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神戸地方裁判所 昭和51年(ワ)828号 判決 1981年4月07日

主文

原告の本件各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(原告)

原告に対し、

1  被告中村慶一は、別紙物件目録(五)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ昭和五一年九月二九日以降右明渡し済みに至るまで一か月金一万五〇〇〇円の割合による金員の支払を、

2  被告劉来喜は、別紙物件目録(五)記載の建物から退去して同目録(二)記載の土地の明渡しを、

3  被告同前志郎は、別紙物件目録(六)記載の建物を収去して同目録(三)記載の土地を明渡し、かつ昭和五一年九月二九日以降右明渡し済みに至るまで一か月金四〇九七円の割合による金員の支払を、

4  被告伊藤染工株式会社は、別紙物件目録(七)記載の建物を収去して同目録(四)記載の土地を明渡し、かつ昭和五一年一〇月七日以降右明渡し済みに至るまで一か月金四五一〇円の割合による金員の支払を、

5  被告浜田政敏は、別紙物件目録(七)記載の建物から退去して同目録(四)記載の土地の明渡しを、

それぞれせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告ら)

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)を所有している。

二1  被告中村は、本件土地のうち別紙物件目録(二)記載の土地(以下、本件(二)土地等という。)上に同目録(五)記載の建物(以下本件(五)建物等という。)を所有する等して、本件土地を占有している。

2  被告劉は、本件(五)建物に居住する等して本件(二)土地を占有している。

3  被告同前は、本件土地のうち本件(三)土地上に本件(六)建物を所有して、本件(三)土地を占有している。

4  被告伊藤染工は、本件土地のうち本件(四)土地上に本件(七)建物を所有して、本件(四)土地を占有している。

5  被告浜田は、本件(七)建物に居住する等して本件(四)土地を占有している。

三1  なお、本件土地は、原告の先々代末正盛治が訴外六ノ坪合資会社に使用貸借し、訴外六ノ坪合資会社が昭和一一年七月二九日被告中村の先代である中村国義に対し、目的非堅固建物の所有、期限昭和一五年九月三〇日と定めて賃貸し、中村国義は本件土地上に一棟三戸の建物を所有してこれを他に賃貸してきた。

2  右中村国義は、昭和二〇年三月一七日死亡し、被告中村が家督相続により右一棟三戸の建物の所有権を取得し、本件土地の賃借人たる地位を承継した。

3  右賃貸借契約は自働更新され期間は昭和五五年九月三〇日までとなつている。

4  然るところ、昭和五一年五月三〇日本件土地の隣地から出火した火災(以下、本件火災という。)により、右一棟三戸の建物のうち本件(四)土地上に存する南側一戸(家屋番号二二番三、占有者被告浜田)及び本件(三)土地上に存する中央一戸(家屋番号二二番二、占有者被告同前)は全焼し、残る本件(二)土地上に存する北側一戸(家屋番号二二番、占有者被告劉)もその大部分が焼失した。

5  ところが、被告同前は、右全焼した建物(家屋番号二二番二)の跡地である本件(三)土地上に借地権がないのに自ら本件(六)建物を建築所有し、また全焼した建物(家屋番号二二番三)は従来から借地権のない被告伊藤染工の所有名義となつており、焼失後の本件(七)建物の新築も同被告においてなしていることが判明した。

6  そこで、六ノ坪合資会社は、昭和五一年七月一六日被告中村に到達した内容証明郵便により、本件土地賃貸借契約を無断転貸を理由に解除する旨の意思表示をした。

7  したがつて、いずれにしても被告らは本件土地につき何らの権限もないものである。

四  よつて、原告は、本件土地所有権に基き

1 被告中村に対し、本件(五)建物を収去して本件土地の明渡しを求めるとともに同被告に対して本件訴状が送達された日の翌日である昭和五一年九月二九日以降右土地明渡し済みに至るまで一か月金一万五〇〇〇円の割合による損害金の支払を、

2 被告劉に対し、本件(五)建物から退去して本件(二)土地の明渡しを

3 被告同前に対し、本件(六)建物を収去して本件(三)土地の明渡しを求めるとともに同被告に対して本件訴状が送達された日の翌日である昭和五一年九月二九日以降右土地明渡し済みに至るまで一か月金四〇九七円の割合による損害金の支払を、

4 被告伊藤染工に対し、本件(七)建物を収去して本件(四)土地の明渡しを求めるとともに同被告に対して本件訴状が送達された日の翌日である昭和五一年一〇月七日以降右土地明渡し済みに至るまで一か月金四五一〇円の割合による損害金の支払を

5 被告浜田に対し、本件(七)建物から退去して本件(四)土地の明渡しを

それぞれ求める。

五  仮りに、無断転貸による解除が認められないとしても、本件土地賃貸借契約は、二回の法定更新により期限が昭和五五年九月三〇日となつているところ、従前の三戸一棟の建物は本件火災によりその一部は原形をとどめたものの、全体としてみれば滅失したというべきで、かつ右各建物は大正年間に建てられた建物で極めて老朽化していたもので、遅くとも従来の賃貸期間である昭和五五年九月三〇日までには朽廃すべかりしものであつた。六ノ坪合資会社は、本件火災後遅滞なく借地法七条による異議を述べたから、遅くとも昭和五五年九月三〇日限り賃貸借契約は終了する。

ところが被告らは従前建物の焼燬の程度を争い右期日に至るも任意の明渡しに応じないことが明らかであるから、原告は被告らに対し、予備的に将来の給付として、昭和五五年九月三〇日限り、前項各土地の明渡しを求めるとともに被告中村、同同前、同伊藤染工に対し、同日以降明渡し済みに至るまで前項と同一の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告ら(被告伊藤染工を除く。)の認否)

一  認める。

二1  認める。ただし被告中村の占有土地の範囲は、本件土地の全部でなく、本件(二)土地の北側に存する私道部分を除いた部分であり、占有の形態は、本件(二)土地(私道部分を除く。)上に家屋番号二二番の建物を所有することにより、本件(三)土地上に家屋番号二二番二の建物を所有することにより、本件(四)土地を被告伊藤染工に転貸することにより占有しているものである。

2  認める。ただし被告劉の占有土地の範囲は本件(二)土地の全部ではなく、私道部分を除いた部分であり、占有の形態は同地上の家屋番号二二番の建物に居住する等することにより占有しているものである。

3  認める。ただし被告同前の占有の形態は家屋番号二二番二の建物に居住する等することにより占有しているものである。

4  不知

5  認める。ただし被告浜田の占有の形態は家屋番号二二番三の建物に居住する等することによるものである。

三  六ノ坪合資会社と中村国義との間の賃貸借契約、中村国義が三戸一棟の建物を所有し他に賃貸してきたこと、賃貸期間が昭和五五年九月三〇日までとなつていること、同人の死亡と被告中村の相続、本件火災があつたこと(焼燬の程度を除く。)、二二番三建物が被告伊藤染工所有名義となつていること、解除の意思表示があつたことは認め、その余は否認する。

四  争う。

五  借地法七条の異議があつたことは認め、その余は争う。

(被告伊藤染工の認否)

一  原告の本件土地所有については不知。

二  被告伊藤染工が本件(四)土地を占有することは認める。

三  本件火災があつたこと(焼燬の程度を除く。)、家屋番号二二番三の建物が被告伊藤染工の所有名義となつていることは認め、その余は不知。

四  争う。

五  借地法七条の異議があつたことは認め、その余は争う。

(被告ら(被告伊藤染工を除く。)の抗弁)

一  被告中村は、六ノ坪合資会社との間の賃貸借契約に基き本件土地(私道部分を除く。)を占有するものであり、被告同前は、被告中村が本件土地上に所有する一棟三戸の建物のうち中央の一戸(家屋番号二二番二)を、被告劉は、北側の一戸(家屋番号二二番)を、それぞれ中村から賃借し、それぞれその敷地である本件(三)土地、本件(一)土地(ただし私道部分を除く。)を占有するものである。

また被告浜田は、後述のとおり被告中村から本件(四)土地を転借した被告伊藤染工から、同被告の所有する前記一棟三戸の建物のうち南側の一戸(家屋番号二二番三)を昭和四四年七月ころ賃借し、その敷地である本件(四)土地を占有するものである。

二  原告が主張する六ノ坪合資会社が中村に対してなした本件土地賃貸借契約の解除は無効である。

1 原告は、二二番二の建物は全焼し、被告同前がその跡地に本件(六)建物を新築所有したと主張するが、被告同前は従前の一棟三戸の建物の中央部分(家屋番号二二番二)の建物の火災による被害個所を修復したに過ぎず、被告中村が被告同前に本件(三)土地を転貸したと評価されるべきものではない。

2 被告中村は、昭和二五年一二月七日被告伊藤染工に対し、本件土地上の一棟三戸の建物のうち南側の一戸(家屋番号二二番三)を売却しもつて本件(四)土地を転貸したものであり、被告浜田は、昭和四四年七月ころ被告伊藤染工から右建物を賃借し、その敷地である本件(四)土地を占有しているものである。

ところで、右売却当時六ノ坪合資会社ないしは末正盛治の土地管理人として代理権を有していた訴外樫は、被告中村が負担する二戸分の地代と、被告伊藤染工の負担する一戸分の地代(被告伊藤染工はこれを自己の小切手で支払つていた。)を集金してきたもので、被告中村から被告伊藤染工への右建物売買に伴う本件(四)土地の転貸を承諾した。

仮りに右の承諾が認められないとしても、右の転貸は昭和二五年一二月七日のことであり、六ノ坪合資会社が解除の意思表示をしたのはそれから二〇年余を経過した昭和五一年七月一六日のことであるから解除権は時効により消滅した。仮りに消滅時効の主張が認められないとしても、右解除権は失効の原則により失効した。

また、六ノ坪合資会社は二五年数か月にわたり、登記簿の調査、占有者への問合せ等により容易に右転貸の事実を知り得べきであつたのに漫然地貸領収を続けてきたもので、たまたま本件火災により占有者が交替するのではないかとの危惧から本件解除に及んだと考えられ、転貸により借地の使用状況が格別変化するものでもないことを考慮すると、右転貸は賃貸人に対する背信行為となすに足りない特段の事情があり、右解除権の行使は信義則に違反し、権利の濫用として許されないものである。

3 仮りに、右主張が認められず、解除の効力が認められるとしても、本件建物は一棟三戸であつて各戸独立の家屋番号が付されているのであるから、その敷地の賃貸借契約解除の効果も、その解除原因を生じた部分に限られるべきである。

(被告伊藤染工の抗弁)

被告伊藤染工は、昭和二五年一二月七日本件土地上の一棟三戸の建物のうち南側の一戸(家屋番号二二番三)を被告中村から買い受け、その敷地である本件(四)土地は被告中村の所有と信じて同被告から賃借権の設定を受け、以後同被告に対し賃料を支払つてきたものであるが、仮りに原告主張のとおり右土地が原告の所有であり、原告主張の経過により被告中村が賃借していたものであるとすれば、被告伊藤染工は、被告中村から本件(四)土地を転借していたこととなるのであるが、昭和二五年一二月七日以来二五年数か月にわたつて六ノ坪合資会社から無断転貸である旨指摘されたことはないから、解除権は失効の原則により失効したというべきである。

(認否)

被告ら(被告伊藤染工を除く。)の抗弁について

一  六ノ坪合資会社と被告中村間の賃貸借契約については認め、被告同前、同劉、同浜田の占有権限については不知。

二1  否認する。

2  被告中村が被告伊藤染工に一棟三戸の建物のうち南側の一戸(家屋番号二二番三)を売却し本件土地のうち本件(四)土地を転貸したことは認め、その余は争う。六ノ坪合資会社は本件火災に至るまで右転貸の事実を知らなかつたものである。

3  争う。

被告伊藤染工の抗弁について

被告ら(被告伊藤染工を除く。)の抗弁に対する認否二の2に同じ。

第三  証拠(省略)

物件目録(一)

神戸市長田区菅原通四丁目四番弐

一、宅地    壱六七・壱参平方米

別紙図面に<イ><ニ><ホ><チ><イ>で囲む部分

物件目録(二)

神戸市長田区菅原通四丁目四番弐

一、宅地    壱六七・壱参平方米

右の内、別紙図面に<イ><ロ><ト><チ><イ>で囲む部分

七壱・弐四平方米

物件目録(三)

神戸市長田区菅原通四丁目四番弐

一、宅地    壱六七・壱参平方米

右の内、別紙図面に<ロ><ハ><ヘ><ト><ロ>で囲む部分

四五・六五平方米

物件目録(四)

神戸市長田区菅原通四丁目四番弐

一、宅地    壱六七・壱参平方米

右の内、別紙図面に<ハ><ニ><ホ><ヘ><ハ>で囲む部分

五〇・弐五平方米

物件目録(五)

神戸市長田区菅原通四丁目四番地弐 宅地 壱六七・壱参平方米

右の内、別紙図面に<イ><ロ><ト><チ><イ>で囲む部分 七壱・弐四平方米

地上

家屋番号 四番弐の壱

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺弐階建 店舗

床面積 壱階 参六・七弐平方米

弐階 参六・七弐平方米

(右は、家屋番号弐弐番の建物が滅失した跡地に昭和五一年六月ごろ新築された建物)

物件目録(六)

神戸市長田区菅原通四丁目四番地弐 宅地 壱六七・壱参平方米

右のうち、別紙図面に<ロ><ハ><ヘ><ト><ロ>で囲む部分 四五・六五平方米

地上

家屋番号 四番弐の弐

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺弐階建 店舗

床面積 壱階 四弐・壱弐平方米

弐階 四弐・壱弐平方米

(右は、家屋番号弐弐番弐の建物が滅失した跡地に昭和五一年六月ごろ新築された建物)

物件目録(七)

神戸市長田区菅原通四丁目四番弐 宅地 壱六七・壱参平方米

右のうち、別紙図面に<ハ><ニ><ホ><ヘ><ハ>で囲む部分 五〇・弐五平方米

地上

建物の残骸

(右は、家屋番号弐弐番参の建物の残骸であり屋根も殆んどないが、応急措置を施して店舗に利用されている。)

但し、家屋番号弐弐番参

木造瓦葺弐階建 店舗

床面積 壱階 弐六・九四平方米

弐階 壱九・八参平方米

<省略>

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