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神戸地方裁判所 昭和42年(行ウ)16号 判決 1970年2月10日

兵庫県川西市栄町一五番の一〇

原告

波多野孝次郎

右訴訟代理人弁護人

大槻龍馬

上田茂実

兵庫県伊丹市伊丹字溝口七〇の三

被告

伊丹税務署長

湯浅定行

右指定代理人検事

鎌田泰輝

法務事務官 葛本幸男

大蔵事務官 竹見富夫

同 内山勇雄

同 樋口正

右当事者間の所得税課税処分取消請求事件につき、当裁判所は、つきのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、(当事者双方の申立)

原告は、「被告が原告に対する四一年二月一四日附所得税および加算税の賦課決定通知をもつて、原告の昭和三八年分所得税額を一五九万五、七二〇円(但し、大阪国税局長の昭和四二年五月九日附裁決による原処分の一部取消で九八万九、二八〇円減額された金額。)および無申告加算税額を一五万九、〇〇〇円(但し、右裁決による原処分の一部取消で九万九、〇〇〇円減額された金額。)とした課税処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、

被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二、(原告の請求の原因)

一、被告は、昭和四一年二月一四日附所得税および加算税の賦課決定通知をもつて、原告の昭和三八年分の所得金額には給与所得の金額一〇八万円のほかに、大阪市西淀川区御幣島中五丁東一〇番地の三、宅地二四〇坪(七九三・三八平方米)、右地上家屋番号同所一〇八番、木造亜鉛メツキ鋼板葦平家建工場一棟建坪四〇・五坪(一三三・八八平方米)(以下、本件不動産という。)を昭和三八年九月二八日附所有権移転登記をもつて摂津可鍛工業株式会社(以下、摂取可鍛という。)に、所得税法(昭和四〇年三月三一日法律三三号改正前のもの。以下、同じ。)五条の二、二項の適用をうける時価より著しく低い一二〇万で譲渡したことによる譲渡所得の金額六三九万五、〇〇〇円があつたとして、原告に対し、昭和三八年分所得税の納付すべき税額を二五八万五、〇〇〇円、無申告加算税額を二五万八、五〇〇円とする課税処分(以下、本件課税処分という。)をした。

そこで、原告が昭和四一年七月八日大阪国税局長に対し本件課税処分の取消を求めて審査請求をしたところ、同局長は、昭和四二年五月九日附裁決で前記譲渡所得の金額を四三一万五、〇〇〇円に減額して本件課税処分の一部を取消し、所得税の納付すべき金額を一五万九、五〇〇円とした。

二、しかしながら、原告は昭和三八年九月二八日当時角林商事株式会社(以下角林商事という。)の摂取可鍛に対する債権極度額一、〇〇〇万円の担保のため本件不動産に根抵当権を設定していた(登記簿上は債権者角林忠雄債務者原告となつていた。)ところ、摂津可鍛において約一、五〇〇万円の資金調達の必要に迫られたため、同日角林商事に本件不動産を代金一、〇〇〇万円で売却したが、その際、角林商事の要請により、形式上本件不動産が原告から摂津可鍛に原告において先に取得した価額一二〇万円のままで譲渡されたのち、さらに摂津可鍛から角林商事に譲渡されたことにして昭和三八年九月二八日右各所有権移転登記を経由したものであつて、右売買代金のうち四一九万三、〇九一円は角林商事の摂津可鍛に対する同額の確定債権と相殺され、残金五八〇万六、九〇九円が角林商事から摂津可鍛に支払われただけで、摂津可鍛の窮状に対しては焼石に水の状態で昭和四一年四月三日解散するの余儀なきに至り、ために原告は、代位弁済した右 四一九万三、〇九一円についが求償を行使することができず、また、右五八〇万六、九〇九円についても返還を受けえななかつたのであるから、原告の本件不動産の譲渡は同法一〇条の六、二項にいう保証債務を履行するための譲渡で、当該履行に伴う求償権の全部を行使することがでさないこととなつたとき該当し、その収入金額に対応する所得の金額はその年分の所得の計算上なかつたものとみなされるべく、したがつて、原告から摂津可鍛に本件不動産が低額で譲渡されたとして同法五条の 二、二項に基づきなした本件課税処分は違法である。

三、よつて、原告は、被告に対し本件課税処分(金額は大阪国税局長の昭和四二年五月九日附裁決により減額されたもの)の取消を求める。

第三、(被告の答弁および主張)

一、原告の請求の原因一記載の事実認める。

被告は、原告が昭和三八年九月摂津可鍛に本件不動産を時価約一、四一六万円の一〇分の一にも満たない一二〇万円という著しく低い価額の対価で譲渡したと認定し、所得税法五条の二、二項に基づき本件課税処分をしたのであるが、原告の審査請求により、大阪国税局長は本件不動産の譲渡時の価額を一、〇〇〇万円と認定し、原告主張のとおり本件課税処分の一部を取消した。そして、右裁決後の原告の昭和三八年分の譲渡所得の金額、給与所得の金額の各算定の内容および税額の計算は別紙のとおりである。

二、同二記載のうち原告主張の日に原告から摂津可鍛に、摂津可鍛から角林商事に本件不動産の各所有権移転登記がなされたことおよび角林商事が一、〇〇〇万円で本件不動産を取得したことは認めるが、その余の事実は争う。

原告が本件不動産を譲渡したのは保証債務履行のためではなく、摂津可鍛に資金を供給するためである。

第四、(証拠関係)

原告訴訟代理人は甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四、第五号証、第六号証の一、二を提出し、証人前田芳治、同角林忠雄の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認める。と述べ、被告訴訟代理人は乙第一号証、第二号証の一ないし五、第三号証を提出し、甲第六号証の一、二の成立は知らないが、その余の甲号各証の成立は認める。

と述べた。

理由

一、被告が原告に対する昭和四一年二月一四日附所得税および加算税の賦課決定通知をもつて、原告のの昭和三八年分の所得金額には給与所得の金額一〇八万円のほかに、本件不動産を昭和三八年九月二八日附所有権移転登記をもつて摂津可鍛に時価より著しく低い一二〇万円で譲 渡したことによる譲渡所得の金額六三九万五、〇〇〇円があつたとして、原告に対し、本件課税処分をしたことならびに原告の審査請求により大阪国税局長が昭和四二年五月九日附裁決で前記譲渡所得の金額を四三一万五、〇〇〇円に減額して本件課税処分の一部を取り消し、所得税額を一五九万五、七二〇円無申告加算税額を一五万九、五〇〇円としたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、本件課税処分中前記裁決により取消された部分を除くその余の部分が適法であるかどうかについて判断することとする。

成立についての争いのない甲第三号証の一、二、同第四、第五号証、乙第二号証ないし五、同第三号証、証人角林忠雄の証言によつて真正に成立したことが認められる甲第六号証の二に、右証人角林および証人前田芳治の各証言ならびに原告本人尋問の結果の一部をそう合すると、原告は昭和二八年設立以来摂津可鍛に対するコークスの販売取引についての債権極度額一、〇〇〇万円の担保のため所有にかかる本件不動産に根抵当権を設定していた(登記簿上債権者は角林忠雄債務者は原告となつていた)ところ、摂津可鍛において約一、五〇〇万円の資金の必要に迫られたため、同月二四日先順位の根抵当権者尼崎信用金庫に居住家屋およびその敷地を代替担保に提供してその根抵当権設定登記を抹消したうえ、同年九月六日頃摂津可鍛に本件不動産を先に取得した価額一二〇万円のままで譲渡するとともに、同日頃摂津可鍛の代表者として角林商事に本件不動産を時価相当の代金一、〇〇〇万円で売却し、右代金のうち四一九万三、〇九一円については角林商事の摂津可鍛に対する同額の融資金(のうち一九四万四、九〇七円は角林忠雄個人の融資を譲受けたもの)と合意のうえ相殺し、残金五八〇万六、九〇九円の支払を受けたが、なお多額の債務を負担していた摂津可鍛の窮状に対して焼石の水の状態で、原告において他の個人資産の総てを投入したにもかかわらず、摂津可鍛は昭和四一年四月三日解散の余儀なきに至つたことが認められ、前記証人角林および前田の各証言ならびに原告本人尋問の結果中右認定に副わない部分は容易に信用できず、他にこの認定をくつがえすに足りる証拠はない。したがつて、右認定の事実からすると、原告は保証債務を履行するためではなく、摂津可鍛に資金を供給するため時価より著しく低い価額で所有にかかる本件不動産を譲渡したと認定するのが相当である。

そうすると、原告の昭和三八年分の所得金額には、当事者間に争いのない給与所得の金額一〇八万円のほかに、本件不動産の譲渡による前記代金一、〇〇〇万円の収入金額に対応する所得の金額があつたことになるから、原告の同年分の譲渡所得の金額の算定内容、所得税額および無申告加算税額の計算は被告主張の別紙のとおりである。

よつて、本件課税処分中前記裁決により取消された部分を除くその余の部分は適法であつて、その取消を求める原告の請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口照雄 裁判官 仲西二郎 裁判官 井深泰夫)

別紙

譲渡所得の金額の算定内容

(一)収入金額 一、〇〇〇万円

(二)取得価額 一二二万円

(三)譲渡所得 八七八万円

(四)特別控除額 一五万円

(五)特別控除額後の金額 八六三万円

(六)譲渡所得の金額 四三一万五、〇〇〇円

給与所得の金額の算定内容

(一)収入金額 一二〇万円

(二)控除額 一二万円

(三)給与所得の金額 一〇八万円

税額等の計算書

<省略>

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