神戸地方裁判所 昭和43年(ワ)451号 判決
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〔判決理由〕1 本件道路は簡易アスファルト舗装であり本件窪みは路面中央からやや東寄りにあり、アスファルトがはがれて出来た長径二メートル、短径1.5メートル、最深部約一〇センチメートルのものであつたこと、本件道路の管理者が被告であることは当事者間に争いがない。
そして<証拠>を総合すれば左の事実が認められる。
(1) 本件道路の幅員は七メートル前後であるが、昭和四〇年度当時における交通量(観測地点姫路市網干区高田)は一二時間観測値で自転車類五、一五一、二輪車類二、一九八、乗用自動車類(軽乗用、乗用、乗合)一、二一七、貨物自動車類(軽貨物、小型貨客車、普通特殊)二、七四一、軍用車類二、であり、バスの運行もある主要地方道である。
(2) 本件道路上事故現場北側一七メートル付近に橋がありそこから現場にかけてはやや下り勾配になつており、事故現場付近には照明設備がない。
(3) 本件窪みでは亡貞夫以外にも転倒した者が一、二名あり、訴外森田正弘も本件事故直前に自動二輪車を運転中、前車輪を本件窪みにとられ、路上に転倒し、前歯折損、顔面挫傷等の負傷をした。
以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。更に本件窪みについては注意標識等、その存在を運転者に知らしめる措置はなんらとられていなかつたことについて当事者間に争いがない。
ところで国家賠償法第二条第一項にいう道路の設置又は管理の「瑕疵」とは道路が本来備えているべき性質や設備を欠いていることであると解すべきであるが、右当事者間に争いがない事実及び認定した各事実を総合すれば、本件道路は二輪車等の車両通行量も少なくなく、本件窪みは、それ自体かなり大きく且つ深さも一〇センチに及ぶところから特に自動二輪車の様な軽量な車両がこれに車輪を入れた時には、安定性を失い、もつて車両の転倒事故を惹起する危険を充分はらんだものというべきところ、本件窪みにはかゝる事故発生を防止すべく何らの注意標識設置等の措置がなされていなかつた。かくては本来道路が通常備うべき安全性(道路面が平担であるべきこと)を欠如しており、本件道路の設置管理の瑕疵があるというべく、本件事故もこの瑕疵により生じたものである。
2 そこで次に被告の抗弁について考える。
(一) 抗弁事実一の被告の主張は要するに本件道路に国道二号線を通過すべき大型車等が多数通過しその影響で本件窪みが短時間(事故発生の数時間ないし二日間位)のうちに急に生じたものであるから、当時災害復旧のため職員全員出動していた被告姫路土木出張所としては本件窪みの補修及び注意標識を設置することは不可能であつたというに帰すると解されるのでこれについて判断する。前掲1の証拠によれば、本件道路が迂回路となる以前毎日巡らしていた白バイ乗務員の竹中正守は本件の窪みを発見していないこと、本件事故前の九月一〇日頃の被告姫路土木出張所がなした道路の欠陥個所調査の際、本件事故現場付近では窪みが発見されておらないこと、本件事故当時本件窪みの中にはアスファルトのかけらが存していたこと等認められ、これらの事実から本件窪みは、本件道路が国道二号線の迂回路となつてから生じたものと考えられ<証拠説明略>。しかし更に前掲1の証拠によれば、本件道路の舗装はかなり古く、弱くなつており本件事故現場付近では被告主張の豪雨前も既に幾つかの路面の亀裂が存したことがみとめられる。以上の事実からみれば本件の窪みは、既にかなり以前から路上にあつた亀裂が本件道路が国道二号線の迂回路となつて以降、その増加した車両の通行のために衝撃で段々に拡大して本件窪みに至つたものであると推測される。又他方、前掲証拠から本件道路を迂回路とするには交通係警察官の指導があり、しかも迂回路となつた旨は、その頃被告姫路土木出張所に通知されていることが認められ、これに反する証拠はない。
これらの事実を総合すれば、被告は本件道路が迂回路となつた以降、本件道路のパトロールにより本件窪みを発見し、補修したり、道路標識を設置する等の適切な安全措置をとることが凡そ不可能であつたとは断じがたい。又被告の主張はひつきようするに、右に指摘したごとく、本件窪みの補修等の道路の管理行為をなす人的、或いは時間余裕がなかつたとの点に帰するが、無過失責任主義をとり不可抗力の場合にのみ免責事由を認めると解される国家賠償法第二条第一項の趣旨からみて被告の主張はこれを採ることができない。
なお被告の右主張には、本件窪みが本件道路の安全限度を著しく超過した過重交通の結果生じたもので、これにより生じた損害について責任を負うものではないとの主張も含まれているとみられるが、既に認定した通り本件道路は平素からでもかなりの交通量のある簡易アスファルト舗装の主要地方道であるが、車両の交通制限がなされていた事実は認められず、むしろ本件道路の状況を知悉している県の職員である交通係警察官が本件道路への迂回を指導していること等の諸般の事情からみて予期された限度以上の過重交通のため本件窪みを生じたとして免責の主張をすることはできないものと解すべく、したがつてこの点においても被告の主張はとることができない。<中略>
<証拠>によれば次の事実が認められる。
(一) 本件道路の事故現場付近の制限時速は四〇キロメートルであり本件窪みは信号機の設置されていない四つ角交差点上で特別の照明設備もなく、又同交差点は南進する際必ずしも左右の見通しがきくとはいえない。又本件道路の事故現場付近は舗装がかなり弱つており、以前から亀裂を生じている処もあり、事故当日は集中豪雨直後であり且つ多量の迂回車両が通過したことにより路面の損傷を或程度予測しうる路面状態にあつたこと、
(二) 亡貞夫は本件事故に至る迄約五年間、通勤のため毎日、本件道路を利用しており、且つ事故当日の朝、本件道路を利用して帰宅していることから、平常はもちろん、事故当日の現場付近の前記道路状況についても十分知悉していたと思われること、
(三) 本件窪みは本件道路を南進する場合、交差点の手前にある橋を通過すれば(橋南端から窪み迄は約一七メートル)本件窪みの発見が可能であり、且つその窪みの左側には自動二輪車の通行の為には充分な余地があるので、自動二輪車により時速四〇キロメートルで右橋を通過してその地点で窪みを発見し避走を開始すれば、本件窪みを避けて走行できること、
以上の事実が認められ、更に、同証拠から
(四) 本件窪みから亡貞夫の自動二輪車転倒位置にかけては路面に擦過痕があり、進行方向手前から本件窪みに至るまでは何らのスリップ痕もみられず、且つ亡貞夫及び自動二輪車は本件窪みから約一五ないし二〇メートル先に転倒したことが認められ、これに反する証拠はない。
以上の各事実を総合すると、亡貞夫には右の様な道路状況であつたから事故現場付近では減速し、且つ前方を注視して走行し、窪み等の障碍を発見した際には、すみやかに避走できるよう留意しながら走行する等して事故発生を防止すべき運転者としての注意義務を怠り、本件窪みを見落すか或いは直前に発見するかして前記制限速度ないしはこれを越える速度のまま右窪みに自動二輪車を乗り入れた過失があり結局本件事故は前に認定した本件道路の設置、管理の瑕疵のほか、亡貞夫の過失が重なることにより惹起されたといわざるを得ない。
なお亡貞夫は事故の際ヘルメットを着用していなかつたが、本件道路の走行に際してはヘルメット着用は義務づけられておらず、又一般的にも普及化されていなかつたことが認められるので、右着用していなかつたことに過失があるとはいいがたいのでこの点に関する被告の主張は採用できない。
そして以上の貞夫の過失は前示本件道路の瑕疵の態様程度等諸般の事情を総合すると、原告らの損害額につきその六〇パーセントを過失相殺すべきである。
(原田久太郎 須藤繁 片岡博)