神戸地方裁判所 昭和41年(わ)1040号 判決
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〔判決理由〕弁護人の公訴棄却の申立に対する判断
第一、弁護人は本件公訴事実はなんらの罪となるべき事実を包含していないと主張して公訴棄却の決定を求める。その理由を要約すると、次のようになる。
(一) 自転車競技法一八条二号の勝者投票類似の行為の罪は賭博罪の特別規定であつて両者はその本質を同じうする対向犯であるから、本件公訴事実の如く相手方を氏名不詳者とすることは刑罰法令の適正な適用に違背し、著るしく社会正義に反するから許されず、したがつて本件公訴事実はなんらの罪とならない。
(二) 右一八条二号の立法趣旨は、現実に競輪施行者の施行している競輪の収益減少により自転車競技法の施行目的が阻害されるような競輪場内における勝者投票類似の行為を禁止するにある。したがつて、右規定の「競輪に関して」とは競輪場内における勝者投票類似の行為を禁止する趣旨に解すべきである。(最高裁昭和三七年四月一九日判決参照)このことは本条一号の私設競輪禁止違反の罪を本罪と併設し自転車競技法中最も重い刑罰をもつてのぞみ且つ常習賭博罪の刑より懲役刑を加重し、罰金刑をも併科しているところから窺える。したがつて、競輪場外での勝者投票類似の行為を訴因とする本件公訴事実はなんらの罪とならない。
(三) 右法一八条二号の「勝者投票類似の行為」とは競輪施行者のなす場合と同様に「車券の発売」を要件としていると解すべきところ、右事実を欠く本件公訴事実はなんらの罪とならない。<(四)省略>
第二、当裁判所は弁護人の右各主張は次ぎに説明するとおり採用しがたく、本件につき公訴棄却をする由がないと考える。
一 弁護人の(一)の主張について
自転車競技法一八条二号の競輪に関し勝者投票類似の行為をさせて財産上の利益を図つた者(いわゆる呑み屋)と同法二〇条三号のその相手方となつた者(いわゆる客)とは講学上のいわゆる必要的共犯に該当するけれども、これを拠点として相手方が氏名不詳者である場合には罪とならないとする弁護人の主張には組することができない。
けだし、氏名というも相手方となつた者の実在とその特定を示す一手段にすぎず、氏名不詳者と雖もその実在と特徴をなんらかの方法で特定すれば足るからである。ひるがえつて、本件公訴事実別表をみるに、本件所為の相手方は第一日目は脇本広蔵外氏名不詳者二五名、第二日目は西田清、松元悦郵、脇本広蔵外氏名不詳者一五名であるところ、右氏名不詳者については番号を付し、投票レース番号、連勝式投票番号、口数、賭金額を示す識別方法を講じているから、公訴事実として完備しているというべきである。<中略>
ちなみに、本件所為は二日間にわたるいわゆる呑み行為であり、行為の個類は二個であるが、犯意継続の点、日時接着の点、同種行為を同一場所で反覆した点などからして右二個の行為を接続犯として包括一罪とみるべきであるから、仮りに公訴事実において脇本広蔵ほか何名という記載方式を採り別表をつけなかつたとしても訴因の特定に欠くるところはあるまい。
二 弁護人の(二)の主張について
自転車競技法一八条の立法趣旨及び同条二号の「競輪に関し」の解釈につき弁護人の主張は採用できない。すなわち
自転車競技法一八条の立法趣旨は同法が地方公共団体の財政の健全化及びその他の公益的目的(同法一条参照)達成のため制定せられ、指定市町村に競輪施行者たる資格を与え、富籤的行為をなすことを公認した結果、これに伴い射倖心をあふられ当然発生の予想せられる私設競輪により富籤的行為をなす車券の発売(一号)競輪施行者による競輪に関してなす勝者投票類似の賭博的行為(二号)を禁圧して勤労の美風の廃頽、公序良俗の紊乱を防止し、ひいては競輪施行者の収益の確保をも図るため刑法の賭博富籤罪の特別規定を創設し、特別類型による刑の加重をなしたものと解したい。したがつて同法二号の「競輪に関し」とは「競輪施行者が現在及び将来になす競輪に関して」との意に解すべく、右競輪の利用たる限り、競輪場内たると場外たるとそのその場所のいかんを問わないと解すべきである。
なお、弁護人引用の最高裁判決は偶々競輪場内における呑み行為に対する事案であるけれども、その判旨は憲法三六条に関する判断をなしたもので、前記「競輪に関し」の解釈について触れるところはなんにもない。
三 弁護人の(三)の主張について
自転車競技法一八条二号の勝者投票類似の行為について私製車券の発売を要件とするとの弁護人の主張は採ることができない。
けだし、自転車競技法一八条二号の罪は、富籤罪の特別規定である同法一号の場合と異り、賭博罪の特別規定であるから、私製車券の発売を要件とするものではない。
通常勝者投票類似の行為においては、私製車券(私設車券、闇車券ともいう。)と称する紙片(多くは複写式領収書用紙の一部を切断したもの)にレース番号と投票番号を走り書きして相手方に渡し、払戻の際、投票的中者識別の資としていることは顕著な事実であるが、本件のように呑み屋側が広告紙の裏面に投票者の氏名もしくは符号などしるし、レース番号と投票番号を記入し、これにより投票的中者を識別することとし、相手方にいわゆる私要車券を渡さず、相手方は自己の投票番号等をみずから記憶し、またはメモをとる方法(以上は判示所為の証拠による)を採つた場合にあつても、右二号の勝者投票類似の行為というを妨げるなんらの事由がない。したがつて、本件公訴事実には弁護人のいうような欠陥はない。(矢島好信)