大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和50年(ワ)1142号

原告

中島高士

被告

川崎重工業株式会社

有限会社大正保温工業所

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自原告に対し、金一、八四三万二、八九四円およびうち金一、七三三万二、八九四円について昭和四七年一二月九日から、うち金一一〇万円について昭和五六年四月二八日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言。

二  被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告

1  原告は、建造中の冷凍船の船倉内壁に保温のため断熱材を張る工事(以下保温工事という)の請負を業とする被告有限会社大正保温工業所(以下被告大正保温という)に雇用され、保温工事に従事していた。

被告川崎重工業株式会社(以下被告川崎重工という)は、船舶の建造、販売を業とするものであるところ、神戸市生田区東川崎町二丁目一四番地の被告川崎重工の神戸工場内第五船台で製修番号一一八一番船(冷凍貨物船)を建造中であったが、被告大正保温は、昭和四七年一〇月一九日、被告川崎重工から右建造中の一一八一番船の第二および第四ホールド内の保温工事を請負っていた。

原告は、昭和四七年一二月八日午後二時四〇分ころ、右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースに保温工事のための防熱材を搬入するため、第四ホールド内に入り、Bスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分のところで、船外の木工浜クレーンによってつり上げられて第四ホールドのメインデッキの開口部よりAスペースの第二デッキの開口部を経て第四ホールド内につり下げられ、Bスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットから、右パレットに四段に積まれた防熱材の箱を降ろす作業に従事中、第三デッキ開口部船尾側出張り部分からパレットに積まれた防熱材の箱の上に登り、防熱材の箱を一つ、二つ第三デッキに降ろしたあと、四段目に積まれた右舷側の箱が落ちかかったので、手前に引いたときに右箱が三段目の箱に引っかかり、その拍子に手が滑り、後向きに転倒してパレットから転落して第三デッキの開口部分からCスペースの第四デッキに墜落した。その結果、原告は、左橈骨粉砕、左尺骨骨折、左肩上腕胸部打撲挫創、頸部捻挫の傷害を受けた。

2  被告大正保温は、右労働災害について、労働契約上の安全保証義務不履行による責任があるとともに、民法七〇九条による不法行為の責任がある。

右労働災害は、クレーンによってつり上げられたパレットの荷の上に乗って荷降し作業をさせ、しかも、Bスペースの第三デッキの開口部に安全ネットが展張されていなかったために発生したものであるが、被告大正保温としては、その指定する作業場所および提供する設備、機械等の諸施設から生ずる危険が労働者に及ばないように労働者の安全を保証するため、クレーンによってつり上げられたパレットの荷の上に乗って荷降し作業をさせてはならない義務があるとともに(クレーン等安全規則七二条)、Bスペースの第三デッキの開口部に墜落防止のための安全ネットを展張すべき義務があるのに、これを怠ったから、被告大正保温としては、労働契約上の安全保証義務不履行による責任があるとともに民法七〇九条による不法行為の責任がある。

3  被告川崎重工は、右労働災害について、民法七〇九条による不法行為の責任がある。

被告川崎重工は、労働安全衛生法一五条にいわゆる特定元方事業者に該当するから、被告川崎重工としては、同法二九条により、被告大正保温の労働者が移動式クレーンのパレットに乗って作業を行わないよう必要な指導を行うべき義務があるとともに、被告川崎重工は、造船業を行なう事業主であり、かつ、保温工事の注文者として、自ら建造する船舶内で被告大正保温の労働者に作業を行わしめていたのであるから、被告川崎重工としては、同法三一条一項により、Bスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットから第三デッキへの荷降し作業の際には、第三デッキ開口部に墜落防止のための安全ネットを展張するべき義務があるのに、これを怠ったものであって、被告川崎重工としては、右労働災害について、民法七〇九条による不法行為の責任がある。

4  原告は次の損害を被った。

(一) 休業損害 金二七六万三、五三六円

原告は本件労働災害による傷害のため、昭和四七年一二月九日から昭和五一年二月二九日まで休業を余儀なくし、受傷当時の平均賃金日額は金五、七九一円を下ることはなかったが、うち昭和四七年一二月九日から昭和五〇年一〇月三一日までの右平均賃金日額による休業損害より労災保険の休業補償給付を控除した金二七六万三、五三六円を本訴において請求する。すなわち、労災保険の休業補償給付日額は、昭和四七年一二月一二日から昭和四九年一〇月三一日までは右平均賃金日額金五、七九一円の六割に相当する金三、四七四円であり、同年一一月一日からは労基法七六条二項によって改訂された平均賃金日額金七、八七五円の六割に相当する金四、七二五円であるから、これにより、昭和四七年一二月九日から昭和五〇年一〇月三一日までの請求し得べき休業損害を計算すると金二七六万三、五三六円となる。

なお、労災保険の休業補償給付金は労働福祉事業として支給するものであるから損益相殺の対象とならないものである。

<1> 47.12.9~49.10.31

(5,791円-3,474円)×689日+5,791円×3日=1,613,786円

<2> 49.11.1~50.10.31

(7,875円-4,725円)×365日=1,149,750円

<3> <1>+<2>=2,763,536円

(二) 後遺症による逸失利益 金一、一五六万九、三五八円

原告は前記傷害による聴力障害、著明な手指の末梢循環障害等の後遺症(九級)により労働能力の三五パーセントを喪失し、当時、原告は年齢満四七才一か月であるから、その継続年数は就労可能年数一六年間に及ぶものといえるから、これにより逸失利益を算定すると金一、一五六万九、三五八円となる。

7,875円×365日×35/100×11.536(ホフマン係数)=11,569,358円

(三) 傷害に対する慰藉料 金三〇〇万円

原告は、本件労働災害による傷害のため、昭和四七年一二月八日から同月二七日まで金沢兵庫病院に入院し、同月二九日より昭和四八年五月一日まで同病院に通院し、昭和四八年五月一日から小原病院に通院して治療を受けているが、原告の精神的苦痛に対する慰藉料額は金三〇〇万円を下ることはない。

(四) 弁護士費用 金一一〇万円

5  よって、原告は被告らに対し、金一、八四三万二、八九四円およびうち金一、七三三万二、八九四円に対する損害発生の日の翌日である昭和四七年一二月九日から、うち金一一〇万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五六年四月二八日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告大正保温

1  原告主張1の事実中、原告が被告大正保温に雇用されていたことは否認し、事故の態様は争うが、その余は認める。同2の事実は否認する。同4(一)の事実のうち、原告が労災保険の休業補償給付を受けたことは認めるが、その受給額を争い、その余は知らない。同4(二)ないし(四)の事実は知らない。

2  被告大正保温は、昭和四七年一〇月一九日、被告川崎重工から請負った製修番号一一八一番船の第二および第四ホールド内の保温工事のうち、第四ホールド内のBスペースおよびCスペースの保温工事を代金二三〇万円で原告に請負わせたものである。

3  本件事故は、原告が右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースに保温工事のための防熱材を搬入するため、第四ホールド内に入り、Aスペースの第二デッキの開口部のところで、船外の木工浜クレーンによってつり上げられて第四ホールドのメインデッキの開口部から第四ホールド内につり下げられ、防熱材を積んで下りてくるパレットが円滑にBおよびCスペースに入るように待機していたところ、右パレットがAスペースの第二デッキの開口部を通過した後、梯子を下りて行くのが面倒なために右パレットに積んだ防熱材の上に乗ってBスペースの第三デッキまで下りようとして、Aスペースの第二デッキから開口部に特設されたパイプの手摺を超えてパレットに積んだ防熱材の上に飛び移った際、ワイヤーを掴みそこねて身体の平衡を失い、パレットから転落して第二、第三デッキの開口部を経てCスペースの第四デッキに墜落したものである。

4  原告は、被告大正保温がクレーンによってつり上げられたパレットの荷の上に乗って荷降し作業をさせてはならない義務があるとともに、Bスペースの第三デッキの開口部に墜落防止のための安全ネットを展張するべき義務があるのに、これを怠ったと主張する。しかし、被告大正保温は原告に対し、パレットに乗り移って作業するよう指示したことはないし、Bスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分にパレットを固定させておけば、仮に荷降しの都合でパレットの上に乗ったとしても危険はなく、Bスペースの第三デッキの開口部に特設された安全ネットの開閉は現場の作業員が行うもので、被告大正保温は作業員に対し、安全ネットを開く必要のないときは常時展張しておくようきびしく指導していたものである。しかるにクレーンによってつり上げられたパレットの上に積まれた防熱材をCスペースに搬入するため、原告またはその従業員である山田順が第三デッキの開口部に特設された安全ネットを開き、しかも、前記のように宙吊り状態のパレットのしかも不安定な荷物の上に飛び乗って転落したものであるから、被告大正保温には安全保証義務違反はない。

5  仮に被告大正保温になんらかの損害賠償義務があるとしても、原告の過失は重大であるから、過失相殺の法理を適用して、その損害額の算定について斟酌するべきであり、原告は労災保険から療養費については、その全額が給付されており、休業補償についても、昭和五一年二月二五日までの分として合計金五四七万二、七五七円が給付されているのであるから、損益相殺をすべきである。

三  被告川崎重工

1  原告主張1の事実中、原告が被告大正保温に雇用されていたことは否認し、事故の態様は争うが、その余は認める。同3の事実は否認する。同4は争う。

2  被告川崎重工は、昭和四七年一〇月一九日、被告大正保温に対し、製修番号一一八一番船の第二および第四ホールド内の保温工事を発注し、同被告がこれを請負ったものであるが、原告は被告大正保温から右保温工事のうち第四ホールド内のBスペースおよびCスペースの保温工事を請負ったものである。

3  原告は、被告川崎重工が下請負業者である被告大正保温の労働者において移動式クレーンのパレットに乗って作業を行わないよう必要な指導を行うべき義務があるとともに労働者が第三デッキ開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットから第三デッキへ荷降し作業をしている際には、第三デッキ開口部に墜落防止のための安全ネットを展張するべき義務があるのに、これを怠ったと主張する。しかし、被告川崎重工は、下請業者の作業員の安全管理についても万全を尽しているのであって、安全衛生問題を専門に扱うスタッフ部門として勤労部安全衛生課があり、一一八一番船に関しても、同課担当係員であった大谷信一が午前・午後各一回パトロールし、作業員の不安全な行為がなされているのを目撃すれば、その都度注意していたほか、一一八一番船の安全管理に責任のあった船殻工作部においても、統括主任者(専任)として担当職場長であった松本弥三郎が一日の約六ないし七割くらいは船上にいて、安全管理の徹底に努めていたものであるが、一一八一番船においても、パレットを固定して荷降し作業をなし得る状況にあったのであるから、作業員はパレットを固定して荷降し作業をすべきであり、移動中のパレット積荷の上に飛び移って荷降し作業をするがごときは、日常より被告川崎重工の厳しく禁止していたところであって、このことは関係者の常識であり、被告川崎重工の神戸工場に長期入構していた原告としても当然熟知していた事柄である。また、第三デッキの開口部に特設された安全ネットの開閉についても、被告川崎重工としては、その取り外しが必要な作業が終了した場合には、必ず展張しておくよう注意していた。本件事故当時、原告は、パレットに積んだ防熱材をCスペースの第四デッキまで降し、そこで荷降しをする予定であったので、安全ネットを展張しなかったと推測されるのであるが、仮に原告主張のようにBスペースの第三デッキに荷降しをするのであれば、原告が安全ネットを展張すべきであった。本件労働災害は、原告が被告川崎重工の前記指示を遵守しなかった重大な過失によって惹起したものであって、被告川崎重工には安全管理上においても、安全設備上においても全く過失はない。

第三証拠(略)

理由

一  被告川崎重工は、船舶の建造、販売を業とするものであって、神戸市生田区東川崎町二丁目一四番地の被告川崎重工の神戸工場内第五船台で製修番号一一八一番船(冷凍貨物船)を建造中であったが、被告大正保温は、保温工事の請負を業とするものであって、被告川崎重工から昭和四七年一〇月一九日右建造中の一一八一番船の第二および第四ホールド内の保温工事を請負っていたこと、原告は、被告大正保温が被告川崎重工から請負った右一一八一番船の第二および第四ホールド内の保温工事のうち、第四ホールド内のBおよびCスペースの保温工事に従事していたことは当事者間に争いがないところ、(証拠略)によれば、原告は被告大正保温から、右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースの保温工事を代金二三〇万円で請負ったものであるが、原告および原告に雇傭された労働者は、他の被告大正保温に雇傭された労働者と同様に、被告川崎重工の神戸工場内にある被告大正保温の現場事務所(現場ハウス)に、あらかじめ住所、氏名、生年月日を届出て、被告川崎重工の発行する請負工臨時入門証(<証拠略>)と被告大正保温の発行する出勤カード(<証拠略>)の交付を受け、その作業開始時である午前八時までに右入門証と出勤カードを携帯して被告川崎重工の神戸工場内に入門したうえ、被告大正保温の現場ハウスに出頭し、出勤カードを現場ハウスに提出して当日予定していた作業に作業終了時である午後四時(午後六時まで残業をすることもある。)まで従事した後、現場ハウスに出頭し、出勤した旨および残業をすれば残業時間を記入した出勤カードの返還を受けて被告川崎重工の神戸工場から退門していたこと、原告および原告に雇傭された労働者は右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースにおいて、他の被告大正保温に雇傭された労働者が右一一八一番船の第二ホールド内および第四ホールド内のAスペースで作業するのと同じ工程方法で、被告大正保温から提供を受けた材料と電気ドリルとか溶接機などの工具を使用し、被告大正保温の現場監督である木村信の作業指揮を受けて保温工事に従事していたことが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで原告が右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースで保温工事に従事中、昭和四七年一二月八日午後二時四〇分ころ、右第四ホールド内のBおよびCスペースに保温工事のための防熱材を搬入するため、第四ホールド内に入り、船外の木工浜クレーンによってつり上げられて第四ホールド内につり下げられたパレットに積まれた防熱材の箱の上に乗った際、パレットに積まれた防熱材の箱の上から転落してCスペースの第四デッキに墜落した結果、原告が左橈骨粉砕、左尺骨骨折、左肩上腕胸部打撲挫創、頸部捻挫の傷害を受けたことは当事者間に争いがないが、原告の主張するように原告が第四ホールド内のBスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットから転落したものか、あるいは被告らの主張するように原告が第四ホールド内のAスペースの第二デッキから開口部につり下げられたパレットに飛び移った際、パレットから転落したものか、いずれとも断定することはできない。すなわち、原告は、まず、原告が第四ホールド内のAスペースの第二デッキから開口部につり下げられたパレットに乗って落下しそうになった防熱材をつかんで手前に引いたところ、パレットから転落してCスペースの第四デッキに墜落したと主張し(訴状)、ついでBスペースの第三デッキ開口部に特設された鉄製ポールの上に載せてつり下げられたパレットに乗って荷降し作業に従事中パレットから転落したと主張を訂正し(昭和五一年二月二四日付準備書面)、さらにBスペースの第三デッキの開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットから転落したと主張するに至ったものであるが(昭和五五年三月六日準備書面)、(人証略)は、当初原告が第四ホールドのAスペースの第二デッキからパレットに乗って荷降し作業に従事中パレットから転落したと証言しながら、後日になって、Bスペースの第三デッキからパレットに乗って荷降し作業中に転落したと証言し、(人証略)は、原告がAスペースの第二デッキから開口部につり下げられたパレットに乗ってBスペースかCスペースに降りようとした際、パレットから転落したと、ほぼ被告らの主張に副う証言をし、(人証略)は、原告が第四ホールド内のBスペースの第三デッキから開口部につり下げられたパレットに乗って荷降し作業中に転落したと証言し、被告本人は、原告が第四ホールド内のBスペースの第三デッキ開口部船尾側出張り部分に預けられたパレットに乗って荷降し作業に従事中、落下しそうになった防熱材の箱を引いた際、パレットから転落してCスペースの第四デッキに墜落したと、ほぼ原告の主張に副う供述をするのであって、原告がパレットから転落した真相を把握することはできない。しかしながら、(証拠略)によれば、前記一一八一番船の第四ホールド内のBスペースの第三デッキ開口部には墜落防止のための安全ネットが特設されていたが、右安全ネットが展張されていなかったため、原告が船外の木工浜クレーンによってつり上げられて第四ホールドのメインデッキの開口部から第四ホールド内につり下げられたパレットから、右パレットに積まれた防熱材の箱に乗った際、転落してBスペースの第三デッキ開口部からCスペースの第四デッキに墜落したものであることは明らかである。右安全ネットがBスペースの第三デッキに特設されていなかったとする原告本人尋問の結果は信用しない。

二  原告が右一一八一番船の第四ホールド内のBおよびCスペースの保温工事に従事し、右保温工事のための防熱材を搬入するに際し、右墜落事故が発生したものであるが、原告が右保温工事に従事していたのは、被告大正保温との間に原告主張のような雇傭契約が締結されていたからではなく、請負契約が締結されていたからであることは前認定のとおりであるけれども、原告は被告大正保温から作業場所を右一一八一番船の第四ホールド内と指定され材料、主要な工具の提供を受け、その現場監督により作業指揮を受けて右第四ホールド内のBおよびCスペースの保温工事に従事していたものであるから、被告大正保温との間には雇傭関係と同視し得る使用従属関係が生じていたと認めるのが相当であって、被告大正保温はもとより、労働安全衛生法一五条にいわゆる特定元方事業者である被告川崎重工も、また、雇傭契約における労働者に対すると同様に作業による災害の危険全般に対して人的物的に安全に作業ができるようにする私法上の安全保証義務を負うものと解すべきである。

ところで(人証略)によれば、前記一一八一番船の第四ホールドはA、B、Cスペースに区分され、メインデッキから第二デッキまで三メートルのところがAスペース、第二デッキから第三デッキまで二・八六メートルのところがBスペース、第三デッキから第四デッキまで三メートルのところがCスペースであって、第四ホールドのほぼ中央部にはメインデッキ、Aスペースの第二デッキおよびBスペースの第三デッキの順に船尾からみてたて五・七八メートル、よこ六メートル(ただし、第三デッキはたて三・七八メートル、よこ五・九八メートル)の開口部があり、この開口部に船外の木工浜クレーンによってつり上げられたパレットがつり下げられて工事用資材が第四ホールド内の各スペースに搬入されることになっていたことが認められるから、このような場所、方法で労働者に工事用資材を搬入する作業をさせるためには、使用者側に課せられる安全保証義務として、すくなくともBスペースの第三デッキ開口部に墜落防止のための安全ネットを特設する義務があるとともに、パレットが第三デッキの開口部を上下するとき以外は右安全ネットを展張するよう、また、パレットの上に乗って作業をすることのないよう教育を施すべき義務があるべきところ、Bスペースの第三デッキ開口部に墜落防止のための安全ネットが特設されていたことは前記認定のとおりであって、(人証略)によれば、被告川崎重工は労働安全衛生法にもとづく組織のもとに船上安全会議の場などを通じて下請業者に対し、また、勤労部安全衛生課の担当係員や船殻工作部の統括主任者(専任)が定期的に巡回して直接労働者に対し、パレットが第三デッキの開口部を上下するとき以外は常時安全ネットを展張するよう教育していたし、また、クレーンによってつり下げられたパレットの上に乗って作業をすべきでないことは常識として労働者の認識するところであったので、ことさら教育をすることがなかったけれども、目撃したときは厳重に注意していたところであり、被告大正保温も配下の労働者に対し、同様注意していたことが認められ、右認定に反する(人証略)は信用できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。本件墜落事故は、前記一一八一番船の第四ホールド内のBスペースの第三デッキ開口部に特設されていた安全ネットが展張されていなかったために、原告が第四ホールド内につり下げられたパレットから、右パレットに積まれた防熱材の箱の上に乗った際、転落してBスペースの第三デッキ開口部からCスペースの第四デッキに墜落して発生したものであるが、右安全ネットが展張されていなかったのは、原告がBおよびCスペースに防熱材を搬入するために展張されていた安全ネットを開いたものか、あるいは、なにかの機会に展張されていた安全ネットを開いたまま放置されていたものか明らかにすることができないけれども、原告は、右安全ネットを展張しないまま、つり下げられたパレットに積まれた防熱材の箱の上に乗って転落したもので、被告川崎重工および被告大正保温は、ともに具体的な安全保証義務を果たしており、本件墜落事故は、もっぱら禁止行為をあえて無視した原告の過失に起因し、被告両会社になんらの帰責事由はないというべきである。

もっとも原告は、被告両会社が配下の労働者に安全ネットの操作について教育を施すべきであり、労働者にパレットから荷降し作業をさせる際には、被告両会社自らが安全ネットを展張すべきであると主張するのであるが、(人証略)によれば、安全ネットの操作は極めて容易であって、ことさら教育を施す必要のないものであることが認められ、したがって、また、被告両会社としては、墜落防止のために安全ネットを特設し、労働者に展張を義務づければ足りるのであって、自らが安全ネットを展張しなければならない義務までも負うものでないし、常時監視人を置いて労働者が安全ネットを展張して作業をしているかどうかを見廻るべき義務もないというべきである。

三  そうすると、本件墜落事故について、被告川崎重工および被告大正保温には安全保証義務違反がないことが認められるから、被告大正保温は安全保証義務不履行による責任も、また、民法七〇九条による不法行為の責任も負うことはないし、被告川崎重工も民法七〇九条による不法行為の責任を負うこともないというべきであって、原告の被告両会社に対する本訴各請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!