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神戸地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決 1979年8月20日

原告 小牧定織物株式会社

被告 西脇税務署長

訴訟代理人 服部勝彦 風見幸信 河本正 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度について、被告が昭和五〇年五月二四日付「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」をもつて、法人税額を更正し、過少申告加算税を賦課した更正決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  原告は、織物の製造販売を業とする会社であるが、原告が昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度分法人税について、別表(一)記載のとおり、確定申告(以下「本件申告」という。)をなしたところ、被告は昭和五〇年五月二四日付で、同表記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、両処分ないし前者を「本件更正処分」といい、特に後者は「本件賦課決定」という。)をなした。

原告は本件更正処分を不服として、昭和五〇年六月二六日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和五一年一〇月一八日付をもつて、これを棄却する旨の裁決があり、同月二〇日、その旨の通知を受けた。

2  被告のなした本件更正処分の理由(以下「本件理由」という。)の要旨は次のとおりである。

原告申告の償却額は、金五四万一、三五五円であるが、そのうち、金三六万八、〇三六円は償却超過額であり損金には算入されない。というのは、昭和四八年六月、原告が取得した冷暖房設備(以下「本件冷房機」という。)について機械として特別償却しているが、右は建物附属設備と認められ、特別償却の適用はないからである。

3  しかしながら、本件更正処分は左記の理由により違法である。

(一) 本件冷房機は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日、大蔵省令第一五号、以下「省令」という。)別表第二、番号四四の織物設備に該当し、かつ租税特別措置法(昭和三二年三月三一日、法律第二六号)第四五条の二、同法施行令第二八条の五にいう中小企業者等の機械の特別償却を受ける場合に該当する。

すなわち、一般に紡績、織物等の産業においては、織機作動能率向上及び品質管理上、温湿度調整が必要とされ、現に省令別表第二、番号四四の織物設備に係る機械及び装置の細目と個別年数表の細目(大蔵省の取扱通達)中にも給排水ポンプ、ボイラー、変圧器、配電盤とともに温湿度調整機が掲げられており、しかも訴外野間織物構造改善工業組合からなされた織物の構造改善事業計画変更承認申請に当つて温湿度調整装置をとり上げ、同装置として冷房機等を設置しているところであり、今後、合成、複合織維織物の増加に伴い工業内の温湿度の調整は極めて重要となつてくるとされ、温湿度調整の必要性は、織物業界の常識である。

原告は、織物製品の品質と生産性向上のために、温湿度調整を目的とする単一の機械設備の設置を計画したのであるが、国内においてかゝる単一の装置は探索したが見当らず、やむなく噴霧給湿装置及び本件冷房機を取得し、事業の用に供したもので、両装置を併用し一体となつて温湿度調整装置としての機能を分担するものであつて、噴霧給湿装置のみを切り離して、温湿度調整機と認め、本件冷房機を除外するのは不当である。

そうだとすれば、本件冷房機の減価償却の計算は別表(二)記載のとおりで、当期償却額は金五四万一、三五五円となる。ところが、被告は本件更正処分において、右額を金一七万三、三一九円しか認めていない。

(二) 本件更正処分は理由附記が不備であり、違法である。

原告は、青色申告をしている内国法人であり、税務当局はその更正に際し、更正通知書に更正の理由を附さなければならない(法人税法第一三〇条第二項)。一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものである。しかしながら、本件理由はまず第一に、なぜに本件冷房機のみが温湿度調整装置に該当せず、織物機械としての特別償却ができないのか明示されておらず、第二に、行政処分における理由附記の内容及び程度は、いかなる事実関係に基づき、いかなる決規を適用して当該処分がなされたのかを処分の相手方において、その記載自体から了知しうるものでなければならないのに、償却限度額とされた金一七万三、三一九円が、いかなる法規上の根拠により、いかなる計算方法によつたか全く明らかでなく、違法である。

4  仮りに本件更正処分が正当であるとしても、本件賦課決定は違法である。

すなわち、過少申告加算税は正当な理由がある場合、賦課されず(国税通則法第六五条第二項)、これは本来の意味の税ではなく、政策的あるいは懲罰的色彩の濃い税であるところ、原告は本件申告を専門家である税理士の訴外本坊美通に依頼し、同人は事実関係のみならず法令、通達を精査のうえ、前記3(一)のとおりの判断に到達したもので、本件申告をなすには正当な理由が存し、そもそも右加算税の問題は生ぜず、本件賦課決定は取消しを免れない違法がある。そう解さないと、納税者は申告に際し、事前に税務署へ相談に行くことを強制されることとなり、申告納税方式(自主申告制度)は重大な危機に陥る。

5  よつて原告は被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  原告の主張に対する認否

1  原告の主張第1項、第2項の事実は認める。

2  同第3項(一)の事実中、原告が係争事業年度内に噴霧給湿装置及び本件冷房機を取得し、事業の用に供したこと、被告が本件更正処分において本件冷房機につき当期償却額を金一七万三、三一九円と計算したこと、本件冷房機が省令別表第二、番号四四の織物設備に該当し、且つ租税特別措置法第四五条の二の機械及び装置に該当するとすれば、その当期償却額は原告主張のとおりの計算になることはいずれも認め、その余は争う。同項(二)は争う。

3  同第4項の事実中、本件申告にかかる経緯については不知、その余は争う。

三  被告の主張

1  本件冷房機は省令別表第一の建物附属設備のうち、冷暖房設備(冷凍機の出力が二二キロワツト以下のもの)を該当する。

(一) 法人税法上機械及び装置とは一体となつて物の生産の目的に供される機械装置をいい、通常機械と呼ばれるものでも、建物と一体となつて建物の効果価値を高めるものは、法人税法上建物附属設備に該当するものと解される。そこで、一般に工場建物の構造上外気との遮断が不完全な織物工場の場合、製織工程における糸切れの原因は夏季の高温多湿ではなく、むしろ冬季の低温乾燥にあると考えられており、原告工場の存する西脇地区でも同様であるところ、仮りに高温多湿の場合において製品の品質管理上温湿度調整装置を欠くことができないとしても、右工場建物は外気との遮断が不完全で、気象条件の影響を受けやすいことが認められ、原告の工場建物内が、右装置を是非とも必要とする程の状態に至ることは考えられず、従つて本件冷房機が原告の製織工程における糸切れ等の防止に専ら必要な設備とみることは相当でなく、他に本件冷房機の設置により製品の品質向上等噴霧給湿装置と一体となつて生産目的に供されていると認めるに足る事情も存しない。してみれば、本件冷房機の設置は、専らその本来の目的である工場内の冷房機の役割を果たすのみで、労働環境改善を目的としたものというほかない。

原告の噴霧給湿装置は機械装置には該当するが、温湿度調整機ではない。また、本件冷房機は温湿度調整機ではない。

すなわち、温湿度調整機というのは、温度及び湿度の高低をともに調整する機能を備えているものを指し、単に給湿のみの機能を有する噴霧給湿装置が温湿度調整機に該当しないことは明らかである。同様に温度調整だけの本件冷房機もこれに該らない。

(二) 原告が取得した本件冷房機は別紙添付図面上に朱色で表示された部分に設置されており、これに接続する右図面上に緑色で表示された「冷風又は温風」等の装置部分は、昭和四〇年一〇月頃の取得にかかる暖房設備(冷却室、送風機及び送風ダクト等、以下「旧設備」という。)で、本件申告について、建物の暖房設備(建物附属)として計上されている。そうすると、右設置の経過からみて本件冷房機の設備費は、旧設備の改良のためのものとみるほかなく、建物附属設備の取得価額を構成するものであつて、且つ機械及び装置として租税特別措置法第四五条の二の特別償却の対象たりえないものである。

(三) 本件冷房機は省令別表第一の建物附属設備のうち冷房設備(本件冷房機である日立チラーユニツト水冷式の機種の出力は二二キロワツトまでであるから、耐用年数は一三年である。)に該当し、同表第二の機械装置のうちの織物設備や租税特別措置法第四五条の二の機械装置ではない。

すなわち、企業会計における減価償却資産の耐用年数は、各企業が自主的に各資産毎に定めるものであるが、法人税法では、各企業の恣意性の介人を排除し、租税の公平負担を実現するため、各種減価償却資産をその属性や用途に応じて類型化し、各類型毎に耐用年数を法定しているところ、省令別表第一の建物附属設備の中に冷房設備が特掲されており、右冷房設備とは、建物自体を冷房し、建物の効用を増加させる設備を指称するものと解されるところ、同表の耐用年数は右の目的のために使用され得る期間の長さである。ところで原告が主張する、本件冷房機による製品の品質管理の効用とは本件冷房機で建物自体を冷房することにより糸切れや織むらを防止することをいうのであるが、仮に、本件冷房機にかかる効用があるとしても、それは本件冷房機の使用価値の減耗期間、即ち、耐用年数の長短に影響を及ぼすことはできない。よつて本件冷房機の耐用年数について建物自体を冷房することを属性とする省令別表第一の冷房設備と別異に取扱い、同別表第二の機械装置としてその耐用年数によるべき根拠はない。

なお、冷房設備であつても、高精度の温度調整が不可欠の製造工程にあつて、このため特に無窓の密閉式の構造を施された工場内に設置されており、建物内の居住性の向上を目的とする一般の冷房設備の機能を越えて、専ら製造工程の一環として、右温度調節の機能を有すると認められる場合には、機械装置として取扱い得る余地があり、この場合は、高精度の性能が期待されるだけに常に新しい型式の導入が要請され、陳腐化による機能的減価が一般の冷房設備と異なるなど、その使用価値の減耗期間は一般の冷房設備と相異することが考えられるからである。従つて、税法上もかかる場合の冷房設備の耐用年数については、省令別表第一の冷房設備と取扱いを異にし、機械装置としての法定耐用年数を適用するのも合理的理由がある。

ところが、原告の工場は、いわゆる鋸型の天井構造で、広い窓があり、かつ木製の窓枠であるから、一般の工場建物と異なるところはなく、本件冷房機が一般の冷房設備以上の高精度の温度調整目的で設置されたものとは認め難い。

そうすると、本件冷房機の当期償却額は別表(三)記載のとおりの計算により、金一七万三、三一九円となり、原告主張の償却額は、金三六万八、〇三六円超過することになる。

2  本件更正処分の理由附記は違法でない。

本件理由は、本件更正処分の対象となる事実について、昭和四八年六月取得の冷房設備に関するものであること、その設備を機械として経理し、更に特別償却していること及びその設備の償却限度額をそれぞれ摘示したうえ、その設備について資産の属性判断において原告の経理が誤つており、右設備は建物附属設備と認められ、これに伴つて、特別償却の適用がなくなり、原告の計算した本件冷房機に係る償却限度額のうち償却超過額は損金に算入されないこと等が詳細に記載されており、何らの違法はない。

3  本件更正処分は法人税法上における減価償却資産についての耐用年数の適用及び租税特別措置法第四五条の二の特別償却の適用に関し、本件申告に誤りがあることによりなしたものであり、原告が右適用上の解釈について誤つていることにつき正当の理由があるとは認められない。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1(一)  被告の主張第1項(一)の事実は否認する。

本件冷房機は、温湿度調整機に該当する。

温湿度調整機で完全な機能を有するものとは、温度の高低、湿度の高低の四つのコントロールがすべて可能なものをいうと思われるが、現実には実用として採用されておらず、被告もその旨要求していないうえ、原告の噴霧給湿装置は、加湿の機能しか有しないのに温湿度調整機として認めているのであるところ、本件冷房機は除湿、加冷の二つの機能を有しており、しかも右噴霧給湿装置と一体となり三つの機能を有する以上、温湿度調整機に該当することは明白である。ことに、織物業において、以前は経糸に天然繊維を使用していたが、現在は合成繊維が主流で、それに従い織物に使用するのりも、でんぶんから合成のりに変わつており、ために高温下でのその使用は織物品質上悪影響がある。また織物機も高温下では膨脹するので、規格通りの織物もできない結果となる。更に湿度の点においても、高温多湿の夏において、織物の品質管理上望ましい温湿度のコントロールが可能となる。

なお、被告が主張する外気との遮断なるものは相対的で、被告において何ら専門的調査もしなかつたことと合わせ、極めて恣意的なもので、根拠は何も存しないことは明らかである。

(二)  同第1項(二)は争う。

(イ) 機械に該るか建物附属設備に該るかは、申告によるのではない。

(ロ) 既存の設備を一部利用したからといつて新設の機械(設備)の性質が左右されるものではない。噴霧給湿装置と同様、配管工事、電気工事は性質上建物を利用しなければならない。また、本件冷房機は簡単に分離できるものである。

(三)  同第1項(三)は争う。

減価償却資産の区分の問題と耐用年数の計算方法の問題は全く別のことである。工場内の温度は構造の相異にかかわらず、外気の影響を受けるのであり、温度調整の必要度は糸、のり、繊維などによつて決まることであり、工場の「無窓、密閉」とは論理的に関連はない。

2  同第2項を争う。

本件更正処分の理由附記は違法である。

本件理由は判断の結果を示しているにとどまるところ、判断理由を明示していない以上、法が理由附記を要求した前記趣旨を没却するもので違法である。

証人梅沢正義の証言によれば、本件冷房機を織物設備でなく、建物附属設備であると認定したのは、原告工場がかまぼこ型の屋根でなく、鋸型の屋根であり、外気との遮断が完全でないので、品質算理上冷房機は不必要であるということである。しかし、右は「常識」であり、科学的根拠に基づくものでないばかりか、証人自身、原告工場の外気との遮断の状態を一度も確認したことはなく、まして冷房機が品質管理に役立つているかどうかも知らない。本件更正処分において、もし右証言程度の理由附記をしておれば、被告において真面目に検討される可能性もあつたであろうし、原告においても、証人らに原告工場の外気密閉の良さを示したり、品質向上の資料を提供し、再更正を促すことができた筈である。

3  同第3項を争う。

第三証拠<省略>

理由

一  原告の主張第1項、第2項の事実並びに第3項のうち、原告が本件係争事業年度内に噴霧給湿装置及び本件冷房機を取得し、事業の用に供したこと、被告が本件更正処分において本件冷房機につき当期償却額を金一七万三、三一九円と計算したこと、本件冷房機が原告主張のとおりの属性を有するものとすれば、当期償却額が別表(二)記載のとおりの計算関係になることは、いずれも、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件冷房機が減価償却資産として省令別表第一の建物附属設備のうち冷暖房設備(冷凍機の出力が二二キロワット以下のもの)に属するのか、それとも同表第二、番号四四の織物設備に属するのかについて判断する。

成立に争いのない乙第二ないし第四号証、赤線で囲まれた部分については証人黒瀬芳治の証言により真正に成立したと認められ、その余の部分の成立は争いのない乙第一号証並びに証人梅沢正義、同黒瀬芳治、同本坊美通の各証言及び原告会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、本件冷房機は日立チラーユニツトRCU、二〇〇二型、出力一五キロワツトの水冷式冷却装置であつて、一般に、事務所、病院、ホテル等の室内冷房に使用されているものであること、原告の工場においては別紙図面上に朱色で表示された部分が右に該当し、これに接続する同図面上に緑色で表示された「冷風又は温風」「暖房機室」「送風機」「冷却室」の部分は、原告が、昭和四〇年に取得した暖房設備(旧設備)であること、本件冷房機のうち同図面の「水冷機」(チラーユニツト冷却装置)で冷水を造つて、これを同図面の「冷水送水管」で前記冷却室(右冷却室は原告が旧設備を設置したときに、将来、冷房装置を設置することを予定して、その頃、備付けておいたものである)に送り、こゝで冷水をポンプで噴射させて(右噴射装置は本件冷房機とともに設置された)、飛沫となし、このようにして作られた冷風を旧設備の送風装置を利用して工場内に送るように仕組まれていること、原告は旧設備についてはこれを暖房設備(建物附属)として申告していることが認められ、右認定に反する証拠はない。一般に冷房機は、その性質上、建物内部の冷房の機能を果たす目的で造られるものであり、本件冷房機である日立チラーユニツトRCU二〇〇二型も右と類を異にするものではない。そうして右認定事実によれば原告の旧設備は建物の暖房のみの目的で設けられたものであるが、本件冷房機はこれに冷房の目的を加えるものであつてその設備費は旧設備の改良のために支出されたもので、建物附属設備の取得価額を構成するものということができる。

三  ところで、成立に争いのない甲第三号証、原告会社代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、証人本坊美通の証言および原告会社代表者本人尋問の結果によれば織物業界において、現在は合成繊維が主流となり、その製造過程において使用する合成糊の関係から、温、湿度の調整が製品の品質に影響することが大きく、大蔵省の取扱通達においても温湿度調整機が省令別表第二の織物設備の細目として掲げられており、通商産業大臣に対する織物の構造改善事業計画変更承認申請に際しても温湿度調整装置が掲上されていること、織物の製造過程において、温度として二二ないし三〇度、湿度として五〇ないし六〇パーセントが好ましい状態であつて、温度が三〇度を超え、もしくは、一〇度を下るような場合、又は湿度が前記パーセントを著しく超え、もしくは、四〇パーセントを下るような場合には糸切れ、織むらが多くなり、静電気が活発になる等して製糸に悪影響が生ずること、温度と湿度とは相関関係にあり、温度が上昇することによつて湿度が低下することが認められる。法人税法上損金額の計算上認められる減価償却資産の償却については償却資産の種別によつて耐用年数とこれに応じた償却率が定められており、その中で冷房、暖房、通風を含め冷凍機の出力が二二キロワツト以下のものは建物およびその附属設備の種別に入り、温湿度調整機を含め織物設備は機械および装置の種別に入り、前者の耐用年数が一三年、後者のそれが一〇年と定められていることが明らかである(法人税二条二四号、同法施行令一三条、第四八条一項、第五六条、省令別表第一、第二)。右区分に徴して考えるならば建物と一体となつて建物の効用価値を高めるものは、通常、機械として呼ばれるものであつても、右効用に応じた耐用年数があり、法人税法上、建物および附属設備に該当し、右と異なり物の生産の目的に供される機械類は、建物の効用価値を高めるものとは異なつた耐用年数があり、法人税法上、機械および装置に該当することとなる。仮に冷房機の通常の使用により建物を冷房することが同時に製品の品質管理にも効用があつたとしてもそれは冷房機としての耐用年数の長短に影響を及ぼすことではない。しかし、冷房設備をもつて建物の冷房にとどまらず、又は建物の冷房とは別に、専ら製造工程の一環としてのみ温度調整の機能を果たすために設けられたような場合にあつてはその耐用年数の長短にも差異のあることが考えられ、かかる設備についてこれを法人税法上の機械および装置として取扱う余地がある。これを本件についてみるに前記乙第一号証、証人黒瀬芳治、同梅沢正義の各証言によれば原告工場の構造は屋根が鋸型で天窓は木枠で大きく、外気との遮断が完全でないこと、大阪国税不服審判所神戸支所国税審判官、訴外黒田一正及び同審査官、訴外黒瀬芳治が、昭和五〇年九月一九日、原告工場に赴いた際、同日午後二時五〇分頃において、原告工場内の温度は三一度(地上三メートル位の高さ)、湿度は五五パーセントであつたが、その際本件冷房機は稼動していなかつたことが認められ、右認定事実と前記第二項認定事実からしても、本件冷房機を温湿度調整装置として機械および装置と評価することは困難である。

従つて、本件冷房機は租税特別措置法第四五条の二第一項、同法施行令第二八条の五の機械および装置とは認められない。よつて、本件冷房機の当期償却額は別表(三)記載のとおりであつて、この点について被告のなした本件更正処分に違法はないといわねばならない。

三  次に、原告は本件更正処分の理由附記が不備であり、違法である旨主張するので、この点につき検討する。

成立に争いのない甲第二号証によれば、本件理由は別表(四)記載のとおりである。

1  法人税法第一三〇条第二項が、青色申告書に係る法人税の課税標準等の更正をする場合には更正通知書にその理由を附記しなければならないとしているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。

2  そこで、本件理由につき、右法の趣旨に照らし、原告主張の如き理由不備の点があるかどうか順次検討を加えることとする。

(一)  本件冷房機の属性判断の理由明示について

別表(四)によれば、本件理由は、原告が昭和四八年六月、取得にかかる冷暖房設備の減価償却費について、機械として特別償却して金五四万一、三五五円を損金に算入していたのに対し、右設備が建物附属設備に該当すること、従つて特別償却の適用はなく、償却限度額は金一七万三、三一九円となり、差引償却超過額の金三六万八、〇三六円は損金に算入されないことを示しており、何故に建物附属設備に該当するのかの理由は明示されておらないが、もともと冷房機は、その性質上、建物内部の冷房の機能を果たす目的で造られるものであり、法人税法施行令においても建物およびその附属設備として冷房設備が掲示されており(同令第一三条)、本件冷房機もこれと類を異にするものではないことは前記のとおりである。前記1の趣旨も本件のように原告の帳簿記載の数字の否認ではなくして、税法上の属性評価のみの問題に関する場合にして、本件冷房機のような場合にあつて、なお、その基準を開示し、これが機械および装置に該らない所以を示すことまで要求するものではないと解すべきであり、これにより処分庁の判断が恣意的になるとはいえず、単なる解釈問題であるから処分を受けた者が不服申立てするに不便であるとまではいえない。しかも証人梅沢正義の証言によれば、当時被告税務署上席国税調査官の訴外梅沢正義は、本件更正処分通知前に本件申告をなした税理士本坊美通に建物附属設備と判断した理由を口頭で伝えていることが認められ、右告知内容と合わせ考えれば、理由不明示をもつて違法とは断じえない。

(二)  償却限度額の算定方法の明示について

原告は、本件理由がその旨の明示を欠き違法であると主張するが、本件理由は、本件申告が機械として特別償却を適用したのに対し、建物附属設備であるとして、これを排斥したもので、いわば例外が原則に復帰した場合に匹敵し、容易に検算することができ、この場合、前記1の趣旨からしても計算過程の説明を欠くことが違法であるとまではいえない。

3  以上、本件更正処分の理由附記不備をいう原告の主張はいずれも失当である。

四  更に原告は、本件賦課決定の違法を主張する。

国税通則法第六五条第二項によれば、過少申告をしたことにつき正当な理由がある場合には、当該部分につき、加算税を課さないこととされ、右正当な理由とは、附帯税たる過少申告加算税の本質が、租税申告の適正を確保し、もつて申告納税制度の秩序を維持するもので、租税債権確保のために納税義務者に課せられた税法上の義務不履行に対する一種の行政上の制裁というものであることからすれば、かかる制裁を課することが不当若しくは酷と思料される事情の存することを指称すると解されるところ、本件申告において、原告が本件冷房機をあえて省令別表第二、番号四四の織物設備に該当すると判断したことにつき真にやむを得ない事情があつたと認めうるに足る証拠はなく、証人本坊美通の証言により真正に成立したと認められる甲第四、第五号証および同人の証言によれば、被告税務署管外において原告主張のように取扱われている実例のあることが認められるとしても、他方右証拠並びに証人梅沢正義の証言によれば、被告税務署管内では修正申告を勧奨していることが認められ、なお全体的に判断して真にやむを得ない事情があつたとは断じえないところである。

五  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三 住田金夫 池田辰夫)

別表(一)、図面<省略>

別表(二)

本件冷房機の取得価額

金一六〇万四、八一〇円

省令別表第二、番号四四「織物設備」の耐用年数

一〇年

省令別表第一〇による右の場合の償却率

(定率法)〇・二〇六

租税特別措置法第四五条の二(同施行令第二八条の五)の特別償却限度額

機械及び装置の取得価格の五分の一

以上に基づくと、当期償却額は次のとおりである。

¥1,604,810×(0.206×8/12+1/5=¥541,355

別表(三)

本件冷房機の取得価額

金一六〇万四、八一〇円

省令別表第一の建物附属設備のうち冷暖房設備(冷凍機の出力が二二キロワツト以下)のもの)の耐用年数

一三年

省令別表第一〇による右の場合の償却率

(定率法)〇・一六二

以上に基づくと、当期償却額は次のとおりである。

¥1,694,810×0.162×8/12=¥173,319

別表(四)

更正の理由

加算金額

一、減価償却費の償却超過額………………三六万八、〇三六円

四八年六月取得の冷暖房設備について機械として特別償却していますが、内容を検討した結果、建物附属設備と認められ、特別償却の適用はありませんので、次の計算による償却超過額は損金の額に算入されません。

(種類)    (償却限度額)   (貴社計算の償却費額) (差引償却超過額)

冷暖房設備 一七万三、三一九円 五四万一、三五五円 三六万八、〇三六円

差引合計金額 三六万八、〇三六円

以下余白

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