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神戸地方裁判所 昭和38年(行)18号 判決 1967年11月29日

原告 赤鹿頼正

被告 建設大臣 外一名

訴訟代理人 上杉晴一郎 外二名

主文

原告の被告建設大臣に対する請求を棄却する。

原告の被告神戸市長に対する処分取消の訴を却下する。

原告の被告神戸市長に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、申立

(一)  原告訴訴代理人は、

被告建設大臣に対する関係において、「被告建設大臣が、昭和三八年五月一三日、建設省兵都第一一八号をもつてなした再審査請求却下の裁決を取消す。」との判決、ならびに、

被告神戸市長に対する関係において、「被告神戸市長が、昭和三七年一二月一〇日、神都都一第七七六号をもつてなした仮清算金請求拒否処分を取消す。被告神戸市長は原告に対し、金一、〇三〇万五、六〇〇円とこれに対する昭和三六年八月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決ならびに金員支払部分につき仮執行の宣言を求めた。

(二)  被告ら指定代理人は、本案前の答弁として「被告神戸市長に対する訴はいずれも却下する。」どの判決を求め本案の答弁として、「被告建設大臣に対する請求を棄却する。被告神戸市長に対する仮清算金支払請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、主張

(一)  請求原因

1  神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業の施行者である被告神戸市長(以下被告市長という)は、昭和三四年七月二〇日、当時原告所有の神戸市生田区元町通三丁目一七番地の一、宅地一七三・九一平方メートル(五二坪六一、以下従前地という)につき土地区画整理法に基づいて土地区画整理を施行し、仮換地として三宮元町地区三四街区一二号、一三〇・八〇平方メートル(三九坪五七、以下仮換地という)を指定した。右仮換地指定の効力は昭和三四年七月二一日に発生したが現実には、昭和三六年八月一五日から原告は従前地の使用ができなくなつた。

2  右仮換地指定処分によつて、従前地と仮換地との間につぎ.のような不均衡が生じた。即ち、神戸市においては、土地の評価については昭和二三年に定められた路線価式評価方法が採られているから、この方法によつて換地処分に伴う清算金(仮清算金)の額を決定することになるのであるが、この方法によると、従前地の評価個数は四一八万一、二〇一・三三個であるのに対して、仮換地の評価個数は三一五万〇、六四〇・九五個しかなく、差し引き一〇三万〇、五六〇・三八個が減少したことになる。ところで、一個が何円に相当するかは時価によつて決まるのであるが、三宮元町地区の標準地である大丸百貨店前の土地は一坪が時価一二〇万円であるから、これを基準にして計算すると、一個が約一〇円に相当することとなる。従つて原告は、右仮換地指定処分によつて合計金一、〇三〇万五、六〇〇円(端数切捨)の不均衡をこうむつたことになる。そして、土地区画整理法(以下たんに法という)一〇二条、九四条によると、従前地と仮換地との間に不均衡を生じたときは金銭によつて清算すべきものとされているから、原告は施行者である被告市長に対し金一、〇三〇万五、六〇〇円の仮清算金交付請求権を取得した。

もつとも原告は、右仮換地指定処分後、、従前地を堀川株式会社に売り渡したが、そのさい原告と堀川株式会社との間において換地処分に伴う清算金を収得する権利を原告に留保する旨の合意が成立し、かつその旨を被告市長に届け出ているから、原告が右仮清算金を取得する権利があることには変りがない。

3  そこで原告は、被告市長に対し、仮清算金一〇三〇万五、六〇〇円を支払うよう再三催告したところ、被告市長は、昭和三七年一二月一〇日、神都都一第七七六号をもつて、法一〇二条による仮清算を行うか否かは施行者の自由裁量に委ねられており施行者としては仮清算を行うことは考えていないという理由で原告の請求を拒否する処分をした。

4  原告は被告市長の右拒否処分を不服として、兵庫県知事に対して審査請求をしたところ、昭和三八年二月一二日、右審査請求は却下されたので、更に原告は被告建設大臣に対して再審査請求をしたが、被告建設大臣は、昭和三八年四月一三日、建設省兵都第一一八号をもつて、法一〇二条は関係権利者に仮清算金の交付を請求する権利を認めた規定ではないから、被告市長が原告の仮清算金交付請求を拒否した行為は行政不服審査法二条一項にいう「処分」に該当せず、従つて、これに対して同法による不服申立をすることはできないという理由で、原告の右再審査請求を却下する旨の裁決をした。

5  しかし、法一〇二条は施行者の自由裁量を認めた規定ではない。蓋し、仮換地の指定によつて損失をこうむつたとき正当な補償がなされるべきことは憲法二九条によつて明らかであるところ、原告は本件仮換地指定処分によつて前記のとおりの損失をこうむつたのであり、これに対して仮清算金を支払わないということは原告の正当な補償を受ける権利を奪い不利益を課することになるのであるから法一〇二条は法規裁量を定めた規定と解される。従つて施行者は、「必要があると認めるとき」は仮清算をなすべき議務があるところ、右にいわゆる「必要があると認めるとき」とは、昭和三五年一一月一六日福井県土木部長宛建省計画局区画整理課長の回答によれば、仮清算を行うことが多くの関係者に便益を与えることがその典型であるとされている。従つて本件はまさに仮清算を行う必要があると認めるときに該当する。それにも拘らず、被告市長が原告の仮清算金交付請求を拒否する処分をしたのは、法一〇二条に反した違法な処分であるから、その取消を求め、併せて仮清算金一、〇三〇万五、六〇〇円とこれに対する現実に従前地が使用できなくなつたため損失が現実化した昭和三六年八月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

仮りに、仮清算金を交付するか否かが施行者の自由裁量に委ねられているとしても、被告市長は、昭和三六年八月九日、仮清算金を支払うからと約束して原告を信用させたうえで従前地を明渡させたのに(但し本訴の仮清算金請求は右約束の履行を求める趣旨ではない)その後になつて、仮清算金を支払うか否かは自由裁量だといつて仮清算金の支払を拒否したものである。従つて、被告市長の右拒否処分は裁量権を濫用した違法な処分であるから取消をまぬがれない。

6  前述したとおり仮清算金を交付するか否かは施行者の自由裁量に委ねられているものではなく、法規裁量事項とされているのであり、しかも本件は仮清算を行う必要があると認めるときに該当するのであるから、被告市長は原告に対して仮清算金を支払うべき議務があるのに仮清算金支払請求を拒否したのであるから、被告市長の右拒否行為は、行政不服審査法二条一項にいう「処分」に該当することは明らかである。それにも拘らず、被告市長の右拒否行為が同法二条一項の「処分」に該当しないからこれに対してなされた不服申立は不適法であるとして原告の再審査請求を却下した被告建設大臣の裁決は違法であり取消されるべきである。

仮りに右主張が認められないとしても、被告市長がなした右拒否行為は、少くとも、公権力の行使にあたる事実上の行為であるから、これに対して不服の申立は許される筈である。従つて、被告建設大臣のなした右却下の裁決は、この点においても違法であり取消されるべきである。

(二)  (被告らの答弁と主張)

1  請求原因第一項の事実、同第二項のうち、本件仮換地指定処分があつた後、原告が従前地を堀川株式会社に譲渡したこと、そのさい両者間において清算金を取得する権利を原告に留保する旨の合意をなし、これを被告市長に宛て届出たこと、同第三項の事実、同第四項の事実、以上の各事実は認める。その余の主張事実は全部争う。尚原告は、昭和三六年八月九日、被告市長が原告に対して仮清算金を支払う旨の約束をしたと主張しているが、そのころは、原告と被告市長との交渉において仮清算の話は出ていなかつたのであり、このような交渉の経過からみても原告主張のような約束がなかつたことは明白である。

2  (被告建設大臣に対する請求について)

被告建設大臣がなした本件却下の裁決は適法である。即ち、法一〇二条の仮清算を行うか否かは施行者の自由裁量に委ねられていることはその明文自体からも明らかであるが、更に、(イ)、清算金制度は換地相互間の不均衡を是正するごとを直接の目的としているから、清算を実施するについては、清算金の交付を受ける者と清算金を徴収される者との利害関係が複雑であり、施行者はこれらの点を考慮し関係当事者の納得と協力を得たうえでなければ容易に実施することができないこと、(ロ)、事業の施行が相当程度進行し、施行者において事業を計画どおり完了する見通しをえた後でなければ整理後における宅地の価格を評定することは技術的に困難であり、仮清算を実施するうえで必要な宅地の価格を算出できないこと。(ハ)、仮清算に伴う事務量の増加による本来の事業の遅延や財政面での配慮をしなければならない等施行者において考慮すべき多くの問題があること、などの点に鑑み、これを自由裁量としたものである。そして、仮清算を行うか否かが施行者の自由裁量に委ねられている以上、仮換地指定処分を受けた者であつても、施行者において仮清算を実施する旨の処分を行わない段階においては、当然には仮清算金交付請求権を有しないのであるから、被告市長が、原告の仮清算金交付請求を拒否したとしても、これによつて原告の具体的権利議務になんらの変動をも及ぼさないのであり、被告市長の右拒否行為はたんなる事実上の通知行為にすぎない。従つて、被告市長の右拒否行為をもつて、行政不服審査法にいう「処分」にあたるものということはできない。結局原告は、被告市長の右拒否行為に対しては行政不服審査による不服申立はできないのに同法に基づいて被告建設大臣に対して再審査請求をなしたものであつて、不適法な申立をしたわけである。よつて被告建設大臣がなした本件却下の裁決は適法というべきである。

3  (被告市長に対する請求について)

前述したとおり、仮清算金を交付するか否かは施行者の自由裁量に委ねられているから、原告の仮清算金交付請求を被告市長が拒否しても、これによつてなんら原告の法律上の地位に変動をもたらさず、従つて、被告市長の右拒否行為はたんなる事実上の通知行為にすぎないものであつて、行政事件訴訟法三条二項にいう行政庁の処分権力の行使に当たる行為ではないから、取消訴訟の対象とはならないのである。よつて、原告の被告市長に対する処分取消の訴は不適法というべきである。

更に、原告の被告市長に対する仮清算金交付請求の訴も不適法である。即ち、

(イ)、本件事業の施行者である被告市長は、地方公共団体の長としての機関的地位において施行者とされているにすぎず、被告市長は行政庁としての権限を行使するに止まり処分の結果などにより生ずる権利義務の帰属主体とはなりえないから、被告市長に対する仮清算金交付請求の訴は被告適格を有しない者を被告とした不適法な訴である。

(ロ) 前記のとおり、原告は本件仮換地指定処分があつた後、従前地を堀川株式会社に譲渡したのであり、清算金を取得する権利を原告に留保する旨の特約があつてもこれは被告市長を拘束しないから、もはや原告は施行者たる被告市長に対し仮清算金の交付を請求する地位を有しないのに本件訴を提起したのであるから不適法な訴というべきである。

(ハ) 仮清算金の交付、徴収に関する権利義務は、施行者の仮清算を行う旨の意思決定ならびに評価員の意見を聞くなどの手続を経て仮清算金の額が決定されたときに具体的に発生するものであり、それ以前は単なる期待権にすぎず、本件においては右の如き施行者の処分は全く行われていない。従つて、このような段階において仮清算金の交付を求めることは、行政庁に対して右のような行政処分をなすことを訴求することになるが、このようないわゆる義務づけ訴訟は三権分立の原則からみて許されない。よつて、この点からみても仮清算金の支払を求める原告の訴は不適法である。

仮りに仮清算金の支払を求める原告の訴が不適法ではないとしても、法は、換地処分のさいに必要な清算を行うことを義務づけているだけで、仮換地指定処分をしたときにも必ず仮清算を行わなければならないわけではなく、仮清算を行うか否かは前述のごとく施行者の自由裁量に委ねられているところ、本件においては未だ仮清算を行う旨の処分がなされていない段階にある。従つて、原告が仮清算金交付請求権を有しないことは明らかである。因みに、清算が実施できる段階になつても、本件事業区域内の宅地の平均減歩率は約二五パーセントであるが、本件仮換地は二四・八パーセントの減歩率をもつて従前地に指定されており、かつ元町本通に面した間口は減少しておらず、奥まつた不整形な部分を減歩したにすぎないから、近傍の仮換地と比較してみて、必ずしも清算金が交付されるとはいい難い。

なお、原告は、宅地の評価方法が決まつている以上仮清算金額は算出できると主張しているが、昭和二三年の本件事業計画当初に定められた路線価式評価方法も本件事業の進行に応じて若干の修正が予想されるのみならず、事業の施行途上にある現在においては、宅地の金銭的評価に当つて是非とも必要な指数一個あたりの単価も決定されていないから、仮清算を行うことは技術的にも不可能な実情にある。また仮りに仮清算が実施できる段階になつたとしても、その金額の算定方法は原告の主張するような方法によるべきではない。即ち、清算金の制度は、換地処分によつて換地相互間に不均衡が生じた場合に、これによつて不当に利得した者から清算金を徴収し、不当に損失をこうむつた者に対して清算金を交付することによつて換地相互間不均衡を金銭によつて清算しようとする制度であり、従つて不均衡の是正方法もいわゆる比例清算方式が採用されるべきものである。原告主張のように、たんに従前地と仮換地とを比較して不均衡の有無を定め、その差額を金銭で清算すべきものではない。

三、証拠<省略>

理由

一、被告建設大臣に対する請求について

(一)  昭知三四年七月二〇日、神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業の施行者である被告市長が、当時原告の所有であつた本件従前地について土地区画整理を施行し、仮換地として本件仮換地を指定したこと、原告が被告市長に対して金一、〇三〇万五、六〇〇円の仮清算金を支払うよう再三請求したこと、これに対して被告市長が昭和三七年一二月一〇日神都都一第七七六号をもつて、原告の右請求を拒否したこと、そこで原告は兵庫県知事に対して審査請求をしたが却下されたので、更に被告建設大臣に対して再審査請求をしたが、被告建設大臣は、昭和三八年五月一三日、建設省兵都第一一八号をもつて右再審査請求却下の裁決をしたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被告建設大臣のなした右再審査請求却下の裁決が違法であるか否かの点について検討するが、この点につき被告ら指定代理人は、仮清算金を交付することは施行者たる被告市長の自由裁量に委ねられているから、原告の仮清算金交付の請求を拒否した被告市長の行為は行政不服審査法二条一項にいわゆる処分に該当せず、従つてこれに対しては同法による不服申立はできないから、被告建設大臣がなした右再審査請求却下の裁決は適法であると主張している。

そこで右主張の当否について検討する。

まず、仮清算金を徴収または交付することが施行者の自由裁量に委ねられているか否かの点について考えてみるに、土地区画整理法(以下においてもたんに法という)一〇二条一項は、仮換地を指定した場合において施行者は必要があると認めるときは仮清算金を徴収しまたは交付することができる旨を定めているにすぎず、いかなる場合にこれを行うべきかを一義的に規定していないこと、法九四条と対比してみても法一〇二条一項は仮清算金の徴収、交付を施行の自由裁量に委ねているものと解しうること、仮清算は清算金の仮徴収、仮交付であるから仮清算が行われなくても法九四条に定める要件が充足されたときには清算が行われることが保証されている以上、仮清算をしないからといつてこれによつて将来清算金の交付を受けることが予定されている者の権利、利益を剥奪することにはならないこと、仮清算を行う必要があるかどうかは事柄の性質上事業の進行程度等をも考慮したうえでないと決定し難いこと、仮清算を行うには繁雑な手続を必要とするから技術的にみても施行者の裁量によらしめるのが合理的であること、などの諸点に鑑み、法一〇二条一項は、仮清算金を徴収または交付することについて施行者の自由裁量を許容した規定であると解するのが相当である。

ところで、行政不服審査法二条一項にいわゆる処分とは、行政庁が、法令に基づき優越的立場において国民に対し権利を設定し、義務を課し、その他具体的に法律上の効果を発生させる行為をいうものと解されるのであるが、前記のとおり、法一〇二条一項は、仮清算金を徴収し交付することは施行者の自由裁量に委ねられていることを規定したものであつて、施行者が仮清算金を交付することを決定する前に仮清算金交付請求権が発生することを認めた規定ではなく、そのほかには仮清算金交付請求権は認めた規定はない。もつとも、換地処分公告後に清算金の交付を受けることが予定されている者は、将来において清算金交付請求権を取得しうるという一種の期待を有しているが、これは未だ具体的な権利ではないからこの期待権に基づいて仮清算金の交付を請求することはできないものと解され、結局右期待権を有する者であつても、施行者が仮清算金を交付することを決定しない限り具体的な仮清算金交付請求権を有しないことには変りがない。

そして、弁論の全趣旨によれば、本件においては未だ仮換地の状態にとどまつていることが認められ、しかも、本件全証拠によつても、被告市長が仮清算金を徴収しまたは交付することを決定したことを認めることはできないから、原告は被告市長に対して且体的な仮清算金交付請求権を有しないものというほかない。従つて、原告の仮清算金交付の請求は、せいぜい被告市長に対して仮清算金の交付という行政処分の発動を促したものにすぎず、被告市長が右請求を拒否しても、これによつて原告の右にいわゆる期待権を奪うものでないことは勿論であり、その他原告の権利、義務に直接なんらの影響を与えるものではない。だから、被告市長の右拒否行為をもつて行政不服審査法二条一項にいわゆる処分にあたるものということはできないのである。

そうだとすれば、原告の仮清算金交付の請求を拒否した被告市長の行為に対しては、行政不服審査法による不服申立はできたいことになり、従つて、原告が被告建設大臣に対してなした本件再審査請求は不適法であるといわざるをえない。よつて被告建設大臣がなした右再審査請求却下の裁決は適法であつて、原告主張のような違法原因は存在しないから、原告の被告建設大臣に対する請求は理由がない。

二、被告市長に対する処分取消の訴について

原告の仮清算金交付の請求を被告市長が拒否したことは先に認定したとおりである。そこで、被告市長の右拒否行為が、行政事件訴訟法に定める抗告訴訟の対象となるか否かの点について検討するに、前記のとおり、仮清算金を徴収、交付することは施行者の自由裁量に委ねられているから、被告市長が、原告の仮清算金交付の請求を拒否しても、これによつて原告の法律上の地位にはなんらの変動をももたらさないわけである。

従つて、被告市長の右拒否行為は、行政事件訴訟法三条二項に該当する処分若しくは行為ということはできず、取消訴訟の対象とはならない。なお、、原告は裁量権の濫用を主張しているけれども、右結論には影響しない。

よつて、被告市長に対する処分取消の訴は不適法であり、却下をまぬがれない。

三、被告市長に対する仮清算金の請求について

換地計画に定められた清算金の徴収または交付の権利義務は、換地処分公告の日の翌日に確定するものであり、それまでは清算金交付請求権または清算金交付義務は発生しないのである。そして、将来清算金の交付を受けることが予定されている者であつても、その換地処分前に有する権利はたんなる期待権にすぎず、前記のとおり、仮清算金を徴収、交付することは施行者の自由裁量に委ねられているのであるから、施行者において仮清算金を交付することを決定しないのに、右期待権に基づいて仮清算金の交付を訴求することはできないものと解される。そして、先に認定したとおり、本件においては、未だ仮換地の状態にとどまつており、しかも施行者たる被告市長において仮清算金を徴収または交付することを決定したことは認められないのであるから、仮清算金の交付を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく既に理由がないことが明らかである。

四、よつて、原告の被告建設大臣に対する請求は理由がないからこれを棄却し、被告市長に対する処分取消の訴は不適法であるからこれを却下し、被告市長に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴誕法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 日野原昌 増田定義)

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