大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和42年(ワ)748号 判決 1971年11月15日

原告 今朝丸勝

被告 崎谷才助

<ほか一名>

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告らは原告に対し連帯して金七〇万円とこれに対する昭和四五年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(本案前の答弁)

主文と同旨

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)≪省略≫

(被告らの本案前の主張に対する答弁)

被告ら主張の事実はすべて否認する。

(被告らの本案前の主張)

一 原告は神戸市長田区浪松町二丁目五番地の九の土地の空地に本件建物等のバラツクを建てて同所の一部を不法占拠していたので、被告崎谷才助(以下、被告才助という)は原告を相手方として神戸地方裁判所に建物収去土地明渡請求訴訟を提起し勝訴したが、原告は大阪高等裁判所に控訴した。

二 ところが、右土地に対し神戸国際港都建設事業長田地区復興土地区画整理事業施行による仮換地の指定があり、その地上建物について移転の必要が迫っていたので、神戸市は再三原告および被告才助と折衝した結果、「地上物件は除去し一切の訴訟を取下げる条件で和解を行う」という双方の承諾が得られたので、右趣旨の覚書を作成し、昭和四六年一月一三日同市都市計画局長田都市改造課第二補償係長牧野康夫ら四名が原告宅に赴いて原告から署名押印を得、その後被告才助からも署名押印を得たので、原告と被告らとの間において本件訴の取下の合意が成立したものである。

≪以下事実省略≫

理由

一  先ず、被告らの本案前の主張について判断する。

≪証拠省略≫によると、

(一)  原告が神戸市長田区浪松町二丁目五番地の九の土地に本件建物等の建物を建てて同所の一部を占有使用していたので、被告才助は原告を相手方として神戸地方裁判所に建物収去土地明渡請求訴訟(昭和三四年(ワ)第八二八号、昭和三五年(ワ)第六六号)を提起し、昭和三七年九月一八日勝訴の判決の言渡を受けたが、原告は大阪高等裁判所に控訴(昭和三七年(ネ)第一一三四号)した。

(二)  ところが、右土地に対し神戸国際港都建設事業長田地区復興土地区画整理事業が施行されることになり、その地上建物を移転する必要が迫っていたので、神戸市都市計画局長田都市改造課第二補償係長牧野康夫は地主・被告才助と原告との間の紛争の円満解決により土地区画整理事業の促進を計るため、原告および被告才助と再三再四にわたって斡旋折衝した結果、昭和四六年一月頃原告と被告才助との間で、「(1)原告は被告才助を相手方とする一切の係争中の訴訟(大阪高裁昭和三七年(ネ)第一一三四号建物収去土地明渡請求事件、神戸地裁昭和四二年(ワ)第七四八号損害賠償請求事件((本件訴)))を直ちに取下げる。(2)原告は(控訴の)取下げによって確定する神戸地裁昭和三七年九月一八日言渡の判決(昭和三四年(ワ)第八二八号、昭和三五年(ワ)第六六号)にもとづいて発生する建物収去土地明渡の義務を直ちに履行する。(3)被告才助は原告が右(2)の義務履行後直ちに解決金として金一〇〇万円を原告に支払う。」等を内容とする合意の成立する見込がついたので、右趣旨を記載した覚書(乙第九号証)を作成して同月一三日原告の自宅に同市職員二名、立会人・魚住禎一(原告の知人、被告崎谷忠之((以下、忠之という))の友人)とともに赴いたところ、原告は右覚書の内容を十分承知したうえ、同覚書に自ら署名押印し(かつ、本件建物等の移転承諾書三通((乙第一〇号証の一ないし三))の調印を承諾し)、その翌日頃被告才助は右覚書に署名押印した。

との事実が認められる。

もっとも、前記乙第九号証(覚書)には協定の当事者として原告と被告才助の記載があり、被告忠之に関する記載が欠缺しているけれども、特に本件訴のうち被告忠之に対する訴の取下を除外する旨の明記がなく、また、証人牧野康夫の証言によると、前記神戸市牧野係長の被告才助に対する斡旋折衝は、その都度、同市都市計画局の職員をしている被告忠之(被告才助の息子)を通じて行われたことが認められるとともに、原告は前記覚書調印当時特に本件訴のうち被告忠之に対する訴を維持する意思を有していなかったことが窺われる。

以上の諸事実を綜合すると、前記覚書による協定は原告と被告才助との間で明示的に成立しただけではなく、そのうち本件訴の取下に関する部分は原告と被告忠之との間においても黙示的に成立したものと認めるのが相当である。

してみると、前記覚書の調印により昭和四六年一月一四日頃原告と被告らとの間において本件訴を直ちに取下げる旨の合意が成立したものといわなければならない。

二  そこで、原告は本件訴について権利保護の利益を喪失したものであるから、本件訴は不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 神保修蔵 小野貞夫)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例