神戸地方裁判所 昭和45年(行ウ)11号 判決 1971年5月31日
原告 平野政雄
被告 神戸刑務所長
訴訟代理人 坂梨良宏 外四名
主文
本件各訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、先ず、被告の本案前の主張一について判断する。
監獄法第六〇条の規定に基づく文書図画閲読禁止の本件各懲罰処分は、その執行の完了(当事者間に争いがない)によりその効果が消滅したものであるが、さらに、右各処分の執行の完了後においても、なお、原告が右各処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有するか否かについて検討すると、本件各懲罰処分を受けたことを理由として原告が将来、行刑上、不利益な取扱いを受ける虞れが全くないとはいえないが(犯罪者予防更生法第三〇条等参照)、かような不利益は、将来の発生にかかり、しかも、その発生自体不確定であるばかりでなく、右各処分により当然に招来されるものではないうえ、右各処分が違法か否かは、将来、右不利益な取扱いを争う訴訟において十分に考慮されうる余地があるから、結局、原告が執行の完了後においても右各処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有するものということができない。なお、他に、本件各懲罰処分の取消を求める訴について法律上の利益を認めるに足りる資料もない。
したがつて、本件各懲罰処分の取消を求める訴は、右各処分の執行の完了によつて法律上の利益を失つたものであるから、不適法といわなければならない。
二、次に、被告の本案前の主張二について判断する。
およそ、行政訴訟の対象となり得る行政庁の処分は、行政庁が公権力の発動として行う公法上の行為であつて、その行為によつて直接国民の権利義務に対し影響を与えるものでなければならないと解すべきところ、被告が、原告の身分帖その他の関係書類に本件各懲罰処分に関する事項を記載したことは、唯行政上の便宜に資するためにすぎないものであり、もとより、直接原告の権利義務に対し影響を与える性質のものではないから、本件記載は行政訴訟の対象となり得る行政庁の処分ということができない。
したがつて、本件記載の抹消を求める訴も、その余の主張について判断するまでもなく、不適法というべきである。
三、よつて、原告の本件各訴はいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 仲西二郎 神保修蔵 小野貞夫)