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神戸地方裁判所 昭和48年(ワ)170号 判決 1976年3月03日

原告

河野信弘

外三名

原告ら訴訟代理人

浜田耕一

被告

多聞財産区

右代表者

神戸市長

宮崎辰雄

被告

神戸市

右代表者

神戸市長

宮崎辰雄

右両者訴訟代理人

安藤真一

外二名

被告

兵庫県住宅供給公社

右代表者

横山俊郎

右訴訟代理人

大白慎三

外三名

主文

被告財産区は原告河野両名に対し三、四〇七、八二六円及び原告田中両名に対し三、四九二、〇〇九円並びに右各金員につき昭和四七年五月二七日から支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告財産区に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中原告らと被告財産区の間に生じた部分はこれを三分し、その二を原告ら、その余を被告財産区の負担とし、原告らとその余の被告らの間に生じた部分は原告らの負担とする。

この判決の第一項は、原告河野両名において一、〇〇〇、〇〇〇円原告田中両名において一、〇〇〇、〇〇〇円、いずれも担保として供託すれば、当該原告らのために仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは原告河野信弘及び同康江のそれぞれに対し、各自金六、一六〇、〇〇〇円、原告田中隆及び同万千子のそれぞれに対し、各自金六、二二五、〇〇〇円並びに右各金員に対して昭和四七年五月二七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告らは、いずれも日本住宅公団多聞台団地(肩書住所地)に居住しているところ、原告河野信弘、同康江の長女河野理麻(昭和三九年八月三日生)並びに原告田中隆、同万千子の次女田中ゆかり(昭和三八年七月一八日生)は、昭和四七年五月二七日午後一時三〇分ころ、垂水区多聞町西の池一一〇六番地所在の通称寒風池(以下本件池という。)に転落し溺死した。

2  (本件池の状況)

本件池は、農業用に利用されている南北の長さ約二〇〇メートル、東西の幅約五〇ないし一〇〇メートル、水深約六メートルのすり鉢型の広大な池である。その周辺は、もともと山ろく地帯であつたが、昭和四〇年頃から宅地開発が進み、現在では日本住宅公団、兵庫県住宅供給公社、セキスイ建設会社の各団地が建設されている。前記児童両名が転落した個所は池の南岸中央にある樋門付近である。右南岸はもと堤防であつたが、昭和四三年五月頃から被告公社がこの堤の南に隣接する地盤に盛土し、宅地造成をしたため、高さ約二〇メートルの急斜面(別紙図面(一)記載の赤線部分)となつた。

この斜面(法面)には中間に幅約二、三メートルの平場(小段、同図面C部分)があり、その上段は約一二、三メートル、勾配四五度の芝張の法面(同図面赤線部分A、以下A法面という)となつており、右平場に続く下段が約六、七メートル、勾配約六〇度の法面(同図面線部分B、以下B法面という)で、池の水面に接している。そして、右斜面造成の際、あわせて樋門改築工事が行われ、B法面中央には平場から樋門口に至るコンクリートの階段と、その両側に幅約三ミートルのコンクリートの急斜面が設けられた。ところで、A法面の上端に続く南側の地表は宅地造成により緑地帯および空地となつており、ここは周辺の団地に居住する児童等の格好の遊び場であるが、右空地から水際までの間には何らの防護柵も設けられていないため、児童等は右空地で遊ぶほかに、A法面をすべり降りて、中間にある前記平場でも遊んでいたのであるが、樋門付近の平場で遊んでいる児童等が一歩足を踏み外すか、体の平衡を失うと、平場からコンクリートの急斜面を滑り落ちる等して池に転落する危険な状況であつた。

なお、本件池の東岸は灌木がおい茂り、北及び西岸は高さ約二〇メートルのコンクリートを打設した斜面でその上端部に防護柵が設置されているので、いずれの個所からも水際まで降りることは困難である。

河野理麻及び田中ゆかりが、どのようにして本件池に転落したかは明白でないが、右に記載した池及びその周辺の状況、遺体の位置等からみて、右両名は前記平場で遊んでいるうち、一人が右樋門付近で誤つて足を踏み外して池に転落し、それを助けようとした他の一人もまた誤つて転落したものと推測し得る。

3  被告らの責任

(一) 本件事故当時の本件池及びその周辺の所有、占有関係は別紙(二)のとおりであつた。

(二) 被告多聞財産区の責任

被告多聞財産区(以下、被告財産区という)は本件池を公の営造物として所有、管理しているが、前記の如く池周辺に宅地造成が行われ、団地が建設されて周囲の環境が一変し、本件池の南岸の事故現場付近が前記のとおり転落の危険ある状況になつていたにも拘らず、防護柵を設置するなどして転落事故の発生を防止する措置をなんら講ずることなく放置していたのであるから、公の営造物たる本件池の管理に瑕疵があつたものといわねばならず、本件事故は右瑕疵により発生したのである。よつて、被告財産区は国家賠償法二条一項により、本件事故より生じた損害を賠償する責任がある。

(三) 被告神戸市の責任

被告神戸市(以下、被告市という)の市長は、その地位に基づき被告財産区有である本件池の管理をしているが(地方自治法一四八条、一四九条六号、二九四条)、前記の如く本件池の南岸の状況が宅地造成の結果、改変され転落の危険が十分予測される事態になつていたのであるから(当時本件池の付近にある松ケ池でも転落事故があり、多聞台団地自治会から被告神戸市に防護柵を設置するよう陳情していた。)、転落事故を未然に防止するため防護柵を設置する等適切な措置を講ずべき義務(同法一三八条の二)があるにも拘らず、これを怠り、本件池を危険な状態のままで放置していたため、本件事故を発生せしめた。従つて、被告市の市長の本件池に対する管理行為には過失があり、かつ違法であつた。従つて、被告市は国家賠償法一条一項もしくは民法四四条一項により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。なお、被告財産区有である本件池の管理事務は被告市の市長及びその補助機関たる職員が担任し、被告市がその管理費用の一部を負担している(地方自治法二九四条二項)のであるから、国家賠償法三条一項によつても、損害賠償責任がある。

(四) 被告兵庫県住宅供給公社

被告兵庫県住宅供給公社(以下被告公社という)は昭和四三年五月頃から同四五年にかけて、本件池に隣接する南側の地盤一帯につき、付近の山を切崩して宅地造成(明舞北団地造成工事)を行なつたのであるが、その際、本件池の南側堤防の裏(南側)法面にあたる個所まで盛土し、前記A、B法面造成工事を行つた。

その結果、右南側堤防の状況は大きく変り、あらたな法面が形成されるに至つたが、樋門付近への接近を防止するための防護柵を設ける等危険防止の措置を講じなかつたため、児童らに格好な遊び場を提供した結果となり、児童らが平場で遊んでいるうちに足を踏み外して池に転落する危険な状態となつていた。従つて、被告公社のA、B法面造成工事、すなわち公の営造物の設置の工事には明らかに瑕疵があつた。よつて被告公社は国家賠償法二条一項または民法七一七条一項により、本件転落事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。<以下省略>

理由

一請求原因事実1は、被告公社の認めて争わぬところであり、被告財産区及び被告市も、本件児童らの死亡の原因が池への「転落」「溺死」であることを除いては、右事実を争わない。そうして<証拠略>を総合すると、本件児童らは、後記の樋門付近から、いずれも誤つて池に転落した結果、河野理麻は溺水により田中ゆかりは急性心臓死により死亡した事実を認めることができる。

二そこでまず、本件池及びその周辺の状況並びにさような状況が生じた経緯につき審究することとする。本件事故発生当時の本件池及びその周辺の土地の所有占有関係が別紙図面(二)のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠略>を綜合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、

右図面D(以下アルフアベツトは、右図面上の記号を示す)は池の水面であつて海抜五三米余、B(B法面)は池の南岸が池から立上る際の法面であつてEに樋門が設置され、樋門の真上は階段状で順次水栓を抜くことによつて池の水を所要量ずつ放出し得る仕組みになつており、樋門の左右はコンクリートで固められた斜面になつている。B法面の上にはCの平場があり、海抜五四米余、幅は樋門付近で約2.5米である。従前は右平場が池の南側堤防の頂上であつて、平場から南は、南に向つて下る斜面、すなわち堤防の南側法面になつており、その下には田が続いていて、その高さは堤防直下で海抜四七、八米であつた。昭和四一年一月池の東側Jに住宅公団多聞団地が完成し、原告らはその二四号棟すなわちKに入居した。その後被告会ママ社が昭和四三年一一月から昭和四七年四月頃までの間に、前記堤防の南側法面及びこれに続く田の上に付近の山を壊してその土を積み上げ、海抜六一米程度の分譲用台地(F並びにその南及び西の部分)を造成した。そのため、Cから、従前は南に向けて下つていた斜面が、逆に南に向けて上る長さ一一、二米の斜面A(A法面)となつた。そうして被告会ママ社は、Gを公園に造成して被告市に提供し、なお公園と分譲用台地との間にはカイヅカイブキの生垣をしつらえた。ところが、いつのほどにか公園内の園路が最も西に寄つたあたりで生垣に穴が明けられ、団地の住民が通り抜けるようになつた。なお、Hは池の東側斜面であつて急であり、かつ灌木、雑草が生い茂つていて人が通行することはむつかしく、またIは池の西岸であつて、これまた斜面が急で人が通行することはむつかしい。

三本件児童らが自宅であるKからどういう経路で池に近づきこれに転落するに至つたかについては明確な立証がない。しかしながら前認定の事実関係からすると、同人らは、K、G、F、A、C、E、D又はK、G、C、E、Dという経路で池に転落したと推認し得るけれども、そのいずれであるかは明らかでない(因に<証拠略>によると、Gから直接Aに下る踏み分け道らしいもの及びEの東側で、すなわちGからFを経由してA法面を下りるやや幅広い踏み跡が存在することが認められるのである)。

四<証拠略>によれば、本件池が古くから存在する相当な規模の灌漑用の溜池であることが明らかである。そうして既にみたように、本件溜池には堤防と樋門が設置され、池に水を溜め、適時に適量の水を田畑に供給する機能を有するよう工夫されているのであるから、本件溜池はたんなる自然ではなく、自然に若干の加工を施した有体物であるというべく、その下流に田畑を所有する農民達の農業経営上の福利を増進するため、その所有者である被告財産区が供用している物なのであるから、本件溜池は、行政法学にいう公共用物、国家賠償法にいう公の営造物の範疇に属することが明らかである。そうして、国家賠償法二条にいう「設置又は管理に瑕疵」のない溜池とは、溢水や堤防崩壊のおそれがないことはもとより、本件溜池のように周辺に団地等が存在する場合においては、人、殊に児童が容易には転落しないような、又は誤つて転落しても自力で岸に這い上れるような構造、設備をも有する溜池であると解するのが相当である。

五しかるに<証拠略>を綜合すれば、本件池には、事故発生当時右のような転落事故防止のための有効な構造、設備は存在しなかつたことが認められる。もつとも<証拠略>を綜合すると、当時池の周辺に「あぶない、ここであそぶな、たるみけいさつ、たるみくやくしよ」と記載した立札が数枚立てられていたことが認められるけれども、右立札の存在をもつて、転落事故防止のための有効な構造、設備であるとすることはできない。かえつて右各証拠を綜合すれば、樋門の左右のコンクリート斜面は滑らかで手掛りもなく、水面に対して約三〇度の角度で水中に没しており、転落の危険が大きく、また児童が一旦転落したら這い上ることは極めて困難であると認められるのである。因に<証拠略>によれば、従前の樋門は農民が泳いで行つて水栓を抜く構造であり、その際樋門に吸い込まれる危険性があつたので、被告財産区が被告公社の台地造成を了承する条件として、被告公社をして、現にある構造に改修させたことが認められるのであるが、さような危険防止の思想が農民のためだけでなく第三者のためにも用いられるべきであつたと考えられるのである。かような危険な樋門が存在する以上、池への転落事故防止の設備としては、平場(C)と、Eをも含むB法面との間、少くとも樋門(E)の周辺に、Cからの立入を遮断するフエンスを設けることが必要である。もつとも前掲各証拠を綜合すれば、A法面の上端付近に、事故後フエンスが設けられたことが認められるのであつて、フエンスの位置としては、右の位置が常識的であることを認めるにやぶさかでないが(けだし、右の位置にフエンスがあれば、池への転落事故防止のほか、台地からA法面への転落事故防止、A法面の保全等にも役立つであろうから)、しかし池への転落事故防止という観点のみから考えると前記の設備をもつて必要にして十分なものというべきであり、殊に、前記のように本件児童らの池への接近、転落の経緯が明らかでない本件においては、右の結論をもつて正当とするのほかはないのである。右にいうCとBとの間、少くともEの周辺は、さきに見たとおりいずれも被告財産区の所有地であつて、ここにフエンスを造らなかつたことは、被告財産区の本件溜池の管理に瑕疵があつたものというべきであり、同被告には、国家賠償法二条一項による損害賠償義務がある。

六被告市の市長が被告財産区の代表者であることは地方自治法の定めるところであり、また<証拠略>によれば、被告市の職員が被告財産区の財産管理事務の執行を補助していることが認められるが、被告市が国家賠償法三条一項にいう「公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者」であるというためには、被告市が「本件溜池の設置、管理の費用につき法律上負担義務を負うか、かような負担義務を負う者と同等若しくはこれに近い設置費用を負担し、実質的には被告財産区と本件溜池による事業を共同して執行していると認められる場合であつて、本件溜池の瑕疵による危険を効果的に防止し得る立場にある」ことが必要であると解すべきところ(最三判昭和五〇年一一月二八日裁判所時報六八〇号二頁参照)、前記事実関係をもつてしては、被告市が右のような立場にある者であることの立証として十分でなく、他に積極の証拠はない。かえつて<証拠略>によれば、被告市は、本件溜池の設置、管理につき費用を支出したことがないことが認められるのである。してみると被告市には国家賠償法三条一項の損害賠償義務はない。また同法一条一項は、公の営造物の設置又は管理の瑕疵による損害の賠償を求めるときには適用がなく(この場合には、もつぱら同法二条一項が適用される)、また民法四四条一項は、国又は公共団体の私経済作用に起因する損害の賠償を求める場合に適用を見る法規であつて、本件の場合のように公共団体の私経済作用以外の作用に起因する損害の賠償を求める場合には適用がないと解するのが相当であるから、国家賠償法一条一項、民法四四条一項に基づき被告市に対してする損害賠償請求もまた、失当というのほかはない。

七被告公社が、A、F、G、を造成したこと、Eを改修したことは、さきに認定したとおりである。そうして<証拠略>によれば、B及びCについては、被告公社は手をふれなかつたことが認められる。ところで被告公社がAを造成したといつても、それは既にみたように、その大部分は、池の南側堤防の南側法面を南下りから南上りに変更したということであつて、その部分が公の営造物たる池の一部であるという機能を失つたわけではないから、その部分の供用の主体は被告財産区であつて、被告公社ではない。したがつて右部分について被告公社が国家賠償法二条一項の責を負うべきいわれはない。また被告公社が右部分を所有又は占有しているわけではないから、民法七一七条の責を負う筈もない。もつともA法面の上端部分及びFは、被告公社所有の普通財産であると解することができる。しかしながら、右部分にフエンス等の設備がなかつたことと本件事故発生との間に相当因果関係を認めることができないから(前記五参照)、このことを理由として被告公社に対し民法七一七条の責を問うことも出来ない。因にEの改修は、これまた既にみたように被告公社が被告財産区の要請によりその指示に従つてなしたに止まるのであるから、この点においても被告公社に責があるとはいえない。すなわち、被告公社に対する損害賠償請求は失当である。

八そこで被告財産区が賠償すべき損害の額について審究することとする。

事故当時河野理麻が七才、田中ゆかりが八才であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>を綜合すると、右児童らは、いずれも健康な女児であつたことが認められる。してみると、その就労可能年数のホフマン係数は、理麻17.745、ゆかり18.127である(運輸省自動車局保障課「政府の自動車損害賠償保険事業損害査定基準」参照)。ところで我国における常用労働者三〇名以上の事業所における昭和四七年度の女子労働者の平均給与月額は五八、〇〇一円であるから(総理府統計局編「日本の統計」一九七五年版一八六頁)、これを右児童らの逸失利益計算の基礎として採用することとし、右児童らの生活費をその二分の一と見ることとする。そうすると、右児童らの逸失利益の現価は、理麻の分は六、一七五、三六六円(58,001×12×0.5×17.745)、ゆかりの分は六、三〇八、三〇四円(58,001×12×0.5×18.127)となる。ところで就労開始年数である一八才に達するまでに、理麻はなお一一年、ゆかりはなお一〇年、養育を受ける必要があり、その額を月額一〇、〇〇〇とみて、所要の養育費の現価をホフマン式により算出すると、理麻の分は一、〇三〇、八〇〇円(10,000×12×8.590)、ゆかりの分は九五三、二八〇円(10,000×12×7.944)となる。これを前記逸失利益から差引くと、残りは、理麻の分が五、一四四、五六六円、ゆかりの分が五、三五五、〇二四円となる。(理麻の分は原告河野両名が、ゆかりの分は原告田中両名が、いずれも二分の一ずつ相続により承継したわけであるから、以下理麻と原告河野両名、ゆかりと原告田中両名の分を、それぞれ一体のものとして考察を進めることとする。)そうして葬儀費は、理麻の分が二五〇、〇〇〇円、ゆかりの分も同じく二五〇、〇〇〇円と認めるのが相当であつて、これを右に累加すると、理麻の分は五、三九四、五六六円、ゆかりの分は五、六〇五、〇二四円となる。

ところで、本件児童らには漫然危険な場所に近づいて災禍に遭うようなことがないよう自ら注意する必要があるのみでなく、既にみたようにA法面は一一、二米の長大な法面であつて、七、八才の女児にとつてはこれを下りるについて相当大きな心理的圧迫感を抱くのが通例であると認められるから、原告らとしては、この圧迫感の力をも借りて、自分の子である理麻及びゆかりに対し、A法面には決して下りないよう厳しく躾けることが必要でありまた可能であつたと認められるのである。しかるに本件児童ら及び原告らがかような注意及び躾けを怠つたために本件の事故が発生したのであるから、前記損害額のうち原告らにおいて賠償を求め得る額は、その四割、すなわち、理麻の分につき二、一五七、八二六円、ゆかりの分につき二、二四二、〇〇九円であると認める。

慰藉料は、理麻及び原告河野両名分として一、〇〇〇、〇〇〇円、ゆかり及び原告田中両名分として一、〇〇〇、〇〇〇円、弁護士費用は、原告河野両名分として二五〇、〇〇〇円原告田中両名分として二五〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

九以上を積算すると、原告河野両名が求め得る損害金元本の額は三、四〇七、八二六円、原告田中両名が求め得る損害金元本の額は三、四九二、〇〇九円となる。してみると原告河野両名の請求中、被告財産区に対し三、四〇七、八二六円及び原告田中両名の請求中、被告財産区に対し三、四九二、〇〇九円並びに右各金員につき事故発生の日である昭和四七年五月二七日から支払の済むまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるからこれを認容すべく、被告財産区に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求は、いずれも失当であるからこれを棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条に則り、主文のとおり判決する。

(乾達彦 武田多喜子 赤西芳文)

(別紙図面(一)(二)省略)

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