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神戸地方裁判所 昭和51年(ワ)908号 判決 1983年3月30日

原告

東京海上火災保険株式会社

右代表者

柏木黙二

右訴訟代理人

赤木文生

神田靖司

高橋信久

山口修司

被告

ザ・シッピング・コーポレーションオブ・インディア・リミテッド

右代表者

アドミラル・エス・エム・ナンダ

右訴訟代理人

石井萬里

佐野稔

主文

一  被告は、原告に対し、金二六二四万三七四七円及びこれに対する昭和五三年六月二三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一一を原告の負担とし、その九を被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五八一九万八六六九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、海上保険及び火災保険その他の損害保険の引受等を業とする会社であり、被告は、海上における物品の運送等を業とする会社である。

2(一)  訴外伊藤忠商事株式会社(以下伊藤忠という。)は、昭和四九年八月ころ、インド国カルカッタ市所在の左記輸出業者から、次のとおりカーペット裏地を買い受けた。

(1) ヘイスチングス・ミル・リミテッド(以下ヘイスチングスという。)より四〇ロール(二万〇〇四一ヤード)を代金エフ・オー・ビー価格米貨一万一七七四ドル及び三〇ロール(一万五〇二三ヤード)を代金シー・アンド・エフ価格米貨六八〇〇ドル二六セントにて買い受け、

(2) ザ・ゼネラル・インダストリアル・ソサイエティ・リミテッド(以下ゼネラルという。)より三〇五ロール(一六万七四六三ヤード)を代金シー・アンド・エフ価格英貨3万9478.04ポンドにて買い受け、

(3) バーラップ・ディーラーズ・プライベイト・リミテッド(以下バーラップという。)より七一ロール(三万七五三八ヤード)を代金シー・アンド・エフ価格英貨8491.70ポンドにて買い受け、

(二)  ヘイスチングス、ゼネラル及びバーラップは、同年九月ころ、右商品につき、カルカッタから神戸に至る海上運送を被告に委託した。被告は、同月上旬から中旬にかけて、カルカッタ港において右商品を外観上良好な状態で汽船ビシュバ・ビクラム(VISHVA VIKRAM)(以下本船という。)に船積して海上運送を引き受け、右三者に対しその旨の船荷証券合計一八通を発行した。

伊藤忠は、そのころ右三者に対し右商品代金を支払い、右各船荷証券を取得した。

3(一)  訴外入船株式会社(以下入船という。)は、昭和四九年五月ころから八月ころまでの間に、インド国カルカッタ市所在バード・アンド・カンパニー(プライベイト)リミテッド(以下バードという。)から、カーペット裏地七三三ロール(22万6868.50メートル)を代金シー・アンド・エフ価格英貨5万6433.54ポンドにて買い受け、麻袋九二〇ベール(五五万二〇〇〇袋)を代金シー・アンド・エフ価格英貨10万6670.77ポンドにて買い受けた。

(二)  バードは、同年九月ころ、右各商品につき、カルカッタから神戸に至る海上運送を被告に委託した。被告は、同月中旬ころ、カルカッタ港において右商品を外観上良好な状態で本船に船積して海上運送を引き受け、バードに対しその旨の船荷証券合計一一通を発行した。

入船は、そのころ、バードに対し右商品代金を支払い、右各船荷証券を取得した。

4(一)  訴外中本商事株式会社(以下中本という。)は、昭和四九年七月ころ、インド国カルカッタ市所在ザ・ノースブルック・ジュート・カンパニー・リミテッド(以下ノースブルックという。)からカーペット裏地一三七ロール(四万五八二二ヤード)を代金シー・アンド・エフ価格英貨9785.75ポンドにて買い受けた。

(二)  ノースブルックは、同年八月ころ、右商品につき、カルカッタから神戸に至る海上運送を被告に委託した。被告は、同月下旬ころ、カルカッタ港において右商品を外観上良好な状態で本船に船積して海上運送を引き受け、ノースブルックに対しその旨の船荷証券合計二通を発行した。

中本は、そのころノースブルックに対し右商品代金を支払い、右各船荷証券を取得した。

5  本船は、昭和四九年九月中旬頃カルカッタ港を出航し、同年一〇月一六日神戸港に入港した。前記各商品は同月一七日から二五日までの間に陸揚され、伊藤忠、入船及び中本に引き渡されたが、引渡しの際に、左記の損傷が発生していた。

(一) 伊藤忠輸入カーペット裏地四四六ロールのうち三九六ロールが汐濡れ損傷を受けていた。

そのため、伊藤忠は左記の損害を被つた。

(1) 金三四六〇万七二〇八円 商品自体の損傷

(2) 金三〇七万七五二三円 商品の損傷部分を取り除いて仕分けするのに必要な人件費及び保管費用等

(3) 金一五万円 損害鑑定費用

合計金三七八三万四七三一円

(二) 入船輸入カーペット裏地七三三ロールのうち五九八ロール並びに麻袋五五万二〇〇〇袋のうち九万〇三四四袋が、それぞれ汐濡れ損傷を受けていた。

そのため、入船は左記の損害を被つた。

(1) 金一二四五万三二二七円 カーペットの損傷

(2) 金二三五万八六五六円 カーペットの損傷部分を取り除き仕分けするのに必要な人件費及び保管費用等

(3) 金二一万五〇〇〇円 カーペットの損害鑑定費用

(4) 金一二四九万四〇一五円 麻袋の損傷

(5) 金一六万円 麻袋の損害鑑定費用合計金二七六八万〇八九八円

(三) 中本輸入カーペット裏地一三七ロールのうち八一ロールが汐濡れ損傷を受けていた。

そのため、中本は左記の損害を被つた。

(1) 金二六五万六三一五円 商品自体の損傷

(2) 金四八万五二二〇円 商品の損傷部分を取り除いて仕分けするのに必要な人件費及び保管費用等

(3) 金三万三〇〇〇円 商品の損害鑑定費用

合計金三一七万四五三五円

6  前記損傷は、本船のハッチカバーから海水が浸入したため、あるいは、船艙が水密性に欠けていたために発生したものであるから、海上運送人たる被告は右各荷受人の被つた損害(以下本件損害という。)につき賠償責任を負うべきである。

7(一)  原告は、前記商品の海上運送に先立ち、伊藤忠から同社輸入のカーペット裏地全量を保険の目的とし、保険価額を合計金五三二六万三〇〇〇円とする貨物海上保険を引き受けていたので、右損害を填補するため、伊藤忠に対し、昭和五〇年三月二七日金三七六八万四七三一円、同年四月二五日金一五万円を支払い、損傷商品の所有権と、伊藤忠が被告に対して有する右損害賠償請求権とを保険代位によつて取得した。

なお、原告は、右損傷商品を第三者に売却し、金七八五万八七四五円の売得金を得たので、被告に対する請求権はその限度で減少し、金二九九七万五九八六円となつた。

(二)  更に、原告は、右同様入船からも、前記カーペット裏地全量を保険の目的とし、保険価額を合計金四八二九万一〇〇〇円とする貨物海上保険を、前記麻袋全量を保険の目的とし、保険価額を合計金八七〇七万円とする貨物海上保険をそれぞれ引き受けていたので、右損害を填補するため、入船に対し、昭和五〇年五月三〇日金一五〇二万六八八三円、同年六月一一日金一二六五万四〇一五円を支払い、損傷カーペット裏地の所有権と、入船が被告に対して有する右損害賠償請求権とを保険代位によつて取得した。

なお、原告は、右損傷カーペット裏地を第三者に売却し、金二六三万二七五〇円の売得金を得たので、被告に対する請求権はその限度で減少し、金二五〇四万八一四八円となつた。

(三)  原告は、前同様中本からも、前記カーペット裏地全量を保険の目的とし、保険価額を合計金一〇〇〇万円とする貨物海上保険を引き受けていたので、右損害を填補するため、中本に対し、昭和五〇年六月二六日金三一七万四五三五円を支払い、中本が被告に対して有する損害賠償請求権を保険代位によつて取得した。

8  よつて、原告は、被告に対し、右代位による損害賠償として、合計金五八一九万八六六九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2のうち、被告が昭和四九年九月ころヘイスチングス、ゼネラル及びバーラップの各社から、カーペット裏地計四四六ロールにつき、カルカッタから神戸に至る海上運送を依頼された事実、及び被告がカルカッタ港において原告主張の時期に本船に右商品を船積して海上運送を引き受け、右三社に対し計一八通の船荷証券を発行した事実を認める。その余の事実は知らない。なお、右四四六ロールの内訳は、ヘイスチングス七〇ロール、ゼネラル三四二ロール、バーラップ三四ロールである。

3  請求原因3のうち、被告が昭和四九年九月ころバードからカーペット裏地七三三ロール及び麻袋九二〇ベールにつき、カルカッタから神戸に至る海上運送を依頼された事実、及び被告がカルカッタ港において原告主張の時期に本船に右商品を船積して海上運送を引き受け、右バードに対し計一一通の船荷証券を発行した事実を認める。その余の事実は知らない。

4  請求原因4のうち、被告が昭和四九年八月ころノースブルックからカーペット裏地一三七ロールにつき、カルカッタから神戸に至る海上運送を依頼された事実、及び被告がカルカッタ港において原告主張の時期に本船に右商品を船積して海上運送を引き受け、右ノースブルックに対し船荷証券二通を発行した事実を認める。その余の事実は知らない。

5  請求原因5のうち、前記各商品(以下、本件各商品という。)が原告主張のころ神戸港に陸揚された事実を認める。本船のカルカッタ出航は昭和四九年九月二二日、神戸入港は同年一〇月一五日である。その余の事実は知らない。

6  請求原因6の事実は、すべて争う。

7  請求原因7の事実は、すべて知らない。

三  抗弁

1  海上の危険による免責

本件海上運送に対して被告が発行した各船荷証券(すべて同一の書式を使用。以下本件各船荷証券という。)の裏面約款一条によれば、運送人(被告)は、海上の危険によつて生じた損害に対して責任を負わず、また仮に船舶が不堪航であつたとしても、堪航能力確保についての善管注意義務を果たしておれば、よつて生じた損害についてやはり免責される旨規定している。

ところで、本船は、神戸入港前の昭和四九年一〇月一一日から一三日までの三日間、風力一〇ないし一一、波浪一〇ないし一一メートルに達し、船体艤装各部に損傷を被る程の特に激甚な荒天に遭遇したが、かかる異常な天候は、通常の航海においては予測困難な海固有の危険というべく、被告の支配の及ばない現象である。

仮に、本件損害が荒天中にハッチ口から浸水した海水によつて生じたものであつても、本船のマクレガータイプのハッチカバーは、堪航性に問題のないことを各国船級協会が承認し、現今の貨物船の多くに採用されているものであり、不良個所が生ずれば直ちに補修され、本航海時には良好の状態にあつたうえ、本件荒天時には、船内大工及び乗組員が可能な限りの対策を講じたものである。

このような状況下で、異常な荒天下で波から継続的に巨大な力を受け、その結果船体にねじれ、まげ等のゆがみを生ずることは避け難く、かかる事態がハッチ口とハッチカバーの間に隙間を生ぜしめ、その結果海水が船艙に浸入したとしても、それは、荒天遭遇による不可避の損害であるから、被告は免責される。

2  荷揚後の損害についての免責

本件損害の原因が仮に海上の危険にあたらないとしても、運送品の荷揚後の事実により生じた損害についての免責約款は有効であるところ(船荷証券統一条約七条、国際海上物品運送法一五条三項参照)、本件各船荷証券七条には、運送品が本船を離れた後の損害については運送人は責任を負わない旨の条項が設けられているので、被告は、荷揚後の損害については責任を負わない。

そして、本件各商品に生じたとされる前記汐濡れ損害は、いずれも荷揚後に生じたものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

抗弁1の事実及び主張は争う。

海上の危険又は海固有の危険を理由とする免責が認められるためには、当該荒天が、船舶が完全な堪航能力(堪貨能力)を保持し、かつ十分な能力のある船員が(人的堪航能力)十分な注意義務を尽しているにもかかわらず、これらを無力とする程の予測を超えたものでなければならず、かつ、当該荒天と積荷の損害との間に因果関係の存することが必要である。そして、右の因果関係としては、一般的に、当該荒天により船体に何らかの損傷が生じ、当該損傷が原因で積荷の損害が発生したことが必要である。

ところが、本件において被告が遭遇したと主張する荒天の程度は、被告主張の如き激甚なものではなく、通常の航海において十分予測可能なものであり、本件損害は、本船が堪航能力を欠いていたために発生したものであるから、被告主張の免責の抗弁は成り立たない。

2  抗弁2について

本件各船荷証券中に被告主張の如き条項が存することは認める。

しかし、本件損害中に陸揚後に生じたものが存することは争う。

五  再抗弁

(抗弁2に関し)

1 仮に、本件損害中に荷揚後に生じたものが存するとしても、船荷証券統一条約七条の規定は、いかなる内容の免責約款をも有効とする趣旨ではなく、船積前、荷揚後に生ずる事項については、各国の国内法の規定に任せたのである。

ところで、本件各船荷証券においては、インド共和国法を準拠法と指定しているが、この趣旨は、本船から荷揚後の事項についてまでインド共和国法を準拠法とするものでないから、運送品を荷揚後(すなわち艀取後)陸上の倉庫において荷受人に引き渡すまでの間を規制する法規は、わが国の陸上運送の規定である。

陸上運送については、商法七三九条の如き免責約款を制限する明文の規定はないが、海上運送の場合と同様に、運送人又はその履行補助者の故意又は重過失に起因する運送品の損傷について免責することなどは許さるべきでない。

そして、本件において荷揚後に生じたとされる損害は、被告又はその履行補助者である荷揚業者の故意又は重過失によつて生じたものであるから、被告は免責されない。

2 仮にそうでないとしても、本件各船荷証券裏面約款七条は、「荷揚後の運送品の如何なる滅失、損傷、延着についても責任を負わない」旨規定するが、このように荷揚後の運送品の滅失等について、原因の如何を問わず、また運送人その他運送人が責任を負うべき者の有責性の有無を問わず一切責任を負わないという特約は、公序良俗に反し、許さるべきではなく、無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張及び事実は争う。

2  同2の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一原被告の地位

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二カーペット裏地等の売買及び運送契約の締結

1  <証拠>によれば、伊藤忠が請求原因2(一)のとおり、ヘイスチングス、ゼネラル及びバーラップからカーペット裏地を、入船がバードから請求原因3(一)のとおりカーペット裏地及び麻袋を、中本が請求原因4(一)のとおりノースブルックからカーペット裏地を、それぞれ買い受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

2  昭和四九年九月ころヘイスチングス、ゼネラル及びバーラップがカーペット裏地計四四六ロールにつき、同年同月ころバードがカーペット裏地七三三ロール及び麻袋九二〇ベールにつき、また同年八月ころノースブルックがカーペット裏地一二七ロールにつき、それぞれ被告に対し、カルカッタから神戸に至る海上運送を委託したこと、被告がそれぞれ原告主張の時期に本件各商品を本船(汽船ビシュバ・ビクラム)に船積して海上運送を引き受けたこと、被告が右各社に対し、それぞれ原告主張のとおりの本件各船荷証券を発行したことは、いずれも当事者間に争いがない。

3  そして、<証拠>によれば、伊藤忠、入船及び中本は、それぞれ前記インド国輸出業者に対し前記商品代金を支払い、本件各船荷証券を取得したことが認められ、これに反する証拠はない。

三海上運送の実施及び損害の発生

前記当事者間に争いのない事実、<証拠>によれば、次の各事実が認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

1  本件各商品は、昭和四九年九月一八日までにインド国カルカッタ港で本船(汽船ビシュバ・ビクラム)に船積されたが、右の時点では本件各商品は外観上良好な状態にあり、本件各船荷証券にはその旨の記載がなされた。

2  本船は、昭和四九年九月二一日カルカッタ港を出港し、同年一〇月一五日神戸港に入港し(但し翌一六日係留)、本件各商品は、同年一〇月一七日から二五日ころまでの間に艀に積み取られたが、その段階で、一定数のロール(カーペット裏地)ないしベール(麻袋)に外被汚れ等が発見された(詳細は後述)。

3  本船は、同年一〇月二五日に神戸港を出港し、一方、本件各商品は、前記艀取後逐次陸揚されたが、港内混雑等のため陸揚に時日を要し、全量が陸揚され、倉庫に搬入されたのは同年一一月下旬ないし一二月上旬ころであつた(甲第九号証の記載中、陸揚げが一〇月二三日のみとされているのは誤記ではないかと窺われる。)。

4  そして、右陸揚後、本件各商品には、後述するとおり、一定の水濡れ損傷がみられた。

四海上の危険による免責の抗弁について

1  まず、伊藤忠、入船及び中本と被告との間の法律関係の準拠法について検討する。

法例七条一項によれば、法律行為の成立及び効力については当事者の意思に従い、そのいずれかの国の法律によるべきかを定めることとされているところ、<証拠>によれば、本件各船荷証券の約款二七条に準拠法として、本件各船荷証券にはインド共和国(連邦)の法が適用されるべきである旨の条項が存することが認められるから、本件海上運送契約の準拠法はインド共和国(連邦)法であると解される。

ところで、<証拠>によるとインドにおいては、英領時代に、「一九二四年八月二五日にブラッセルで署名された船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約」(以下船荷証券統一条約という。)の英文正文をそのまま国内法とした海上物品運送法(大正一五年一月一日施行)が施行されており、右法律は独立後も改正されていないこと、右法律はインドで発行された輸出船荷証券のすべてに適用されるべきものとされていることが認められる。

2  ところで、<証拠>によれば、本件各船荷証券の約款一条には、運送人は、海上の危険によつて生じた損害に対しては責任を負わず、また、仮に船舶が不堪航であつたとしても、堪航能力確保につき善管注意義務を果しておれば、よつて生じた損害についてやはり免責される旨の条項が設けられていることが認められ、これに反する証拠はない。

そして、右の免責条項は、前記インド海上物品運送法と同一内容と認められる船荷証券統一条約上、特に禁ぜられていないから、有効と解される。

3  そこで、本件につき検討する。

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

(一)  本船(汽船ビシュバ・ビクラム)は、一九七〇年(昭和四五年)ころに建造された総トン数六四六七トンの鋼鉄製貨物船で、五個の船艙を有し、各船艙は二段又は三段の構造になつており、各段の間には鋼製の板が敷かれ、その上がツイン・デッキ=中甲板となつていた。

本件各商品はポリエチレンの紙又は布で包まれ、その上を粗麻布でおおわれたうえ、右各船艙の下部船艙に積まれた如くである。

(二)  右各船艙の入口には、いずれもマクレガータイプのハッチカバーが施されていた。右ハッチカバーは、数枚の鉄板(ボンツーン)によつて構成され、各鉄板が蛇腹式になつて開閉に便利なものとなつているものであるが、各鉄板の接合部及びハッチカバーと船艙口との締めつけの部分にはゴムパッキングが用いられており、また各鉄板の間はスプリングウェッジ(バネ様クサビ)により、ハッチカバーと船艙口縁材(ハッチコーミング)との間はナットにより、それぞれ締め付けられ、水密性を保つ構造になつている。

右マクレガータイプのハッチカバーは、本件運送当時のハッチカバーとしては比較的広く用いられていたもので、各国の船級協会によつて承認されたものであつたが、鉄板の錆が生じあるいはゴムパッキングに老化が生ずることによつて水密性が弱まることもあり、また船体に極端なゆれがあるときには、ハッチカバーにゆがみを生じ、船艙口との間に空隙ができて水密性の失われることがあると指摘されていた。

(三)  本船のハッチカバーも本件航海時まで約四年を経過していたが、被告は、本船につき、本航海に至るまで通常の点検、整備を行つていたと推測される。

(四)  本船は、前記の如く昭和四九年九月二一日カルカッタ港を出港し、途中、ポート・クラン、シンガポール及び香港に寄港し、各港において本件各商品以外の貨物の荷降し及び新たな貨物の船積が行われた。右各港に寄港した際には、本件各商品に異常は発見されなかつた。

(五)  本船は、一〇月一〇日香港を出港して神戸に向かい、途中一〇月一一日、一二日、一三日の三日間荒天に遭遇した。

右荒天の状況は、船長の報告及び航海日誌等によると、ほぼ次のとおりである。風力は一一日がほぼ五ないし一〇、一二日が一〇ないし一一、一三日が一〇ないし七であり(風力一〇ないし一一で風速は約四八ないし六三メートル)、波の高さも最大一一メートルに及び、船体の縦ゆれが激しく、また多少の横ゆれもあり、本船全体に波が打ち上り、あるいは激しく打ち当る状況であつたが、このため、荒天中は速度を5.63ノット又は7.79ノットに制限された(本船の他の海域走行中の平均速度は15.85ノット又は15.97ノットであつた。)。

そして、この荒天のため、本船にも別紙の如き損傷等を生じた。

(六)  右荒天の間、本船の船長以下の乗組員は、船艙の通風孔を閉ざし、また、前記ハッチカバーのボンツーンの合わせ目のバネ様クサビをあて、船艙口のナットをしめるなどして、水密性の確保の措置を一応とり、また、何時間かおきにボルトのゆるみをチェックした。

また、甲板上の積み荷についても固縛作業を行い、その結果たとえば甲板上の木材はばらばらになつたが、流出はせず、他の甲板上の貨物も流出することはなかつた。

以上の事実が認められる。右認定のうち(五)の荒天の状況は、船長の報告及び航海日誌等によるものであるところ、証人ナヤクの証言によると、航海日誌では天候についてやや誇張して記載されることがあると認められるが、右の点を除くと、前記認定を左右すべき証拠はない。

そして、以上の事実を総合してみるとき、結局、右の荒天時に、右ハッチカバーから海水が浸入して船艙内の本件商品(貨物)を濡らしたものと推認するのほかはない。

4 ところで、前記約款による海上の危険に基づく免責が認められるためには、まず、本船の遭遇した荒天が、当該時期の当該海域において予測しえないような異常な変災であることを要すると解すべきところ、証人ビー・エス・ナヤクの証言によると、この時期、南シナ海及び東シナ海では時化があるのはむしろ通常の事態であり、香港出港の際ある程度の時化は予測されたが、通常の時化であつたため出航した旨の証言があり、また、ナヤク船長の経験では北大西洋で風力一四、波高二三メートルの荒天に遭遇したことがある旨の証言あり、本件の荒天は右のものに比べれば相当程度の低いものと解される。また、前認定のとおり本船自体にも一定の損傷を生じたが、右損傷も本船全体としては部分的なものと窺われるし、右荒天にもかかわらず積荷の固縛作業が可能であり、甲板上の荷物も流出することがなかつたのであるから、これらの事実に照らし、また先に触れた航海日誌の記載に多少の誇張がありうることをもあわせ考えると、本船の遭遇した荒天が海上の危険による免責を成り立たしめるほどのものであるとは、断定し難いというべきである。

また、前認定のとおり、本件マクレガータイプのハッチカバーは、当時貨物船に用いられていたものとしては比較的一般的なものであり、本件航海時までに一定の点検、整備が行われ、また、本件荒天時においても乗組員がその水密性確保のための措置を一応とつたと認められるけれども、右ハッチカバーには前記のとおりの問題点があること、本件荒天が当該時期における当該海域においては予想されうるものであり、また甲板上の荷物が流出することがなかつたにもかかわらず本船の船艙内に海水の浸入があつたこと等に照らして考察するときは、本船建造後における右ハッチカバーの維持管理が十分に行われ、かつ荒天に遭遇した際のその堪貨性確保に十分な注意が果たされていたならば、右の浸水及び本件各商品の水濡れ損傷は避け得られたのではないかと窺えるのであつて、被告及びその使用人が右の点につき善管注意義務を尽くしたと断定することは、なお困難である。

以上のとおり、本船の遭遇した荒天は、なお免責を成り立たしめる程のものであつたとはいい難いというべきであり、また、堪航能力確保について被告及びその使用人が善管注意義務を完全に果たしたとは断定し難いのであるから、被告の海上の危険を理由とする免責の抗弁は採用しえない。

五荷揚後の損害に対する免責の抗弁について

1  本件各船荷証券の約款七条に、運送品が本船を離れた後の損害については運送人は責任を負わない旨の条項が存することは、当事者間に争いがない(前掲乙第一一号証によると、右約款は、「運送人は、……本件船荷証券上に表示された船舶あるいは本船荷証券条項下の代船への船積前及び荷揚後の運送品の如何なる滅失、損傷、延着についても責任を負わない。」旨を定めていることが認められる。)。

2  原告は、再抗弁において、右約款の趣旨及び有効性を争うので、まず、この点について検討する。

(一) 本件海上運送の準拠法は前述の如くインド海上物品運送法であり、同法の内容は船荷証券統一条約と同一であるところ、同条約中には、本件免責約款を禁ずる条項は特に設けられていない。

原告は、貨物が本船を離れた後の責任については、各国の国内法すなわち本件にあつてはわが商法の陸上運送の規定によるべく、その場合に結局において商法の海上運送の規定が適用されると主張するが、荷受人が海上運送業者との間において、海上運送と別個に港内運送ないし陸上運送に関する契約を締結したような場合は格別、そうでない限りは、海上運送人の責任については海上運送に関する法規のみが適用されるべきであると解される。

そして、弁論の全趣旨によると、本件において荷揚を行つた業者は被告が指定したものであるが、一般に、多数の荷主の貨物を荷揚する場合、各荷主が各別に荷揚業者に委託すると、多数の荷揚業者が船艙内に入ることになるため、これを回避すべく、船会社が便宜上一の荷揚業者を指定し、各荷主はこの指定業者を通じて荷物を受け取るシステムが採用されていることが認められるのであつて、荷揚業者はむしろ荷受人の履行補助者というべく、そうすると、荷受人と被告との間に荷揚に関する別個の契約が結ばれたとは認められない(なお、前認定のとおり、本船自体は艀取直後に神戸港を離れているのである。)。

したがつて、結局において、前記荷揚後の免責に関する約款は有効であり、原告が再抗弁1に主張するように荷揚業者の故意・重過失による損害について運送人(被告)が責任を負うことはないと解すべきである。

(二)  また、原告は、右免責約款は公序良俗に反すると主張するが、運送人の責任が荷揚によつて終了するとすることには一応の合理性があり、右約款が公序良俗に反するものとはいい難い。

3  そこで、本件各商品に生じた損害中に、荷揚後に生じたものがあるか否かについて検討する。

<証拠>によると、次の各事実が認められる。

(一)  前記のとおり、本船は、昭和四九年一〇月一五日に神戸港に入港し、翌一六日に係留し、本件各商品は、同年一〇月一七日から二五日ころまでの間に艀に積み取られ、次いで逐次陸揚されたが、港内混雑等のため陸揚に時日を要し、全量が陸揚され、倉庫に搬入されたのは同年一一月下旬ないし一二月上旬ころであつた。

(二)  その間、神戸地方には、次の降雨があつた。

一〇月一九日 雨量二〇ミリメートル

一〇月二二日 四五ミリメートル

一〇月三〇日 三二ミリメートル

また、兵庫県南部地方には、右の期間のうち、一一月一八日七時(同日二一時三〇分解除)、一一月二一日九時四〇分(同月二二日九時解除)に、それぞれ強風・波浪注意報が発せられた。

(三)  本件各商品が移し取られた艀は比較的簡単な構造になつており、貨物を積み、シートを被せるが、海面と枠板との間は七〇〜八〇センチメートル位で、大波を受ければ艀上に海水がかぶる可能性のあるものであつた。

(四)  陸揚後の検査により、本件各商品の汚損からは塩分の反応があり、水濡れは海水によるものが含まれていると考えられた。

(五)  艀取報告書によると、本船から艀取が行われた段階ではカーペット裏地の汚れは二七一一ロール中一一三五ロール、すなわち約41.87パーセント(小数点以下二位未満四捨五入)であるとされている。他方陸揚報告書では、伊藤忠輸入分で四四六ロール中三九六ロールに何らかの汚れがあり、入船輸入分では七三六ロール中六〇一ロールに汚れがあり、中本輸入分では一三七ロール中四四ロールに汚水による汚れがあつたとされており(破れのみのものは除く。)、これらを合計すると、一三一九ロールのうち一〇四一ロール、すなわち78.92パーセント(小数点以下二位未満四捨五入)に汚れが存したことになる(入船輸入の麻袋については、右のような差は認められない。)。

以上の事実が認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

ところで、右(五)の事実に関し、証人高井慎介の証言中には、一般に、艀取の段階における検査は、荷揚作業の時間的制約もあり、全体を外部から検分する形で行うため、正確を期し難いうえ、艀取報告書には一等航海士の署名を要するところ、損害数量が多いと一等航海士が署名をしぶるため、損害を少なめに記載する傾向があり、艀取報告書と陸揚報告者とで損害量に相違があるのはむしろ通常の事態である旨の供述があるが、他方、同証言中には、そうとしても、本件における両報告書の数量の違いは通常の場合に比すると大きすぎる旨の供述もみられるのであり、右の差異はやはり有意義のものと解さざるをえない。

4  以上の事実によつてみると、本件各商品の中には、比較的早期に陸揚されたものもあるが、逆に一か月半位も艀内にあつたものもあり、平均すると、在艀中の期間が本船にあつた期間とほぼ同じかあるいはそれよりも長いことになるのであり、艀の構造が前記のようなものであつたこと等にてらすと、本件各商品の損害の中に神戸港内において波を被つたことによる損傷が含まれる可能性を否定しえず(雨水による損傷も完全には否定しえない。)、加えて、艀取報告書と陸揚報告書の各損傷の程度ないし割合に前述のとおり多大の差異が存することにかんがみると、艀取後に生じた損傷があることは否定できないというべきである(その割合については後述)。証人藍沢陸雄、同西川幸夫の各証言中には、右認定・判断に反する供述もあるが、採用し難い。

そうすると、右部分の損害については、前記免責約款により、被告は賠償責任を負わないものというべきである。

六損害額

1(一) 損害の算定も本件海上物品運送契約の効果と解されるから、前記のとおりインド法によるべきであるところ、インド海上物品運送法は前記のとおり船荷証券統一条約とほぼ同一内容である。ところで、右条約には、損害賠償の最高額の限定に関する条項が存するが、損害の算定そのものに関する規定は見当らない。そして、インド法における国際海上物品運送における損害の算定に関する法規内容は、当裁判所においてこれを知りえないので、条理によつて決するのほかはないと思料する。

そして、前記インド海上物品運送法制定等の経緯及びインドの歴史にかんがみるときは、インドは英法系に属するものと理解されるので、条理の内容を決するについては英法(ないし英米法)が参酌されるべきであるが、同時に、国際海上物品運送をめぐる法律関係については、前記船荷証券統一条約の締結・批准等に見られるように、各国の利害を国際間で統一しようとの動きが存するのであるから、各国の法令・判例の動きをも参酌するのが望ましいと考えられる。

もつとも、当裁判所には、これら英(米)法の内容、各国の法令・判例も明らかではないが、おおむね被害者(荷受人)の原状回復を原則とし、そのために、一般に、到着時における貨物の正品市価から到着時における損品市価を控除して損害賠償額を決定し、あるいは到着時における正品市価に減価率を乗じて損害を算出する如くである。そして、右の正品市価につき、これを卸売市価とする例もあるが、他方荷主の適正な利潤を含むとするものも存する如くである。また、一九六八年ブラツセル議定書では、損害額は、物品が船舶から荷揚された場所及び時における物品の価額を参照して算定さるべきこと、右価額は商品取引所相場が存するときはこれに従い、市場相場も市場価格も存しないときは同種同品質の物品の通常の価格を参照して決定すべきものとしている。

ところで、わが国国際海上物品運送法二〇条二項は陸上運送に関する商法五七六条、五七八条ないし五八三条の規定を準用し(商法海商編中の七六六条も同様の準用を定める。)、そのうち商法五八〇条二項は、運送品の一部滅失又は毀損の場合における損害賠償の額は、原則として、引渡のあつた日における到達地の価格によつて決すべき旨を定めているところ、右規定の趣旨は、大量の運送品を低廉な料金をもつて取り扱う運送企業の性質にかんがみ、損害賠償責任を一定限度にとどめて運送人を保護し、あわせて損害の範囲を画一化して紛争を防止するところにあるものと解されるのであつて(最高裁判所昭和五三年四月二〇日第一小法廷判決民集三二巻三号六七〇頁参照)、そうとすれば、右規定は、外国間の国際海上物品運送の性格にも適合するものと考えられる。そして、右商法五八〇条二項にいう到達地の価格の内容については、前記規定の趣旨からして、賠償の範囲を運送品そのものの帯有する客観的価値に相当する積極損害(受けた損害)に限り、運送品が無事に引き渡されていれば得られたであろう転売利益等の逸失利益(失われた利益)を含まないものと解するのが合理的である(右価格につき、これを市場価格と解する説もあるが、そうとしても、それは再調達価格であるべきであり、いいかえれば卸売市場の価格と理解すべきである。そして本件各商品のように、到着(達)地たるわが国において卸売市場が存しないものについては、後述するとおりCIF価格を基本として査定するのが合理的である。)。

右は、わが国国際海上物品運送法及び商法の解釈であるが、本件に適用すべき条理の内容としても、損害額は、貨物の到着時(引渡時)における到着(達)地の価格によつて定めるべきであり、かつ、右価格は荷受人の転売利益を含まないものと解するのが合理的であつて、国際間の海上物品運送の性格によく適合する妥当なものであると思料する。

(二)  そこで、これを本件についてみるのに、<証拠>によると、本件各商品の価格及び保険価額等は次のとおり形成されるものと認められる。

(イ) FOB価格 船積地における運送品の原価

(ロ) CIF価格 (イ)に海上保険料(I)及び海上運賃(F)を加算したもの

(ハ) 貨物保険価額

(伊藤忠輸入分) 倉庫搬入、倉庫保管料、輸入業者から納入先への国内運賃等の諸掛及び荷受人(伊藤忠)の希望利益を想定して、CアンドF価格に1.3倍した額

(入船輸入分) 市場価格(販売価格)から関税額相当分を差し引いた価額

(中本輸入分) 市場価格(販売価格)

そして、到着(達)地における価格を前記のように転売利益を含まないものと解するときは、これを前記CIF価格に関税額を加算した額とするのが最も妥当であると解される(これに倉庫搬入等の費用のうちのあるものを加算すべきであるかも知れないが、本件にあつてはこれを認定すべき資料がなく、結局はCIF価格が最も近似するというべきである。)。

原告は、前記貨物保険価額(中本輸入分)及びこれに関税保険価額を加算した額(伊藤忠輸入分及び入船輸入分)をそれぞれ基礎としているが、右貨物保険価額が前記のとおり商社(荷受人)の希望利益(転売利益)を含むものである以上、妥当とはいえない。)。

原告は、また、本件商品の仕分け費用及び損害査定のための鑑定費用をもあわせて請求しているが、商法五八〇条二項の前記趣旨にかんがみるときは、これらを損害に含めるのが相当とは解されず、本件に適用すべき条理としても妥当とは考えられない(仮に、荷受人が損害を最少限にくい止めるための費用あるいは損害の程度を知るための費用等はこれを運送人に請求しうべきものと解するとしても、本件の右仕分け及び検査費用がそのようなものであるとは認め難く、むしろ保険会社(原告)と荷受人との間の支払保険金額算定のための費用及び訴訟準備のために要する費用である疑いがあるから、これを運送人たる被告に請求しうべきものとは解されない。)。

以上の考察に基づき、損害額を算定すると、別表一ないし四のとおりとなる。

その合計は、金四〇三〇万七〇八七円である。

2  次に、右損害のうち、荷揚後の損害分を控除すべきことはさきに述べたとおりであるから、荷揚後の損害分の額について検討する。

(一)  カーペット裏地

前認定のとおり、艀取報告書によると、本船から荷揚されたカーペット裏地合計二七一一ロールのうち、八六四ロールに外被軽度の汚れがあり、二七一ロールに汚れがあつて、合計一一三五ロールに海水による損傷がみられた。その割合は41.87パーセントである。

これに対し、陸揚報告書によると、伊藤忠輸入分では、四四六ロールのうち三九六ロールに何らかの汚れがあり、入船輸入分では七三六ロールのうち六〇一ロールに汚れがあり、また中本輸入分では一三七ロールのうち汚れによる損害のあつたもの(破れを除く。)は四四ロールとされている。これらを合計すると、陸揚報告書では合計一三一九ロールのうち一〇四一ロールに汚れ等が存したことになり、その割合は78.92パーセントである。

ところで、在船中の損害と荷揚後の損害の額を判別するにつき、右の両報告書の数値を対比することには、一方で艀取報告書の汚損数値に前記高井証言にみられるような問題がある疑いがあり、他方で陸揚報告書の汚損程度の記載も陸揚後の厳密な調査結果とくい違うなど、難点が存するのであるが、本件にあつては他に適切な資料がないので、両報告書の数値・割合を対比して、これを決することとする。

右の割合を対比すると、在船中の損害の率は、カーペット裏地については、一応五三パーセント(小数点以下切捨)となる。前記1で算定したカーペットの損害額金二九九二万二〇〇〇円に右割合を乗ずると、金一五八五万八六六〇円となる。

(二)  麻袋

<証拠>によると、入船輸入にかかる麻袋については、艀取報告書における汚損割合と陸揚報告書における汚損割合とを対比しても、後者の方が大とは認められないし、また、同号証によると、麻袋は、昭和四九年一〇月二五日に荷卸(艀取)がなされ、同月二五、二六、三一日に倉庫搬入(陸揚)がなされたと窺えるから、在艀期間はごく短期間であり、この間に水濡れ損が生じたとも認め難いから、麻袋については、その損害額の全部を被告の賠償すべき在船中の損害と認める。

したがつて、その損害額は、金一〇三八万五〇八七円である。

(三)  右の合計は、金二六二四万三七四七円と算出される。

七保険代位

1  <証拠>によれば、請求原因7の事実(原告が保険代位によつて損害賠償請求権を取得したとの点を除く。)を認めることができ、これに反する証拠はない。

2  右事実によると、保険契約の当事者はいずれもわが国法人であるから、その間の法律関係はわが商法によつて決すべきものと解されるところ、商法八一五条二項、六六二条によれば、損害が第三者の行為によつて生じた場合において、保険金の支払をなした保険者は、被保険者の第三者に対して有する権利を取得すべきものと規定されている。もつとも、保険代位については移転される権利(債権)の債務者の立場をも考慮すべく、本件において義務者はインド法人たる被告であつてわが国法人ではないが、保険代位は広く国際的に認められた法理と解されるから、右第三者の立場を考慮しても、保険代位による権利移転が生ずるとの結論は維持されるべきものと解される。

八結論

1  以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、原告が保険代位により取得した損害賠償請求権に対し、金二六二四万三七四七円を支払うべきものである。

2 遅延損害金請求につき案ずるに、本件の遅延損害金の請求は、権利移転された損害賠償債務に付随するものと解され、主たる債務の準拠法によるべきものと解されるので、前同様インド法に準拠すべきところ、その内容は当裁判所に明らかでないので、条理によつて決すべきものと解する。

そして、前記のとおりインドは英米法系に属すると窺われるところ、英米法系においては一般に利息(本件遅延損害金と同視すべきものと解される。)は裁判所の裁量に委ねられている如くであり、その起算点、利率は様々の如くであるが、海上物品運送に関するものでは、貨物引渡の日あるいは請求時から、四ないし七パーセントの利息を付するものが存する如くである。また、ドイツ、フランスにおいては民事法定利率は四パーセント、商事法定利率は五パーセントと定められているとされる。

これらの状況にかんがみるときは、被告は、原告の請求する訴状送達の日の翌日(記録によると、本件訴状は昭和五三年六月二二日に被告に送達されたものと認められ、その翌日は同月二三日である。)から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものとするを相当と思料する。

3  よつて、本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行宣言はその必要を認めないので付さないこととして、主文のとおり判決する。

(岩井俊)

汽船ビシュバ・ビクラムの損傷等

一 船首楼

1 左舷及び右舷の各昇降口の手すりが根こぎとつた。

2 船首楼左舷側にある鈎柱が曲がつた。

3 雁首型通風筒が首のところで曲がつた。

4 船首楼の手すりの後部が随所で曲がつた。

5 船首楼左舷及び右舷の通風筒網が損傷を受けた。

6 船首旗竿が根こぎとなり、大きな損害を受けた。

7 パナマのリード・カバー二個が流失した。

8 左舷錨鎖管カバーがひどく曲がつた。

9 両スパーリング・パイプ・カバーが流失した結果、錨鎖庫に浸水した。

10 右舷側洗面所の通風筒が根元から曲がつた。

11 揚錨機の台座の板一枚が流失した。

二 倉庫

1 紅柄及び鉛丹二〇リットル入り丸缶九個が激しい縦・横揺れにより損傷し、中味が船艙の甲板上にこぼれかけた。

2 使いかけの各種ペンキ丸缶一〇個が損傷し、甲板上にこぼれた。

3 錨鎖庫に浸水しペンキ倉庫に溢れ出たことにより、軟石けん二〇キログラム、カセイソーダ二〇キログラム及び普通ソーダ四〇キログラムがだめになつた。

4 四〇ガロン丸缶よりガムレンRP62液二〇ガロンが流失した。残りの二〇ガロンは回収された。

三 デリック(起重機)装置

第一及び第二ハツチからの張り綱六本が、絶えず激浪にさらされていた状況により劣化し、新品と取り換えられた。

四 甲板積貨物は何も流失しなかつた。しかし、横浜向けの製材ずみ木材一トンの束がばらばらになつて散らばつた。

一〇枚のターポーリンがすべての甲板積貨物を覆うために使用されていたが、激浪と強風によりめくられて現在使用不能となつている。

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