神戸地方裁判所 昭和43年(ワ)545号 判決 1969年8月05日
原告
栗山マサエ
被告
神戸ユネスコ協会
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
原告
「被告は原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和四三年五月一二日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言
被告
「主文同旨」の判決
第二当時者の主張
一 原告の請求原因
(一) 訴外栗山輝夫は、昭和四二年八月二四日午前〇時五〇分頃神戸市灘区原田通三丁目六三二番地先横断歩道上を北から南へ歩行横断中、折柄東進してきた訴外橋瓜啓之運転の自家用普通乗用自動車(兵五の三七―二〇号以下本件加害自動車という。)に跳ねとばされ、内臓破裂、左大腿骨骨折の重傷を受け、出血多量のため間もなく死亡した。(以下本件事故という。)
(二) 被告は、本件加害自動車に「THE KOBE UNESCO ASSO-CIATION」のマークをつけることを許容して被告名義を貸与し、かつ、右橋瓜は被告協会の青年部長として本件加害自動車を使用して会長の送迎や青年会員の募集、青少年の合宿による精神面の訓練等の仕事に従事していた。右事実によれば被告は本件加害自動車を自己のために運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法第三条により、本件事故による全損害を賠償する責任がある。
(三) 本件事故により、亡栗山輝夫は次に掲げる(1)の傷害を受けたところ、原告において唯一人の直系尊属として右の賠償請求権を相続取得し、さらに原告自身として次に揚げる(2)、(3)の損害を受けた。
(1) 過失利益 八〇二万四八八〇円
亡輝夫は、事故の当時二一才の健康な男子であつて、ザーチェックメイツと称するバンドのリーダーとして月額六万円の収入を得ていた。そして以後少くとも四二年間は右の割合による収入をあげることができたから、本人の必要生活費を収入の二分の一として計算すればその得べかりし純収入は合計一、五一二万円となる。これを一時に請求するためホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除すると、本件事故時における現価は金八〇二万四、八八〇円となる。
(2) 慰藉料 四〇〇万円
原告は、右輝夫の母として同人の本件事故死により多大の精神的打撃を受けた。原告の右苦痛に対する慰藉料は四〇〇万円を下らない。
(3) 弁護士費用 一九二万四、九七六円
原告は、被告が右の賠償義務を認めないのでやむなく弁護士に委任して本訴を提起し、原告訴訟代理人にその着手金として金一〇万円を支払い、報酬として一八二万四、九七六円を支払う必要がある。
(四) 原告の受けた前記(1)(2)の損害に対し、本件加害自動車の責任保険より金三〇〇万円の給付を受けたので、これを右損害額から控除すると損害残額は計一、〇九四万九、八五六円となる。
(五) よつて、被告に対しその内金二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年五月一二日より支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の答弁
請求原因(一)の事実は知らない。同(二)の事実は否認する。同(三)の損害額は争う。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 〔証拠略〕を綜合すれば、被告はユネスコ憲章の精神に従い教育、科学、文化を通じて国際理解と世界平和に貢献することを目的とする団体であつて法人格を有しないが、民事訴訟法第四六条にいう社団にあたることが認められる。
二 原告主張の日時場所において訴外栗山輝夫が訴外橋瓜啓之の運転する本件加害自動車にはねられて死亡したことは〔証拠略〕により認めることができる。
三 原告は、被告において右加害自動車を自己のために運行の用に供していたものであると主張するので判断する。
〔証拠略〕によれば、本件加害自動車にはその前部右側のバンバー上部にTHE KOBE UNESCO ASSO-CIATIONと記載した金属板が取付けられていたことが認められ、右は被告協会の名称を英文で掲示したものと解される。しかしながら、〔証拠略〕によれば、右の金属板は右橋瓜が独断で掲示したものであつて被告の代表者が被告の名称を自動車に掲示することを承認した事実はなく、本件加害自動車は右橋瓜が自分の資金で購入しその維持経費も一切同人が負担し、被告及びその代表者が右自動車を用務のため利用したことはないこと、右橋瓜は被告協会の会員ではなく、もとより被告から青年部長などの役職の担当を命ぜられた事実はないのであるが、ただ同人はユネスコ活動に熱意をもち昭和四〇年六月頃から、かねて顔見知りの被告代表者方に時折出入りしていたのに過ぎないこと、前記英文字の金属板は右橋瓜が自己の行うユネスコ活動の一部として外人観光客等を自動車で案内するための便宜上取付けていたものであること、本件事故の際における本件加害自動車の運行は右橋瓜が自己のために運転していたものであつて被告とは全く関係がないこと、以上の事実が認められ、被告が本件加害自動車を自己のために運行の用に供していたことを認むべき証拠はさらにない。
四 よつて、被告が本件加害自動車の運行供用者であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田久太郎)