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神戸地方裁判所 昭和46年(行ウ)25号 判決 1974年7月29日

神戸市灘区日尾町二丁目二番二〇号

原告

志水三二

右訴訟代理人弁護士

山口幾次郎

同市同区泉通二丁目一番地

被告

灘税務署長

松本晴雄

右指定代理人(大阪法務局)

井上郁夫

同(

同 ) 金原義憲

同(神戸地方法務局)

島津弘一

同(大阪国税局)

黒川曻

同(

同 ) 丸明義

同(

同 ) 岡崎成胤

主文

一、本件訴のうち、被告が原告に対して昭和四四年七月一一日付でなした昭和四三年分所得税の重加算税賦課処分の取消を求める請求にかかる部分は、これを却下する。

二、原告のその余の請求は、これを棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

被告が原告に対し昭和四四年七月一一日付でなした所得税の更正加算税の賦課処分中、(1)昭和四二年分所得税二四〇、八〇〇円を超過する分および過少申告加算税賦課決定、(2)昭和四三年分所得税五六五、九〇〇円を超過する分および無申告加算税、重加算税賦課決定をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

一、原告

(請求原因および被告の主張に対する答弁)

1. 原告は昭和四二年分所得税の確定申告を、所得金額につき譲渡所得金額一、七〇八、五三一円として申告したところ、被告は昭和四四年七月一一日付で、不動産所得金額三、二三二、六二八円、譲渡所得金額原告申告どおり、総所得金額は、九四一、一五九円と更正し、その結果課税される所得金額につき申告による一、三四八、〇〇〇円を四、五八一、〇〇〇円と、所得税額につき申告による二四〇、八〇〇円を一、四三〇、二〇〇円と更正し、かつ過少申告加算税五九、四〇〇円を賦課決定した。

また、原告は昭和四三年分所得税の確定申告を所得金額につき譲渡所得二、八四七、二三七円として申告したところ、被告は昭和四四年七月一一日付で不動産所得六、二〇四、九〇〇円、譲渡所得金額三、五二二、二三七円、総所得金額九、七二七、一三七円と更正し、その結果課税される所得金額につき申告による二、四一七、〇〇〇円を九、二九七、〇〇〇円と、所得税額につき申告による五六五、九〇〇円を三、七一七、八〇〇円と更正し、かつ無申告加算税二八一、四〇〇円、重加算税一一七、九〇〇円を賦課決定した。

2. 原告は被告の右更正処分を不服として異議申立をし、昭和四四年一〇月三〇日付で異議申立が棄却されたため審査請求をしたところ、国税不服審判所は昭和四六年四月一五日付で、昭和四二年分につき審査請求を棄却するとの裁決をし、昭和四三年分については不動産所得税金額につき更正による六、二〇四、九〇〇円を四、三八六、八三二円とし、よつて課税される所得金額につき更正による九、二九七、〇〇〇円を七、四七九、〇〇〇円とし、更正による所得税額三、七一七、八〇〇円を二、八〇八、八〇〇円に、更正による非申告加算税二八一、四〇〇円を二二四、二〇〇円とし、重加算税金額取消の裁決をなし、昭和四六年四月二三日右各裁決書謄本が原告に送達された。

3. 前記各更正処分(加算税の賦課処分を含め以下本件各更正処分という)は、いずれも次に述べるとおり不動産所得とはならないものを不動産所得とし、譲渡所得についても譲渡所得金額を誤認した結果等によるものであつて違法な更正処分である。

イ、昭和四二年分、同四三年分各不動産所得にかかる各収入金額について被告は、芦屋市奥山一二番地外、同一五番地の土地(以下本件土地という)につき日本国有鉄道および株式会社間組(以下国鉄等という)から支払われる地代が、原告の訴外株式会社長谷ビル(以下訴外会社という)に対する借入金債務六五、〇〇〇、〇〇〇円の利息に充当される結果、原告に帰属するものと判断している。

しかしながら訴外会社は本件土地を原告より譲渡担保として取得し登記簿上完全に所有権を有しており、かつ実質的にも自ら右土地を国鉄等に賃貸しその地代も取得しているものである。訴外会社と原告との間の昭和四二年三月一五日付契約上、右借入金債務に対する利息その他を本件土地の売却代金より訴外会社が差引きその残余金を右両者で折半することになつているのであるから前記地代を右利息に充当するものとするならば、訴外会社が地代も利息も共に取得し得ることとなり理が通らないのであり、そもそも右両名間では、右利息は本件土地売却の際ないし右借入金債務元金の決済時に一括支払うとの約がなされていたのであり、同時点までに利息の支払ということはあり得ない。また、原告は訴外会社に本件土地を使用させる旨約したこともない。

被告主張の前記地代収入は、訴外会社が原告から受取るべき前記利息の支払に充当するとの名のもとに自ら金儲けを企つたもので結果得た同会社自身の収入である。

しかるに被告が右地代収入を原告に帰属するとした判断は所得や財産等が法律形式上帰属する者とその経済的実質を亭受する者とが異なることの明らかな場合には公平の原則に立戻つて実質課税が行われなければならないとの原則をじゆうりんするものである。

ロ、仮に、右地代収入が原告に帰属するとすれば、この地代収入が原告の訴外会社に対する前記利息の支払に充当されることが、原告の僅かに残つている本件土地に対する名目上の所有権の維持のために欠くことのできないものであるから、日歩四銭の割合による右利息は必要経費として認められるべきであり、その金額は次のとおりとなる。

訴外会社に対する支払利子昭和四二年分 七、五九二、〇〇〇円

<省略>

同 昭和四三年分 九、五一六、〇〇〇円

<省略>

ハ、右各年分不動産所得にかかる必要経費のうち、大阪市東住吉区田辺東之町八丁目二七番の土地(以下田辺東之町の土地という)の支払地代につき被告は、原告の前借地人が支払つていた年四六、五一二円をもつて右支払地代と認定している。

しかしながら右土地の地代は年一二〇、〇〇〇円と認められるべきである。

すなわち、右土地の地主は借地人が原告に交替した時をねらつて増額地代一二〇、〇〇〇円を要求しており、かつ地価が逐年高騰して地代も逐年増額されるのが常識であることを考えれば、原告は地代年一二〇、〇〇〇円の要求を紛争解決時から遡つてでも呑まされることは必定なのである。

ニ、昭和四三年分譲渡所得にかかる収入金額のうち、神戸市垂水区塩屋町大谷六一八の八の土地(以下大谷六一八の八の土地という)の収入金額は、原告の申告どおり一、八〇〇、〇〇〇円であるのに被告はこれを三、一五〇、〇〇〇円と認めている。

4. 被告主張につき

イ、被告の主張1項については、

(1) 昭和四二年分、同四三年分の各不動産所得にかかる収入金額のうち、本件土地の収入金額は否認し、その余は認める。本件土地につき国鉄等が訴外会社に支払つた金額は争わないがその趣旨について争うものである。右各年度不動産所得にかかる必要経費中、固定資産税について本件土地に関する分は争い、その余は認め、同必要経費である建物減価償却費、支払利子、立退料、支払地代のうちの近畿財務局への支払金額はいずれも認める。田辺東之町の支払地代は前記のとおり各年分とも一二〇、〇〇〇円である。

(2) 昭和四二年分譲渡所得金額は認め、同四三年分譲渡所得にかかる収入金額中大谷六一八の八の土地についての収入金額は争う。

ロ、被告の主張2項中(1)、(2)の事実は認め、(4)、(5)項の事実は不知、その余および同3項は争う。

5. 国鉄等からの地代収入が原告に帰属するとした場合、昭和四二年分不動産所得にかかる必要経費として次の各金額が認められるべきである。

不動産取得税他 一三九、〇三〇円

雑費 四六五、五六五円

右雑費の内訳

阪急不動産鑑定料 四六、九〇〇円

藤田司法書士 三一一、三六五円

鈴木謝礼金 一〇〇、〇〇〇円

山崎公証人 八〇〇円

桂司法書士 六、五〇〇円

合計 四六五、五六五円

6. 以上により被告のなした本件所得税の更正および加算税の賦課処分は、収入でないものを収入とし、必要経費として控除されるべき金額を収入金額から控除せずになされた違法なものとして取消されるべきである。

二、被告

(請求原因に対する認否)

1. 請求原因1.2項の事実は認める。

2. 同3項の事実中、イ、ハ各冒頭の事実は認めるがその余および同4ないし6項は争う。

(被告の主張)

1. 原告の昭和四二年分、同四三年分の所得金額は次のとおりである。

イ、昭和四二年分

(1) 不動産所得金額 四、二八七、四三〇円

<1> 収入金額 六、一三七、九二〇円

内訳

<省略>

合計 六、一三七、九二〇円

<2> 必要経費 一、八五〇、四九〇円

内訳

<省略>

右公租公課の内訳

<省略>

合計 一一四、五二〇円

右立退料の内訳

支払先 支払金額

芦屋市奥山一五番地 植山幾代 二一〇、〇〇〇円

右建物減価償却費の内訳

<省略>

算式

取得価額 残存価額 償却率

(3,970,000円-397,000円)×0.083=296,559円

右支払利子の内訳

<省略>

<3> 差引不動産所得金額(<1>-<2>) 四、二八七、四三〇円

(2) 譲渡所得金額 一、七〇八、五三一円

<1> 収入金額 五、九六五、〇〇〇円(原告申告どおり)

<2> 取得費 八七四、九五八円(〃)

<3> 譲渡費用 一、三七二、九八〇円(〃)

<4> 譲渡益(<1>-<2>-<3>) 三、七一七、〇六二円(〃)

<5> 特別控除額 三〇〇、〇〇〇円

<6> 譲渡所得金額{(<4>-<5>)×1/2}一、七〇八、五三一円(〃)

(3) 総所得金額 (2)+(3) 五、九九五、九六一円

ロ、昭和四三年分

(1) 不動産所得金額

<1> 収入金額 八、一一七、九二〇円

内訳

<省略>

<2> 必要経費 三、四四八、六二四円

内訳

科目 金額

公租公課 一二二、三五〇円

立退料 一、八〇〇、〇〇〇円

建物減価償却費 二九六、五五九円

支払地代 四九、七一五円

支払利子 一、一八〇、〇〇〇円

合計 三、四四八、六二四円

右公租公課の内訳

<省略>

右立退料の内訳

<省略>

右建物減価償却費の減価償却資産、減価償却費、算式等は昭和四二年分に同じ。

右支払利子の内訳

<省略>

右支払地代の内訳

<省略>

<3> 差引不動産所得金額(<1>-<2>) 四、六六九、二九六円

(2) 譲渡所得金額

<1> 収入金額 一八、七八九、八〇〇円

内訳

<省略>

<2> 取得費 二、九九〇、〇八〇円(原告申立どおり)

<3> 譲渡費用 八、四五五、二四六円(〃)

<4> 譲渡益(<1>-<2>-<3>) 七、三四四、四七四円

<5> 特別控除費 三〇〇、〇〇〇円

<6> 譲渡所得金額{(<4>-<5>)×1/2} 三、五二二、二三七円

(3) 総所得金額((1)+(2)) 八、一九一、五三三円

2. 昭和四二年分、同四三年分各不動産所得にかかる収入金額のうち本件土地から生じた収入金額について、

(1) 原告は昭和四二年二月二四日現在において訴外会社に対し、二三、〇〇〇、〇〇〇円の債務を負担しており、さらに原告が従来右会社以外の者に対し負つていた債務を同会社に代位弁済してもらう約定が右両者間になされていたので、この金額を含めれば、原告が同会社に対して負担することとなる債務は六五、〇〇〇、〇〇〇円に達する見込みであつた。

そして右同日原告と訴外会社との間において、本件土地につき同月二五日付をもつて原告から同会社に売買名義で所有権移転すること、しかしこれはあくまで名義上のもので真実の所有権者は原告であること等を確認し、右確認に基づき同月二五日本件土地につき原告より訴外会社に所有権移転登記がなされた。

(2) 前同年三月一五日、原告は訴外会社に六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務を負うことになつた。そこで同日右両者間で、返済元本六五、〇〇〇、〇〇〇円、返済期限を定めず本件土地の売却金で支払う、利息は日歩四銭とする旨の金銭消費貸借契約公正証書を作成した。

(3) 右公正証書作成と同時に原告と訴外会社との間において、本件土地にかかる国鉄等からの賃貸料(以下地代という)は訴外会社が取得するが、これは原告が同会社に対して負担する債務六五、〇〇〇、〇〇〇円の利息の支払に充当するためである旨の契約がなされた。

(4) そして右約定を前提として、前同月三一日本件土地のうち芦屋市奥山一五番地の一部を土地については日本国有鉄道を借主とし、その余の土地については株式会社間組を借主とする賃貸借契約が、いずれも貸主が訴外会社名義で締結された。

(5) 訴外会社は昭和四二年、同四三年中において前1項記載のとおりの地代を国鉄等から取得し、いずれも総勘定元帳の受取利息勘定に、原告から前記貸付債権の受取利息として取得したものとして会計処理をした。

(6) 右事実関係を要約すれば、原告は、本件土地を賃貸することにより生ずる地代を、原告が訴外会社に対し支払うべき利息に充当することを条件に、本件土地の使用権を同会社に与え、同会社はこの権利を行使して本件土地を国鉄等に賃貸して地代を取得し、原告から受取るべき利息の支払に充当したということである。すなわち、原告は訴外会社に対して前記借入金に対する利息の支払という給付義務の履行の方法として国鉄等からの地代をこれに充当することとしたのであり、右充当するということは原告の訴外会社に対する利息の支払という給付義務が地代と同額において消滅するということにほかならない。訴外会社が本件土地を国鉄等に賃貸したのは、原告の了知のもとに筋違のような本件土地の使用権を行使した結果であり、原告の前記給付義務を消滅させる反対給付が、原告が訴外会社に与えた本件土地の使用権の対価請求権ということになる。換言すれば、訴外会社が取得した国鉄等からの地代をもつて、原告が同会社に支払うべき利息の支払に充当したということは、原告の同会社に対する利息支払義務と、原告の同会社に対する本件土地使用の対価請求権とを相殺する行為といえるものであり、原告は同会社に対し本件土地使用権を与えることにより前記支払利息充当分の対価を同会社より得たことになる。

(7) 以上により被告主張の本件土地についての収入金額は、原告の所有する本件土地を国鉄等に賃貸することによつて得たものであるが、もしくは訴外会社に右土地を使用させたことによる収入金であることから、所得税法(昭和四〇・三・三一、法律第三三号)二六条による不動産所得に該当する。

そして右収入は、訴外会社が国鉄等から本件土地の地代を取得してこれを原告から受取るべき利息に充当した時点で、原告に帰属したことになる。

なお、原告と訴外会社との間においては国鉄等から支払われる地代を原告の前記支払うべき利息に充当することにより、右充当分相当額を本件土地を売却した時点で原告が支払うべき利息債務より控除清算することとされているのであるから、原告主張の如く、「地代も利息も訴外会社が取得する」ことにはならない。

3. 訴外会社に対する前記支払利息を不動産所得にかかる必要経費とすべきであるとの原告の主張について、

所得税法上収入金額から控除される経費は、右収入を得るために必要な経費であるから、その範囲は収入金額に対応する経費に限定して解するを相当とするところ、原告が訴外会社に支払つたこととなる利息は、前記の如く原告の六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務の利息であつて、原告が本件土地の占有権および使用権を訴外会社に与えた対価としての収入金額に対応する経費といえないことは明らかである。

従つて、右利息が原告に帰属する前記収入金額に対応する必要経費である旨の原告の主張は失当である。

4. 田辺東之町の支払地代について

所得税法上不動産所得にかかる収入金額は、収入すべき権利の確定した金額をいうものと解されていることからすればこれに対応する収入金額を得るために必要な経費もまたその年中に支出する義務の確定した金額をいうものと解すべきところ、原告が主張する地代一二〇、〇〇〇円は、原告と当該地主との間において地代値上げをめぐつて紛争中のもので、単に右地主よりの要求額であるというにすぎず、原告にとつて支払うべき義務が確定した金額でないから、この点の原告の主張は理由がない。

被告が前項で主張した地代四六、五一二円は当該土地の前借地人が従来から右地主に対し支払つていた金額である。

第三、証拠

一、原告

甲第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし三、同第三号証の一ないし四、同第四号証の一、二、同第五ないし七号証を提出。

証人縣清、同岡本為吉の各証言、原告本人尋問の結果を援用。

乙第六、七号証、同第一三号証の二の成立は不知、その余の同号各証の成立は認める。

二、被告

乙第一ないし七号証、同第八号証の一、二、同第九号証の一ないし四、同第一〇号証、同第一一号証の一、二、同第一二号証の一、二を提出。

証人縣清、同岡本為吉の各証言を援用。

甲第六、七号証の成立は不知、その余の同号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因1.2.項は当事者間に争いがない。

二、そこで以下本件各更正処分の適法性について順次検討する。

(一)  昭和四二年分、同四三年分の不動産所得にかかる収入金額について、

被告主張の右収入金額中、本件土地以外の土地家屋から生じた収入金額については当事者間に争いがない。

次に、本件土地からの収入金額につき調べるに、成立に争いのない乙第一ないし五号証、甲第三号証の一および同号証の三、証人縣清の証言により真正に成立したと認められる乙第六号証、右証言、原告本人尋問の結果(但し後記採用しない部分をのぞく)によれば、原告は昭和四二年二月二四日現在、訴外会社に対し二三、〇〇〇、〇〇〇円の債務を負担していたが、更に、原告が当時訴外会社以外の者に対し負つていた債務を訴外会社に代位弁済してもらう約定を原告と同会社間でなしており、同代位弁済の結果原告が訴外会社に対して負担することとなる債務の額を含めれば、原告の訴外会社に対し負担することとなる債務は六五、〇〇〇、〇〇〇円に達する見込みであつたこと、右同日原告と訴外会社との間において、本件土地につき、同月二五日付をもつて原告から訴外会社に売買名義により所有権を移転する、但しこれはあくまで名義上のもので、真実の所有者は原告である等を確認し、右確認に基づきその頃本件土地につき原告から訴外会社に所有権移転登記がなされたこと(以上の事実は当事者間に争いがない)、同年三月一五日原告と訴外会社との間において、返済元本六五、〇〇〇、〇〇〇円、返済期限を定めず、本件土地の売却金で支払う、利息は日歩四銭とする旨の「金銭消費貸借契約公正証書」を作成し、同月三一日までには原告が右公正証書の内容どおり六五、〇〇〇、〇〇〇円を訴外会社より借受け、同会社に同額の債務を負担するに至つたこと(原告と訴外会社との間で右公正証書が作成され、原告が六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務を負うに至つたことは当事者間に争いがない)、本件土地は芦屋市奥山一二番ないし一五番、同一六番の一の宅地であること、前記公正証書作成と同時に原告と訴外会社との間において、原告の右債務六五、〇〇〇、〇〇〇円の元本および利息は、本件土地の公租公課その他の費用と共に、本件土地を売却して得る代金より控除し、残金を右両者が折半配分して取得することとするが、右土地の処分前において国鉄等に賃貸する場合は、その地代を原告の右六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務の利息の支払に充当するため訴外会社がこれを取得する旨等の契約(以下利息充当契約という)がなされたこと、同月三一日、いずれも貸主を訴外会社とし、本件土地のうち芦屋市奥山一五番地の一部の土地については日本国有鉄道を借主とし期間昭和四二年四月一日より同四五年三月三一日までの、その余の土地については株式会社間組を借主とし期間右と同じとする各賃貸借契約が締結されたこと、訴外会社は昭和四二年中において、日本国有鉄道から一、六〇〇、〇〇〇円、株式会社間組から四、二六〇、〇〇〇円を、昭和四三年中において日本国有鉄道から一、六〇〇、〇〇〇円、株式会社間組から六、二四〇、〇〇〇円を右賃貸借契約に基づき取得し(上記金額が国鉄等から支払われたことは当事者間に争いがない)これをいずれも原告との前記利息充当契約に基づき原告に対する貸金債権六五、〇〇〇、〇〇〇円の利息の一部として、各年度において総勘定元帳の受取利息勘定にそれぞれ受取利息として会計処理し、従つて原告は昭和四二年分、同四三年において、訴外会社の取得した右地代相当分の利息の支払を免れたこと、前記公正証書には、原告の六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務の利息は元本返済時に一括して支払うべき旨定められてはいるが、原告、訴外会社間においては、前記利息充当契約の履行がなされることを条件として右六五、〇〇〇、〇〇〇円の貸付がなされたものであること、以上の事実が認められ、右認定に牴触する原告本人尋問の結果部分、甲第一号証の三、同第二号証の三の各記載部分は、前掲各証拠に対比して採用できず、なお、同第三号証の四には国鉄等からの本件地代収入を訴外会社の所得とするようにもとれる記載部分があるけれども、右書証の作成年月日に照らすと、右記載部分をもつては右認定を左右するに足らず、他に右認定を変えすに足りる証拠はない。

右事実によると、本件土地は前記六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務の担保として原告から訴外会社に所有権移転がなされたものであり、従つて右土地所有権は原告にあるというべきであるし、また、本件土地について原告は右土地を賃貸することにより生ずる地代をもつて自己が訴外会社に対して支払うべき右債務の利息の支払に充当することを条件として、訴外会社に対し、同会社名義で右土地を他へ賃貸するという形態での使用権を与え、訴外会社は右権利に基づき本件土地を国鉄等に賃貸して地代を収得し、これをそのまま原告から受取るべき利息の支払に充当したことになり、これを要するに、原告は訴外会社に対し、自己の所有する本件土地につき右使用権を与えたことにより支払利息充当額相当の対価を訴外会社から得たということができる。

従つて、原告が本件土地の所有権に基づき右支払利息充当額相当の経済的利益を亭受したということにもなり、被告主張の本件土地についての収入金額は、原告の所有する本件土地を訴外会社に使用させたことによる収入金であるというべく、所得税法(昭和四〇・三・三一、法律第三三号)による不動産所得に該当するものである。そして右収入金額は訴外会社が国鉄等から前記地代を取得してこれを原告から受取るべき利息に充当した前記各時点で原告に帰属したこととなる。

よつて被告のなした本件土地からの不動産所得にかかる収入金額の認定は正当である。

(二)  原告の訴外会社に対する支払利息が不動産所得にかかる必要経費に該当するかについて、

所得税法上収入金額から控除されるべき経費は、右収入を得るために必要なものであるから、その範囲は収入金額に対応する経費に限定して解するのを相当とするところ、原告が訴外会社に対し支払うべき利息は、前記認定したところによれば、原告が訴外会社に対し負担している六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務の利息であつて、本件土地の使用権を訴外会社に与えたことの対価としての収入に対応する不動産所得上の必要経費といえないことは明らかであるし、また、仮に右利息の生ずる六五、〇〇〇、〇〇〇円の負債が、原告の本件土地に対する所有権を維持する(喪失しない)ために当てられたとしても、右負債が本件土地取得のために要した負債でないことは原告の主張自体から明らかであり、従つて右債務の利息をもつて不動産所得の必要経費として控除されるべきものとはいえない。

よつてこの点に関する原告の主張は採用できない。

(三)  昭和四二年分、同四三年分不動産所得にかかる必要経費となる田辺東之町の支払地代について、右土地の支払地代につき右各年度を通じ年四六、五一二円までは当事者間に争いがない。

原告は右支払地代は各年とも一二〇、〇〇〇円であると主張するが、原告本人尋問の結果によると、原告が右土地の地主より原告主張の如き地代増額の請求を受けたことはなく、右地主から単に建物収去土地明渡の請求を受けているのみであることが認められるし(右認定に反する甲第一号証の三、同第二号証の三の各記載部分は右本人尋問の結果に対比し採用できない)、仮に原告主張のとおり地主より地代の増額請求を受けているとしても、所得税法上不動産所得にかかる収入金額より控除すべき必要経費とは、当該年度中に債務の確定したもの、すなわち債務が成立し、その金額が合理的に算出できるものであると解すべきところ、原告主張の年一二〇、〇〇〇円なる金額は単に地主よりの要求額であるというのであるから、右金額の債務が確定したものといえないのであり、従つて当事者間に争いのない、原告の前借地人から右土地の地主に支払われていた四六、五一二円をもつて支払地代と認めるのが相当であり、原告の主張は理由がない。

(四)  昭和四二年分、同四三年分不動産所得にかかるその他の必要経費について、

被告主張の右各年分不動産所得にかかる各必要経費中、本件土地についての公租公課および支払地代のうち前記田辺東之町の土地についての分以外は当事者間に争いがなく、本件土地についての公租公課が被告主張の各年度公租公課金額をこえるものであることを裏付ける資料は何もない。

原告は昭和四二年分不動産所得にかかる必要経費として更に、不動産取得税等一三九、〇三〇円、および雑費四六五、五六五円が控除されるべきであると主張するが、同年分不動産所得にかかる収入金額に対応して右主張にかかる右雑費等が支払われ、または支払債務が確定したことを裏付ける資料は何もない。

よつて原告主張の右必要経費は不存在として取扱うべきである。

(五)  昭和四二年分、同四三年分各譲渡所得金額について、

被告主張の昭和四二年分譲渡所得金額は当事者間に争いがない。被告主張の同四三年分譲渡所得にかかる収入金額中、大谷六一八の八の土地の収入金額のうち一、八〇〇、〇〇〇円までの額、およびその他の土地についての収入金額、並びに取得費、譲渡費用、特別控除費については原告において明らかに争わないところである。

そこで右大谷六一八の八の土地についての収入金額について調べるに、成立に争いのない乙第八号証の一、二、同第九号証の一ないし四、同第一一号証の一、二、証人岡本為吉の証言により真正に成立したと認められる同第七号証、同証言を併せ考えると、原告は昭和四三年九月一〇日訴外岡本為吉に右土地(九〇坪)を売渡したが、その代金は一坪当り二五、〇〇〇円合計三、一五〇、〇〇〇円の約であつたこと、右売買については、いわゆる圧縮をして代金一、八〇〇、〇〇〇円である旨の契約書が作成されたが、訴外岡本は右約に従い原告に対し、同日手付金三〇〇、〇〇〇円を神戸銀行尻池支店振出の小切手で支払い、同月二五日内金一、五〇〇、〇〇〇円を同支店振出の小切手で支払い、同日残代金一、三五〇、〇〇〇円を、訴外宝田清志外より調達した現金で支払つていることが認められ、右認定に反する甲第五号証、原告本人尋問の結果は前掲各証拠に対比して採用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

そうすると、右土地についての譲渡所得にかかる収入金額三、一五〇、〇〇〇円ということになる。

(六)  以上により、原告の所得金額を計算すると、昭和四二年分は、

不動産所得金額 四、二八七、四三〇円

譲渡所得金額 一、七〇八、五三一円

であり、総所得金額が右の合計額五、九九五、九六一円となり、また昭和四三年分は、

不動産所得金額 四、六六九、二九六円

譲渡所得金額 三、五二二、二三七円

であり、総所得金額が右の合計額八、一九一、五三三円となる。

(1)  原告の昭和四二年分不動産所得金額は、同年分所得税につきなされた本件更正処分における不動産所得金額を上回ることは明らかであり、従つて、原告の総所得金額ひいては所得税額を下まわることとなる右更正処分には何ら瑕疵がないことになり、それゆえ右処分と同日付でなされた、被告の原告に対する右年度分の所得税申告についての過少申告加算税賦課処分もまた(すなわち右年度分についての本件更正処分はすべて)適法といわねばならない。

(2)  原告の昭和四三年分の所得税についてなされた本件更正処分については、右処分における不動産所得金額が六、二〇四、九〇〇円、譲渡所得金額が三、五二二、二三七円、総所得金額が九、七二七、一三七円であるから、右更正処分の譲渡所得金額の認定は正当であるが、不動産所得金額の認定において実際の不動産所得金額を一、五三五、六〇四円上回るものである。

ところで、右更正処分およびこれと同日付でなされた被告の原告に対する同年分の所得税申告についての無申告加算税、重加算税賦課処分については、国税不服審判所長の裁決によつて、不動産所得金額を四、三八六、八三二円と、譲渡所得金額を右更正処分におけるそれと同一とし、従つて原告の総所得金額七、九〇九、〇六九円と減額認定し、これに応じて所得税額も右更正処分における三、七一七、八〇〇円から二、八〇八、八〇〇円に減額され、また、無申告加算税も基礎税額の異動にともない被告の本件賦課決定における二八一、四〇〇円から二二四、二〇〇円に減額され、前記重加算税賦課処分は全部取消されたことは、原告の主張および成立に争いのない甲第二号証の三に照らし明らかである。

そうすると、右裁決により減額されて残存する形における昭和四三年分所得税の更正処分、加算税の賦課処分が本件取消訴訟の対象となるものであるところ、原告の昭和四三年分不動産所得金額および総所得金額が右減額されて残存する更正処分におけるそれをいずれも上回ることは明らかであり、これに応じて原告の同年分所得税額が右更正処分におけるそれを上回ることも明らかである。

そうだとすれば、被告のなした昭和四三年分の所得税の更正処分には所得金額の認定において原告主張の如き瑕疵はないことになり、それゆえ右年度分の所得税申告についての無申告加算税賦課処分もまた(すなわち右年度分の本件更正処分はすべて)適法といわなければならない。

前記重加算税賦課処分は、前記のとおり裁決により既に消滅して残存しないのであるから、これを対象とする原告の本訴請求部分は訴訟の対象を欠き不適法というべきである。

三、よつて本件訴のうち、昭和四三年分の所得税申告についての重加算税賦課処分の取消を求める請求にかかる部分は不適法として却下するべく、本件所得税の更正処分、過少申告加算税、無申告加算税賦課処分の取消を求める部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 武田多喜子 裁判官 宗宮英俊)

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