神戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)28号 判決 1980年4月18日
原告 芦田テイ 外三名
被告 西宮税務署長
訴訟代理人 坂本由喜子 小林修爾 山野義勝 外五名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和四八年三月一三日付で原告らに対してなした昭和四二年分贈与税についての更正決定及び無申告加算税賦課決定の各処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告芦田テイは、訴外芦田正雄の妻であり、原告芦田建夫、同芦田英一、同芦田幸子はそれぞれ訴外人の長男、次男、長女であるところ、昭和四二年三月四日、原告らは訴外人から現金四〇万円の贈与をそれぞれ受けた。
2 また同日頃、右訴外人から原告らは、訴外ゼネラル株式会社(以下「ゼネラル」という。)の株式を額面金額(一株五〇円)で次のとおり買受けた(以下これらの株式を「本件株式」という。)。
原告テイ 一万六、七〇〇株
同建夫 一万六、九〇〇株
同英一 一万六、七〇〇株
同幸子 一万七、三〇〇株
3 被告は、原告らが右株式を著しく低い価格で譲受けたものであるとして、譲渡時の時価を一株当り金二二〇円と認定し、一株当りの売買価格金五〇円との差額金一七〇円を訴外人より原告らが贈与により取得したものとみなし、昭和四八年三月一三日付で別紙(一)記載のとおりの内容の贈与税決定決議書及び無申告加算税賦課決定通知書を作成した(以下これらの決定を「本件各処分」という。)。右書面は大阪国税局直税部資料調査課所属国税実査官野口正弘が原告らの住所に持参した。
4 原告らは本件各処分に対し、昭和四八年五月八日、被告に異議申立をなしたが、同年八月七日付でそれぞれ棄却決定され、右決定書は同月八日、原告らに送達された。更に、原告らは同年九月五日、大阪国税不服審判所長に対し審査請求をなしたものの、昭和四九年六月一七日付でそれぞれ右請求を棄却する旨の裁決があり、右裁決書は、同月一九日、原告らに送達された。
5 しかしながら、本件各処分は以下の理由により違法である。
(一) 本件各処分のための調査の違法
国税通則法二五条は、税務署長は、その調査により、課税標準等及び税額等を決定する旨規定し、「その調査」とは、当該税務署長又は当該税務署の関係職員が行う調査であつて、例外的に、国税局の当該職員の調査があつたときは、税務署長は、右調査に基づき決定をなしうる(同法二七条)。しかして、国税局の当該職員とは、国税局の職員のうち特定の国税につき調査権限を与えられている者をいい、現行制度上これに該当する職員としては、国税局調査部所属の国税調査官がある。
ところで、本件各処分のための調査(以下「本件調査」という。)は、被告又は西宮税務署の職員、あるいは、大阪国税局調査部所属の国税調査官によつて行われておらず、本件調査をなしたのは、大阪国税局直税部資料調査課所属の国税実査官野口正弘及び同課所属の主査生駒禎助であつて、右両名はかかる調査権限を有しない。右違法により本件各処分は取消を免れない。
(二) 本件各処分の決定通知書の送達方法の違法
国税通則法二八条一項によれば、決定は、税務署長が決定通知書を送達して行う要式行為であつて、右通知書の送達により決定の効力が生じるところ、同法一二条一項は、送達は郵便による送達又は交付送達により行う旨規定する。交付送達は当該行政機関の職員が送達を受けるべき者又は書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付して行う(同法一二条四項本文、五項一号)。本件では、右送達を前記野口正弘が送達を受けるべき者の住所地において留守番のものに交付してなしたが、同人は西宮税務署の職員ではなく、本件決定通知書の送達は違法であつて、右違法により本件各処分は取消を免れない。
(三) 事実認定の違法
原告らは本件株式を著しく低い価格で譲渡けたものではなく、みなし贈与の規定が適用さるべきではないから、本件各処分は取消を免れない。
6 よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし4項の事実はすべて認める。
2 同5項は争う。
三 被告の主張
1 本件調査の適法性
(一) 大蔵省組織規程(昭和二四年大蔵省令第三七号)一二五条、一二四条の二、一二四条によれば、国税局直税部資料調査課に所属する「国税実査官」は、贈与税の課税標準の調査を指導監督し、これに必要な調査を行う権限を有する。
(二) 大蔵事務官生駒禎助は、昭和四七年七月一〇日より昭和四九年七月八日まで、主査(国税実査官)として、大阪国税局直税部資料調査課に所属していた。
又、大蔵事務官野口正弘は、昭和四七年七月一〇日より現在まで、国税実査官として、右同課に所属している。
(三) よつて、右両名は、何れも、原告らの贈与税の課税標準の調査を指導監督し、これに必要な調査をなす権限を有していたから、右両名が行つた本件調査に違法はない。
(四) 而して被告は、右両名の指導監督の下に右調査資料に基づいて、更に調査したうえ本件各処分をなしたものであるから、同各処分は国税通則法二五条に違反しない。
2 本件決定通知書の送達の適法性
(一) 野口実査官は、西宮税務署の直接の上級行政機関たる大阪国税局の職員であり、且つ本件調査をなして、原告らの住所も知悉していたので、被告は、昭和四八年三月一三日、野口実査官に対して、本件各処分の通知書を原告らに手交することを依頼し、野口実査官が、右同日、原告らの住所において、書類の受領について相当のわきまえのある、原告らの使用人に右通知書を手交し、以て交付送達を行つたものである。
(二) よつて、本件決定通知書の送達は、国税通則法一二条五項一号に該当するから適法である。
3 事実認定の適法性
(一) 原告らは、昭和四二年三月四日、訴外芦田正雄から、各々、現金四〇万円を贈与に因り取得した。
(二) 原告らは、同日頃、右訴外人から、左記金額を贈与に因り取得した。
記
原告芦田テイ 二八三万九、〇〇〇円
同建夫 二八七万三、〇〇〇円
同英一 二八三万九、〇〇〇円
同幸子 二九四万一、〇〇〇円
(1) 原告らは、同日頃、訴外人から、ゼネラルの株式を、代金一株につき「五〇円」で左記の通り各買受けた。
記
原告テイ 一万六、七〇〇株
同建夫 一万六、九〇〇株
同英一 一万六、七〇〇株
同幸子 一万七、三〇〇株
(2) 然るに、同日頃におけるゼネラルの株式の時価は、一株につき「二二〇円」であるから、右対価たる一株につき「五〇円」の価額は、著しく低い。
(3) よつて、原告らは、同日頃、訴外人から、右時価たる一株につき二二〇円と右対価たる一株につき五〇円との差額たる、一株につき「一七〇円」に相当する前記各金額を、贈与に因り取得したものとみなされるべきである(相続税法七条)。
(三) 株式の時価について
(1) 一般に、取引相場のない株式(即ち上場株式及び気配相場のある株式以外の株式)の時価は、次の如き価額によつて評価することができる(昭和三九年四月二五日付直資五六号相続税財産評価に関する基本通達、但し昭和四七年六月二〇日付直資三ノ一六号による改正前のもの―以下「評価通達」という。―一七八頁以下)。
<1> 類似業種比準価額
これは、所定の業種のうち、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)の業種が該当するもの(以下「類似業種」という。)の株価並びに一株当りの配当金額、利益金額及び純資産価額(但し、帳簿価額によつて計算した金額)を基とし、次の(イ)及び(ロ)の算式によつて計算した金額のうち、何れか低い方の金額である。
(イ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+3)×1/6
(ロ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+1)×1/4
但し、Aは、類似業種の株価、即ち所定の業種ごとに、それらの業種に該当する相当数の上場会社(以下「標本会社」という。)につき計算した、各標本会社における株式一株の券面額五〇円当りの毎日の最終価格の月平均額、の全標本会社における平均額とし、
B、C、Dは、各々、類似業種の一株当りの配当金額、年利益金額、純資産価額(但し帳簿価額)、即ち所定の業種ごとの標本会社につき計算した一株当りの配当金額の平均額、一株当りの年利益金額の平均額、一株当りの純資産価額(但し帳簿価額)の平均額とし、
<B>は、評価会社の株式一株当りの券面積(五〇円)に配当還元価額(後述)における年平均配当率を乗じて計算した金額とし、
<C>は、評価会社の直前期末以前一年間における一株当りの利益金額とし、
<D>は、評価会社の直前期末における一株当りの純資産価額(但し帳簿価額)とする。
<2> 純資産価額
これは、評価会社の課税時期現在における資産を評価通達により評価した価額の合計額から同時期における各負債の合計額を控除した金額を、同時期における発行済株式数で除して計算した金額である。
<3> 配当還元価額
これは、評価会社の直前期末以前二年間の各事業年度の末日におけるその株式にかかる年配当率の合計数を、その期間の事業年度数で除して得た率(以下「年平均配当率」という。)、及びその株式一株当りの券面額を基とし、次の算式により計算した価額である。
E×F/10%
但し、Eは、その株式一株当りの券面額とし、Fは、その株式にかかる年平均配当率とする。
(2) 又、評価会社は、その規模により、次の如く区分することができる。
<1> 大会社
これは、各証券取引所の上場承認基準が、資本金については一億円以上であることから、資本金一億円以上の会社、又は、資本金一億円未満でも実質的に資本金一億円以上に見合う総資産価額若しくは年間取引金額のある会社、をいう。
<2> 中会社
これは、大会社と小会社の何れにも当らないそれらの中間的な規模の会社をいう。
<3> 小会社
これは、資本金一億円未満で、事業所得者の階層別統計に基づく個人事業者の規模と同程度の総資産価額及び年間取引金額のある会社をいう。
(3) 更に、評価しようとする株式の取得者は、これを次の如く区分することができる。
<1> 同族株主
これは、課税時期におけるその株式の発行会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者(法人税法二条一〇号、同法施行令四条)の有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の三〇パーセント以上である場合における、その株主及びその同族関係者をいう。
<2> 非同族株主
これは、右同族株主以外の株主をいう。
(4) 而して、取引相場のない株式の時価は、その株式の取得者が、同族株主か非同族株主かの別、及びその株式の発行会社が、大会社か中会社か小会社かの別に応じ、前記(1)<1>ないし<3>の何れかの価額によつて評価するのが合理的であり、就中、その株式の取得者が、同族株主であり、その株式の発行会社が、大会社である場合には、前記(1)<1>の「類似業種比準価額」によつて評価する方法(類似業種比準方式)が、相当である。
(四) 本件株式の時価について
(1) 原告らが、前記の通り昭和四二年三月四日頃に取得した本件株式は、同日頃において、取引相場のない株式であつた。
(2) 原告らは、何れも「同族株主」であつた。
即ち、同日頃におけるゼネラルの株主のうち、左記の者らの有する各数の株式の合計数八三万一、六〇〇株はゼネラルの発行済株式数二四〇万株の三四・六パーセントであつた。
記
芦田寛蔵(会長) 二一万七、六〇〇株
同正雄(寛蔵の弟) 九万一、六〇〇株
原告テイ(正雄の妻) 七万三、〇〇〇株
同建夫(同長男) 七万三、〇〇〇株
同英一(同次男) 七万三、〇〇〇株
同幸子(同長女) 七万三、〇〇〇株
芦田二三子(寛蔵の妻) 五万〇、五〇〇株
同寛治(同長男) 二万六、四〇〇株
同外史夫(同次男) 五万二、五〇〇株
同真(同三男) 五万〇、五〇〇株
同聖子(同長女) 五万〇、五〇〇株
合計 八三万一、六〇〇株
(3) ゼネラルは、「大会社」であつた。
即ち、ゼネラルは、昭和四二年三月四日頃において、資本金が一億二、〇〇〇万円であつた。
(4) 以上によれば、本件株式の時価は、これを前記(1)<1>の「類似業種比準価額」によつて評価するのが、相当である。
(五) 本件株式の「類似業種比準価額」について
(1) 類似業種
ゼネラルは、主にカーボン紙、ノンカーボン紙の製造を業とするから、その業種は、評価通達に基づき別に定められた「類似業種比準価額計算上の業種」所定の「パルプ・紙製造業(番号28)」に該当する(なお、ゼネラルの株式は、昭和四五年七月より大阪証券取引所第二部に上場され、「パルプ・紙」業種に分類されている。)。
(2) 計算の基とする金額
<1> A(類似業種の株価)……八三円
本件類似業種の株価は、昭和四二年三月における別紙(二)記載の各標本会社(以下「本件各標本会社」という。)の株式一株の券面額五〇円当りの毎日の証券取引所における最終価格の月平均額(別紙(二)(3)欄に記載の通り。)につき、全標本会社の平均額を算出したものである(評価通達一八〇項、一八二項(1))。
<2> B(類似業種の一株当りの配当金額)……三・四円
本件類似業種の一株当りの配当金額は、本件各標本会社の昭和四一年一〇月三一日以前に終了した直近の事業年度の末日における年配当率を、株式一株当りの券面額(五〇円)に乗じて計算した配当金額(別紙(二)(4)欄に記載の通り。一〇銭未満切捨。)につき、全標本会社の平均額を算出したものである(評価通達一八〇項、一八二項(2)、一八八項(3))。
<3> C(類似業種の一株当りの年利益金額)……一一円
本件類似業種の一株当りの年利益金額は、本件各標本会社の昭和四一年一〇月三一日以前に終了した直近の事業年度の末日以前一年間における「法人税の課税所得金額」に、その所得の計算上益金に算入されなかつた利益の配当等の金額(所得税額に相当する金額を除く。)及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額(それが欠損のときは〇円とし、それが確定していない場合には、申告所得金額による。)を基礎として計算した一株当りの年利益金額(別紙(二)(5)欄に記載の数字は、本件各標本会社の公表された損益計算書における「税引前当期利益」を基礎としたもの。一〇銭未満切捨。)につき、全標本会社の平均額を算出したものである(評価通達一八〇項、一八二項(2)、一八八項(4))。
<4> D(類似業種の一株当りの純資産価額)……八六円
本件類似業種の一株当りの純資産価額は、本件各標本会社の昭和四一年一〇月三一日以前に終了した直近の事業年度の末日における総資産価額(帳簿価額による。)から、各負債(但し、準備金等に相当する金額を除く。)の帳簿価額を控除した金額を基礎として計算した一株当りの純資産価額(別紙(二)(6)欄に記載の数字は、本件各標本会社の公表された貸借対照表における「資本の部」の合計金額を基礎としたもの、一〇銭未満切捨。)につき、全標本会社の平均額を算出したものである。(評価通達一八〇項、一八二項(2)、一八八項(5))。
<5> <B>(ゼネラルの一株当りの配当金額)……八・七円
右は、五〇円に、ゼネラルの昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における年配当率(二〇パーセント)と昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における年配当率(一五パーセント)の合計数をその期間の事業年度数(二)で除して得た率を乗じて計算すべきものである(評価通達一八八項(3)、昭和四四年七月二三日付直資三ノ二〇号国税庁長官通達、評価通達一八五項)。
(算式)
<B>=50円×(0.20+0.15)/2 = 8.7円
<6> <C>(同一株当りの利益金額)……八六円
右は、ゼネラルの直前期末以前一年間(昭和四一年一月一日から同年一二月三一日まで)における法人税の課税所得金額(二億六〇五万四九四円)に、その所得の計算上益金に算入されなかつた利益の配当等の金額(一一〇万一、八六一円)(これより、所得税額に相当する金額(一一万二、八九八円)を除く。)及び損金に算入された繰越欠損金の控除額(〇円)を加算した金額を、直前期末における発行済株式数(二四〇万株)で除して計算すべきものである(評価通達一八八項(4))。
但し、右( )内の金額は、何れもゼネラルに対する昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税の更正処分後のものである。
(算式)
<C>=(206,050,494+1,101,861-112,898)/2,400,000 = 86(円)
<7> <D>(同一株当りの純資産価額)……二九五円
右は、ゼネラルの直前期末における総資産価額(九億三、五七一万一、二四一円)から直前期末における各負債の帳簿価額(合計二億二、六七四万〇、五一六円)を控除した金額を、直前期末における発行済株式数(二四〇万株)で除して計算すべきものである(評価通達一八八項(5))。
(算式)
<D>=(935,711,241-226,740,516)/2,400,000 = 295(円)
(3) 本件株式の類似業種比準価額の計算
(2)の各金額を前述(三)(1)<1>の(イ)及び(ロ)の各算式に算入して計算した各金額は、「二三一円」及び「三〇六円」であり、そのうち低い方は、「二三一円」である。
(算式)
(イ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+3)×1/6=83円×(8.7/3.4+8.6/11+295/86+3)×1/6=231円
(ロ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+1)×1/4=83円×(8.7/3.4+8.6/11+295/86+1)×1/4=306円
(4) 類似業種比準価額の修正
ゼネラルの株式は、直前期末の翌日から課税時期までの間に配当金交付の効力が発生しているので、右(3)の価額(二三一円)から、株式一株に対して受けた現金配当の金額(一〇円)を減算して修正した金額、即ち「二二一円」を以て、類似業種比準価額とすべきものである(評価通達一八一項(2))。
(5) 以上によれば、本件株式の「類似業種比準価額」は、「二二一円」であり、これに比しても、本件株式の時価を一株につき「二二〇円」とした評価は、相当である。
(六) 本件株式の時価は、次の如き価額によつて評価しても、一株につき「二二〇円」を上回るものである。
(1) 類似業種「紙加工品製造業(番号29)」による比準価額
<1> ゼネラルが主として他から購入した紙に加工した物の製造を業とする点に着目すれば、その業種は、評価通達に基づいて別に定められた「類似業種比準価額計算上の業種」所定の「紙加工品製造業(番号29)」にも該当する。
<2> 而して、ゼネラルが右業種に該当するとした場合の本件株式の類似業種比準価額は、左記によつて「三〇二円」である。
<1> 右比準価額の計算の基とする金額は、A―一三〇円、B―五・八円、C―一一円、D―一一三円、<B>―八・七円、<C>―八六円、<D>―二九五円である。
<2> 右業種における標本会社は、別紙(三)の通りである。
<3> 右AないしD、<B>ないし<D>の算定方法は、前記(五)(2)<1>ないし<7>と同じである。
<4> 右比準価額の計算方法及び修正は、前記(五)(3)及び(4)の場合と同じである。
(算式)
(イ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+3)×1/6-(修正額)=130円×(8.7/5.8+86/11+295/113+3)×1/6-10円=302円
(ロ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+1)×1/4-(修正額)=130円×(8.7/5.8+86/11+295/113+1)×1/4-10円=406円
(2) 訴外リヒト産業株式会社の株価による比準価額
<1> 前記(1)の「紙加工品製造業(番号29)」に属するリヒト産業株式会社(以下「リヒト産業」という。)は、主として紙製文房具の製造販売を業とし、ゼネラルと同様に大阪文具工業連盟の会員であり、その事業規模をゼネラルと比較すれば、別紙(四)の通りである。
従つて、リヒト産業は、ゼネラルに最も類似している。
<2> 而して、リヒト産業の株価により、評価通達に所定の「類似業種比準価額」の計算方法に準じて計算すれば、本件株式の比準価額は、左記によつて「二三四円」である。
<1> 計算の基とする金額
A(リヒト産業の株価)―一五八円
右は、リヒト産業の株式一株(券面額五〇円)当りの昭和四二年三月の大阪証券取引所第二部における毎日の最終価格の月平均額である。なお、右各最終価格は、別紙(五)の通りである。
B(同一株当りの配当金額)―六・〇円
右は、リヒト産業の昭和四一年三月一日から昭和四二年二月二八日までの事業年度に係る一株当りの配当金額である。
C(同一株当りの年利益金額)―一二・一円
右は、リヒト産業の右同事業年度の公表された損益計算書における「税引後当期利益」三、六四〇万七、〇〇〇円を、同期末における発行済株式数三〇〇万株で除して得た金額(一〇銭未満切捨)である。
D(同一株当りの純資産価額)―九五・三円
右は、リヒト産業の右同事業年度の公表された貸借対照表における「資本の部」の合計金額二億八、六〇七万二、〇〇〇円を、同期末における発行済株式数三〇〇万株で除して得た金額(一〇銭末満切捨)である。
<B>(ゼネラルの一株当りの配当金額)―一〇・〇円
右は、ゼネラルの昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に係る一株当りの配当金額である。
<C>(同一株当りの利益金額)―二八・八円
右は、ゼネラルの右同事業年度の公表された損益計算書における「税引後当期利益」六、九一七万一、〇八五円を、同期末における発行済株式数二四〇万株で除して得た金額(一〇銭未満切捨)である。
<D>(同一株当りの純資産価額)―二二〇・七円
右は、ゼネラルの右同事業年度の公表された貸借対照表における「資本の部」の合計金額五億二、九六九万五、〇七九円を、同期末における発行済株式数二四〇万株で除して得た金額(一〇銭未満切捨)である。
<2> 本件株式の比準価額
前記算式に右<1>の各金額を適用して計算すれば、本件株式のリヒト産業の株価による比準価額は、左記のうち低い方の「二三四円」である。
(算式)
(イ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+3)×1/6-(修正額)=158円×(10.0/6.0+28.8/12.1+220.7/95.3+3)×1/6-10円=234円
(ロ) A×(<B>/B+<C>/C+<D>/D+1)×1/4-(修正額)=158円×(10.0/6.0+28.8/12.1+220.7/95.3+1)×1/4-10円=279円
(3) 本件株式の上場後の株価による比準価額
<1> ゼネラルの株式は、昭和四五年七月一日から大阪証券取引所第二部に上場され、右同日から昭和五一年一二月三一日までの各事業年度における平均株価は、別紙(六)の通りであり、右各平均株価に対する各一株当りの配当金額の割合(以下「利回り率」という。)、各一株当りの年利益金額及び同絶資産価額に対する右各平均株価の各割合(以下「株価収益率」及び「株価純資産倍率」という。)は、別紙(七)の通りである。
<2> 而して、ゼネラルの株式の上場後の平均株価における前記利回り率、株価収益率及び株価純資産倍率を適用して計算すれば、本件株式の比準価額は、左記によつて「二二六円」である。
<1> 計算の基とする割合等
<B>′/A(利回り率)―四・九二パーセント
右は、別紙(七)の利回り率のうち、原告に有利な最も高い率である。
A/<C>′(株価収益率)―八・〇八倍
右は、別紙(七)の株価収益率のうち、原告に有利な最も低い率である。
A/<D>′(株価純資産倍率)―一・一〇倍
右は、別紙(七)の株価純資産倍率のうち、原告に有利な最も低い率である。
<B>(一株当りの配当金額)―一〇・〇円
<C>(同利益金額)―二八・八円
<D>(同純資産価額)―二二〇・七円
以上は、何れも前記(2)<2><1>の<B>、<C>、<D>と同じである。
<2> 本件株式の比準価額
本件株式の一株当りの配当金額、同年利益金額及び同純資産価額に対し、それぞれ前記<1>の利回り率、株価収益率及び株価純資産倍率を適用して得た各金額を平均すれば、本件株式の上場後の株価による比準価額は、「二二六円」である。
(算式)
{(<B>÷<B>′/A)+(<C>×A/<C>′)+(<D>×A/<D>′)}×1/3
={(10.0円+0.0492)+(28.8円×8.08)+(220.7円×1.10)}×1/3=226円
(4) 帳簿価額による純資産価額
<1> ゼネラルの昭和四一年一二月期末における税務計算上の総資産価額(帳簿価額)九億三、五七一万一、二四一円から同期末における各負債(但し、準備金等に相当する金額を除く。)の帳簿価額合計二億二、六七四万五一六円を控除した金額を、同期末における発行済株式数二四〇万株で除して得た一株当りの純資産価額は、「二九五円」である(前記(五)(2)<7>)。
<2> 又、ゼネラルの昭和四一年一二月期の公表された貸借対照表における「資本の部」の合計金額五億二、九六九万五、〇七九円を、同期末における発行済株式数二四〇万株で除して得た一株当りの純資産価額は、「二二〇円」である(前記(2)<2><1><D>)。
<3> 他方、上場後のゼネラルの株価を見れば、別紙(七)から明らかな通り、一株当りの純資産価額に対する各平均株価の割合(株価純資産倍率)は、最低一・一〇倍最高一・四二倍、平均一・二二倍で、長期に亘つて固定的であり、一株当りの純資産価額と株価との間には緊密な関係がある。
従つて、本件株式の評価についても、前記一株当りの純資産価額は、充分に考慮されるべきものである。
四 被告の主張に対する認否及び原告らの反論
1 被告の主張1項は争う。
大蔵省組織規程によれば、国税局直税部資料調査課の主たる事務は、相続税等の賦課に関する資料及び情報を収集整理すること(同規程一二四条一項三号)、相続税等の賦課に関し必要な経済調査を行うこと(同規程一二四条一項四号)であり、付随的に同規程一二四条の二の二号により、右事務処理に関連しかつ国税局長が必要があると認めた特定の事項につき課税標準の調査を指導監督し、これに必要な調査を行うこと(同規程一二四条一項二号)も認められているが、野口実査官及び生駒主査が行つた本件調査は、特定個人の贈与税の課税標準及び税額決定のための調査であつて、右事務とは全く関連性がない。仮りに関連するとしても、国税局直税部資料調査課の国税実査官の権限は、管轄税務署長が主体として行う調査を指導監督することであり、そのための調査のみなしうるにすぎない。本来、管轄税務署長がなすべき調査を、国税実査官がその指導監督の域を超えて自ら主体となつて直接行うことは前記規程による権限を明らかに逸脱し違法である。
2 同2項は争う。
交付送達は、当該行政機関の職員が行うべきものであるが、野口実査官は当該行政機関たる西宮税務署の職員ではなく、本件決定書の送達は違法である。
3 同3項(四)(1)は認める。
同項(四)(2)のうち、芦田寛蔵以下の身分関係及び持株数については、いずれも認める。
同項(四)(3)のうち、ゼネラルの資本金が当時一億二、〇〇〇万円であつたことは認める。
同項(四)(4)は争う。
同項(五)(1)のうち、ゼネラルが「類似業種比準価額計算上の業種」所定の「パルプ・紙製造業(番号28)」に該当することは争う。
同項(五)(2)<1>ないし<4>は、いずれも不知。
同項(五)(2)<5>のうち、
昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における年配当率が二〇パーセントであり、昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における年配当率が一五パーセントであつたこと、
同項(五)(2)<6>のうち、
昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における法人税の課税所得が金二億六〇五万四九四円、益金に算入されなかつた利益の配当等の金額が金一一〇万一、八六一円、上記金額中所得税額に相当する金額が金一一万二、八九八円、損金に算入された繰越欠損金の控除額が金〇円、昭和四一年一二月三一日における発行済株式数が二四〇万株であつたこと、
同項(五)(2)<7>のうち、
昭和四一年一二月三一日における総資産価額が金九億三、五七一万一、二四一円、各負債の帳簿価額(但し、価格変動準備金、貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金、その他の準備金及び引当金を含まない。)が、金二億二、六七四万五一六円であつたこと、
同項(五)(4)のうち、
昭和四二年一月一日から本件株式売買までに配当金交付の効力が発生し、右金額が一株当り現金配当金一〇円であつたこと、
はいずれも認める。
同項(六)(1)<2><2>の別紙(三)の内容については不知。
同項(六)(2)<1>の別紙(四)のうち、ゼネラルの数値については認め、その余は不知。
同項(六)(2)<2><1>Aの別紙(五)の内容は不知。
同項(六)(3)<1>の別紙(六)の内容は不知。別紙(七)のうち、平均株価、利回り率、株価収益率、株価純資産倍率については不知、その余は認める。
4 類似業種比準方式の問題点
(一) 類似業種比準方式は類似業種の一株当りの配当、利益、純資産の三要素を比準要素として採用しているのであるが、標本会社の数値のうち、純資産は税務上の資本金、資本積立金、利益積立金の合計であり、利益は法人税の課税所得であるから、納税者は発表された数値の妥当性を確かめる手段のないまま適用を強いられる結果となり、仮りに間違いがあつても間違つているかどうか不明である。
(二) 右の利益は、課税所得であるから、いわゆる交際費、寄附金等の限度超過額など社外流出の費用も含まれる訳であるが、これらの費用は株価比準に使用する利益として妥当なものとはいえない。
(三) 類似業種比準方式によるときは、標本会社と評価会社との規模、業種、配当などが類似していてこそ比準性があるのであり、これを欠いては正常な比準とはいえない。
現に、非上場会社が株式を公開する場合の公開価格の算定について、証券会社七社が、昭和四五年六月一日、行つた「株式公開価格算定基準に関する申し合せ」によれば、類似業種比準方式と基本的に同様の考え方に立つが、標本会社選定の基準として、公開会社と標本会社との間に、次の諸点における類似性を要求している。
(イ) 主要事業部門または主要製品
(ロ) 部門または製品別の売上高構成比
(ハ) 業種および成長性(売上高、純利益の額およびその伸び率)
(ニ) 資本規模
(ホ) 配当性向
従つて、評価通達に基づく類似業種比準方式によれば、標本会社各社と評価会社との間に相当の規模格差が生ずる場合がでてくるこのような場合、規模格差を是正するための配慮が当然必要というべきで、規模格差是正率の適用がなければ合理的な比準とはいえない。
(四) 評価通達は、株価比準要素として、計数をもつて示すことが可能な配当、利益、純資産の三要素を評価計算上採用しているのであるが、株価構成要素というのは、勿論、右の三要素のみではありえない。即ち上場株式の取引価格は会社の業績(利益、配当、自己資本等)のみならず、会社の将来性、経営者の手腕等に対する投資家の評価、浮動株式数の比率、金融政策、金利等種々の解明困難な市場要因の介入によつて形成されるものである。
しかし、全く流通市場を持たない非上場株式については、市場要因が介入する余地はなく、かかる要因を排除した上で評価がなされるべきものである。現に評価通達は、昭和四七年度の改正において比準した額に、〇・七を乗ずることとし、三〇パーセントを市場性排除率としている。
ところが、本件の場合、ゼネラルの株価算定について、評価通達は右のような市場性の欠如を無視しており、即ち市場性排除率を採用しておらず、この点において全く不適正なものである。
(五) 以上述べたとおり、改正前の評価通達の定める類似業種比準方式は、非上場株式の評価方法としては極めて不適正なもので、右に基づきなされたゼネラルの株式評価額は適正な時価とはいえない。
5 本件株式評価の問題点
仮りに取引相場のない株式の時価を一定の場合に類似業種比準方式によつて評価することが合理性を有するとしても、標本会社として選出される会社が評価会社と事業の種類が同一であり、かつ売上高、資産の構成、収益の状況、資本金額、従業員数等が類似している場合に、はじめて前記方式による評価が合理性ある適正な時価評価となり得るものと解される。
(一) 本件各標本会社とゼネラルの事業内容
(1) 本件各標本会社の事業内容
別紙(八)、(九)のとおりであつて、要するに、パルプ、紙、セロフアン等である。
(2) ゼネラルの事業内容
<1> 倉出金額
ゼネラルの第二八期(昭和四一年一月一日より同年一二月三一日)における倉出金額は、総額で金一三億三、七四六万五、〇〇〇円である。このうちカーボン紙が、金八億七、二七四万九、〇〇〇円で約六五パーセント、ノンカーボン紙が金四億四、八八〇万七、〇〇〇円で約三四パーセント、その他が、金一、五九〇万九、〇〇〇円で約一パーセントである。
<2> 製造方法
カーボン紙は種類により若干の差異はあるが、他より購入した薄葉紙に、ワツクス、オイル、色素等を混合した塗剤を塗布して製造する。ノンカーボン紙は、他より購入した特殊な紙の片面に手を汚さない特殊インキを塗布して製造する。
<3> 本件各標本会社の事業内容との相違点
以上述べたとおり、ゼネラルの製造品目には、パルプ・紙・セロフアン等は全く含まれていない。購入品中に、若干の印刷原稿紙及びテレタイプ受信紙があり、これを販売している。しかし、これは他から購入したものをそのまま販売しているのであつて、いかなる意味においても、本件各標本会社が行つている「紙」の製造とは全く異なる。従つて、本件各標本会社の事業の内容は、ゼネラルの事業の内容と全く異なる。
(二) 本件各標本会社とゼネラルの事業規模
本件各標本会社の、資本金、使用総資本、株主数、従業員数、年間売上高の平均値とゼネラルの数値との比較は、別紙(一〇)のとおりである。以上によれば、株主数を除く他項目の倍率を平均すれば、一四・七倍となり、ゼネラルは本件各標本会社の約一五分の一である。標本会社に比して著しく小規模な場合に、単に資本金が一億円以上であることから、類似業種比準方式によることは不合理であつて、本件においても同様である。
(三) 「紙加工品製造業」より選出した標本会社(別紙(三))についての反論
(1) 右標本会社の事業内容は、次のとおりである。
(イ) 聯合紙器(株)……………段ボール箱六六パーセント、段ボール二八パーセント、その他
(ロ) 千代田産業(株)…………クラフト紙袋四八パーセント、段ボール紙器二〇パーセント、洋紙三〇パーセント、その他
(ハ) 古林紙工(株)……………印刷紙器八九パーセント、フイルム包装材六パーセント、その他
(ニ) スーパーバツグ(株)……角底紙袋六六パーセント、洋紙板紙二二パーセント、ワツクス紙一二パーセント、その他
(ホ) リヒト産業(株)…………フアイル三〇パーセント、ノート一五パーセント、バインダー類一七パーセント、スチール製品一一パーセント、その他
他方ゼネラルの事業内容は、前述のとおりであつて、前記標本会社とは、製造品目の構成が全く異なることは明らかであり、また商品としての同一性もないものといわねばならない。
(2) 前記標本会社中、聯合紙器(株)、千代田産業(株)を除く他の三社については、ゼネラルと事業規模において左程の相違は認められないが、聯合紙器及び千代田産業とゼネラルの間には別紙(一一)のとおり事業規模に相当大きな相違がある。評価通達は、標本会社として相当数の上場会社を選出するよう要求しているが、類似業種比準方式が合理性ある適正な評価方法であるといえるためには、複数の標本会社それぞれにつき評価会社との事業規模の類似性がなければならない。この観点よりして被告が標本会社に聯合紙器、千代田産業を選んだことは適正とはいえない。
(3) 以上述べたところより被告が「紙加工品製造業」より選出した標本会社は、事業の種類及び事業の規模のいずれの点においても適正なものとはいえないのである。
(四) 被告は、右とは別に、本件株式の評価方法としてゼネラルの上場後の株価による比準方式を主張しているが、本件株式の贈与がなされた昭和四二年三月当時の株価を、ゼネラルの株式が上場された昭和四五年七月一日以降の株価との比準によつて算出することに合理性があるとは社会通念上考えられないところである。
(五) 被告は、更に、本件株式の評価につき、一株当りの純資産価額が、考慮されるべきであると主張するが、右主張は、国税庁の評価通達中、取引相場のない株式の評価方法に関する基本的方針と矛盾する。
五 被告の再反論
1 本件調査が適法になされていることについて
資料調査課の事務は大別して資料及び情報の収集整備(大蔵省組織規程一二四条の二の一号)と特殊事案の指導監督(同規程一二四条の二の二号)にある。
そこで、本件のように主たる株主の有する株式を券面額に相当する金額の対価で親族に譲渡し、時を経ずしてその株式が相当の金額で上場されるという財産の特異な取引に関して贈与税の課税が見込まれるというような特殊事案については、資料調査課の職員は、税務署において発生が予測される類似事例の適正課税調査の実施能力の向上と、課税の公平を期する目的をもつて調査及び指導監督をするために課税標準の調査及び検査を行うものであつて、資料調査課の職員による調査及び検査は何ら違法たるいわれはない。
本件では、調査の過程において臨場調査及び訴外芦田正雄に対する反面面接調査を資料調査課の職員が行つているとしても、その調査結果に基づいて税務署長を指導監督し、これを受けて被告は更に右調査資料に基づいて独自に調査をなし、その調査が適正であるとの心証を得たうえ、権限に基づいて本件各処分を行つたものであるから、その処分にかかる調査手続に何ら違法はない。
ちなみに、一般に処分の適否は、客観的な課税要件の存否によつて決まるものであり、仮に違法な調査手続が行われ、それによつて収集された資料によつて処分がなされた場合でも処分の取消し事由にならない。
なお、本件の資料調査課の職員による調査に対し、贈与者たる訴外芦田正雄はこれを了承し、調査に応じていたものである。
2 送達が適法になされていることについて
送達が適法になされていることについては前記三、2において主張したとおりであつて、送達の目的が送達を受けるべき者をして、その送達にかゝる書類をできるだけ確実に、かつ、できるだけ速く受領させるというにあるのであるから、被告のとつた措置に何ら違法はない。
仮に、被告の上級機関たる大阪国税局の職員によつて送達したことが相当でないとしても、原告らは本件各処分の内容を了知し不服申立て等をなしているものであるから、右送達の瑕疵はきわめて軽微なもので、本件各処分の送達の効力に影響を及ぼすものではないといわねばならない。
3 類似業種比準方式の合理性
(一) 原告らは類似業種比準方式の問題点として、標本会社の課税所得額を納税者が確める手段の存しないことを指摘する。
(1) しかし右の会社の税務上の純資産及び法人税の課税所得額はいずれも第三者の秘密に該当する事項であり、いずれも国税庁等の職員が職務上知り得た秘密として元来明らかにしえないものである。したがつてこれらの事項を明らかにしないからといつて直ちにこの評価方法が不合理ということはできない。
(2) なお、原告らは純資産は税務上の資本金、資本積立金、利益積立金の合計であると王張しているがこれは正確ではなく、正しくは評価通達一八八項(5)のとおりである。
(二) また、原告らは、「右の利益は、課税所得であるから、いわゆる交際費、寄付金等の限度超過額など社外流出の費用も含まれる訳であるが、これらの費用は株価比準に使用する利益として妥当なものとはいえない。」と主張するが、利益とは、法人が費用または損失として経理した金額でも当該事業年度の「所得の金額の計算上損金の額に算入されないもの」及び法人が「収益として経理しなかつた金額でも当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるべきもの」がある(法人税法二一条及び二二条)ので、それを調整したいわゆる法人税の課税所得金額をもつて利益とする方が合理的な利益の額になる。すなわち原告らが指摘する限度超過額など社外流出の費用を被告が利益の額に算入するのは、恣意性を排除し、計算の統一を図るためである。よつて、原告らの主張は失当である(評価通達一八〇項及び一八八項)。
(三) 原告らは、「類似業種比準方式によるときは、標本会社と評価会社との規模、業種、配当などが類似していてこそ比準性があるのであり、これを欠いては正常な比準とはいえない。」と主張し、「株式公開価格算定基準に関する申し合せ」を引用して、更に規模格差是正率の適用がなければ合理的な比準とはいえない等と主張している。
しかしながら原告らの右主張も前提において誤りがある。公開価格算定のための未上場の株式の評価方法は類似会社比準方式を採用することを明らかにしている。その上で類似会社選定方法として原告ら主張のような(イ)ないし(ホ)の類似点を要求しているものであり、また類似会社を選定したうえで企業規模の格差が生じる場合に修正を行うことができると申し合せているものである。
しかも、原告ら主張の比準方式は取引相場のない株式が、将来取引相場がでてくる場合の公開価格の算定についての基準であつて、評価通達に定める方式の類似業種比準方式とは明らかに株式評価の目的が異なる。前記申し合せの基準を財産課税の場合の評価基準すなわち類似業種比準方式にそのままあてはめようとすることこそ失当である。
なお規模格差による評価上の配慮は、取引相場のない株式の評価上の区分において考慮しているところであるから全く考慮していないものではなく、どのような形で考慮しているかの違いである(評価通達一七八項ないし一八五項)。
(四) 原告らは、評価通達が「市場性排除率を採用しておらず、この点において全く不適正なものである。」と主張し、「全く流通市場を持たない非上場株式については、市場要因が介入する余地はなく、かゝる要因を排除した上で評価がなされるべきものである。」と主張するが、本件に適用の類似業種比準価額の計算式は、評価の対象となる株式の流通性が劣る点を考慮し、前記三3(三)(1)<1>(イ)の算式のとおりの常数「3」により評価上相当のしんしやくが行われるようくふうされているところである。しかし、そのしんしやくの行われることが算式上明確でないため、一般の納税者に何らのしんしやくも行われていないという印象を与える結果になつていたので評価通達の昭和四七年度の改正において、しんしやくの行われることが誰れにも認識できるよう簡易直さいに〇・七掛けすることに改めたのである。
ところで本件株式の評価額について、原告ら主張にかかわる市場要因等排除の有無をみるに、本件株式の評価額は右有無をみた金額(別紙一二)のうちで最も低く評価上は相当のしんしやくが行われていることは明らかである。
したがつて、市場性排除率にかかる原告らの主張は失当である。
(五) 原告らは評価通達の定める類似業種比準方式は非上場株式の評価方法としては極めて不適正なものであると主張する。
しかしながら、類似業種比準方式は以下の経緯で類似会社比準方式を改正して制定されており、その評価方式は極めて合理的な方式である。
(1) 取引相場のない大会社(上場会社に準ずる程度に規模の大きい会社)の株式を類似の上場会社の株式に比準して評価する場合、昭和三八年一二月三一日までは単独の上場会社の株価等と比準する評価方式(類似会社比準方式)を採用していたため、評価会社と同種の事業を営む上場会社が二社以上ある場合にあつては、そのうちの何れの上場会社がより評価会社に類似しているかの判断に問題が多くあり、また、類似会社の選択(比準会社の具体的な選定)如何により評価額にかなりの差異が生ずるため類似会社の選択を巡る納税者と課税庁との間の紛議が絶えないなど、困難な問題がつきまとい、評価の公平を確保することがむずかしいという状態にあつた。
(2) このような事情から類似業種比準方式(類似業種の上場会社の株価等平均値に比準する方式)に改められ今日に至つているのである。そのため類似業種比準価額の計算式における「A」以下「D」までの各要素はいずれも、各業種のそれぞれに属する上場会社を基として算出した平均値によることとなり、より合理的な評価方法となつたものであつて、それに基づいて算出した株式評価額(一株当り二二〇円)は適正な価額である。
4 本件株式評価の合理性
(一) 事業内容の比較について
原告らは、ゼネラルの事業内容が、本件各標本会社のそれらに比較して全く異なるから、ゼネラルの業種が本件各標本会社の業種に該当しない旨を主張する。
しかし、原告らの主張するような事業内容、即ち倉出金額、製造品目及び製造方法等がゼネラルに全く類似する会社で、その株式が上場され又は気配相場のあるものは、本件贈与の当時には存在しなかつたのである。
従つて、ゼネラルの類似業種としては、次の諸点から、既述の如き「パルプ・紙製造業(番号28)」に該当するものとせざるを得ず、又それで十分である。
(1) ゼネラルは、主としてカーボン紙及びノンカーボン紙の製造を業とするものであること。
(2) カーボン紙等の製造業は、行政管理庁所定の「日本標準産業分類」において、加工紙製造業に該当すること。
(3) 上場会社中、加工紙の製造を行うものは、評価通達が別に定める「類似業種比準価額計算上の業種」においては、「パルプ・紙製造業(番号28)」に分類されていること。
(4) 本件株式は、昭和四五年七月から大阪証券取引所第二部に上場され、「パルプ・紙」の部に分類されていること。
(二) 事業規模の比較について
原告らは、ゼネラルの事業規模が、本件各標本会社のそれに比較して著しく小規模であるから、「類似業種比準方式」を採用する前提を欠き、従つて本件株式を同方式によつて評価することが不合理である旨主張する。
(1) しかし、一般に、株式一株当りの客観的な交換価値(時価)を決定する基本的要因は、上場、非上場を問わず、その株式自体が保有する収益価値と資産価値、即ち具体的には配当率、収益率及び純資産価額であるから、原告の指摘するような会社の事業規模に関する各項目は、当該会社全体の合計的な価値を算定する場合は別として、当該会社の一株当りの株価を算定する場合には、株価の形成に直接の関連がないので、株価を決定する基本的要因であるとは、解することができない。その上、一般には、資本金額等の巨大な大型株に比較して、小型株の方がかえつて高値の傾向にある、と言われており、そうとすれば、標本会社の規模が大きいことは、それに比準して算定した株式の評価額を高目にする要因にはならない筈である。
(2) 仮に、標本会社と評価会社の各事業規模の異同が問題になり得るとしても、一株当りの株価を評価する場合であるから会社全体としての規模ではなく、一株当りの規模に換算して比較すべきである。
そこで、因みに、原告ら主張の各項目について本件各標本会社とゼネラルの各一株当りの規模を比較すれば、次の通り、本件各標本会社は、ゼネラルの平均一・二倍であるに過ぎず、株主数を除いた四項目の倍率の平均は〇・八倍であるから、本件各標本会社とゼネラルとの間の一株当りの規模の相異は、ほとんど無いと云える程である。
項目
本件各標本会社(A)
ゼネラル(B)
一株当りの倍率(A/B)
一万株当りの資本金
五〇万円
五〇万円
一・〇
同 使用総資本
四九四・五万円
三七七・一万円
一・三
同 株主数
二・〇名
〇・七名
二・九
同 従業員数
〇・五名
一・四名
〇・四
同 年間売上
三五五・六万円
五五二・五万円
〇・六
(三) 以上によれば、本件株式を「類似業種比準方式」によつて評価するについては、原告ら主張の如き不合理・不適正はない。
第三証拠<省略>
理由
一 請求の原因1ないし4項の事実は、いずれも各当事者間に争がない。
二 原告らは、本件各処分のための調査が、国税通則法二五条、二七条及び大蔵省組織規程に違反する旨主張するので、まずこの点につき判断する。
本件調査が国税局直税部資料調査課所属の生駒禎助及び野口正弘の両国税実査官により行われた事実は、当事者間に争がない。ところで、国税通則法二五条は当該税務署長(その他当該税務署の関係職員を含む。)の調査により、無申告の場合の課税標準等及び税額等を決定する旨規定しており、同法二七条は例外的に「国税庁又は国税局の当該職員の調査」を予定している。ところで右の「国税局の当該職員」とは、大蔵省組織規程(改正前、昭和四七年当時施行のもの、以下同じ)一三六条の五によれば、国税調査官がこれに該当する。他方、同規程一二五条、一二四条の二、一二四条によれば、国税局の国税実査官は、直税部資料調査課においては、贈与税賦課の資料、情報の収集、整理、及び必要な経済調査並びにこれらの事務に関連し及び特定事項にかかる課税標準の調査を指導監督し、これに必要な調査及び検査を行う権限を有するものである。本件において、税務署長に対しいかなる指導監督がなされたかは証拠上明らかではないものの、もともと本件各処分の適否は客観的な課税要件の存否にかかるものであり、本件各処分が、仮りに形式的に違法な調査手続で収集された資料に基づいてなされたとしても、右違法の程度が公序良俗に反するようなものでもない限り、ただ形式的違法な調査手続の存在をもつて直ちに、本件各処分の取消事由とはなしえないところである。よつて、原告らの右主張は理由がない。
三 次に、本件各処分の決定通知書の送達の適法性につき検討する。
右送達が前記野口正弘により交付送達の形式でなされたことは当事者間に争がない。ところで、国税通則法一二条四項によれば、税務署長の発する書類を交付送達の方法によるときには「当該行政機関の職員」がこれを行う旨規定されているから、被告名義の本件決定通知書は、交付送達によるときには被告の手足としての当該税務署職員によりこれをなすべきである。しかるに、前記野口正弘が国税局の職員であることは当事者間に争がなく、その限りにおいては右野口にかかる交付送達は、同条項に抵触するという意味において違法である。しかしながら、国税通則法において送達に関する規定を設けた趣旨は国税に関し税務署長その他のものの発する書類がその趣旨のものとして名宛人のもとに確実に、かつ、速かに送達され、右送達により爾後の手続が適正に進行することを確保するものであるところ、本件においては本件各処分にかかる書類が原告らのもとに到達し、原告らにおいても右送達の方法により格別の不利益を蒙つた事実もなく、その後、請求の原因4項のとおり所定の不服申立の手続をなしたことは前述のとおり、当事者間に争いがない。そうだとすれば前記交付送達が被告の職員でなく、その上級機関である大阪国税局の職員によつてなされたとしてもその瑕疵は単なる形式上のものにすぎず、極めて軽微なものにとどまり、本件各処分の送達の効力に影響を及ぼすものではなく、まして、本件各処分の取消事由とはなし難いものである。従つて、この点に関する原告らの主張も理由がない。
四 次に原告らは被告が本件株式の一株当りの評価額を金二二〇円と認定して相続税法七条を適用した処分は同法二二条による適正な時価評価を誤つた違法があると主張するので、被告のなした本件株式の評価につき検討を加えることとする。
本件株式が昭和四二年三月四日当時、取引相場のない株式であつたことは当事者間に争がない。そうして成立に争のない乙第一号証によれば取引相場のない株式の時価評価について評価通達により被告の主張3項(三)のとおり示されていることが認められる。
相続税法二二条によれば、贈与により取得した財産の価額の評価は当該財産取得時における「時価」によるべきこととされ、ここに所謂「時価」とは、財産の客観的交換価値をいう。一般に、市場を通じて不特定多数の当事者間における自由な取引により市場価格が形成されている場合には、これを時価とするのが相当である。ところが、本件株式のように取引相場のない株式にあつては時価を把握することは困難である。そうして、かかる株式の時価が株式の額面価額によつて評価されるべきでないことは、右が資本金の分割表示に過ぎず、当該株式の持つ経済的実体価値とは全く一致する関係にないことからも明らかである。仮りに、かかる株式につき、現実の売買が行われ、その売買実例が当該株式の客観的交換価値を適正に反映していると認められる場合には、その売買価額が時価とされるべきであるが、かような売買実例が存しない本件の如き場合においては、これと類似する株式の売買実例を基準として評価することも、次善の策として許容しえないものではない。ことに、評価通達による前記「類似業種比準方式」とは、上場会社のうち、評価会社と事業内容の類似する会社を相当数選定し、その株価と右両会社の株価構成要素としての配当金額、利益金額、純資産価額の要素を一定の数式により比準して株式評価しようとするものであつて、株価がその会社の有する収益力(配当金額もその一つの現れである)と資産価値を基本的要素として構成されていることにかんがみれば、右方式には一般的に認められている理論的な株価要因をすべて盛り込んでおり、右方式により株価を算出することは妥当なものと考えられる。
五 原告らは類似業種比準方式についての問題点を主張する。
1 まず、類似業種比準方式にいわゆる「標本会社」の純資産価額、利益金額の妥当性を確め得ないと主張する。
しかしながら、本件の場合においては標本会社の名は明らかにされているところであつて、ただ、税務上の純資産及び法人税の課税所得額は、いずれも、第三者の秘密に該当し、被告はこれを明らかになし得ないものであり、右のことから右評価方式をもつて不当、不合理なものとはいえないと解するのが相当である。
2 次に、右方式中の利益は課税所得であるから、いわゆる、交際費、寄付金等の限度超過額など社外流出費用も含まれることとなるが、これらの費用は株価比準の使用する利益として妥当なものでないと主張する。
前記乙第一号証によれば右方式中の利益は当該期間の法人税額の課税所得金額をもとにしていることが認められるところ、法人税額の所得計算は企業の決算の示すところを租税法の面から要請される基準をもつて修正して所得を得ようとすることが前提であるが、企業の内部の計算で会計上費用として計上されているものであつても、このような計算を全く企業の任意に委ねることも適当でない場合もあり、これらの内部計算にかかる費用について租税法上の所得計算の原則において一定の限界を定め、その範囲において企業の行つた会計処理を行うことも合理的な理由があるところであり、法人税額の課税所得金額をもつて右方式中の利益金額としてもあながち不当というに当らない。
3 次に、原告らは類似業種比準方式によるときは標本会社と評価会社との規模、業種、配当などの類似が必要であると主張し、「株式公開価格算定基準に関する申し合せ」(以下「申し合せ」という。)を引用している。
成立に争のない甲第五号証によれば右申し合せは、非上場会社が株式を公開し、証券取引所に上場する場合の公開価格の算定方法として、昭和四五年六月、証券業界において決められたもので、株価算定の基礎とするために適当な会社(類似会社)を選定して、公開会社と類似会社との一株当り配当金、純利益及び純資産についての平均比率によつて公開会社の株式公開価格を算定することとし、類似会社の選定方法として原告主張の類似点その他を要求していることが認められる。右認定によれば前記申し合せはその目的が非上場会社の株式の公開価格の算定基準であつて本件における株式評価とはその目的を異にするものである。しかも、申し合せは類似「会社」比準方式をとるものであつて、類似した「会社」の存在が前提であるところ、本件株式の贈与当時、ゼネラルには申し合せにいうような類似した会社の存在しないことは原告の自認するとおりであつて、類似「会社」比準方式によることはできないところである。なお、規模格差の点について類似「業種」比準方式においては前記のとおり大会社、中会社及び小会社の区分をして考慮していることが明らかであつて、これを全く考慮していないということはできない。
4 最後に、類似業種比準方式では非上場株式の市場性欠如が無視されていると主張する。しかしながら右方式による算式によれば配当金額、利益金額及び純資産価額の各比率を基礎としながらも、これに常数3または1を加えて計算する外、証人立花義則の証言によれば相続税の特殊性にかんがみ、時価より低めに評価しようとしていることが認められ、右事実に照らし前記計算の結果に修正を施していることが明らかであつて右の計算過程の中には原告主張の右要素その他の配慮がなされているところである。昭和四七年度の評価通達の改正においてこれらの配慮の結果として前記算式の常数にかえて〇・七を乗ずることと改められたが、本件においては、右改正後の算式によるよりも改正前の算式によつた方がより低く評価されていることが明らかである(別紙一二)。よつてこの点の主張も理由がない。
5 もともと株価形成のメカニズムについて理論的にみて完全な解明がなされていないといわれているだけに、非上場株式の株価の算定には多くの困難が伴うものであつて、株価の算定として株価算定の目的に応じてできる限り合理性を満たす方法により、なおかつ、諸種の要因を考慮して修正を施すことによつて客観的交換価値を探る外はない。類似業種比準方式もその一方法である。ゼネラルの資本金は一億二、〇〇〇万円であることは当事者間に争がなく後述のとおり、本件株式の譲渡後、比較的短期間のうちにゼネラルは上場会社となつたのであるから、これを上場会社に匹敵するものとして、相当数の上場会社の株価要因の数値に基づき本件株式を評価しても他にこれに代る、より合理的な方式も認められない以上、合理性を欠くものというに当らない。
六 次に、右方式を適用する前提として、まずゼネラルの業種について検討する。
前述のとおり、ゼネラルの資本金は一億二、〇〇〇万円であつて、成立に争のない乙第三、第五号証、証人芦田正雄及び同立花義則の各証言によれば、ゼネラルの事業内容は、昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、一般に加工紙製造、販売であつて、他から紙と塗材を仕入れ、右紙にゼネラルで右塗材から作つた塗剤を加工して加工紙を製造、販売するのであるが、うち六五パーセントがカーボン紙、三四パーセントがクリーン・カーボン紙であること、右事業は行政管理庁発行にかかる「日本標準産業分類」(乙第五号証)におけるパルプ・紙・紙加工品製造業(中分類)、加工紙製造業(小分類)、カーボン紙製造業(細分類)に該当し、本件株式の評価にあたつては評価通達に基づき別に定められた「類似業種比準価額計算上の業種および配当金額等の平均額」(乙第三号証)の中「パルプ・紙製造業(番号28)」に該当するとして前記方式が適用されたこと、ゼネラルの株式は、昭和四五年七月一日、大阪証券取引所第二部に上場され、「紙・パルプ」の中に分類されたことが認められる。
ところで、本件類似業種比準方式において採用された標本会社は別紙(二)記載のとおりであることは弁論の全趣旨によつて明らかであるところ、成立に争のない甲第一号証によれば右標本会社の事業内容は別紙(八)、(九)のとおりであることが認められ、右事実によれば右標本会社における事業内容がゼネラルのそれと必ずしも一致するものではない。しかしながらさきにも述べたように本件株式の贈与当時においてはゼネラルに全く類似する会社で、その株式が上場され又は気配相場のあるものは存在しなかつたのであるから、できる限り、ゼネラルの業種に類似するものの中から標本会社を選定する外なく、ゼネラルの事業内容と前記「日本標準産業分類」及び「類似業種比準価額計算上の業種」の分類にかんがみてゼネラルの業種を前記「パルプ・紙製造業(番号28)」として前記方式を適用したとしても、これをもつて不当というに当らない。
七 原告らは標本会社の事業規模とゼネラルのそれとの間に著しい格差があるから前記方式によることは不合理であると主張する。しかしながら、さきにも述べたように株価形成の複雑性から非上場株式の株価の算定の困難は避けられないところであるが、株価の客観的交換価値(時価)を決定する基本的要因はその会社の有する収益力と資産価値であるということができる。会社の事業規模の如きは株価形成の上で恒常的要因として作用するものとは考えられず、或いは会社の個別的事情により株価の高値形成に作用する場合もあり得るところである。そうだとすれば標本会社とゼネラルとの間における事業規模の格差をもつて前記方式によることが不合理であるということはできない。
八 ちなみにゼネラルを前記「類似業種比準価額計算上の業種」の分類中「紙加工品製造業(番号29)」に該当するとして前記方式により本件株式評価を試算するとすれば前記乙第三号証によれば配当金額及び純資産価額の数値において「パルプ・紙製造業」に比し「紙加工品製造業」の方がより多いことが認められるので、ゼネラルの業種を「パルプ・紙製造業(番号28)」に該当するとしてなした評価の方が、より控えめであり、原告らにとつて課税処分を受ける点では有利であることが明らかである。原告らは右試算方法についても標本会社の事業内容及び事業規模がゼネラルのそれと相異すると主張するけれども、右主張に理由のないことはさきに述べたとおりである。
九 そこで本件株式を評価するに、ゼネラルについて昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における年配当率が二〇パーセント、昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までのそれが一五パーセント、法人税の課税所得が金二億六〇五万四九四円(益金に算入されなかつた利益の配当等金一一〇万一、八六一円、そのうち所得税額相当分金一一万二、八九八円、損益に算入された繰越欠損金控除額〇円)、昭和四一年一二月三一日における発行済株式数が二四〇万株であつたこと、昭和四一年一二月三一日における総資産価額九億三、五七一万一、二四一円、負債帳簿価額(但し、価額変動準備金、貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金、その他の準備金及び引当金を含まない。)金二億二、六七四万〇、五一六円であつたこと、昭和四二年一月一日から本件株式売買までに配当金交付の効力が発生し、右金額が一株当り現金配当金一〇円であつたこと、被告の主張3項(四)のうち芦田寛蔵以下の者の身分関係とゼネラルの持株株数は、いずれも、当事者間に争がない。そうして前記乙第三号証によれば前記「パルプ・紙製造業(番号28)」の株価、配当金額、利益金額及び純資産価額の数値は被告の主張3項(五)(2)のとおりであることが認められる。そこで右認定事実と前記争のない事実を基にして前記方式により本件株式を評価し、かつ、修正を加えれば被告主張3項(五)(3)、(4)のとおりとなることが明らかである。他に上記方法に比しより合理的な株式評価にして、それによれば上記算定結果を覆して、さらに低額に評価し得るものと認められるような証拠は存しない。
そうだとすれば被告が本件株式を一株当り金二二〇円と評価したことは相当であつて、右評価額の点において違法は存しない。従つて、本件株式の対価たる一株当り金五〇円の価額は著しく低く、右差額たる一株当り金一七〇円に相当する金額を、原告らは訴外人から贈与に因り取得したものとみなされることとなる(相続税法七条)。これを前提とする本件各処分に違法は存しない。
一〇 よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中村捷三 住田金夫 池田辰夫)
別紙(二)~(一一)<省略>
別紙(一)
氏名
課税価格
納付すべき税額
無申告加算税額
芦田テイ
金三二三万九、〇〇〇円
[現金贈与額 金四〇万円
みなし贈与額金二八三万九、〇〇〇円
(金一七〇円×一万六、七〇〇株)]
金八四万六〇〇円
金八万四、〇〇〇円
芦田建夫
金三二七万三、〇〇〇円
[現金贈与額 金四〇万円
みなし贈与額金二八七万三、〇〇〇円
(金一七〇円×一万六、九〇〇株)]
金八五万四、二〇〇円
金八万五、四〇〇円
芦田英一
金二二三万九、〇〇〇円
[現金贈与額 金四〇万円
みなし贈与額金二八三万九、〇〇〇円
(金一七〇円×一万六、七〇〇株)]
金八四万六〇〇円
金八万四、〇〇〇円
芦田幸子
金三三四万一、〇〇〇円
[現金贈与額 金四〇万円
みなし贈与額金二九四万一、〇〇〇円
(金一七〇円×一万七、三〇〇株)]
金八八万一、四〇〇円
金八万八、一〇〇円
別紙(一二)
1 市場要因等排除しんしやく前の計算(常数「3」又は0.7掛け適用前)
83円×(8.7/3.4+86/11+295/86)×1/3=380円
380円-10円=370円……………………………370円
2 0.7掛けによる計算(昭和47年改正)
83円×(8.7/3.4+86/11+295/86)×1/3×0.7=266円
266円-10円=256円……………………………256円
3 常数3によるしんしやく後の計算(本件評価額)
83円×(8.7/3.4+86/11+295/86+3)×1/6=231円
231円-10円=221円……………………………221円