑不当等の控訴理由は主張せられ判断を受けているが、死刑が違憲である点については毫も問題になつていないこと、並びに上告審では死刑が憲法第三六条に違反するとの上告趣意に対し、最高裁判所は「死刑は憲法第三六条に違反するものでないことは最高裁判所数次の判例の示すところである」としてこれを排斥しいてることが認められる。

ところで、裁判所法及び刑事訴訟法によると、現行刑事裁判は第一審、控訴審及び上告審の三審制を採つて居り、第一審裁判所の判決は未確定である限り、上訴により上級裁判所の判断を受け、取消又は変更せられることがあるけれども、すべて判決は宣告せられ、外部に発表せられた以上は、その判決をなした裁判所自体も右判決に拘束せられ、これを取消したり、変更することは許されないのである。もつとも上告裁判所の判決についてはその内容に誤のある場合には訂正することができるけれども、これとても、訴訟関係人の申立を要するのである。そして判決が確定すれば、執行力を生じ、刑を言渡した判決については刑の執行手続が開始せられるのであるが、この段階では、再審又は非常上告の原由がある場合を除いては、どのような理由や方法をもつてしても、確定判決の内容を実質的に変更することはできないものといわなければならない。刑事訴訟法第五〇一条による裁判の解釈を求める申立は、その裁判が確定し執行力を生じた後において、裁判の執行手続として、刑の言渡を受けた者が、裁判の趣旨が不明瞭なため不当な執行を受けることを避ける目的で設けられた制度であつて、同条にいわゆる「裁判の解釈について疑があるとき」とは判決主文の記載方法が不適当である等のため、判決主文の文意が明瞭でなく、その解釈について疑義がある場合をいい、その主文の由つて来たつた判決の理由に関する疑義や、刑の執行のみに関する疑義を指称するものではないと解すべきである。けだし前者を認めるならば、上訴、再審、非常上告の外に更に第一審の有罪判決に対する不服申立を許す結果となり、特に第一審判決を是認した控訴審判決に対する上告を理由なしとして棄却した最高裁判所の判決を下級裁判所たる第一審裁判所が訂正するが如きは、全く現行裁判制度を破壊するものといわざるを得ないし、後者については刑事訴訟法第五〇二条による異議申立の途が存するのである。」

申立人が本件において主張するところは多岐にわたつているが、ひつきようするに、名を裁判の解釈を求める申立に藉り、第一審判決の無効宣言乃至は同判決の実質的変更を求めようとするものであり、これを認容するに由なきものである。その理由は上来説示するところによりすでに明らかであると考えるが、更に附言すれば、先ず(一)第一審判決主文にいう刑罰死刑はいかなる法律に根拠し、どのような執行を受けるのかとの点については、刑法第一一条に「死刑ハ監獄内ニ於テ絞首シテ之ヲ執行ス」とあり、本件についても、右の規定に従つて死刑が執行せられるものとして刑の言渡がなされたものであることは多言を要しない。その他右第一審判決の主文の文意は明確であつて、疑問を生ずる余地は全く存しない。

次に(二)死刑が憲法第一三条、第一四条、第二〇条、第三一条、第三二条、第三六条、第九八条第一項及び第九九条に反しないかの点は、よろしく控訴審又は上告審において主張すべきであり、裁判確定後の現在ではすでに時機を逸して居るのみならず、第一審判決の理由に疑義があるというに帰するから、刑事訴訟法第五〇一条による申立理由として主張することは許されない。しかも前段説示のとおり、死刑が憲法第三六条に違反するかどうかについては本件上告審判決中においてすでに判断が示されているのであつて、右判決においては憲法の他の条項に違反するかどうかについては特に触れられてはいないけれども、最高裁判所は右の点についても検討し違憲でないとの前提の下に上告棄却の判決が宣告せられたものと解せられるのである。されば死刑が申立人所論のように憲法に違反するかどうかについての当裁判所の判断をなすまでもなく、申立人の疑義の申立は排斥を免れない。

よつて本件申立はこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 石丸弘衛 原政俊 小河基夫)

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