神戸地方裁判所 昭和43年(ワ)1492号 判決 1970年10月14日
原告
成田憲俊
ほか一名
被告
株式会社ダイエナー
ほか三名
主文
一、被告株式会社ダイエナー及び被告一戸政夫は各自、原告成田憲俊に対し金七七万〇、九七九円及びその内金六九万〇、九七九円に対する被告ダイエナーは昭和四四年一〇月二一日より、被告一戸は同年一二月一六日より各完済まで年五分の割合による金員を、原告成田道子に対し金四九万〇、七五〇円及びその内金四一万〇、七五〇円に対する右各起算日より完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払う。
二、被告閔炳植は、原告成田憲俊に対し金六〇万三、九七九円及び内金五二万三、九七九円に対する昭和四三年一一月二三日より完済まで年五分の割合による金員を、原告成田道子に対し金四八万〇、七五〇円及び内金四〇万〇、七五〇円に対する前同日より完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払う。
三、原告らの右被告三名に対するその余の請求及び被告谷野富夫に対する請求を棄却する。
四、原告らと被告ダイエナー、被告閔、被告一戸との間に生じた訴訟費用の内、訴状の貼用印紙額の半額は原告らの負担とし、その余の費用は全部右被告三名の各自負担とする。
原告らと被告谷野との間に生じた訴訟費用は、全部原告らの負担とする。
五、この判決は、主文第一、第二項につき、原告らにおいて仮に執行することができる。
事実
第一、原告の申立
被告らは各自、原告成田憲俊(以下原告憲俊という)に対し金一三四万二、六五〇円、原告成田道子(以下原告道子という)に対し金一二一万五、五五〇円及び原告憲俊の内金六〇万円、原告道子の内金八〇万円に対するいずれも昭和四〇年一一月一八日より、原告憲俊の内金五四万二、六五〇円、原告道子の内金二一万五、五五〇円に対する被告株式会社ダイエナー(以下被告ダイエナーという)は昭和四四年一一月二三日より、被告谷野は同年七月六日より、被告閔は昭和四三年一一月二三日より、被告一戸は同年一二月一六日より各完済まで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
第二、請求原因
一、事故の発生
原告憲俊は、軽四輪自動車(八兵い三八五九、以下原告車という)を運転し、原告道子はこれに同乗し、昭和四〇年一一月一七日午後九時五〇分頃、神戸市垂水区下畑町第三トンネル神明放射道路上を時速約三〇粁で西進中、折柄時速約五〇粁で東進してきた被告一戸運転の小型四輪貨物自動車(姫四に、三五―二五、以下加害自動車という)が原告車に衝突し、よつて原告憲俊は頭蓋内出血、頭部顔面挫創、右第八、九、一〇の各肋骨々折等の重傷を負い、原告道子は左第六肋骨々折、顔面挫創、右肩挫傷等の傷害を受けた。
二、被告らの責任
(一) 被告ダイエナーは、本件の加害自動車を保有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法第三条による賠償責任がある。
(二) 被告谷野は、被告ダイエナーの取締役であつて、事業上代表者に代り事業を監督し、かつ被告一戸の上司として同人を監督すべき地位にあつた。よつて被告ダイエナーの被用者である被告一戸が業務の執行につき起こした本件事故につき民法第七一五条第二項による賠償責任がある。
仮に、右の代位監督者の責任が認められないとしても、同被告は被告一戸の上司として同人を指導監督すべき地位にありながら、同人が自動車の運転免許を有しないことを知つて本件加害自動車のキイを同人に貸し渡し、同人の運転行為を容易ならしめたものであるから、被告一戸の起こした本件事故につき共同不法行為者としての賠償責任がある。
(三) 被告閔は、昭和四〇年五月頃からダイエナーの商号を用い個人企業として厨房器具、料理器具の製造販売を営み、本件の加害自動車を妻である窪田浩子名義で購入し、営業のため使用していたのであるが、本件事故発生の二日前である昭和四〇年一一月一五日会社組織に改め株式会社ダイエナーを設立した。しかし会社設立後も本件加害自動車のキイを保管し運行を支配していたのであるから、右会社と共に本件加害自動車の運行供用者として自賠法第三条による賠償責任がある。
(四) 被告一戸は、無免許で、しかも飲酒の上本件加害自動車を運転し、通行区分を守らず対向の西行車線に侵入して進行した過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条による賠償責任がある。
三、原告らの損害
(一) 原告憲俊
同原告は前記傷害を受け、相原外科病院(神戸市垂水区日向一丁目)において、昭和四〇年一一月一七月から昭和四一年一月二〇日まで(六五日間)入院治療を、同月二一日から同年一二月二七日までの間に実日数六九日の通院治療を受け、さらにその後兵庫県城崎温泉及び和歌山県白浜温泉において温泉療養をした。そのため次の損害を受けた。
1 財産的損害
(イ) 入院、通院の治療費 二二万五、二四〇円
(ロ) 入院中の付添看護料 九万三、二八〇円
(ハ) 入院中の栄養補給費 五万六、六五九円
(ニ) 入院、通院中の諸雑費及び入、退院、通院の交通費 二万七、〇二一円
(ホ) 温泉療養費 三万〇、〇五〇円
(ヘ) 原告ら夫婦の入院中子供を他に預けた経費 二一万六、六〇〇円
(ト) 休業による喪失利益 六万二、三〇〇円
(チ) 原告車の修理費 一四万二、〇〇〇円
(リ) 衣服の破損 二万五、〇〇〇円
2 慰藉料
前記のとおり入院、通院による長期間の治療を余儀なくされ、その間に多大の肉体的、精神的苦痛を受けたので、これに対する慰藉料
(二) 原告道子
同原告は前記傷害を受け、前記相原病院において、昭和四〇年一一月一七日から昭和四一年一月二〇日まで(六五日間)入院治療を、同月二一日から同年一二月二一日まで(実日数六九日)通院治療を受け、その後原告憲俊と共に前記の温泉療養をした。そのため次の損害を受けた。
1 財産上の損害
(イ) 入院治療費 二三万三、八一〇円
(ロ) 付添看護料 五万一、五八〇円
(ハ) 入院中の栄養補給費 五万五、二四〇円
(ニ) 入院、通院中の諸雑費及び入退院、通院時の交通費 五万〇、八七〇円
(ホ) 温泉療養費 三万〇、〇五〇円
(ヘ) 休業による喪失利益 一〇万六、八〇〇円
(ト) 衣類、時計の破損 二万二、七〇〇円
2 慰藉料 八〇万円
前記のとおり入院、通院による長期間の治療を余儀なくされ、以後も神経障害にあたる後遺症を残すに至つた。右の肉体的精神的苦痛に対する慰藉料
(三) 弁護士費用
原告らは、その権利擁護のため法律扶助協会兵庫県支部の法律扶助を受けて本訴を提起した。そのため原告訴訟代理人に弁護士費用(手数料、謝金)を支払う必要があり、その金額は原告ら各自につき金二一万九、五〇〇円である。
四、損害の填補
原告らは、自賠法の責任保険より各自金三〇万円、被告一戸より各自金五万五、〇〇〇円の支払を受けたので、前記の各損害額よりこれを控除する。
五、よつて、被告らに対し、原告憲俊は損害残額金一三四万二、六五〇円、原告道子は同じく金一二一万五、五五〇円及び内金の慰藉料に対しては事故の翌日より、その余の損害金については各訴状送達の翌日より、いずれも完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第二、被告らの答弁
一、被告らはいずれも、原告らの請求を棄却する旨の判決を求める。
二、被告ダイエナーの代表者は、口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた答弁書によれば「原告の主張事実はすべて知らない」旨記載されている。
三、被告谷野、同閔は、原告主張の請求原因一の事故発生の事実は認めるが、原告らの受けた傷害の部位、程度は不知、同二の各責任原因事実は否認する。同三の損害はすべて争うと述べた
四、被告一戸は、請求原因事実中三の損害を争い、その他の同被告に関する事実は認めると述べた。
第三、証拠関係〔略〕
理由
一、事故の発生
請求原因一記載の衝突事故の発生した事実は、被告閔、同谷野、同一戸との間では争いがなく、〔証拠略〕により、右事故の発生したことが認められる。
次ぎに、被告閔、同谷野、同一戸との間では成立に争いがなく、〔証拠略〕を合わせると、原告らは本件事故により請求原因一記載の各傷害を受けたことが認められる。
二、被告らの責任
(一) 被告ダイエナー及び被告閔
〔証拠略〕を綜合すると、被告閔(日本名山本剛司)は兵庫県加古川市において株式会社亜洲食器製作所を設立しホーロー引料理器具等の製作に従事していたが、昭和三九年四月頃に至り経営不振のため右会社を事実上閉鎖し、以後はダイエナーの商号を用い前記会社時代の工場及び従業員(被告谷野、被告一戸ら)数名を使用して個人営業として右商品の製作に従事してきたこと、本件の加害自動車は同被告が個人経営となつて以後に右事業に使用するため自己の資金で購入したものであるが、その所有(登録)名義は銀行取引における名義人である内妻の窪田浩子となつていたこと、昭和四〇年一一月一五日(本件事故の二日前)右の個人企業を会社組織に改めダイエナー株式会社を設立してその代表取締役に就任し、個人経営当時の工場設備、従業員の雇用関係等一切を会社が引継ぎ同様の営業を続けたこと(その後昭和四一年二月九日退任して大谷月登が代表取締役に就任し、同時に名称を株式会社ダイエナーと改めた)本件加害自動車は会社設立後も前記個人名義のまま会社業務のため使用していたので少くとも法形式上は被告閔が会社に貸与して使用を許していたものといわなければならないけれども、右会社は被告閔の個人企業的心彩が極めて強く両者はいわば表裏一体の関係にあつたため、本件加害自動車に対する被告閔の貸主としての運行支配は会社設立後も依然として存続し、結局本件加害自動車は被告閔と被告ダイエナー(当事の名称株式会社ダイエナー)との共同の運行支配に属していたこと、被告一戸は無免許であるに拘らず本件事故日の業務終了後私用のため加害自動車を車庫より無断で持ち出して運転中に本件の事故を発生させたのであること、自動車のキイは平素無施錠の事務室机抽斗内に入れてあり車庫の扉はなく自動車の管理は不十分であつたこと、以上の事実が認められ他に反証はない。
そして以上の諸事実によれば、被告閔及び被告ダイエナーは共に本件加害自動車を自己のために運行の用に供していた者であり、本件事故の際の運行も、被告一戸との人的関係、平素の自動車及びその鍵の管理状態からみて、被告閔及び被告ダイエナーの運行支配が排除されていたものとは認めがたい。また被告一戸は被告ダイエナーの被用者であり、本件事故はこれを事業及び人的関係から外形的に観察すれば、その業務の執行につき発生したものといえるので、右被告両名は本件加害自動車の保有者として自賠法第三条の定める責任を、被告ダイエナーは被告一戸の使用者として民法第七一五条による責任(物損につき)を免れえないものと解する。
(二) 被告谷野
原告らは、被告谷野が被告ダイエナー(当時の名称株式会社ダイエナー)の代位監督者の地位にあつたと主張するので考察するに、前記証拠によれば同被告は被告閔の内妻の弟にあたるため同被告より信頼され事務所工場における主任者的立場にはあつたが、代表者である閔が右工場の敷地内に居住しており、また使用人数名という事業の規模からして事業及び人員管理の面において代位監督者をおく必要はなかつたものと認められ、他に被告谷野が代位監督者の地位にあり、また実際上代表者に代位して従業員を監督していたことを肯認するに足りる証拠はない。もつとも被告谷野は右ダイエナーの取締役の一員として登記されていたことが認められるけれども、前記証拠によればそれは会社組織に登記するための便宜上被告閔が谷野の氏名を利用したのに止り、その地位は全く形式上のものであつたことが認められるので、右の登記上の地位は前認定を動かすに足りない。
また、原告ら被告一戸が無免許であることを知りながら本件イを貸与した旨主張し、被告一戸の本人尋問における供述には右主張にそうものがあるけれども、右の供述は〔証拠略〕に対比してたやすく措信しがたく、むしろ右証拠によれば自動車のキイは平素から事務室の施錠のない机の抽斗に納められており、それを知つている被告一戸が無断で使用し戸締りのない車庫から自動車を持出したものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
よつて、被告谷野につき本件事故に対する代位監督者責任及び共同不法行為責任を認めることはできない。
(三) 被告一戸
被告一戸に対する請求原因二(四)の責任原因事実は、同被告の自白するところである。よつて同被告は民法第七〇九条により、本件事故による損害を賠償しなければならない。
三、損害の認定
(一) 書証の成立
甲第五ないし第一一号証、第二七号証、第二九号証、第三一、第三二号証、第三〇ないし第五三号証は、被告一戸、同閔、同谷野との間で成立に争いがなく、この事実から被告ダイエナーとの間でもその成立を推認する。その余の甲号各証は被告一戸との間で成立に争いがない。被告閔、同谷野、同ダイエナーとの間で甲第一二ないし第二六号証、第二八号証、第三〇号証、第三三ないし第四九号証、第五四ないし第五六号証(前掲枝番号を含む)は原告両名の各本人尋問の結果によりその成立を認める。
(二) 原告憲俊の損害
(1) 治療費 二一万九、九九〇円
〔証拠略〕を合わせると、同原告は本件事故による前記受傷のため、昭和四〇年一一月一七日(事故日)より昭和四一年年一月二〇日まで(六五日)相原外科病院(神戸市垂水区日向一丁目所在)において入院治療を、昭和四一年一月二〇日より同年一二月二七日までの間に実日数三〇日の通院治療を受け、その入院費治療費、検査料等合計二一万六、六四〇円の支払義務を負担し、昭和四一年三月五日湊川病院にて診察治療を受け金三、三五〇円を支払つたことが認められる。
(2) 付添看護費 九万三、二八〇円
〔証拠略〕を合わせると、同原告は入院当初一〇日間は重篤のため二名の付添看護を必要とし、以後は退院まで一名の付添看護を必要とし、職業付添婦田中美智代、金重ツギ子、日下かつゑ、花田テルの付添看護を受け、その料金として原告主張の合計額九万三、二八〇円を超える支払をしたことが認められる。
(3) 栄養補給費 三万六、〇〇〇円
〔証拠略〕に照らすと、原告らが栄養補給費として主張する金額は、いわゆる栄養剤の購入代金にあたることが認められ、右証拠によれば原告両名が受傷後購入したアスパラ、エビオス、アリナミン等の代金額は合計一一万〇、三五九円に達していることが認められる。そして原告憲俊の前記傷害の部位、程度、治療期間に照らし、その症状の回復を速進させるためにそれらの栄養剤を購入服用することは、これら栄養剤服用の普及化現象と相俟つて、或る程度必要にしてやむをえないものというべきところ、医師が特に長期の又は大量の服用を指示した等の特段の事情がない限り、右の病状に照らし一般的には受傷後一カ年間一カ月三、〇〇〇円を超えない額をもつて相当と認むべく、他に右の特段の事情を認むべき証拠はない。従つて右の栄養剤費は金三万六、〇〇〇円の限度で相当と認める。
(4) 入院雑費 一万九五〇〇円
〔証拠略〕を合わせると、同原告は前記の入院中日用消耗品代、氷代、牛乳代等の諸経費を支出したことが認められるところ、右の入院雑費は原告の前記病状、入院期間等の諸事実に照らし、一日当り金三〇〇円をもつて必要にして相当な額と認める。そうすると原告憲俊の入院雑費は六五日分で合計一万九五〇〇円となる。
(5) 交通費 八九〇〇円
〔証拠略〕によれば、原告憲俊の入院中に付添つた前記付添看護人の交替による交通費(タクシー代)として合計四、四〇〇円を支出したことが認められる。また〔証拠略〕によれば同原告は退院後において実日数三〇回相原病院に通院し、その通院に交通費を要したことが認められるところ、その金額は明白でない。そこで同原告の自宅と相原病院との地理的関係及びその通院の全部がタクシーの使用を必要とする症状にあつたものとは認められないので、その必要交通費は平均して一回一五〇円を超えないものと認め、これに要した金額を四、五〇〇円と算定する。
(6) 温泉療養費
〔証拠略〕によれば、原告ら夫婦は昭和四一年一月二二日より二四日まで和歌山県白浜町へ、同年同月二六、二七日兵庫県城崎町へ湯治に赴いたことが認められるけれども、右の程度の湯治が医学的にみて本件傷害の治療上必要有効な療法であるとはたやすく認めがたく、他にこれを認むべき証拠がないので、右の費用は本件事故と相当因果関係にある損害とは認めがたい。
(7) 子供の委託経費 二万三〇〇〇円
〔証拠略〕を合わせると、前記のとおり原告夫婦が入院したため長男英樹(五才)二男雅俊(二才)を親類に預けるの外なきに至り昭和四〇年一一月二四から昭和四一年二月一〇日頃までの間兵庫県出石郡出石町の道子の実家に預けたため、その交通費及び謝礼として合計二万三〇〇〇円を支払つたことが認められ、右の金額は本件事故のため支出を余儀なくされた必要やむを得ない経費というべきである。その余の原告主張額についてはこれを認むべき証拠がなく、また委託養育費の算定については、それによつて支出を免れる自宅養育費を控除しなければならない。
(8) 休業損害 二万八三〇九円
〔証拠略〕を合わせると、同原告は本件事故の当時兵庫県庁(企画部企画課)に勤務し、事故前三カ月の平均給与額は金五万一八三四円であつたところ、本件負傷により昭和四〇年一一月一八日より昭和四一年一月二〇日まで欠勤し超勤等の手当を受けることができなかつたため、昭和四〇年一二月分及び昭和四一年一月分の給与額は各月三万七六八〇円となり、その差額にあたる金二万八三〇九円の得べかりし収入を失つたことが認められる。原告主張のその他の休業損害については、これを認むべき証拠がない。
(9) 物損 一六万七〇〇〇円
(イ)〔証拠略〕を合わせると、原告車はマツダR三六〇クーペデラックス六二年式で本件事故直前頃の時価(下取価格)は金一四万二〇〇〇円相当のものであつたところ、本件事故のため大破しスクラップ同然の無価値なものとなり、右価額相当の損害を受けたことが認められ、他に反証はない。
(ロ) 〔証拠略〕を合わせると、同原告は本件事故による負傷のため着用の洋服を汚損し、洗濯屋に出したが汚れが取れず、使用不能となり時価相当の金二万五〇〇〇円の損害を受けたことが認められる。
(10) 慰藉料 四五万円
原告憲俊の受けた傷害の部位程度と入院通院による治療経過は前に認定したとおりである。さらに〔証拠略〕を綜合すると、顔面二カ所に傷痕が残つたほか、後遺症として頭痛、頭重感等の神経障害にあたる症状が久しく継続したことが認められる。これらの事実と事故の与えた家庭的影響等諸般の事情を考慮し同原告の受けたこれら苦痛に対する慰藉料は金四五万円と算定する。
(三) 原告道子の損害
(1) 治療費 二三万一五四〇円
〔証拠略〕を合わせると、原告道子は本件事故による前記傷害のため昭和四〇年一一月一七日より昭和四一年一月二〇日までの間(六五日)前記相原外科病院にて入院治療を、その以後実日数一五日間の通院治療を受け、その入院費、治療費、検査料等として合計二二万八一九〇円の支払義務を負担し、昭和四一年三月五日湊川病院にて脳波検査を受け料金三三五〇円を支払つたことが認められる。
(2) 付添看護費 五万〇九六〇円
〔証拠略〕を綜合すると、原告道子は前記入院期間中付添看護を必要としたため、母成田ていが入院当日から退院まで、姉内海政子が入院の翌日から一〇日間、職業付添婦金重ツギ子が昭和四〇年一二月八日から一二月一六日までそれぞれ付添い、右金重ツギ子に対する付添料及び交通費として金五九六〇円を支払つたことが認められる。ところで右のとおり入院初期の一〇日間は母てると姉政子の二名が付添つているけれども、原告道子の前記傷害の部位程度に照らし必要やむを得ないものと認められる。ところで右のような近親者が付添つた場合の右時期における日当額は交通費を含め一日六〇〇円をもつて相当と解する。よつて成田ていの日当相当額は金三万九〇〇〇円、内海政子の日当相当額は金六〇〇〇円と認むべく、それを超える主張額については認容しがたい。(従つて〔証拠略〕に対する日当額は相当性を認めがたく、また甲第三六号証は重複していると考えられる。)
(3) 栄養補給費 一万八〇〇〇円
原告両名が受傷以後いわゆる栄養剤を購入服用したことは、前記(二)(3)で認定したとおりである。しかしながら右に説明したと同じ理由により原告道子の前記傷害の部位程度、治療期間に照らし特段の事情のない限り一般的には受傷後六カ月間一ケ月三〇〇〇円を超えない額をもつて相当と認むべく、他に右の特段の事情を認むへき証拠はない。従つて原告道子の右栄養剤費は金一万八〇〇〇円の限度で相当と認める。
(4) 交通費 二、二五〇円
〔証拠略〕によれば、原告道子の通院実日数は一五日である。よつてその交通費の相当額は一回平均一五〇円の割合による計二、二五〇円と算定する。
(5) 入院雑費 一万三〇〇〇円
原告道子の入院雑費は一日二〇〇円の割合による六五日分計一万三〇〇〇円と認める。
(6) 温泉療養費
原告憲俊につき説明したのと同じ理由により、原告らの支出した温泉療養費は前記傷害の治療上医学的に必要な経費とは認めがたい。
(7) 休業損害 九万円
〔証拠略〕を綜合すれば、原告道子は神戸市灘区畑原通三丁目において珠算、生花及び箏曲の個人教授を行い平均一カ月三万円を下らない収入をあげていたところ、前記受傷のため最少限三カ月間は右の収入をあげることができなかつたことが推認されるので、右の喪失利益を金九万円と算定する。
(8) 物損 一万円
〔証拠略〕によれば、同原告は本件事故のため着用の着物及び羽織を汚損し洗濯屋に出したが汚れが取れず、価値の減少をみたことが認められるところ、その損害は控え目に算定し金一万円と認める。時計の損害についてはその証拠がない。
(9) 慰藉料 三五万円
原告道子が本件事故により受けた傷害の部位、程度、治療期間及び家庭的な影響等諸般の事情を考慮し、同原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料を金三五万円と算定する。
四、損益相殺
原告らが、自賠法の責任保険より各自金三〇万円、被告一戸より各自金五万五〇〇〇円の支払を受けたことは争いがないので、右各金額を原告らの前記損害(傷害を原因とする損害)に充当控除すると、原告憲俊の損害残額は金六九万〇九七九円となり、原告道子の損害残額は金四一万〇七五〇円となる。
五、弁護士費用
原告らが弁護士に委任して本訴を提起したことは、その権利擁護のため必要やむを得ないものと認められるので、その弁護士費用(手数料、謝金)の相当額は、本件事故による損害として被告ダイエナー、被告閔及び被告一戸において賠償しなければならないところ、その相当額は本件事案の内容、賠償認容額及び神戸弁護士会所定の報酬等の基準額に照らし、原告各自につき金八万円(計一六万円)と認める。
六、結び
よつて被告ダイエナー及び被告一戸は、各自、原告憲俊に対し以上の損害合計金七七万〇九七九円及びその内金六九万〇九七九円(弁護士費用を除く)に対する被告ダイエナーは昭和四四年一〇月二一日(訴状送達の翌日)より、被告一戸は同年一二月一六日(右同)より各完済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告道子に対し以上の損害合計四九万〇七五〇円及びその内金四一万〇七五〇円(弁護士費用を除く)に対する右各起算日より完済まで年五分の割合による遅延損害金を、被告閔は原告憲俊に対し金六〇万三九七九円(物損を除く)及び内金五二万三九七九円(弁護士費用を除く)に対する昭和四三年一一月二三日(訴状送達の翌日)より完済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告道子に対し金四八万〇七五〇円(物損を除く)及び内金四〇万〇七五〇円(弁護士費用を除く)に対する前同日より完済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うべきものと認め、原告らの本訴各請求を右の限度で認容し、原告らの右被告三各に対するその余の請求(慰藉料に対し事故の翌日から遅延損害金の支払を求める請求は、それ自体は正当であるが、損益相殺の結果残存する慰藉料の額を正確に算定しがたいので認容しない)及び被告谷野に対する各請求は失当と認め棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田久太郎)