神戸地方裁判所 昭和52年(ワ)308号 判決 1978年6月15日
原告
宮本眞司こと全眞司
被告
坪田貢三郎
ほか一名
主文
被告坪田有弘は原告に対し、金一八二万五、三四四円およびこれに対する昭和五二年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告坪田貢三郎に対する請求を棄却する。
訴訟費用は、原告と被告坪田有弘との間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告坪田貢三郎との間に生じた分は原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは各自原告に対し、金一八二万五、三四四円およびこれに対する昭和五二年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 本件事故の発生
原告は本件事故により受傷した。
1 日時 昭和四九年一〇月一二日
2 場所 神戸市須磨区吉川町三丁目三番地先路上
3 加害車 (1)自動二輪車三五〇cc(神戸さ三六二五号)
運転者 被告坪田有弘
(2)自動二輪車二五〇cc(神戸そ三七二号)
運転者 金本こと金弘明
4 事故の態様 加害車(2)が東から西に向けて二車線を直進していたところ、三車線を加害車(2)と併進していた加害車(1)が、加害車(2)の直前で左に進路を変更したため、加害車(2)と衝突し加害車(2)の後部座席に同乗していた原告をはねとばした。
5 傷害の部位・程度
(1) 頭部外傷二型、右側頭骨々折、頸部捻挫、両感音系難聴兼耳鳴兼頭痛
(2) 昭和四九年一〇月一二日より同年同月三〇日までと同年一一月三日より同年一二月一日まで(四八日間)吉田病院に入院。
昭和四九年一〇月三一日より同年一一月二日までと同年一二月二日より昭和五一年一一月九日まで(実通院日数六一日間)吉田病院に通院。
昭和五一年九月二〇日より同年一〇月二二日まで(実通院日数一〇日間)松浦耳鼻咽喉科医院に通院。
(二) 責任原因
1 加害車(1)は、小原広子が株式会社押部商会より所有権留保約款で買受けたものであるが、被告坪田貢三郎が小原広子から加害車(1)を借り受け、これを被告坪田有弘に使用を許していたものであるから、被告坪田貢三郎は加害車(1)を自己のために運行の用に供したものというべく、自賠法三条所定の責任がある。
2 被告坪田有弘は、加害車(1)を運転して、時速約六〇キロメートルで西進中、進路を左に変更するにあたり、左後方の後続車両との安全を確認すべき注意義務を怠り、自車左後方に金本こと金弘明運転の加害車(2)が西進していたのを知りながら、同車との安全を確認せず、漫然時速約五〇キロメートルに減速しつつ左に進路を変更した過失により、自車左後部に加害車(2)の前部を衝突させ、加害車(2)に同乗していた原告をはねとばし、受傷させたものであるから、民法七〇九条所定の責任がある。
(三) 損害
1 治療費 金一四五万五、三二一円
(1) 吉田病院における治療費 金一四四万二、五八九円
(2) 松浦耳鼻咽喉科医院における治療費 金一万二、七三二円
2 入院付添費 金九万六、〇〇〇円
2,000円×48=96,000円
(一日金二、〇〇〇円、入院期間四八日間)
3 入院雑費 金二万四、〇〇〇円
500円×48=24,000円
(一日金五〇〇円、入院期間四八日間)
4 通院交通費 金七万一、〇〇〇円
1,000円×71=71,000円
(一日金一、〇〇〇円、通院期間七一日間)
5 休業損害 金一四万円
原告は、本件事故当時、高校三年に在学中であつたが、森永乳業大橋販売所(岩崎義弘)でアルバイトをして月額金二万五、〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故による受傷と治療のため、昭和四九年一〇月一三日より昭和五〇年三月三一日(高校卒業)まで休業し、合計金一四万円の損害を被つた。
<省略>
6 逸失利益 金三四一万円
原告は、本件事故により受傷し、治療を継続したが、昭和五一年一一月九日、症状固定し、両感音系難聴を遺し、後遺障害別等級表第一二級に該当するから、その労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力喪失期間は四八年間とするのが相当であるところ、賃金センサス昭和四九年、昭和五〇年第一巻第一表全国性別・年齢階級別・年次平均給与額表によれば、原告の取得すべき年収額は金一〇〇万九、九〇〇円をもつて相当とするから、原告の逸失利益は金三四一万円を下らない。
1,009,900円×0.14×24.1263(ホフマン係数)=3,411,121円
7 慰藉料 金二〇六万〇、五〇〇円
(1) 入院慰藉料 金二四万円
(2) 通院慰藉料 金九八万八、五〇〇円
(3) 後遺症慰藉料 金八三万二、〇〇〇円
8 過失相殺
以上1ないし7を合計すると金七二五万六、八二一円となるが、加害車(2)を運転していた金本こと金弘明にも過失があつたとしても、その過失割合は三〇パーセントを超えることはないから、右金七二五万六、八二一円について三〇パーセントの過失相殺をすると原告の被つた損害額は金五〇七万九、七七四円となる。
9 損害の填補 金三五〇万四、四三〇円
原告は自賠責保険から金三五〇万四、四三〇円(治療費金一四二万四、四三〇円および後遺症補償金二〇八万円)を受領した。
10 弁護士費用 金二五万円
(1) 着手金 金一〇万円
(2) 報酬額 金一五万円
(四) 結論
よつて、原告は被告らに対し、過失相殺をした後の金五〇七万九、七七四円から損害の填補額金三五〇万四、四三〇円を控除した金一五七万五、三四四円と弁護士費用金二五万円を加えた金一八二万五、三四四円およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和五二年四月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)1、2、3は認めるが4は否認する。5(1)のうち頭部外傷二型、右側頭骨々折は認めるが、その余は否認する。5(2)のうち昭和四九年一〇月一二日より同年同月三〇日までと同年一一月三日より同年一二月一日まで(四八日間)吉田病院に入院したことは認めるが、その余は不知。
(二) 請求原因(二)1は否認し、2は争う。
(三) 請求原因(三)1ないし8は争い、9は認めて利益に援用する。10は争う。
三 抗弁
(一) 過失相殺
本件事故現場は片側四車線の国道二号線道路上であるが、被告坪田有弘は、加害車(1)を運転して三車線を時速約六〇キロメートルで西進していたところ、車線を変更すべく、衝突地点の手前約五〇メートルで車体後尾の方向指示機を点滅させて左折の合図をし、ついで速度を約五〇キロメートルに減速し、三車線から二車線に車線を変更した。しかるに原告が同乗していた金本こと金弘明運転の加害車(2)は二車線を加害車(1)の数十メートル後方に時速約一〇〇キロメートルで暴走し、前方不注意のため、加害車(1)の後部に衝突したものである。しかも、加害車(2)に同乗していた原告は、ヘルメツトをかぶつておらず、運転者の胴に手をまわして安全をはかることをせず、車体をつかむこともしないで、足だけで支え、うしろに身をそりかえるという極めて危険な姿勢で乗車していたため、原告のみが重傷を負うに至つたものである。したがつて、被告坪田有弘の本件事故に対する過失の寄与割合は二〇パーセントを上回ることはないから、原告の被つた損害額を算出するについて、この点を斟酌すべきである。
(二) 弁済
被告らは原告に対し、治療費として現金で金二万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
(一) 過失相殺について
原告が本件事故発生当時ヘルメツトをかぶらないで金本こと金弘明運転の加害車(2)に同乗していたことは認めるが、その余の事実はすべて争う。本件事故は被告坪田有弘の一方的過失によつて惹起したものであつて、加害車(2)を運転していた金本こと金弘明になんらかの過失があつたとしても、過失相殺されるべき割合は三〇パーセントを超えることはない。
(二) 弁済について
原告が被告らから現金二万円を受領したことは認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生について
1 請求原因(一)1 2 3は当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない甲第五号証、第八号証ないし第一一号証、第一四号証、証人金弘明の証言によれば、次のとおり認めることができる。すなわち、被告坪田有弘は、小原一夫を後部座席に同乗させたうえ、加害車(1)を運転して、時速六〇キロメートルで西進中、進路を左に変更するにあたり、左後方の後続車両との安全を確認すべき注意義務を怠り、自車左後方に金本こと金弘明運転の加害車(2)が西進していたのを知りながら、同車との安全を確認せず、自車の左側方向指示器を点滅させつつ、いつたん右に振り、漫然時速約五〇キロメートルに減速しつつ左に進路を変更した過失により、自車左後部に加害車(2)の前部を衝突させた 一方、金弘明は、原告を後部座席に同乗させたうえ、加害車(2)を運転して、時速約六〇キロメートルで西進中、自車右前方に被告坪田有弘運転の加害車(1)が左側方向指示器を点滅させつつ右に振るのを認めながら、同車との安全を確認せず、漫然同車が右に進路を変更するものと軽信し、そのまま同一速度で直進した過失により、自車前部に加害車(1)の左後部を衝突させ、そのため、加害車(2)に同乗していた原告がはねとばされた。当時加害車(2)の後部座席に同乗していた原告は、ヘルメツトを着用していなかつたけれども(この点は当事者間に争いがない)左手はシートベルトを掴み、右手も座席から手をはなすという状態ではなかつた。以上のとおり認めることができる。右認定に反する甲第一五号証、証人小原一夫の証言および被告坪田有弘本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
2 請求原因(一)5(1)のうち原告が本件事故により頭部外傷二型、右側頭骨々折の傷害を受けたこと、同(一)5(2)のうち、原告が昭和四九年一〇月一二日より同年同月三〇日までと同年一一月三日より同年一二月一日まで(四八日間)吉田病院に入院したことは当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない甲第三〇号証ないし第四三号証、第五〇号証、証人宮本花子の証言によれば、次のとおり認めることができる。すなわち、原告は、本件事故により、頭部外傷二型、右側頭骨々折の傷害のほか、頸部捻挫、両感音系難聴兼耳写兼頭痛の傷害を受け、昭和四九年一〇月一二日より同年同月三〇日までと同年一一月三日より同年一二月一日まで(四八日間)吉田病院において入院治療を受けたほか、昭和四九年一〇月三一日より同年一一月二日までと同年一二月二日より昭和五一年一一月九日まで(実通院日数六一日間)同病院において通院治療を受け、さらに昭和五一年九月二〇日より同年一〇月二二日まで(実通院日数一〇日間)松浦耳鼻咽喉科医院において通院治療を受け、吉田病院においては昭和五一年一一月九日、松浦耳鼻咽喉科医院においては同年一〇月二二日、それぞれ症状固定の診断を受けた。原告の後遺症は、自覚的症状としては、頭痛、頸痛、回転後のめまい、ぼおつとした感じのほか、ときどき嘔気、耳鳴、難聴、不眠を訴えるが、他覚的症状としては、頸部運動正常、頭圧迫試験マイナス、右大および小後頭神経に圧痛を認めるも脳波正常、頸部エツクス写真異常なく、聴力はオーデイオメーター検査では右四六・六D・B、左四五・八D・Bであり、平衡機能検査では左偏害傾向、左回転足踏、両側カロリツクテストの抑制を認める。以上のとおり認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 責任原因について
1 成立に争いのない甲第一〇号証、証人小原一夫の証言、被告坪田有弘本人尋問の結果によれば、加害車(1)は小原一夫の母小原広子が所有権留保約款にて購入し、これを小原一夫に使用させていたものであるが、本件事故発生当日、小原一夫が、後部座席に被告坪田有弘を同乗させて、加害車(1)を運転していたところ、途中で運転を交替し、被告坪田有弘が、後部座席に小原一夫を同乗させて、加害車(1)を運転していた際、本件事故を惹起したものであることを認めることができる。しかし、原告の全立証および本件全証拠によつても、被告坪田貢三郎が自賠法三条所定の自己のために加害車(1)を運行の用に供する者にあたると認めるべき事情はなんら存しない。もつとも、甲第二一号証ないし第二三号には、被告坪田貢三郎が小原広子から加害車(1)の貸与を受け、これを被告坪田有弘に運転せしめた旨の記載があるけれども、右各甲号証が被告坪田貢三郎において作成したとする資料は本件においてはなんら存しないし、右各甲号証の記載のみによつて、ただちに被告坪田貢三郎を自賠法三条所定の運行供用者と認めることはできない。
2 既に認定した本件事故の態様によれば、被告坪田有弘が民法七〇九条所定の責任を負うべきことは明らかである。もつとも、本件事故の発生については、加害車(2)を運転していた金弘明にも過失があつたものというべく、原告は、加害車(2)に同乗していたものであるけれども、原告と金弘明とは単なる友人関係であつたにすぎず、本件に顕われた全証拠によつても、原告に加害車(2)の運行について運行供用者性を肯定し得る事案であるとは認められないから、金弘明の過失を被害者側の過失として斟酌して過失相殺すべきではない。しかし、原告は、本件事故発生当時、ヘルメツトを着用しておらず(道交法七一条の三によれば、自動二輪車の運転者は、ヘルメツトをかぶらないで運転したり、ヘルメツトをかぶらない者を乗車させてはならないが、運転者でない者もヘルメツトをかぶらないで自動二輪車に同乗するのは不注意である。)、そのため、被害の程度を増大させたことは、原告の傷害の部位・程度から十分推認し得るところであるから、この点を被害者の過失として斟酌して過失相殺すべきである。原告は三〇パーセントの過失相殺を自認するので、原告の過失割合は三〇パーセントを下回ることはあつても、これを超えることはないから、三〇パーセントの限度において過失相殺することとする。
三 損害について
(一) 治療費 金一四五万五、三二一円
1 吉田病院における治療費 金一四四万二、五八九円
成立に争いのない甲第三五号証ないし第三九号証によれば、吉田病院における治療費として、昭和四九年一〇月一二日から同月二〇日までの分として金三六万六、一八〇円、同月二一日から同年一一月一〇日までの分として金四一万五、四五〇円、同月一一日から同年一二月一日までの分として金三二万七、四三〇円、同月二日から昭和五〇年一二月二五日までの分として金一九万一、五七〇円、同月二六日から昭和五一年六月一六日までの分として金一二万三、八〇〇円、以上合計金一四二万四、四三〇円を要したこと、成立に争いのない甲第五〇号証によれば、同病院における治療費として、昭和五一年九月二〇日から同年一一月九日までの分合計金二万九、〇三〇円のうち金一万八、一五九円を原告が負担したことが、それぞれ認められるから、原告の吉田病院における治療費は右の合計金一四四万二、五八九円(原告の主張額)を下回ることがない。
2 松浦耳鼻咽喉医院における治療費 金一万二、七三二円
成立に争いのない甲第四二号証によれば、松浦耳鼻咽喉科医院における治療費として、昭和五一年九月二日から同年一〇月二二日までの分合計金二万五、四四〇円のうち金一万二、七三二円(金九、七三二円と金三、〇〇〇円の合計額)を原告が負担したことが認められるから、原告の松浦耳鼻咽喉科医院における治療費は右の金一万二、七三二円(原告の主張額)を下回ることがない。
(二) 入院付添費 金九万六、〇〇〇円
成立に争いのない甲第二七号証(診断書)によれば、原告の吉田病院における入院期間四八日間のうち昭和四九年一〇月一二日から同月二〇日まで九日間について付添看護を要したことが明らかである。そして、成立に争いのない甲第二八号証、第二九号証(いずれも診断書)には、昭和四九年一〇月三〇日までと同年一一月三日から同年一二月一日まで(三九日間)の入院期間における付添看護の要否について記載がないけれども、右期間における付添看護を要しなかつたと断定する資料もなく、証人宮本花子の証言によれば、全入院期間四八日間を通じ、原告は付添看護を要する状態であつたし、原告の母である宮本花子が現実に付添看護をしたことが認められる。したがつて、入院全期間(四八日間)を通じ付添看護を要し、その費用は一日金二、〇〇〇円をもつて相当とする。これによれば、入院付添費は金九万六、〇〇〇円となる。
2,000円×48=96,000円
(三) 入院雑費 金二万四、〇〇〇円
原告の入院期間(四八日間)において一日金五〇〇円の雑費を要したものと認めるのが相当であるから、入院雑費は合計金二万四、〇〇〇円となる。
500円×48=24,000円
(四) 通院交通費 金七万一、〇〇〇円
原告は吉田病院および松浦耳鼻咽喉科医院に七一日間通院したことは、既に認定したとおりであるが、証人宮本花子の証言によれば、通院のため一日往復のタクシー代金一、〇〇〇円を要したことが認められる。したがつて、通院交通費は合計金七万一、〇〇〇円となる。
1,000円×71=71,000円
(五) 休業損害 金一四万円
成立に争いのない甲第五号証、第四九号証、乙第二号証の一、二、証人宮本花子の証言によれば、原告は、昭和三一年九月九日生れであつて、本件事故当時、神戸市立神港高等学校三年に在学するかたわら、森永乳業大橋販売所(岩崎義弘)で働き月額金二万五、〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故による受傷とその治療のため、昭和四九年一〇月一三日から昭和五〇年三月三一日右高校を卒業するまで右森永乳業大橋販売所を休業したが、同高校を卒業すると同時に同年四月一日より社団法人日本貨物検数協会神戸支部に就職し、検数員として働いていることが認められる。ところで原告が、本件事故による受傷のため、吉田病院において昭和五一年一一月九日症状固定の診断を受けるまで、同病院に入通院し、また松浦耳鼻咽喉科医院において同年一〇月二二日症状固定の診断を受けるまで、同医院に通院したことは既に認定したところであるが、原告が昭和五〇年四月一日社団法人日本貨物検数協会神戸支部に就労してから吉田病院において症状固定の診断を受けた昭和五一年一一月九日まで右協会を休業したことについて、原告において、なんらの主張立証のない本件においては、休業損害としては、森永乳業大橋販売所における昭和四九年一〇月一三日から昭和五〇年三月三一日までの分(月額二万五、〇〇〇円)を計上すべきである。
<省略>
(六) 逸失利益 金五一二万、八三四円
前記のとおり、原告は、神戸市立神港高等学校三年に在学中、本件事故によつて受傷し、吉田病院において昭和五一年一一月九日症状固定の診断を受けるまで、同病院に入通院し、また、松浦耳鼻咽喉科医院において同年一〇月二二日症状固定の診断を受けるまで、同医院に通院したが、右の通院期間中である昭和五〇年三月三一日右高校を卒業すると同時に同年四月一日より社団法人日本貨物検数協会神戸支部に就職し、以後同協会に検数員として働き、右の症状固定の診断を受けた後も、従来どおり同協会に検数員として働いているのであるから、原告の同協会における実収入は、本件事故による受傷と後遺症によつて低下した労働能力によつて得た収入であるというべく、原告の同協会における実収入が、労働能力の低下にもかかわらず、それによる損害を填補しているという特段の事情が認められるのであれば格別、かかる特段の事情の認められない本件においては、原告の同協会における実収入によつて、逸失利益が発生しないとしたり、これを基準にして労働能力低下による損害としての逸失利益を算定するのは相当でない。本件においては、賃金センサス第一巻第一表の男子の平均賃金を基準にして、原告の労働能力低下による損害としての逸失利益を算定すべきである。
ところで原告が吉田病院において昭和五一年一一月九日症状固定の診断を受け、松浦耳鼻咽喉科医院において同年一〇月二二日症状固定の診断を受けたこと前記のとおりであるから、原告はおそくとも昭和五一年一一月九日症状固定したものというべく、原告の前記認定のような後遺症の程度と内容とを原告の検数員という職種に照らして検討すれば、原告の後遺症に起因する労働能力喪失率を一四パーセントと認めるのが相当であり、原告は症状固定時である昭和五一年一一月九日現在満二〇歳(昭和三一年九月九日生れ)で、その就労可能年数は四七年であるから、その労働能力喪失期間を四七年と認めるのが相当であるところ、賃金センサス昭和四九・五〇年第一巻第一表の全国性別・年齢階級別・年次別平均給与額表(産業計・企業規模計)によれば、男子労働者の「二〇~二四歳」の年間給与額は昭和五〇年では金一五三万六、三〇〇円であるから、原告の取得すべき年収額は右金一五三万六、三〇〇円をもつて相当とするべく、これによつて、原告の逸失利益を算定すると金五一二万五、八三四円となる。
1,536,300円×0.14×23.832(新ホフマン係数)=5,125,834円
(七) 慰藉料 金二〇〇万円
本件事故の態様、原告の受傷の部位・程度、入通院期間、後遺症の程度・内容、その他諸般の事情を検討すれば、原告の被つた精神的苦痛に対する慰藉料額は金二〇〇万円をもつて相当と認める。
(八) 過失相殺
以上(一)ないし(七)を合計すると金八九一万二、一五五円となるが、既に認定したとおり、原告の損害額を算定するについて、被害者の過失として斟酌すべき過失割合は三〇パーセントを下回ることはあつても、これを超えることはないから、原告の自認するとおり三〇パーセントの限度において過失相殺すると原告の損害額は金六二三万八、五〇八円となる。
(九) 損害の填補 金三五二万四、四三〇円
原告が自賠責保険から金三五〇万四、四三〇円(治療費金一四二万四、四三〇円および後遺症補償金二〇八万円)を受領したこと、被告らが原告に対し、治療費として現金で金二万円を支払つたことは当事者間に争いがない。
(一〇) 弁護士費用 金二七万円
原告が訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、弁護士会所定の報酬規準に則つて報酬を支払うことを約したことは証人宮本花子の証言によつて認められるところ、本件事案の難易度、訴訟の審理の経過、右に認定した損害額、その他諸般の事情を斟酌すると、原告が損害賠償として請求し得べき弁護士費用は金二七万円の限度において相当と認める。
四 むすび
以上のとおりであるから、原告が賠償を請求し得べき損害額は、過失相殺をした後の金六二三万八、五〇八円から損害の填補額金三五二万四、四三〇円を控除した金二七一万四、〇七八円に弁護士費用金二七万円を加えた金二九八万四、〇七八円であるところ、原告の被告坪田貢三郎に対する本訴請求は理由がないから棄却するが、原告の被告坪田有弘に対する金一八二万五、三四四円とこれに対する本件訴状が同被告に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五二年四月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、原告が賠償を請求し得べき損害額の範囲内であるから、正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 阪井昱郎)