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神戸地方裁判所 昭和45年(ワ)583号 判決 1973年4月11日

原告 株式会社大阪相互銀行

被告 株式会社大津屋

主文

被告は原告に対し別紙目録(一)記載の建物について昭和四四年九月四日取毀を原因とする滅失登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、主位的請求

1 被告は原告に対し別紙目録(一)記載の建物(以下目録(一)の建物という)について昭和四四年九月四日取毀を原因とする滅失登記の抹消登記手続をせよ。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二、予備的請求

1 原告が被告に対し別紙目録(二)記載の建物(以下目録(二)の建物という)について同目録(三)記載の根抵当権及び同目録(四)記載の代物弁済予約完結権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告主張の請求原因

一、目録(一)の建物は、もと株式会社三杉商店が所有していたが、昭和四二年二月二二日、被告に贈与され、神戸地方法務局同年三月八日受付第四五七号をもつて右贈与を原因とする所有権移転登記を経由し、更に、昭和四四年一二月一八日に、同年九月四日取毀を原因とする滅失登記をなし、同日右建物の登記簿は閉鎖された。

二、原告は、株式会社朝日製作所を主債務者とし、株式会社三杉商店ほか三名を連帯保証人として、昭和三八年八月三一日、継続的取引を目的とする相互銀行取引約定を締結し、かつ、同日、右債務を担保するため、右株式会社三杉商店は、その所有する目録(一)の建物について、同目録(三)記載の根抵当権を設定し、右債務を弁済しないことを条件としてその弁済に代えて所有権を移転する旨同目録(四)記載の代物弁済予約をなし、同日、右根抵当権については神戸地方法務局受付第一五六一七号をもつて根抵当権設定登記を、右代物弁済予約については同法務局受付第一五六一八号をもつて所有権移転請求権保全仮登記を、それぞれなした。

三、そして、原告は、昭和三八年八月三一日、株式会社朝日製作所に、三、〇〇〇万円を、弁済期昭和四〇年八月三一日、利息日歩二銭五厘、遅延損害金日歩五銭と定めて貸付けた。

四、神戸国際港都建設事業生田地区復興土地区画整理事業施行者神戸市長は、被告に対し、昭和四二年六月二二日付移転通知書をもつて、土地区画整理事業施行のために目録(一)の建物を、換地地区三宮元町二二街区七号に移転すべき旨通知したが、被告はこれをしなかつたので、右事業施行者神戸市長は、直接次のとおり移転工事を実施して被告に引渡した。

1  移転工法 解体移転

2  建物の材料等

従前の建物の材料の大部分を使用し、一部補足材を用い、新材料としては、敷居、鴨居等の内装材及び屋根の鉄板等にすぎず、しかも右新材料は旧建物の材料と同程度のものを使用し従前の建物と殆んど同様のものを再現した。

3  建物の面積等

解体移転後の建物は、目録(二)の建物のとおりで実面積一六八・〇一平方メートルである。

目録(一)の建物は、神戸市生田区元町通一丁目四八番地の二、一七五・四〇平方メートルの土地上に存在していたが、右土地は、前記土地区画整理事業施行のため、生田区三宮元町二二街区七号、一三一・五六平方メートルに仮換地指定の処分により、従前の土地の東側部分が約一メートル、北側部分が最大で約三メートル減少したほかは殆んどいわゆる現地換地であつた。

目録(一)の建物と、目録(二)の建物との床面積の比較は次のとおりである。

表<省略>

一階A部分は株式会社日本旅行会、B部分は白賀虎、C部分は万山すゑがそれぞれ店舗として、二階は万山すゑが居住用として、それぞれ占有使用していた。そこで、前記事業施行者神戸市長は、目録(一)の建物を仮換地上に曳行し換地上からはみ出す部分を削り取るときは右占有者間に不公平な結果を生ずるので、曳行工法をとらず解体移転工法をとつたのであつて、目録(二)の建物は、目録(一)の建物を縮少したにすぎず、構造、間取り、用法等において殆んど差異がないのである。

4  工事完成日 昭和四四年一一月一五日

5  引渡日 同月一八日

五、ところで、都市計画法七七条一項の規定により、施行者が直接に従前地上の建築物を換地上に移転する場合において、工法上の必要から当該建築物を解体(取毀)して換地上に移転し古材(従前の建築物の材料)の大部分をそのまま使用し、構造、坪数等において従前の建築物と殆んど同様のものを再現した場合においては、従前地上の建築物と換地上の建築物とは同一性を有し、従前地の建築物に設定された抵当権は換地上の建築物に附着しているものと解すべきである。

従つて、右のとおり目録(二)の建物は、目録(一)の建物と同一性を有するものであるが、被告は、第一項のとおり目録(一)の建物の滅失登記をなし、昭和四四年一二月一八日、目録(二)の建物として神戸地方法務局に、同年一一月一八日新築を原因として表題部の登記をなし、同法務局同年一二月二四日受付第二七九七四号をもつて所有権保存登記をなし、原告が目録(二)の建物に根抵当権及び代物弁済予約完結権を有することを争つている。

六、従つて、従前の建物についての滅失登記は違法というべきであるから登記を回復するため抹消登記が許され、新たな保存登記は一個の建物について二重の保存登記をした場合に準じこれを無効の登記と解すべきである。

右のとおり、原告は根抵当権を有するところ、抵当権は物権として物上請求権を有し、抵当権の存在又は行使について障害となるものがあればその排除を請求しうるのであるが、本件は建物が滅失しないのに滅失したものとしてなされた滅失登記により、原告の根抵当権の存在又は行使が害されたので、その排除を求めるため物上請求権に基づき、抹消登記手続を求めるものである。

仮に右抹消登記請求が認められないならば、原告が目録(一)の建物に有した前記根抵当権及び代物弁済予約完結権は、右建物と同一性のある目録(二)の建物になお存在するものであるから、原告が右各権利を有することの確認を求める。

第三、訴の適法性についての被告の主張

建物の表示に関する登記は、不動産登記法二五条の二により登記官が職権をもつて調査し、登記すべきものであるところ、本件の主位的請求は、建物の表示に関する抹消登記の請求であるから訴は不適法である。

第四、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因第一、第二項の事実、第四項のうち2及び3を除く事実、第五項のうち原告主張のとおり滅失登記、表題部の登記及び所有権保存登記をした事実、被告が原告主張の根抵当権及び代物弁済予約完結権の存在を争つている事実は何れも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

二、本件移転前に存在した建物は二個の建物であつたが、移転後の建物は一個の建物であつて構造上全く異つた建物であり、又材料は従前の建物の材料を大部分使用したものではなく、相当多量の新資材を使用して建築したものであつて、従前の建物の再現ではなく、両建物の間に同一性はない。

第五、証拠<省略>

理由

第一、主位的請求についての訴の適法性に関する判断

被告が主張するように、原告の主位的請求が建物の表示に関する登記を求めるものであることはその請求自体から明らかであり、又、建物の表示に関する登記は、登記官が職権をもつてなしうることは不動産登記法二五条の二の規定するところであるが、しかし、右規定は、登記官が申請によつて登記をなすことを排斥するものでないことは同法二六条、九三条、九三条の六及びその他の規定から明らかである。

そして、建物が滅失しないのに、滅失したものとしてその登記がなされた場合にその回復をするには、滅失登記の抹消登記によつてすることができ、右建物に抵当権を設定しその登記がされている場合において、建物所有者が右滅失登記の抹消登記をしない場合には、右抵当権者は、自己の抵当権を保全するため、建物所有者に対し、右滅失登記の抹消登記を請求しうるものと解すべきである。

本件主位的請求は、原告が、登記された抵当権者として、右抵当権を保全するため、原告の右抵当権の存在を争い、かつ、滅失登記の抹消登記をしない本件建物の所有者である被告に対し、右滅失登記の抹消登記を請求するものであるから、その訴は適法というべきである。

第二、請求に対する判断

一、請求原因第一、第二項の事実は当事者間に争いがない。成立に争いない甲第一ないし第三号証によると請求原因第三項の事実を認めることができる。請求原因第四項のうち2及び3を除く事実、同第五項のうち原告主張のとおり滅失登記、表題部の登記及び所有権保存登記をした事実、被告が原告主張の根抵当権及び代物弁済予約完結権の存在を争つている事実は何れも当事者間に争いがない。

二、そこで、目録(一)の建物と目録(二)の建物との同一性について考えて見るが、以下述べる理由により右両建物は同一性があると解すべきである。

成立に争いのない甲第四号証の一、二、第五号証、第七ないし第一三号証、現場写真であることに争いのない甲第一四号証の一ないし一五に、証人田側一九一、同横谷鴻の各証言を総合すると次の事実が認められる。

1、前記土地区画整理事業施行者神戸市長は、目録(一)の建物の敷地である神戸市生田区元町通一丁目四八番地の二、一七五・四〇平方メートルについて、右土地区画整理事業施行のため、同市生田区三宮元町二二街区七号、一三一・五六平方メートルに仮換地指定の処分をしたが、右仮換地は従前の土地より面積がやや狭く、位置がやや西側に寄つたがいわゆる現地換地に近いものであつた。右仮換地の指定に伴つて、目録(一)の建物を仮換地上に移転しなければならなかつたが、被告がこれをしなかつたので右事業施行者神戸市長が直接移転工事をすることになつた。

2、目録(一)の建物は登記簿上二個の建物として登記されていたが、その実態は一個の建物であつて、これを、A、B、Cの三部分に区分して店舗(一部居宅)として他に貸与されていた。そこで、右事業施行者神戸市長は、仮換地が、従前の土地より縮少されたのに伴い、目録(一)の建物を縮少して移転する必要があつたが、右のとおり三分して使用されている実状を考慮して右三者に対する使用上の公平から移転後もA、B、Cの三部分に区分して面積を従前の面積にほぼ案分し、同一の利用条件と同一の形態を保つて縮少するとの方針を定め、そのため、曳行移転したうえで一部を除去するとの工法は採用せず、解体移転の工法を採用することとした。

3、目録(一)の建物は、木造建物であつたが移転に際して建築材料は解体材を使用することを原則とし、構造材で腐朽が甚だしく保安上危険と認められるもの及び造作板材で再使用の不可能のもの等については例外として補足材を使用することができ、その場合でも材質、寸法ともに在来と同等のものを使用することとして、右移転工事を訴外原田建設株式会社に請負わせた。

4、そこで、右原田建設株式会社は、右請負契約に指示された趣旨に添つて、仕様書、設計図等に従い、目録(一)の建物を解体して、目録(二)の建物を建築した。その面積は原告主張のとおりであつて、A、B、Cの各区分に従つてほぼ案分されたものであつた。

材料は原則として解体材を使用し、一部に補足材を使用したが、補足材の全材料に対する割合は一割ないし二割弱であり、その使用材料は従来使用していたものと材質、寸法とともに同等のものであり、使用は、解体材が腐朽しているためこれを使用した場合に危険と認められる場合とか、再使用の不可能な場合等で補足材を使用しなければならない場合に限り、又、その使用個所は、土台の一部、柱の一部の根本に補足材を使用したほか、敷居、鳴居、屋根を葺く鋼板に新材料を使用した。

間取りにおいても、A部分は事務室、応接室、店舗、客溜の各部分が縮少されたのみで従来どおりであり、B部分も商品置場、店舗の各部分が縮少されたのみで従来どおりであり、C部分は一階の店舗が縮少されたのみで従来どおりで、二階が板間、台所、六畳、四畳等の各部分が位置を変更して台所、洋間、板間、六畳、四・五畳となつており、右A、B、Cの各部分の形態及び利用条件はほぼ従前のとおりであつた。

全体としての形態は、従来の建物を縮少したと把握されるものとなつている。

ところで、土地区画整理事業の施行により仮換地指定の処分がなされ、これにより従前の土地上に所在する建物を仮換地上に移転する方法として曳行移転工法と解体移転工法があり、曳行移転によつた場合には建物の同一性に疑問を生ずる場合はすくないが、解体移転によつた場合には建物の同一性に疑問を生ずる場合が多い。その同一性を決定する基準としては、厳格なる物理的なものにのみこれを求めるべきではなく、社会通念上取引及び利用の目的物となる点と、移転するに至つた事情等をも観察してこれを決すべきで、従前の建物の材料の大部分を使用し、同一の種類、構造の建物を建築し、その面積及び外観においてあまり差異がなく、かつ、建物の解体及び建築が移転の方法としてなされ、その利用状況に殆んど変更のない場合には、建物の同一性があるというべきである。

これを本件についてみるに、本件の解体移転は、区画整理の施行に伴い従前の私的な権利関係を変化させずに移転させて、従前の建物の利用条件の公平をはかることを目的として解体移転の工法を採用し、従前の建物の材料の大部分に在来と同等の補足材を一部に使用し、木造一部二階建店舗兼居宅という同一の種類構造の建物を建築したのであり、その面積は全体として縮少し、これに伴い各使用部分も縮少されたが、全体としての外観及び各使用部分の利用条件、形態にあまり差異がないのであるから、このような場合には、従前の建物である目録(一)の建物と、移転後の建物である目録(二)の建物とは同一性があると解すべきである。

三、以上のとおり従前の建物である目録(一)の建物と、移転後の建物である目録(二)の建物とは同一性があり、従つて、目録(一)の建物が滅失し目録(二)の建物が新築したものとなすべきではなく、目録(一)の建物は滅失せずその構造、床面積及び所在等を変更し目録(二)の建物として存続しているというべきである。この場合目録(一)の建物について滅失の登記をなし目録(二)の建物について新築の登記をなすべきではなく、目録(一)の建物について構造、床面積及び所在等について変更の登記をして目録(二)の建物に合致させるべきものと解すべきである。従つて本件のように目録(一)の建物についてなした滅失の登記は、建物が滅失しないのにかかわらず滅失したものとしてなしたものであるから違法であつて、右滅失登記は実体のない登記として無効というべく、これを回復するため右滅失登記の抹消登記をなしうるというべきである。

又、建物が滅失しないのに滅失したものとしてその登記がなされても、右建物に設定されていた抵当権は消滅せずその効力を持続しているものであり、右抵当権の設定登記も又その効力を有し対抗力を失うものではないというべきであるから、原告の前記根抵当権は消滅せずなおその効力を持続し、その登記も又効力を有し対抗力を失つていないというべきである。

そして、被告が、原告の右権利を争い本件滅失登記の抹消登記をなさない場合には、原告においてその権利を保全するためこれを訴求しうるものというべきである。

四、なお、この場合に、本件建物の現状は目録(二)のとおりであつて、目録(一)の建物の表示とは異つているが、しかし、登記の回復をはかるには、その不動産の表示が閉鎖された登記簿上の表示と符合していることを要すると解されるので、一旦目録(一)の表示された建物の登記の回復をなし、その後に目録(二)の建物の表示に変更登記をなすことにより現状の目録(二)の建物に合致させるべきものと解するのが相当である。

又、すでに、本件建物について、目録(二)の表示による新築の登記がなされ、これを基にして権利の登記がされている場合に本件の登記をなすについて手続上支障があれば利害関係人との関係で調整をすべき手続に従つて解決し、そして同一建物について二個の登記がなされた場合にはその効力が争われることもあるが、これは又別個に解決をはかるべきであると解されるから本訴を認容するに障害となるものではない。

五、よつて、原告の主位的請求は理由があるからこれを認容し(予備的請求については判断せず)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下郡山信夫 角田進 牧弘二)

(別紙)目録

(一) 神戸市生田区元町通一丁目四八番地の二所在

家屋番号 同町二八番

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗

床面積 七一・六〇平方メートル

(二一坪六合六勺)

同所所在

家屋番号 同町二八番の一

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗

床面積 一階七九・八〇平方メートル

(二四坪一合四勺)

二階四七・三三平方メートル

(一四坪三合二勺)

(二) 神戸市生田区元町通一丁目四八番地二、四八番地三所在

家屋番号 四八番二

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅

床面積 一階一一九・六九平方メートル

二階四八・五四平方メートル

(三) 根抵当権者 原告

債務者 西宮市苦薬園四番町一三二番地

株式会社朝日製作所

根抵当権設定者

神戸市生田区元町通一丁目四八番地の二

株式会社三杉商店

原因 昭和三八年八月三〇日相互銀行取引契約による昭和三八年八月三一日付根抵当権設定契約

債権元本極度額 二、〇〇〇万円

遅延損害金 日歩五銭

(神戸地方法務局昭和三八年八月三一日受付第一五六一七号・共同担保目録第一三六号)

(四) 代物弁済予約権利者 原告

債務者 西宮市苦楽園四番町一三二番地

株式会社朝日製作所

代物弁済予約義務者

神戸市生田区元町通一丁目四八番地の二

株式会社三杉商店

原因 昭和三八年八月三一日相互銀行取引契約による同日金銭消費貸借契約

金額 三、〇〇〇万円

利息 日歩二銭五厘

損害金 日歩五銭

(神戸地方法務局昭和三八年八月三一日受付第一五六一八号)

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