神戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)3号 判決 1979年11月30日
原告(選定当事者) 森田昌俊 ほか三九名
被告 建設大臣
代理人 根本真 岡崎真喜次 山下博 山野義勝 ほか六名
主文
一 原告らの訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告ら)
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和四八年一一月一九日、日本道路公団に対し、別紙図面の路線による山陽自動車道新設を認可した処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一 本案前の申立
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張<略>
第三証拠<略>
理由
一 請求原因1は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件認可が抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるかどうかについて判断する。
(一) 高速自動車国道の新設は、被告が行なう(高速自動車国道法六条)のであるが、被告および運輸大臣は、<1>国土開発幹線自動車道建設法により決定された予定路線(同法三条別表)のうちから政令でその路線を指定したもの(高速自動車国道法四条一項一号)、および、<2>高速自動車国道法により定められた予定路線(同法三条)のうちから政令でその路線を指定したもの(同法四条一項二号)について、審議会の議を経て当該高速自動車国道の新設に関する整備計画を定め、右整備計画のうち、<1>に係る整備計画については、国土開発幹線自動車道建設法五条一項の規定により決定された基本計画に基づき定めなければならないところ(高速自動車国道法五条)、被告は、右整備計画が決定された場合においては、遅滞なく高速自動車国道の区域を決定して、政令で定めるところにより、これを公示し、かつ、これを表示した図面を一般の縦覧に供しなければならず、高速自動車道の供用を開始しようとする場合においても、右区域決定と同じく、これを公示し、かつ、これを表示した図面を一般の縦覧に供しなければならない(同法七条)。ところで、被告は、高速自動車国道法六条の規定に拘わらず、公団をして前記整備計画に基づく高速自動車国道の新設を行なわせることができ〔道路整備特別措置法(以下措置法という)二条の二〕、公団が高速自動車道を新設しようとするときは、建設省令の定めるところにより、一、路線名及び工事の区間、二、工事方法、三、工事予算、四、工事の着手および完成の予定年月日を記載した工事実施計画書を作成し、措置法施行規則一条所定の工事実施計画明細書、平面図(縮尺二〇〇〇分の一)、縦断図、横断定規図等を添付して、予め被告の認可を受けなければならず、工事実施計画を変更する場合と同様である(措置法二条の三)。そして、公団が高速自動車国道を新設する場合においては、本来被告が新設工事のためになすべき道路の区域決定等の権限を被告に代つて行なうものとされているが(措置法六条の二)、公団が被告に代つて、その権限のうち、道路の区域決定等所定の権限を行使しようとするときには予め被告の承認を受け、また、これらの権限を行使したときには遅滞なくその旨を被告に報告しなければならない(措置法六条の二、二項)。また、被告は、公団の工事の途中においても、当該工事の検査を行なうことができ、右公団の工事に係る道路構造が検査の結果、認可した工事方法に適合しないと認めるときは、公団に対し、道路構造が認可を受けた工事方法に適合することとなるように、工事方法の変更その他必要な措置をとるべきことを命ずることができる(措置法一五条二項、三項)。さらに、公団が新設した高速自動車国道について料金を徴収しようとするときは、料金及び料金徴収期間について予め運輸大臣および被告の認可を受けなければならない(措置法二条の四)。
(二) 本件山陽自動車道は、国土開発幹線自動車道建設法により決定されたものであつて、前記の諸手続を経た後、被告が自ら新設することなく、措置法二条の二に基づいて被告から公団に対し昭和四七年六月二〇日付施行命令が発せられたものであることは弁論の全趣旨によつて明らかであるが、公団は、日本道路公団法(以下公団法という)に基づいて、有料道路の新設、改築、維持、その他の管理を総合的かつ効率的に行なうこと等によつて道路の整備を促進し、円滑な交通に寄与することを目的として設立された法人であつて(公団法一、二条)、その資本金は政府が全額出資したものであり、(公団法四条。なお、同条によれば、必要があるときは被告の認可を受けて資本金を増加することができ、政府は右の場合、予算に定める金額の範囲内で公団に出資することができる。)、その総裁および監事は被告が任命し、副総裁および理事は総裁が被告の認可を受けて任命することになつており(公団法一〇条)、有料道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行なうこと等を主要な業務とし(公団法一九条)、その業務開始の際、業務方法書を作成し、或いはこれを変更しようとするときは被告の認可を受けなければならないし(公団法二〇条)、その業務に関し、被告の監督を受け(公団法三四条、三五条)、毎事業年度、予算、事業計画および資金計画を作成し、事業年度開始前に被告の認可を受けることを要し、また、これを変更しようとするときも同様であつて(公団法二二条)、決算は、毎事業年度、財産目録、貸借対照表および損益計算書を作成して、被告に提出してその承認を受けなければならず(公団法二四条)、被告の認可を受けて長期もしくは短期借入金をし、または道路債券を発行することができるけれども(公団法二六条)、毎事業年度、長期借入金および道路債券の償還計画をたてて、被告の認可を受けなければならないことになつている(公団法二九条)ほか、不動産登記法および政令で定めるその他の法令については、政令で定めるところにより、公団を国の行政機関とみなしてこれらの法令を準用することとなつている(公団法三九条の二)。さらにまた政府は公団に対し、長期もしくは短期の資金の貸付をし、または道路債券の引受をすることができ(公団法二七条)、法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律三条の規定にかかわらず、国会の議決を経た金額の範囲内において、道路債券に係る債務について保証することができ(公団法二八条)、予算の範囲内において、公団に対し公団法一九条一項二号に掲げる業務に要する経費の一部を補助することができることになつている(公団法三〇条)。
(三) してみると、公団は、人事、業務執行、財政等あらゆる面において被告の強い監督のもとにあるとともに財政面において政府の強い保護のもとにあり、また、高速自動車道の新設は本来被告のなすべき業務であるにもかかわらず、被告は特に公団に対し、整備計画決定後の諸手続に関する被告の権限を代行施行させて、右高速自動車国道の新設を命じることができ、公団はその命令に従わなければならず、その際、公団は被告の監督下において権限を行使しなければならないことになつているのであるから、公団は、形式的には国から独立して法人格を有しており、国の行政機関とは一応区別されるものではあるけれども、公団法にもとづいて、行政主体としての国から独立し、国から前記の如き特殊な存立目的を与えられた特殊の行政主体として、国の特別な監督のもとに特定の公共事務・業務を行なうものであつて、実質的には、建設大臣の下部組織として、国家行政組織の一環をなし、重要な機能を果しているということができる。そして、被告は、基本計画、ならびに、これにもとづいて被告および運輸大臣が定めた本件道路新設に関する整備計画にもとづき、遅滞なく道路の区域を決定する等、新設の諸手続をなしうるものであつて、右権限は本来被告に属するものであるが、本件道路については、措置法二条の二により被告自ら本件道路を新設することなく、実質的な下級行政機関である公団に対して施行命令を発し、本件道路新設をなさしめたものであるから、被告において本来自らなすべき本件道路新設を公団に命じた以上、公団の工事実施計画が整備計画に適合するように監督指導する責務を負うものというべく、被告のなした本件認可は、被告の命令にもとづいて新設権限を委任された公団が、本件道路新設にあたり作成した工事実施計画書について、いわば被告が上級行政機関としての立場から下級行政機関としての公団に対し、前記整備計画との整合性等について審査のうえなす監督手段としての承認の性質を有するものというべきである。したがつて、本件認可は、これを実質的にみれば、右のとおり、行政機関相互間の内部的な行為と同視すべきものであつて、行政処分として何ら外部に対する効力を有するものではなく、したがつて外部に対する公示を必要とせず、また、本件認可によつて、直接国民の権利義務を形成し、もしくは、その範囲を確定する効果を伴う等、国民の権利義務に何らの変動を及ぼすものでないから、抗告訴訟の対象となる行政処分ということができない(なお、最高裁昭和五三年一二月八日判決、民集三二巻九号一六一七頁参照)。
三 原告らは、本件認可が施行命令により公団に付与された道路新設の一般的権能を具体的権能にまで高める設権的性質を有するとして、本件認可の行政処分性を主張するところがあり、公団が立法的に法主体性が認められるからには、本件認可が工事実施計画の「計画」に対しては監督手段としての承認であるとしても、「工事実施」に関しては権利・権能を付与する性質があるとして、本件認可の行政処分性を是認する見解もあるけれども、公団は被告の施行命令により整備計画決定後に関する被告の権限を代行施行するものであつて、本件認可により、いわば下級行政機関としての公団が上級機関である被告から、工事実施計画書の承認を受けるとともに、工事実施の権限が付与されるものと解する余地があり得るとしても、工事実施の権利・権能が付与されたものとは解することができないから、原告らの右主張は採用できないし、また、原告らは、被告が公団に対して認可拒否処分をしたときは、公団はその取消訴訟を提起できるので、本件認可は行政処分性を有し、単なる行政機関相互間の内部的行為ではないとも主張し、原告らの右主張は、公団が独立の法人である以上、違法、不当な命令、処分に対して、抗告訴訟の提起ができることを当然の前提とするものと解されるが、既に説示したとおり、公団は形式上は独立した法人ではあるが、実質上は行政組織の一環として、国の代行機関たる地位を占めているのであるから、これらを一体とみるべきであり、本件認可は、行政組織内の一種の内部行為の性格をもつものとする以上、認可の拒否処分についても、公団は、これを取消訴訟の対象とすることができないのは当然であつて、原告らの右主張も採用できない。また、原告らは、土地収用法上の事業認定処分における起業者たる公団と認定主体たる被告との関係も、右と同一の関係ゆえ、事業認定処分も内部的行為と同視せねばならず、行政処分に該当しないということになつて非常識な結果となると主張するが、土地収用法には、国が事業主体である事業も建設大臣の事業認定処分にかからしめる旨規定されているのみならず、同じ被告であつても、事業認定のときと本件認可のときでは、その地位役割、機能を全く異にしているのであるから原告らの右主張も当をえないものである。
四 よつて、本件認可は抗告訴訟の対象となる行政処分ということはできないので、原告らのその余の主張を判断するまでもなく右認可の取消を求める原告らの本件訴えは不適法として却下することとし、なお、原告らが求める文書提出命令の申立はその必要がないのでこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 阪井いく郎 谷口彰 上原理子)
別紙図面<略>